源氏物語 第47帖 総角(6)
屏風の内へ
薫は「山路を分けて参った私はまして苦しいが、こうしてお話しし、お聞きすることで慰められているのです。見捨てて奥に入ってしまわれたら、たいそう心細いでしょう」と言って、屏風をそっと押し開けて入ってしまった。大君はひどく気味悪く、半分ほど入ったところで引き止められて、ひどく悔しく情けないので、「隔てがないとは、このようなことを言うのでしょうか。珍しいことですね」と責めるさまがますます美しいので、薫は「隔てのない心を全くお分かりにならないので、お知らせしようと思うのです。珍しいことでも、どういうことを思っていらっしゃるのでしょう。仏の御前で誓いもいたしましょう。嫌だ、怖がらないでください。お心を破るまいと思い定めておりますので、人はそうとは推し量らないでしょうが、世に外れた愚か者として過ごしているのですよ」と言って、奥ゆかしいほどの灯影に、髪のこぼれかかっているのをかき上げながら見ると、大君の様子は思ったとおり、香り高く美しい。このように心細く呆れるような住まいでは、色好みの者なら妨げもなさそうなのに、自分以外に訪ねて来る人があったら、そのままでは済まなかったろう、どんなに残念なことだったろうと、これまでの自分ののんびりした心さえ危うく思われるが、大君が言いようもなくつらいと思って泣く様子がたいそう気の毒なので、こうではなく、自然と心を許す折もあるだろうと思い続ける。無理強いのようなのも心苦しくて、体裁よく慰める。大君は「このようなお心とも思い寄らず、不思議なほど親しくしてきたのに、不吉な喪服の袖の色などを見顕しなさる浅いお心に、自分の言うかいなさも思い知られて、さまざまに慰めようもない」と恨んで、何気なくやつれた墨染めの姿を灯影に見られたのを、たいそうきまり悪くつらいと思い惑う。薫は、こうまでお思いになるのはわけがあるのだろうと、恥ずかしくて申し上げようもない。
- 1「「「山山やま路路じ分分わけけけ侍侍はべりりりつるつるつる人人ひとはははましてましてましていといといと苦苦くるしけれしけれしけれどどど、、、かうかうこう聞聞きこえええうけうけうけ給給たまはるはるわるににに慰慰なぐさめめめてててこそこそこそ侍侍はべれれれ。。。うちうちうち捨捨すてててゝゝて入入いらららせせせ給給たまひひいなななばばばいといといと心心こころぼそからぼそからぼそからむむん」」」とてとてとて屏屏びょう風風ぶをををやをらやをらやおら押押おしししあけあけあけててて入入いりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。いといといとむくつけうむくつけうむくつきょうてててなからなからなからばかりばかりばかり入入いりりり給給たまへへえるるるににに、、、引引ひきききとゞめとゞめとどめられられられててて、、、いみじういみじういみじゅうねたうねたうねとう心心こころ憂憂うけれけれければばば、、、「「「へだてへだてへだてなきなきなきとととはははかゝるかゝるかかるをををやややいふいふいうらむらむらん。。。珍珍めずらからからかなるなるなるわざわざわざかなかなかな」」」とととあばめあばめあばめ給給たまへへえるるるさまさまさまのののいよいよいよいよいよいよをかしけれをかしけれおかしければばば、、、「「「隔隔へだてててぬぬぬ心心こころををを更更さらにににおぼしおぼしおぼしわかわかわかねねねばばば、、、聞聞きこえええ知知しらせらせらせむむんとととぞぞぞかしかしかし。。。珍珍めずらからからかなりなりなりともともともいかなるいかなるいかなる方方かたにににおぼしおぼしおぼしよるよるよるにににかかかはははあらあらあらむむん。。。佛佛ほとけののの御御お前前まえにてにてにてちかごとちかごとちかごともももたてたてたて侍侍はべらららむむん。。。うたてうたてうたて、、、なななおぢおぢおじさせさせさせ給給たまひひいそそそ。。。御心御心みこころ破破やぶらららじじじととと思思おもひひいそめそめそめててて侍侍はべれれればばば、、、人人ひとはははかくかくかくしもしもしも推推おししし量量はかりりり思思おもふふうまじかまじかまじかめれめれめれどどど、、、世世よににに違違たがへへえるるるしれしれしれものものものにてにてにて過過すぐしぐしぐし侍侍はべるるるぞぞぞややや」」」とてとてとて心心こころにくきにくきにくきほどほどほどなるなるなるほほほかげかげかげににに、、、みみみぐしぐしぐしのののこぼれこぼれこぼれかゝりかゝりかかりたるたるたるをををかきかきかきやりやりやりつゝつゝつつ見見み給給たまへへえばばば、、、人人ひとののの御御おんけはひけはひけはい思思おもふふうやうやうようにににかをりかをりかおりをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。
- 2かうかうこう心心こころぼそうぼそうぼそうあさましきあさましきあさましき御御おんすみかすみかすみかににに、、、すいすいすいたらたらたらむむん人人ひとはははさはりさはりさわり所所どころあるあるあるまじげまじげまじげなるなるなるををを、、、我我わならならならででで尋尋たずねねね來來くるるる人人ひともももあらあらあらましかましかましかばばば、、、さささでででややや止止やみみみなななましましまし、、、いかにいかにいかに口惜口惜くちおしきしきしきわざわざわざならならならましましましととときききししし方方かたののの心心こころのののやすらひやすらひやすらいさへさへさへあやふくあやふくあやうくおぼえおぼえおぼえ給給たまへへえどどど、、、いふかひいふかひいうかいなくなくなく憂憂うしししととと思思おもひひいててて、、、泣泣なききき給給たまふふう御御おん氣色氣色けしきのののいといといといとほしけれいとほしけれいとおしければばば、、、かくかくかくはははあらあらあらででで、、、おのづからおのづからおのずから心心こころゆるびゆるびゆるびししし給給たまふふう折折おりもももありありありなななむむんととと思思おもひひいわたるわたるわたる。。。わりなきわりなきわりなきやうやうようなるなるなるももも心苦心苦こころぐるしくしくしくててて、、、さまさまさまよくよくよくこしらへこしらへこしらえ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「かゝるかゝるかかる御心御心みこころののの程程ほどををを思思おもひひいよらよらよらででであやしきあやしきあやしきまでまでまで聞聞きこえええなれなれなれにににたるたるたるををを、、、ゆゝしきゆゝしきゆゆしき袖袖そでののの色色いろなどなどなど見見み顯顯あらわししし給給たまふふう心心こころあさゝあさゝあささににに、、、みづからみづからみずからのののいふかひいふかひいうかいなさなさなさももも思思おもひひい知知しらららるゝるゝるるににに樣樣さま々々ざま慰慰なぐさむむむ方方かたなくなくなく」」」ととと恨恨うらみみみててて、、、何何なに心心こころもももなくなくなくやつれやつれやつれ給給たまへへえるるる墨墨すみ染染ぞめのののほほほかげかげかげををを、、、いといといとはしたなくはしたなくはしたなく侘侘わびしししととと思思おもひひい惑惑まどひひい給給たまへへえりりり。。。いといといとかうかうこうしもしもしもおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるやうやうようこそこそこそはははととと、、、はづかしきはづかしきはずかしきににに聞聞きこえええさせさせさせむむん方方かたなしなしなし。。。
現代語訳
薫は「山路を分けて参りました者は、まして苦しいのですが、こうしてお話しし、お聞きすることで慰められているのです。見捨てて奥にお入りになってしまったら、たいそう心細いことでしょう」と言って、屏風をそっと押し開けてお入りになってしまった。大君はたいそう気味悪くて、半分ほどお入りになったところで引き止められて、ひどく悔しく情けないので、「隔てがないとは、このようなことを言うのでしょうか。珍しいことですね」と責めなさる様子がますます美しいので、「隔てのない心を全くお分かりにならないので、お知らせしようと思うのですよ。珍しいことでも、どういう方面にお思い寄りなのでしょう。仏の御前で誓いもいたしましょう。嫌だ、怖がりなさいますな。お心を破るまいと思い定めておりますので、人はそうとは推し量らないでしょうが、世に外れた愚か者として過ごしているのですよ」と言って、奥ゆかしいほどの灯影に、御髪のこぼれかかっているのをかき上げながらご覧になると、大君のご様子は、思ったとおり香り高く美しい。
このように心細く呆れるようなお住まいに、色好みの者ならば妨げもなさそうなのに、自分以外に訪ねて来る人があったならば、そのままでは済まなかったろう、どんなに残念なことだったろうかと、これまでの自分の心ののんびりしていたことさえ危うく思われなさるが、大君が言いようもなくつらいと思って泣いていらっしゃるご様子がたいそう気の毒なので、こうではなく、自然とお心を許しなさる折もあるだろうと思い続ける。無理強いのようなのも心苦しくて、体裁よく慰め申し上げなさる。大君は「このようなお心のほどとも思い寄らず、不思議なほど親しくしてまいりましたのに、不吉な喪服の袖の色などを見顕しなさる浅いお心に、自分の言うかいのなさも思い知られて、さまざまに慰めようもなく」と恨んで、何気なくやつれていらっしゃる墨染めの姿を灯影に見られたのを、たいそうきまり悪くつらいと思い惑っていらっしゃる。薫は、こうまでお思いになるのは、わけがあるのだろうと、恥ずかしくて申し上げようもない。
意訳
奥へ入ろうとする大君を、薫は屏風を押し開けて引き止める。大君は泣いて責めるが、薫は心を破るつもりはないと誓い、大君の髪をかき上げて美しい姿を見る。薫は無理強いを避け、大君が自然に心を許す日を待とうと思う。大君は喪服姿を見られたことを恨み、恥じる。
語釈・文法注
文法
- 「あばめ給へる」(とあばめ給へる)
- 責める、なじる。
- 「しれもの」(世に違へるしれものにて)
- 愚か者。世の常の男と違って、無理強いはしない者という自嘲。
- 「ゆゝしき袖の色」(ゆゝしき袖の色など見顯し給ふ)
- 不吉な喪服の色。喪中の姿を見られたことを恥じる。
解説
薫は屏風を押し開けて大君のそばに入るが、無理に関係を結ぼうとはしない。これは薫の誠実さの表れであると同時に、決断できない優柔不断さでもある。
大君は喪服姿を見られたことを恥じる。父の喪中に男性と近づくことは、大君にとって父への背信でもあった。大君の拒絶には、父への思いと自分への厳しさがある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、936–939頁(コマ179–180)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日