源氏物語 第45帖 橋姫(18)
霧の朝の別れ
薫は、不思議に夢語りや巫女のような者が問わず語りをするように珍しく思われるが、しみじみと気がかりに思い続けてきた事柄を申し上げるので、たいそう奥を知りたいが、本当に人目も多い、急に古い話にかかずらって夜を明かしてしまうのも無骨だろうから、「はっきりと思い当たることはないものの、昔のことと聞くにつけても物悲しく思われます。それなら必ずこの残りを聞かせてください。霧が晴れていったら、見苦しいはずのこのやつれ姿を、ぶしつけにお咎めになりそうな有様なので、思っている心の程よりは残念ですが」と言って立つと、宮のいらっしゃる寺の鐘の声がかすかに聞こえて、霧がたいそう深く立ちこめた峰の八重雲が、思いやる隔ても多くしみじみとしている中で、やはりこの姫君たちの心の中が気の毒で、何事に心を残しているのだろう、このようにたいそう奥に引きこもっているのももっともだなどと思う。夜明けに家路も見えない、訪ねて来た槙の尾山は霧が立ちこめていることだ、心細いことですと、引き返してためらっている様子を、都の見慣れた人でさえやはり格別だと思うのに、まして山里の人はどんなに珍しく見ないことがあろう。返事を取り次ぎにくそうにしているので、大君がいつものようにたいそう慎ましく、雲のかかる峰の険しい道を、秋霧がいっそう隔てる頃でありますことと詠む。少し嘆いている様子が浅からず哀れである。何ほどの趣ある点も見えないあたりだが、本当に気の毒なことが多いのに、明るくなっていくので、さすがにあらわな心地がして、「中途半端に承りかけたことが多いので、残りは、もう少しうちとけてから恨み申し上げましょう。とはいえ、このように世間並みにお扱いになるので、思いがけず物の分からない方だったと恨めしく存じます」と言って、宿直人が用意した西面に行って物思いにふける。
- 1あやしくあやしくあやしく夢夢ゆめがたりがたりがたりかんなぎかんなぎかんなぎやうやうようのののものものものゝゝの問問とはははずずずがたりがたりがたりするするするやうやうようににに珍珍めずらからからかにににおぼさおぼさおぼさるれるれるれどどど哀哀あわれににに覺束覺束おぼつかなくなくなくおぼしおぼしおぼし渡渡わたるるることことことのののすぢすぢすじををを聞聞きこゆれゆれゆればばばいといといとおくおくおくゆかしけれゆかしけれゆかしけれどどど、、、げにげにげに人人ひとめめめもももしげししげししげし、、、さしさしさしぐみぐみぐみにににふるふるふる物物もの語語がたりにににかゝづらひかゝづらひかかずらいててて夜夜よををを明明あかしししはてはてはてむむんもももこちごちしかるこちごちしかるこちごちしかるべけれべけれべければばば「「「そこはかとそこはかとそこはかと思思おもひひいわくわくわくことことことはははなきなきなきものものものからからからいにしへいにしへいにしえのののことことことゝゝと聞聞きききき侍侍はべるるるももも物物もの哀哀あわれににになむなむなん。。。さらばさらばさらば必必かならずずずこのこのこののこりのこりのこり聞聞きかせかせかせ給給たまへへえ霧霧きり晴晴はれれれゆかゆかゆかばばばはしたなかるはしたなかるはしたなかるべきべきべきやつれやつれやつれをををおもなくおもなくおもなく御御ご覽覽らんじじじ咎咎とがめめめられられられぬぬぬべきべきべきさまさまさまなれなれなればばば思思おもひひい給給たまふるふるうる心心こころののの程程ほどよりよりよりははは口惜口惜くちおしうしうしゅうなむなむなん」」」とてとてとて立立たちちち給給たまふふうににに、、、かのかのかのおはしますおはしますおわします寺寺てらののの鐘鐘かねののの聲聲こえかすかかすかかすかににに聞聞きこえええててて霧霧きりいといといと深深ふかくくくたちたちたちわたれわたれわたれるるる峯峯みねののの八八や重重え雲雲ぐも思思おもひひいやるやるやるへたてへたてへたて多多おおくくく哀哀あわれなるなるなるににに、、、猶猶なおこのこのこの姫姫ひめ君君ぎみ達達たちののの御心御心みこころのののうちうちうちどもどもども心苦心苦こころぐるしうしうしゅう何何なに事事ごとをををおぼしおぼしおぼし殘殘のこすすすらむらむらん、、、かくかくかくいといといとおくまりおくまりおくまり給給たまへへえるるるもももことわりことわりことわりぞぞぞかしかしかしなどなどなどおぼすおぼすおぼす。。。
- 2「「「あさぼらけあさぼらけあさぼらけ家家いえ路路じももも見見みえええずずずたづねたづねたずねこしこしこし槇槇まきのののををお山山やまははは霧霧きりこめこめこめてててけりけりけり。。。心心こころぼそくぼそくぼそくももも侍侍はべるるるかなかなかな」」」とととたちたちたちかへりかへりかえりやすらひやすらひやすらい給給たまへへえるるるさまさまさまををを都都みやこののの人人ひとのののめめめなれなれなれたるたるたるだにだにだに猶猶なおいといといとことことことににに思思おもひひい聞聞きこえええ侍侍はべるるるをををまいてまいてまいていかゞいかゞいかがははは珍珍めずらしうしうしゅう見見みざらざらざらむむん。。。御御おんかへりかへりかえり聞聞きこえええ傳傳つたへへえにくげにくげにくげににに思思おもひひいたれたれたればばば例例れいのののいといといとつゝましげつゝましげつつましげにてにてにて、、、「「「雲雲くものののゐるゐるいる峯峯みねのののかけかけかけぢぢじををを秋秋あき霧霧ぎりのののいとゞいとゞいとどへだつるへだつるへだつるころころころにににもももあるあるあるかなかなかな」」」。。。少少すこしししうちうちうち歎歎なげききき給給たまへへえるるる氣色氣色けしき淺淺あさからからからずずず哀哀あわれなりなりなり。。。何何なにばかりばかりばかりをかしきをかしきおかしきふしふしふしははは見見みえええぬぬぬあたりあたりあたりなれなれなれどどど實實げににに心苦心苦こころぐるしきしきしきことことこと多多おおかるかるかるにににもももあかうあかうあこうなりなりなり行行ゆけけけばばばさすがさすがさすがにににひたひたひたおもておもておもてなるなるなる心地心地ここちしししててて「「「なかなかなかなかなかなかなるなるなるほどほどほどににに承承うけたまわりりりさしさしさしつるつるつることことこと多多おおかるかるかるのこりのこりのこりははは今今いま少少すこしししおもおもおもなれなれなれてててこそこそこそははは怨怨うらみみみ聞聞きこえええさすさすさすべかべかべかめれめれめれ。。。さるはさるはさるはかくかくかく世世よののの人人ひとめいめいめいてててもてもてもてなしなしなし給給たまへへえばばば思思おもははわずずずににに物物ものおぼしおぼしおぼしわかわかわかざりざりざりけりけりけりととと、、、うらめしううらめしううらめしゅうなむなむなん」」」とてとてとてとのゐとのゐとのいびとびとびとがががしつらひしつらひしつらいたるたるたる西西にし面面おもてにににおはしおはしおわしてててながめながめながめ給給たまふふう。。。
現代語訳
薫は、不思議に夢語りや、巫女のような者が問わず語りをするように珍しくお思いになるが、しみじみと気がかりに思い続けていらっしゃった事柄の筋を申し上げるので、たいそう奥を知りたいけれど、本当に人目も多い、急に古い話にかかずらって夜を明かしてしまうのも無骨だろうから、「はっきりと思い当たることはないものの、昔のことと聞きますにつけても物悲しく思われます。それなら必ずこの残りをお聞かせください。霧が晴れていったら、見苦しいはずのやつれ姿を、ぶしつけだとお咎めになりそうな有様なので、存じている心の程よりは残念ですが」と言ってお立ちになると、あの宮のいらっしゃる寺の鐘の声がかすかに聞こえて、霧がたいそう深く立ちこめている峰の八重雲が、思いやる隔ても多く、しみじみとしている中で、やはりこの姫君たちのお心の中が気の毒で、何事に心を残していらっしゃるのだろう、このようにたいそう奥に引きこもっていらっしゃるのも、もっともなことだなどとお思いになる。
「夜明けに家路も見えない。訪ねてきた槙の尾山は、霧が立ちこめていることだ。心細くもございますね」と、引き返してためらっていらっしゃる様子を、都の見慣れた人でさえやはりたいそう格別だとお思い申し上げるのに、まして山里の人がどうして珍しく見ないことがあろうか。返歌を取り次ぎにくそうに思っているので、大君がいつものようにたいそう慎ましく、「雲のかかる峰の険しい道を、秋霧がいっそう隔てる頃でございますことよ」。少しお嘆きになっている様子が、浅からず哀れである。何ほどの趣ある点も見えないあたりだけれど、本当に気の毒なことが多いのに、明るくなっていくので、さすがにあらわな心地がして、「中途半端な所で、承りかけたことが多うございます。残りは、もう少しうちとけてから、恨み申し上げることにいたしましょう。とはいえ、このように世間並みにお扱いになるので、思いがけず物の分からない方でいらっしゃったと、恨めしく存じます」と言って、宿直人が用意した西面にいらっしゃって、物思いにふけりなさる。
意訳
薫は弁の話の続きを聞きたいが、人目もあり夜も明けるので、後日を約して立つ。寺の鐘が聞こえる霧の中、薫は姫君たちの心中を思いやり、霧の山道を詠む。大君も霧が隔てる歌を返す。薫は世間並みの扱いを恨む言葉を残して、西面で物思いにふける。
語釈・文法注
文法
- 「かんなぎ」(かんなぎやうのものゝ問はずがたりする)
- 巫女。神がかりして語る者。
- 「さしぐみに」(さしぐみにふる物語にかゝづらひて)
- 急に、だしぬけに。
- 「槇のを山」(たづねこし槇のを山は霧こめてけり)
- 槙の尾山。宇治の山。
- 「ひたおもて」(さすがにひたおもてなる心地して)
- 顔をあらわにすること。明るくなって姿が見えてしまうこと。
解説
薫は、出生の秘密につながる弁の話を聞きたいが、人目をはばかって立ち去る。この慎重さは、薫の性格をよく表している。秘密への好奇心と、それを知ることへの恐れが、薫の心に同居している。
霧と鐘の声の中での歌の贈答は、宇治の山里の情趣を描き出す。薫の歌は姫君たちへの名残を、大君の返歌は二人の間を隔てる霧を詠む。二人の関係の始まりにふさわしい、慎ましやかな歌のやりとりである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、898–899頁(コマ160)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日