源氏物語 第45帖 橋姫(21)
匂宮への語り
いつものようにさまざまな話を交わすついでに、薫が宇治の宮のことを語り出して、垣間見た明け方の様子などを詳しく申し上げると、匂宮はたいそうしきりに面白いと思う。やはりそうかと様子を見て、ますます心が動くように話し続ける。匂宮は「それで、その返事はどうして見せてくださらなかったのか。私なら見せるのに」と恨む。薫は「そうです。あなたこそ、さまざまにご覧になっているらしい手紙の端さえ見せてくださらない。あの辺りの方々は、このようにひどく埋もれた身で閉じこもって終わるような様子でもございませんので、ぜひお目にかけたいと思いますが、どうしてお訪ねになれましょう。気軽な身分の者こそ、色好みをしようと思えばいくらでもできる世の中です。隠れていて多くいるようですね。それなりに見どころのありそうな女で物思いをしながら忍んでいる住まいも、山里めいた片隅などに自然とあるようです。私の申し上げるあたりは、たいそう世間離れした聖めいた様子で、無骨だろうと長年見くびって、耳にも留めておりませんでしたが、ほのかに見た月影のとおり見劣りしなければ、申し分ないでしょう。気配や様子はまた、あれくらいなら理想的な程度と思われるはずです」などと申し上げる。しまいには真剣になって、匂宮はたいそう悔しく、並の人には心を移すまいとする薫がこれほど深く思っているのを、いい加減ではあるまいと、知りたく思うことがこの上なくなった。「やはりまた、よく様子を見てください」と薫を勧めて、身分の窮屈さを厭わしいほどもどかしく思っているので、薫は面白くて、「いやもう、つまらないことです。しばらく世の中に心をとどめまいと思うわけのある身で、かりそめの戯れも慎んでおりますのに、自分の心ながら思うようにならない心がつき始めたら、大いに思惑に反することになりましょう」と申し上げると、匂宮は「いや、大げさなことを。いつもの仰々しい聖ぶった言葉を最後まで見届けたいものだ」と言って笑う。薫は心の中では、あの老女房がほのめかした事柄などがいっそう心に驚かされて物悲しいので、美しいと見ることも、感じがよいと聞く女のあたりも、たいして心にとまらないのだった。
- 1例例れいのののさまざまさまざまさまざまなるなるなる御御おん物物もの語語がたり聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふうついでついでついでににに宇宇う治治じののの宮宮みやのののことことこと語語かたりりり出出いでででゝゝて、、、見見みししし曉曉あかつきのののありさまありさまありさまなどなどなどくはしくくはしくくわしく聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、宮宮みやいといといとせちせちせちにににをかしをかしおかしとととおぼいおぼいおぼいたりたりたり。。。さればさればさればよよよととと御御おん氣色氣色けしきををを見見みててていとゞいとゞいとど御心御心みこころ動動うごきききぬぬぬべくべくべくいひいひいいつゞけつゞけつづけ給給たまふふう。。。「「「さてさてさてそのそのそのありありありけむけむけん返返かえり事事ごとはははなどなどなどかかか見見みせせせ給給たまははわざりざりざりししし。。。まろまろまろならならならましかましかましかばばば」」」ととと怨怨うらみみみ給給たまふふう。。。「「「さかしさかしさかし。。。いといといとさまざまさまざまさまざま御御ご覽覽らんずずずべかべかべかめるめるめる端端はしをををだにだにだに見見みせせせ給給たまははわぬぬぬ。。。かのかのかのわたりわたりわたりはははかくかくかくいといといともももうもれうもれうもれたるたるたる身身みにににひきひきひきこめこめこめてててやむやむやむべきべきべきけはひけはひけはいにににももも侍侍はべらららねねねばばば必必かならずずず御御ご覽覽らんぜぜぜさせさせさせばやばやばやととと思思おもひひい給給たまふれふれうれどどど、、、いかでいかでいかでかかか尋尋たずねねねよらよらよらせせせ給給たまふふうべきべきべき。。。かやすきかやすきかやすきほどほどほどこそこそこそすかすかすかまほしくまほしくまほしくはははいといといとよくよくよくすきすきすきぬぬぬべきべきべき世世よににに侍侍はべりりりけれけれけれ。。。うちうちうちかくろへかくろへかくろえつゝつゝつつ多多おおかかかめるめるめるかなかなかな。。。さるさるさるかたかたかたににに見見み所所どころありありありぬぬぬべきべきべき女女おんなののの物物もの思思おもははわしきしきしきうちうちうち忍忍しのびびびたるたるたるすみかすみかすみかももも山山やま里里ざとめいめいめいたるたるたるくまくまくまなどなどなどにににおのづからおのづからおのずから侍侍はべるるるべかべかべかめりめりめり。。。このこのこの聞聞きこえええさするさするさするわたりわたりわたりはははいといといとよよよづかづかずかぬぬぬひじりひじりひじりざまざまざまにてにてにてこちごちしうこちごちしうこちごちしゅうぞぞぞあらあらあらむむんととと年年とし比比ごろははは思思おもひひいあなづりあなづりあなずり侍侍はべりりりててて耳耳みみをををだにだにだにこそこそこそ留留とどめめめ侍侍はべらららざりざりざりけれけれけれ、、、ほのかほのかほのかなりなりなりししし月月つき影影かげののの見見み劣劣おとりりりせせせずずずばばばまほまほまほならならならむむんはははややや。。。けはひけはひけはい有有あり樣樣さまはははたたたさばかりさばかりさばかりならならならむむんをををぞぞぞあらまほしきあらまほしきあらまほしきほどほどほどととと覺覺おぼえええ侍侍はべるるるべきべきべき」」」などなどなど聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 2はてはてはてはてはてはてはははまめまめまめだちだちだちててていといといとねたくねたくねたく、、、おぼろげおぼろげおぼろげののの人人ひとににに心心こころ移移うつるるるまじきまじきまじき人人ひとのののかくかくかく深深ふかくくく思思おもへへえるるるををを、、、おろかおろかおろかならならならじじじとととゆかしうゆかしうゆかしゅうおぼすおぼすおぼすことことことかぎりかぎりかぎりなくなくなくなりなりなり給給たまひひいぬぬぬ「「「猶猶なお又又また々々またよくよくよく氣色氣色けしき見見み給給たまへへえ」」」ととと人人ひとをををすゝめすゝめすすめ給給たまひひいててて限限かぎりりりあるあるある御御おん身身みのののほどほどほどのののよだけさよだけさよだけさをををいとはしきいとはしきいとわしきまでまでまで心心こころもとなしもとなしもとなしとととおぼしおぼしおぼしたれたれたればばば、、、をかしくをかしくおかしくててて「「「いでやいでやいでやよしよしよしなくなくなくぞぞぞ侍侍はべるるる。。。しばししばししばし世世よののの中中なかににに心心こころとゞめとゞめとどめじじじととと思思おもひひい給給たまへへえるるるやうやうようあるあるある身身みにてにてにてなほざりなほざりなおざりごとごとごともももつゝましうつゝましうつつましゅう侍侍はべるるるををを、、、心心こころながらながらながらかなはかなはかなわぬぬぬ心心こころつきつきつきそめそめそめなななばばばおほきおほきおおきににに思思おもひひいにににたがふたがふたがうべきべきべきことことことなむなむなん侍侍はべるるるべきべきべき」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば「「「いでいでいであなあなあなことごとしことごとしことごとし。。。例例れいのののおどろおどろしきおどろおどろしきおどろおどろしきひじりひじりひじりことばことばことば見見みはてはてはてゝゝてしししがながながな」」」とてとてとて笑笑わらひひい給給たまふふう。。。心心こころのののうちうちうちにににはははかのかのかのふるふるふる人人びとのののほのめかしほのめかしほのめかしゝゝしすぢすぢすじなどなどなどのののいとゞいとゞいとどうちうちうち驚驚おどろかさかさかされれれててて物物もの哀哀あわれなるなるなるにににをかしをかしおかしととと見見みるるることことこともももめやすしめやすしめやすしととと聞聞きくくくあたりあたりあたりももも何何なにばかりばかりばかり心心こころにににもももとまらとまらとまらざりざりざりけりけりけり。。。
現代語訳
いつものようにさまざまなお話を交わしなさるついでに、薫が宇治の宮のことを語り出して、垣間見た明け方の様子などを詳しく申し上げなさると、匂宮はたいそうしきりに面白いとお思いになった。やはりそうかとご様子を見て、ますますお心が動きそうなように話し続けなさる。匂宮は「それで、そのあったという返事は、どうして見せてくださらなかったのか。私だったら見せるのに」とお恨みになる。薫は「そうです。あなたこそ、たいそうさまざまにご覧になっているらしい手紙の端さえ見せてくださらない。あの辺りの方々は、このようにたいそう埋もれた身で閉じこもって終わるような様子でもございませんので、ぜひお目にかけたいと存じますが、どうしてお訪ね寄りになれましょう。気軽な身分の者こそ、色好みをしようと思えば、たいそうよく色好みができる世の中でございます。隠れていて多くいるようですね。それなりに見どころのありそうな女で、物思いをしながら忍んでいる住まいも、山里めいた片隅などに、自然とあるようでございます。私の申し上げるあたりは、たいそう世間離れした聖めいた様子で、無骨だろうと長年見くびっておりまして、耳にさえ留めておりませんでしたが、ほのかに見た月影のとおり見劣りしなければ、申し分ないでしょうよ。気配や様子はまた、あれくらいであるのを理想的な程度と思われるはずでございます」などと申し上げなさる。
しまいには真剣になって、匂宮はたいそう悔しく、並の人には心を移しそうもない人がこれほど深く思っているのを、いい加減ではあるまいと、知りたくお思いになることがこの上なくなった。「やはりまた、よく様子を見てください」と薫をお勧めになって、限りあるご身分の窮屈さを厭わしいほどもどかしくお思いになっているので、薫は面白くて、「いやもう、つまらないことでございます。しばらく世の中に心をとどめまいと存じるわけのある身で、かりそめの戯れも慎んでおりますのに、自分の心ながら思うようにならない心がつき始めましたら、大いに思惑に反することになるでございましょう」と申し上げなさると、匂宮は「いや、まあ大げさなことを。いつもの仰々しい聖ぶった言葉の果てを見届けたいものだ」と言ってお笑いになる。薫は心の中では、あの老女房がほのめかした事柄などがいっそう心に驚かされて物悲しいので、美しいと見ることも、感じがよいと聞くあたりも、たいして心にとまらないのだった。
意訳
薫は匂宮に宇治の姫君たちを垣間見た話をし、匂宮の好奇心をあおる。匂宮は返事を見せなかったことを恨み、身分の窮屈さを嘆いてもっと様子を見てくれと頼む。薫は道心を理由に戯れを慎むと言い、匂宮は笑う。しかし薫の心は、弁がほのめかした秘密のことで占められている。
語釈・文法注
文法
- 「かやすきほど」(かやすきほどこそすかまほしくは)
- 身軽な身分。親王の匂宮は自由に出歩けない。
- 「まほならむ」(見劣りせずばまほならむはや)
- 申し分ない、完全である。
- 「よだけさ」(御身のほどのよだけさ)
- 窮屈さ、大げさであること。
- 「ひじりことば」(例のおどろおどろしきひじりことば)
- 聖めいた言葉。薫の道心ぶった口ぶりを匂宮がからかう。
解説
薫は匂宮に宇治の姫君たちのことを語り、その好奇心をかき立てる。この一言が、後に匂宮と中の君を結びつけ、宇治十帖の物語を大きく動かすきっかけとなる。
薫は匂宮をからかいながら、自分は道心を理由に恋を慎むと言う。しかし心の中は、出生の秘密への思いでいっぱいである。表向きの会話と内面の思いのずれが、薫の孤独を際立たせている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、900–903頁(コマ161–162)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日