源氏物語 第47帖 総角(11)
喪明けの再訪
薫は、大君が気兼ねしていた喪服も改めたであろう九月も落ち着かず、また宇治に来た。「いつものように話をしたい」とまた伝えるが、大君は「気分がすぐれず、煩わしく思われるので」とあれこれ断って対面しない。薫が「思いのほかにつれないお心ですね。人もどう思うでしょう」と手紙で言うと、「今はと喪服を脱ぎ捨てた時の心の乱れで、かえって沈み込んでお話しできません」とある。薫は恨み嘆いて、いつもの弁を呼んで色々と言う。女房たちは、この世に類のない心細さの慰めにはこの薫だけを頼りにしているので、思いがかなって世間並みの住まいに移ったりすれば、たいそうめでたいことだと言い合い、「ただお入れ申し上げよう」と皆で示し合わせた。大君はその様子を深くは知らないが、薫がこうして特に弁を手なずけているようなので、うちとけて油断ならない心もあるかもしれない、昔物語でも自分の心からそうなったのではなく、こういうこともあるようだ、油断できないのは人の心だと思い至って、もし薫の恨みが深いなら中の君を押し出そう、見劣りする者でさえ一度契れば浅くは扱わない心のようだから、まして少しでも中の君を見初めたら慰むだろう、口に出しては、どうしてすぐにそんなことを待ち受ける人があろう、本意ではないと薫が承知しない様子なのは、一つには人の思惑を気にして浅はかだと思われまいと慎んでいるのだろうと考えるが、中の君にその気配さえ知らせなければ罪になるだろうと我が身をつねって気の毒に思うので、あれこれと語りかける。「亡き父宮のお考えも、世の中をこうして心細く過ごし終えても、かえって人の笑いものになるような軽々しい心は使うなとおっしゃっておいたのに、ご存命中は足手まといとなって勤行のお心を乱した罪さえ重かったでしょうに、今はと言い残されたあれほどの一言だけでも違えまいと思うので、心細いとも特に思わないのに、女房たちが妙に強情な者と憎んでいるらしいのがひどく困ります。本当にそんなふうに同じように過ごされるのも、明け暮れる月日につけても、あなたのことばかりが惜しく心苦しく悲しく思われるので、せめてあなただけでも世間並みに身を落ち着けて、こんな私の身の上も面目が立って慰むくらいにお見届けしたい」と言うと、中の君はどうお考えなのかと情けなくて、「お一人だけにそのままで一生を終えよとおっしゃったのでしょうか。しっかりしていない私の身の不安は、数が増したようにお思いだったようです。心細さの慰めには、こうして朝夕にお会いすること以外に、どんな方法がありましょう」と少し恨めしく思っているので、大君はなるほどと気の毒で、「やはり女房たちが私をひどくひねくれ者と言ったり思ったりしているようなので、思い乱れているのですよ」と言いさした。
- 1かのかのかの人人ひとはははつゝみつゝみつつみ聞聞きこえええ給給たまひひいししし藤藤ふじののの衣衣ころもももも改改あらためめめ給給たまへへえつらむつらむつらむ、、、ながながなが月月づきもももしづしづしず心心こころなくなくなくててて又又またおはしおはしおわしたりたりたり。。。「「「例例れいのののやうやうようににに聞聞きこえええむむん」」」ととと又又また御御おんせうそこせうそこしょうそこあるあるあるににに、、、「「「心心こころあやまりあやまりあやまりしししててて、、、煩煩わずらしうしうしゅうおぼゆれおぼゆれおぼゆればばば」」」ととととととかうかうこう聞聞きこえええすまひすまひすまいててて對對たい面面めんししし給給たまははわずずず。。。「「「思思おもいののの外外ほかににに心心こころ憂憂うききき御心御心みこころかなかなかな。。。人人ひともももいかにいかにいかに思思おもひひい侍侍はべらららむむん」」」ととと御御おん文文ふみにてにてにて聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。「「「今今いまはははとてとてとて脫脫ぬぎぎぎ捨捨すててて侍侍はべりりりししし程程ほどののの心心こころまどひまどひまどいににに、、、なかなかなかなかなかなかしづみしづみしずみ侍侍はべりりりてててなむなむなん聞聞きこえええぬぬぬ」」」とととありありあり。。。恨恨うらみみみ侘侘わびびびててて、、、例例れいののの人人ひと召召めしししてててよろづよろづよろずにににのたまふのたまふのたまう。。。世世よにににちらちらちらぬぬぬ心心こころぼそさぼそさぼそさのののなぐさめなぐさめなぐさめにににはははこのこのこの君君きみをををのみのみのみ賴賴たのみみみ聞聞きこえええたるたるたる人々人々ひとびとなれなれなればばば、、、思思おもひひいにににかなひかなひかない給給たまひひいててて世世よののの常常つねのののすみかすみかすみかにににうつろひうつろひうつろいなどなどなどししし給給たまははわむむんををを、、、いといといとめでたかるめでたかるめでたかるべきべきべき事事ことにににいひいひいいあはせあはせあわせててて、、、「「「唯唯ただ入入いれれれ奉奉たてまつらららむむん」」」ととと皆皆みな語語かたらひらひらい合合あわせせせけりけりけり。。。
- 2姫姫ひめ君君ぎみそのそのその氣色氣色けしきをををばばば深深ふこううう見見みしりしりしり給給たまははわねねねどどど、、、かうかうこうとりわきとりわきとりわきててて人人ひとめかしめかしめかしなづけなづけなずけ給給たまふふうめるめるめるににに、、、うちうちうちとけとけとけてててうしろめたきうしろめたきうしろめたき心心こころもももやややあらあらあらむむん、、、昔昔むかし物物もの語語がたりにににももも心心こころもてもてもてやややははは、、、とととあるあるあるかゝるかゝるかかることことこともももあめるあめるあめる、、、うちうちうちとくとくとくまじきまじきまじきははは人人ひとののの心心こころにににこそこそこそあめれあめれあめれととと思思おもひひいよりよりより給給たまひひいててて、、、せめてせめてせめてうらみうらみうらみふかくふかくふかくはははこのこのこの君君きみをををおしおしおし出出いでででむむん、、、劣劣おとりりりざまざまざまならならならむむんにににてててだにだにだにさてもさてもさても見見みそめそめそめてててはははあさはかあさはかあさはかにににはははもてもてもてなすなすなすまじきまじきまじき心心こころなななめるめるめるををを、、、ましてましてましてほのかほのかほのかにににももも見見みそめそめそめてててははは慰慰なぐさみみみなななむむん、、、ことことことににに出出いでででゝゝてはははいかでいかでいかでかかかははは、、、ふとふとふとさるさるさる事事ことをををまちまちまちとるとるとる人人ひとのののあらあらあらむむん、、、ほいほいほいににになむなむなんあらあらあらぬぬぬとととうけひくうけひくうけひく氣色氣色けしきのののなかなかなかなるなるなるははは、、、かたへかたへかたえははは人人ひとののの思思おもははわむむん事事ことをををあいなうあいなうあいのう、、、淺淺あさききき方方かたにににやややなどなどなどつゝみつゝみつつみ給給たまふふうならならならむむんととと覺覺おぼしししかまふるかまふるかまうるををを、、、氣色氣色けしきだにだにだに知知しらららせせせ給給たまははわずずずばばば、、、罪罪つみもももやややえええむむんととと身身みをををつみつみつみててていとほしけれいとほしけれいとおしければばば、、、よろづよろづよろずにににうちうちうち語語かたらひらひらいててて、、、
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現代語訳
あの薫は、大君が気兼ねしていらっしゃった喪服も改めなさっただろう九月も落ち着いた心もなく、また宇治にいらっしゃった。「いつものようにお話し申し上げたい」とまたお便りがあるが、大君は「気分がすぐれず、煩わしく思われますので」とあれこれお断り申し上げて、対面なさらない。「思いのほかにつれないお心ですね。人もどう思いますでしょう」とお手紙で申し上げなさった。「今はと喪服を脱ぎ捨てました時の心の乱れに、かえって沈み込んでおりまして、お話し申し上げられません」とある。薫は恨み嘆いて、いつもの弁をお呼びになって、あれこれとおっしゃる。この世に類のない心細さの慰めには、この薫だけをお頼み申し上げている女房たちなので、思いがかないなさって、世間並みの住まいに移ったりなさるのを、たいそうめでたいことに違いないと言い合って、「ただお入れ申し上げよう」と皆で示し合わせた。
姫君はその様子を深くはお分かりにならないけれど、薫がこのように特に弁を人並みに扱って手なずけていらっしゃるようなので、うちとけて油断ならない心もあるかもしれない、昔物語でも、自分の心からそうなったのではなく、ああいうこと、こういうこともあるようだ、うちとけてはならないのは人の心であるようだと思い至りなさって、もし恨みが深いならば、この中の君を押し出そう、見劣りするような者でさえ、それでも一度見初めては、浅はかには扱うまい心のようだから、まして少しでも見初めたならば、慰むだろう、口に出しては、どうしてすぐにそのようなことを待ち受ける人があろう、本意ではないと承知しない様子でいらっしゃるのは、一つには人の思惑を気にして、浅い心と思われはしないかなどと慎んでいらっしゃるのだろうとお考えになるが、中の君にその気配さえお知らせにならなければ、罪にもなるだろうかと我が身をつねって気の毒に思うので、あれこれとお話しかけになって、
「亡き父宮のお考えも、世の中をこのように心細く過ごし終えても、かえって人の笑いものになるような軽々しい心を使うななどとおっしゃっておいたのに、ご存命中の足手まといとなって、勤行のお心を乱した罪さえ重かったでしょうに、今はとてあれほどおっしゃった一言だけでも違えまいと思っておりますので、心細いなどとも特に思わないのに、この女房たちが妙に強情な者と憎んでいるらしいのが、ひどく困ります。本当にそのように同じような者として過ごしなさるのも、明け暮れる月日につけても、あなたのことばかりが、惜しく心苦しく悲しいものに思われますので、せめてあなただけでも世間並みに身を落ち着けなさって、こんな私の身の有様も面目が立って慰むくらいに、お見届け申し上げたいものです」と申し上げなさると、中の君はどうお考えなのかと情けなくて、「お一人だけに、そのままで一生を終えよとおっしゃったのでしょうか。しっかりしていない私の身の不安は、数が増したようにお思いだったようです。心細さのお慰めには、こうして朝夕にお会い申し上げること以外に、どんな方法がありましょうか」と少し恨めしく思っていらっしゃるので、大君はなるほどと気の毒で、「やはり女房たちがあれこれと、私をひどくひねくれ者と言ったり思ったりしているようなので、思い乱れておりますのよ」と言いさしなさった。
意訳
喪明けの九月、薫は再び訪れるが、大君は会わない。女房たちは薫を姫君の寝所に入れようと示し合わせる。大君は気配を察し、いっそ中の君を薫に会わせようと考え、中の君に結婚を勧める。中の君は、父は姉にだけ独身を求めたわけではないと恨めしく答え、大君は言葉を濁す。
語釈・文法注
文法
- 「藤の衣」(つゝみ聞え給ひし藤の衣も改め給へつらむ)
- 喪服。大君が喪中を理由に拒んでいたこと。
- 「唯入れ奉らむ」(「唯入れ奉らむ」と皆語らひ合せけり)
- 薫を姫君の寝所にお入れしよう。女房たちの計略。
- 「身をつみて」(身をつみていとほしければ)
- 我が身をつねって、自分のこととして考えて。
解説
女房たちは薫を寝所に入れようと示し合わせる。大君の拒絶をよそに、周囲は二人を結びつけようと動く。この企てが、次の場面の「中の君を残して逃れる」大君の行動を招く。
中の君は、父は姉にだけ独身を求めたのではないと反論する。中の君にも自分の意志がある。大君の独りよがりな計画に、妹は素直に従おうとはしない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、942–943頁(コマ182)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日