源氏物語 第47帖 総角(8)
明け方の空と鳥の声
はかなく夜明け方になった。お供の人々が起きて咳払いをし、馬のいななく声も、旅の宿のありさまとして人が語るのを思いやられて、薫は趣深く思う。光の見えた方の障子を押し開けて、空のしみじみとした様子を二人で一緒に見る。大君も少しにじり出ると、ほどもない軒の近さなので、しのぶ草の露もだんだん光って見えていく。互いにたいそう優美な姿かたちで、薫は「何ということもなく、ただこうして月をも花をも同じ心で愛で、はかない世の有様を語り合って過ごしたい」とたいそう親しげに語るので、大君もだんだん恐ろしさも和らいで、「こうひどくきまり悪くではなく、物を隔ててなどお話しするなら、本当に心の隔ては全くないでしょう」と答える。明るくなっていき、群鳥の飛び交う羽風が近く聞こえる。夜深い朝の鐘の音がかすかに響く。大君は、今でさえひどく見苦しいのにと、たいそう困って恥ずかしそうにしている。薫は「わけありげに朝露を分けて帰ることもできません。また人はどう推し量るでしょう。いつものように穏やかにお扱いになって、ただ世間と違ったこととして、これから後もこのようにしてください。決して不安な心はないとお思いください。これほどひたむきな心のほども、哀れとお分かりにならないのは張り合いがない」と言って帰る様子もない。大君は呆れるほど見苦しいことになるだろうと思い、「これから後は。だからこそ。お扱いになるままにいたしましょう。今朝はまた私の申し上げることにお従いください」と言ってひどく困り果てているので、薫は「ああ苦しい。暁の別れはまだ知らないことで、本当に惑ってしまいそうなのに」と嘆きがちである。鶏もどこにいるのか、ほのかに鳴くので、都が思い出される。薫は、山里の哀れが知られる声々に、さまざまなものを取り集めた明け方だと詠む。大君は、鳥の声も聞こえない山と思っていたのに、世のつらいことは訪ねて来たのだと返す。
- 1はかなくはかなくはかなく明明あけけけがたがたがたににになりなりなりにににけりけりけり。。。御御おん供供ともののの人々人々ひとびとおきおきおきてててこわこわこわづくりづくりずくり、、、馬馬うまどもどもどものののいばゆるいばゆるいばゆるをををももも、、、旅旅たびのののやどりやどりやどりのののあるあるあるやうやうようなどなどなど人人ひとののの語語かたるるるをををおぼしおぼしおぼしやらやらやられれれてててをかしうをかしうおかしゅうおぼさおぼさおぼさるるる。。。光光ひかり見見みえええつるつるつる方方かたのののさうじさうじそうじををを押押おしししあけあけあけ給給たまひひいててて空空そらのののあはれあはれあわれなるなるなるををを諸諸もろ共共ともににに見見み給給たまふふう。。。女女おんなももも少少すこしししゐざりゐざりいざり出出いででで給給たまへへえるるるににに、、、程程ほどもももなきなきなき軒軒のきののの近近ちかさささなれなれなればばば、、、しのぶしのぶしのぶののの露露つゆもももやうやうやうやうようよう光光ひかりりり見見みえええもてもてもて行行ゆくくく。。。かたみかたみかたみにににいといといとえんえんえんなるなるなるさまさまさまかたちかたちかたちどもどもどもををを、、、「「「何何なにとととはははなくなくなくててて唯唯ただかやうかやうかようににに月月つきをををももも花花はなをををももも同同おなじじじ心心こころにににもてもてもてあそびあそびあそび、、、はかなきはかなきはかなき世世よののの有有あり樣樣さまををを聞聞きこえええ合合あわせせせてててなむなむなんすぐさすぐさすぐさまほしきまほしきまほしき」」」ととといといといとなつかしきなつかしきなつかしきさまさまさましししててて語語かたらひらひらい聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、やうやうやうやうようよう恐恐おそろしさしさしさももも慰慰なぐさみみみててて、、、「「「かうかうこういといといとはしたなからはしたなからはしたなからででで物物もの隔隔へだてててゝゝてなどなどなど聞聞きこえええばばば、、、誠誠まことににに心心こころのののへだてへだてへだてははは更更さらにににあるあるあるまじくまじくまじくなむなむなん」」」ととといらへいらへいらえ給給たまふふう。。。あかくあかくあかくなりなりなりゆきゆきゆき村村むら鳥鳥どりののの立立たちちちさまよふさまよふさまよう羽羽は風風かぜ近近ちこううう聞聞きこゆゆゆ。。。夜夜よ深深ぶかきききあしたあしたあしたののの鐘鐘かねののの音音おとかすかかすかかすかにににひゞくひゞくひびく。。。今今いまだにだにだにいといといと見見み苦苦ぐるしきしきしきをををととといといといとわりなうわりなうわりのう恥恥はずかしげしげしげにににおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
- 2「「「ことことことありありありがほがほがおににに朝朝あさ露露つゆもももえええ分分わけけけ侍侍はべるるるまじまじまじ。。。又又また人人ひとはははいかゞいかゞいかが推推おししし量量はかりりり聞聞きこゆゆゆべきべきべき。。。例例れいのののやうやうようににになだらかなだらかなだらかにににもてもてもてなさなさなさせせせ給給たまひひいててて、、、唯唯ただ世世よににに違違たがひひいたるたるたる事事ことにてにてにて、、、今今いまよりよりより後後のちもももたゞたゞただかやうかやうかようにににしししなさなさなさせせせ給給たまひひいてててよよよ。。。世世よにににうしろめたきうしろめたきうしろめたき心心こころはははあらあらあらじじじとととおぼせおぼせおぼせ。。。かばかりかばかりかばかりあながちあながちあながちなるなるなる心心こころののの程程ほどももも、、、あはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼし知知しらららぬぬぬこそこそこそかひかひかいなけれなけれなけれ」」」とてとてとて出出いででで給給たまははわむむんののの氣色氣色けしきもももなしなしなし。。。あさましうあさましうあさましゅうかたはかたはかたわならならならむむんとてとてとて「「「今今いまよりよりより後後のちははは。。。さればこそさればこそさればこそ。。。もてもてもてなしなしなし給給たまははわむむんまゝまゝままにににあらあらあらむむん。。。今今け朝朝さはははまたまたまた聞聞きこゆるゆるゆるににに隨隨したがひひい給給たまへへえかしかしかし」」」とてとてとていといといとすべすべすべなしなしなしとととおぼしおぼしおぼしたれたれたればばば、、、「「「あなあなあなくるしくるしくるしややや。。。曉曉あかつきのののわかれわかれわかれやややまだまだまだ知知しらららぬぬぬことことことにてにてにてげにげにげに惑惑まどひひいぬぬぬべきべきべきををを」」」とととなげきなげきなげきがちがちがちなりなりなり。。。庭庭にわ鳥鳥とりもももいづかたいづかたいずかたにににかかかあらあらあらむむん、、、ほのかほのかほのかにににおとなふおとなふおとなうににに、、、都都みやこ思思おもひひいいでいでいでらるらるらる。。。「「「山山やま里里ざとのののあはれあはれあわれしらしらしらるゝるゝるる聲聲こえ々々ごえにににとりとりとりあつめあつめあつめたるたるたるあさぼらけあさぼらけあさぼらけかなかなかな」」」。。。女女おんな君君ぎみ、、、「「「鳥鳥とりののの音音ねももも聞聞きこえええぬぬぬ山山やまとととおもひおもひおもいしししををを世世よにににうきうきうきことことことははは尋尋たずねねねきききにににけりけりけり」」」。。。
現代語訳
はかなく夜明け方になってしまった。お供の人々が起きて咳払いをし、馬どものいななく声も、旅の宿のありさまなどとして人が語るのを思いやられて、薫は趣深くお思いになる。光の見えた方の障子を押し開けなさって、空のしみじみとした様子を、ご一緒にご覧になる。女君も少しにじり出ていらっしゃると、ほどもない軒の近さなので、しのぶ草の露もだんだん光って見えていく。互いにたいそう優美な姿かたちの二人で、薫は「何ということもなく、ただこのように月をも花をも同じ心で愛で、はかない世の有様を語り合って過ごしたいものです」と、たいそう親しげな様子でお話し申し上げなさるので、大君もだんだん恐ろしさも和らいで、「こうひどくきまり悪くではなく、物を隔ててなどお話し申し上げるのでしたら、本当に心の隔ては全くございませんでしょう」とお答えになる。明るくなっていき、群鳥の飛び交う羽風が近く聞こえる。夜深い朝の鐘の音がかすかに響く。大君は、今でさえたいそう見苦しいのにと、たいそう困って恥ずかしそうにお思いになっている。
薫は「わけありげに朝露を分けて帰ることもできそうにありません。また人はどのように推し量り申し上げるでしょう。いつものように穏やかにお扱いになって、ただ世間と違ったこととして、これから後もただこのようになさってください。決して不安な心はあるまいとお思いください。これほどひたむきな心のほども、哀れとお分かりにならないのは張り合いがないことです」と言って、お帰りになる様子もない。大君は、呆れるほど見苦しいことになるだろうと思って、「これから後は。だからこそ。お扱いになるままにいたしましょう。今朝はまた、私の申し上げることにお従いくださいませ」と言って、ひどく困り果てていらっしゃるので、薫は「ああ苦しい。暁の別れはまだ知らないことで、本当に惑ってしまいそうですのに」と嘆きがちである。鶏もどこにいるのか、ほのかに鳴くので、都が思い出される。「山里の哀れが知られる声々に、あれこれと取り集めた明け方だなあ」。女君は、「鳥の声も聞こえない山と思っていたのに、世のつらいことは訪ねて来たのでした」。
意訳
夜が明け、薫と大君は障子を開けて一緒に空を眺める。薫は、このように同じ心で月や花を愛でて過ごしたいと語り、大君も物越しなら心の隔てはないと答える。薫はなかなか帰ろうとせず、暁の別れを嘆く。二人は明け方の歌を詠み交わす。
語釈・文法注
文法
- 「こわづくり」(御供の人々おきてこわづくり)
- 咳払い。出立を促す合図。
- 「ことありがほに」(ことありがほに朝露もえ分け侍るまじ)
- 何かあったような顔で。人目を憚る薫の言葉。
- 「世にうきことは尋ねきにけり」(世にうきことは尋ねきにけり)
- 俗世のつらいことが、この山里まで訪ねて来た。薫の訪れを「うきこと」と言う大君の返歌。
解説
何事もなく明けた夜のあと、二人は並んで夜明けの空を眺める。薫が望む「同じ心で月や花を愛でる」関係は、この朝わずかに実現したかに見える。
大君の返歌は、薫の訪れを「世にうきこと」と呼ぶ。山里に籠って世を離れて生きようとする大君にとって、薫の恋は俗世のわずらいそのものであった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、938–941頁(コマ180–181)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日