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源氏物語 第45帖 橋姫(23)

八の宮の後見の依頼

登場人物:八の宮・薫・大君・中の君

宮は「この辺りで思いがけず時々ほのかに聞こえる箏の琴の手こそ、心得ているのかと聞く折もありますが、心を留めて教えたりもせずに久しくなってしまいました。思いのままにそれぞれかき鳴らしているようなのは、川波だけが合わせているのでしょう。きっと物の役に立つほどの拍子なども身についていまいと思われます」と言って、「弾いてごらんなさい」とあちらに申し上げるが、姫君たちは「思いもよらなかった独り言をお聞きになったらしいことさえ恥ずかしいのに、たいそう見苦しいでしょう」と奥に引っ込んで、全くお聞き入れにならない。たびたび勧めるが、あれこれと辞退してやめてしまったので、薫はたいそう残念に思う。そのついでにも宮は、このように不思議に世間離れした考えで過ごしている娘たちの有様が思いのほかなことなど、恥ずかしく思っている。「人にさえどうにかして知らせまいと育ててきたが、今日明日とも知れない身の残り少なさに、さすがに行く末遠い娘たちが落ちぶれてさすらうことになるのが、これだけが本当に世を離れようとする際の絆なのです」と語るので、薫は心苦しく拝見する。「特別な後見めいたしっかりした形ではございませんでも、疎々しくなく思っていただきたいと存じます。しばらくでも生き長らえます命の間は、一言でもこのように申し上げましたことを違えるつもりはございません」などと申し上げると、宮は「たいそううれしいこと」と思い、言う。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

宮は「この辺りで、思いがけず時々ほのかに聞こえる箏の琴の手こそ、心得ているのかと聞く折もございますが、心を留めて教えたりなどもせずに、久しくなってしまいましたよ。思いのままにそれぞれかき鳴らしているようなのは、川波だけが合わせているのでしょう。きっと物の役に立つほどの拍子なども身についていないだろうと思われます」と言って、「弾いてごらんなさい」とあちらに申し上げなさるけれど、姫君たちは「思いもよらなかった独り言をお聞きになったらしいことさえあるのに、たいそう見苦しいことでしょう」と奥に引っ込みながら、全くお聞き入れにならない。たびたびお勧め申し上げなさるけれど、あれこれと辞退申し上げてやめてしまわれたので、薫はたいそう残念に思われる。そのついでにも宮は、このように不思議に世間離れした考えで過ごしている娘たちの有様が思いのほかであることなどを、恥ずかしくお思いになっていた。「人にさえ、どうにかして知らせまいと育ててきたけれど、今日明日とも知れない身の残り少なさに、さすがに行く末遠い娘たちが落ちぶれてさすらうことになるのが、これだけが本当に世を離れようとする際の絆なのです」とお話しになるので、薫は心苦しく拝見なさる。「特別な御後見めいた、しっかりした形ではございませんでも、疎々しくなく思っていただきたいと存じます。しばらくでも生き長らえます命の間は、一言でもこのように申し上げましたことを違えるつもりはございません」などと申し上げなさると、宮は「たいそううれしいこと」とお思いになり、おっしゃる。

意訳

八の宮は姫君たちに箏を弾くよう促すが、姫君たちは恥じらって弾かない。宮は、自分の死後に娘たちが落ちぶれることだけが出家の妨げだと打ち明け、薫は生きている限り姫君たちを見捨てないと約束する。

語釈・文法注

文法

「ろなう」(ろなうものゝようにすばかりのはうしなども)
論なく。きっと、間違いなく。
「はうし」(はうしなどもとまらじ)
拍子。音楽のリズム。
「おちあふれて」(おちあふれてさすらへむこと)
落ちぶれて。零落すること。

解説

八の宮が薫に娘たちの後見を託す重要な場面である。宮は世を捨てたと言いながら、娘たちの行く末だけは心配でならない。薫の約束は、後の物語で薫と姉妹を強く結びつける絆となる。

薫の約束は「わざとの御後見だち」でなくてよいという控えめなものである。しかし八の宮は、薫がいずれ娘の婿になることを期待していたのかもしれない。この約束の解釈をめぐるずれが、後に大君と薫の関係を複雑にする。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、902–905頁(コマ162–163)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日