源氏物語 第47帖 総角(9)
後朝の思い
大君を障子口まで送ってから、薫は昨夜入った戸口から出て横になるが眠れない。名残が恋しくて、こんなに思うのだったら、これまで何か月も心のどかでいられただろうかなどと、都へ帰ることも気が進まない。大君は、人がどう思うだろうと気が引けて、すぐには寝つけず、頼りになる人もなく世を過ごす身のつらさを思う。仕える女房たちもよくないことをあれこれと次々に言い出すようなので、心ならずも思いがけないことが起こりそうな世の中のようだと思い巡らすと、薫の人柄や様子は疎ましいものではなく、亡き父宮もそういう気持ちがあるならばと折々おっしゃっていたようだが、自分はやはりこのままで過ごそう、自分よりも容貌も盛りで惜しいほどの中の君を人並みに縁づけたならうれしいだろう、人のことなら心の及ぶ限り世話しよう、自分の身の上の扱いは、また誰が世話してくれようか、薫がありきたりの人ならば、長年見慣れたしるしに心を許すこともあるだろうが、気後れするほど立派で近づきがたい様子も、かえってひどく気が引けるので、自分の一生はこのまま過ごし終えようと思い続けて、泣きがちに夜を明かす。名残でひどく気分が悪いので、中の君の寝ている奥の方に添い寝する。いつもと違って女房たちがささやき合っていた様子も変だと思いながら寝ていた中の君は、姉君が来たのでうれしくて衣を引き掛けてあげると、所狭いほどの移り香が紛れようもなく薫ってくる気がするので、宿直人が扱いかねたという話も思い合わされ、本当なのだろうと気の毒で、寝たふりをして何も言わない。
- 1さうじさうじそうじ口口ぐちまでまでまで送送おくりりり奉奉たてまつりりり給給たまひひいててて、、、よべよべよべ入入いりりりししし戶戶と口口ぐちよりよりより出出いでででゝゝてふしふしふし給給たまへへえれれれどどどまどろままどろままどろまれれれずずず。。。名名な殘殘ごり戀戀こいしうしうしゅうててて、、、いといといとかくかくかく思思おもははわましかましかましかばばば、、、月月つき頃頃ごろももも今今いままでまでまで心心こころのどかのどかのどかならならならましましましやややなどなどなど、、、かへらかへらかえらむむんことことことももも物物もの憂憂うくくくおぼえおぼえおぼえ給給たまふふう姫姫ひめ君君ぎみははは人人ひとののの思思おもふふうらむらむらんとととのののつゝましきつゝましきつつましきににに、、、とみとみとみにににもももうちうちうちふさふさふされれれ給給たまははわででで、、、たのもしきたのもしきたのもしき人人ひとなくなくなくててて世世よををを過過すぐすぐすぐす身身みののの心心こころうきうきうきををを、、、あるあるある人人ひとどもどもどもゝゝもよからよからよからぬぬぬことことこと、、、何何なにやややかやかやかやとととつきづきつきづきつきずきににに隨隨したがひひいつゝつゝつついひいひいい出出いづづずめるめるめるににに、、、心心こころよりよりよりほかほかほかののの事事ことありありありぬぬぬべきべきべきよよよなななめりめりめりとととおぼしおぼしおぼし廻廻めぐらすらすらすにににはははこのこのこの人人ひとののの御御おんけはひけはひけはい有有あり樣樣さまのののうとましくうとましくうとましくはははあるあるあるまじくまじくまじく、、、故故こ宮宮みやもももさやうさやうさようなるなるなる心心こころばへばへばえあらあらあらばばばとととをりをりをりをりおりおりのののたまひたまひたまいおぼすおぼすおぼすめりめりめりしかしかしかどどど、、、みづからみづからみずからははは猶猶なおかくかくかくててて過過すぐしぐしぐしてててむむん、、、我我わよりよりよりはははさまさまさまかたちかたちかたちももも盛盛さかりににに、、、あたらしげあたらしげあたらしげなるなるなる中中なかののの君君きみををを、、、人人ひとなみなみなみなみなみなみににに見見みなしなしなしたらたらたらむむんこそこそこそ嬉嬉うれしからしからしからめめめ、、、人人ひとのののうへうへうえににになしなしなしてててははは心心こころののの至至いたらららむむんかぎりかぎりかぎり思思おもひひい後後うしろ見見みてててむむん、、、みづからみづからみずからのののうへうへうえのののもてもてもてなしなしなしははは、、、又又また誰誰たれかかかははは見見みあつかはあつかはあつかわむむん、、、
- 2このこのこの人人ひとののの御御おんさまさまさまのののなのめなのめなのめにににうちうちうち紛紛まぎれれれたるたるたる程程ほどならならならばばば、、、かくかくかく見見み馴馴なれれれぬるぬるぬる年年とし頃頃ごろのののしるししるししるしにににうちうちうちゆるぶゆるぶゆるぶ心心こころもももありありありぬぬぬべきべきべきををを、、、恥恥はずかしげしげしげににに見見みえええにくきにくきにくき氣色氣色けしきももも、、、なかなかなかなかなかなかいみじういみじういみじゅうつゝましきつゝましきつつましきににに、、、我我わががが世世よはははかくかくかくててて過過すぐしぐしぐしはてはてはてゝゝてむむんととと思思おもひひいつゞけつゞけつづけてててねねねなきなきなきがちがちがちにてにてにて明明あかししし給給たまへへえるるるににに、、、名名な殘殘ごりいといといと惱惱なやましけれましけれましければばば中中なかののの君君きみのののふしふしふし給給たまへへえるるる奧奧おくののの方方かたにににそひそひそいふしふしふし給給たまふふう。。。例例れいならならならずずず人人ひとのののさゝめきさゝめきささめきししし氣色氣色けしきもももあやしあやしあやしとととこのこのこの君君きみはははおぼしおぼしおぼしつゝつゝつつねねね給給たまへへえるるるににに、、、かくかくかくててておはしおはしおわしたれたれたればばば、、、うれしくうれしくうれしくててて御御おんぞぞぞひきひきひき着着きせせせ奉奉たてまつりりり給給たまふふうににに、、、所所ところせきせきせき御御おんうつりうつりうつりがががのののまぎるまぎるまぎるべくべくべくもももあらあらあらずずずくゆりくゆりくゆりかゝるかゝるかかる心地心地ここちすれすれすればばば、、、殿殿との居居い人人びとがががもてもてもてあつかひあつかひあつかいけむけむけん思思おもひひい合合あわせせせられられられててて、、、誠誠まことなるなるなるべしべしべしととといとほしういとほしういとおしゅうてててねねねぬるぬるぬるやうやうようにてにてにて物物ものももものたまはのたまはのたまわずずず。。。
現代語訳
大君を障子口までお送り申し上げなさって、薫は昨夜入った戸口から出て横におなりになったが、まどろむこともできない。名残が恋しくて、こんなにまで思うのだったら、これまでの何か月も心のどかでいられただろうかなどと、都へ帰ることも気が進まなく思われなさる。姫君は、人がどう思っているだろうと気が引けるので、すぐにも横におなりになれず、頼りになる人もいなくて世を過ごす身のつらさを思い、仕えている女房たちも、よくないことを何やかやと次々に言い出すようなので、心ならずも思いがけないことが起こってしまいそうな世の中のようだとお思い巡らしになると、この人のご様子や有様は疎ましいものではなく、亡き父宮も、そのような気持ちがあるならばと折々おっしゃり、お思いになっていたようだが、自分はやはりこのままで過ごしてしまおう、自分よりも容貌も盛りで、惜しいほどの中の君を、人並みに縁づけたならばこそうれしいだろう、人の身の上のこととしては、心の及ぶ限りお世話しよう、自分自身の身の上の扱いは、また誰が世話してくれようか、
この人のご様子がありきたりで紛れてしまう程度ならば、このように見慣れてきた長年のしるしに心を許すこともあるだろうに、こちらが気後れするほど立派で近づきがたい様子も、かえってひどく気が引けるので、自分の一生はこのまま過ごし終えようと思い続けて、泣きがちに夜をお明かしになったので、名残でひどく気分が悪いので、中の君の寝ていらっしゃる奥の方に添い寝なさる。いつもと違って女房たちがささやき合っていた様子も変だと、この中の君はお思いになりながら寝ていらっしゃったところに、こうして姉君がいらっしゃったので、うれしくてお召し物を引き掛けて差し上げなさると、所狭いほどの移り香が紛れようもなく薫りかかる心地がするので、宿直人が扱いかねたという話も思い合わされて、本当なのだろうと気の毒で、寝ているふりをして何もおっしゃらない。
意訳
薫は大君を送ったあと眠れず、恋しさが募る。大君は、薫の人柄は好ましく父宮もそれを望んでいたが、自分は独身で過ごし、美しい中の君を薫に縁づけようと考える。薫が立派すぎてかえって気後れするのだった。中の君は、姉の衣に薫の移り香を感じ取るが、寝たふりをする。
語釈・文法注
文法
- 「あたらしげなる中の君」(あたらしげなる中の君を)
- 惜しいほどすばらしい中の君。「あたらし」は惜しい。
- 「殿居人がもてあつかひけむ」(殿居人がもてあつかひけむ思ひ合せられて)
- 橋姫の帖で、宿直人が薫の移り香の衣を持て余した話。
- 「ねぬるやうにて」(ねぬるやうにて物ものたまはず)
- 寝たふりをして。
解説
大君は、自分は結婚せず、妹を薫と結ばせようと決意する。薫が立派すぎることがかえって大君を遠ざける。自分を低く見て、相手の高さに気後れする大君の心理は、彼女の誇りの裏返しでもある。
中の君は姉の衣に薫の香りを感じ取り、何かあったと察する。薫の体から放たれる香りは、隠しごとを許さない。姉妹の間にも微妙な距離が生まれ始める。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、940–941頁(コマ181)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日