源氏物語 第45帖 橋姫(15)
御簾の前の口上
薫は「この御簾の前では、きまりが悪うございます。一時の浅い心だけでは、こうして訪ねて参ることもできない山の険しい道と存じますのに、変わったおもてなしです。このように露に濡れる旅を重ねては、いくら何でもお分かりいただけるだろうと頼もしく思っております」とたいそう真剣に言う。若い女房たちが穏やかに返事できる者もなく、消え入るように恥ずかしがっているのも見苦しいので、奥にいる年配の女房を起こして出すまで時間がかかり、わざとらしいのもつらくて、大君が「何事も分からない有様で、分かったような顔をしてどうして申し上げられましょう」と、たいそう趣深く上品な声で、奥に引っ込みながらほのかに言う。薫は「一方で分かっていながら、つらさを知らない顔をするのも世の常と存じていますが、あなたお一人までがあまりにとぼけていらっしゃるのは残念です。めったにないほど万事を思い澄ましたお住まいなどに一緒に暮らしていらっしゃるお心の中は、何事も涼しく推し量られますので、やはりこうして忍びきれない私の心の深さ浅さもお分かりいただけてこそかいがございます。世間並みの色恋の方面とはお考えにならないでください。そのような方面は、わざわざ勧める人がいても靡きそうもない心の強さで、自然とお聞き合わせになることもございましょう。所在なく過ごしております世の話もお聞かせする相手として頼りにし、またこのように世を離れて物思いにふけっていらっしゃるお心の紛らわしにも、それほどまでにとお驚きになるほど、お便り申し上げ慣れたら、どんなに思いどおりでしょう」などと多く言うので、
- 1「「「このこのこの御御み簾簾すののの前前まえにににははははしたなくはしたなくはしたなく侍侍はべりりりけりけりけり。。。うちつけうちつけうちつけににに淺淺あさききき心心こころばかりばかりばかりにてにてにてはははかくかくかくももも尋尋たずねねね參參まいるるるまじきまじきまじき山山やまのののかげかげかげぢぢじににに思思おもひひい給給たまふるふるうるををを、、、さまさまさまことことことにににこそこそこそ。。。かくかくかく露露つゆけきけきけきたびたびたびをををかさねかさねかさねてててはははさりともさりともさりとも御御ご覽覽らんじじじ知知しるるるらむらむらんとととなむなむなんたのもしうたのもしうたのもしゅう侍侍はべるるる」」」ととといといといとまめやかまめやかまめやかにににのたまふのたまふのたまう。。。若若わかききき人々人々ひとびとのののなだらかなだらかなだらかににに物物もの聞聞きこゆゆゆべきべきべきもももなくなくなく消消きえええ返返かえりりりかゞやかしげかゞやかしげかがやかしげなるなるなるもももかたはらいたけれかたはらいたけれかたわらいたければばば、、、女女おんなばらばらばらののの奥奥おく深深ふかきききをををおこしおこしおこし出出いづるづるずる程程ほど久久ひさしくしくしくなりなりなりてててわざとわざとわざとめいめいめいたるたるたるももも苦苦くるしうしうしゅうててて「「「何何なに事事ごとももも思思おもひひい知知しらららぬぬぬありさまありさまありさまにてにてにて、、、知知しりりりがほがほがおにににもももいかゞいかゞいかがははは聞聞きこゆゆゆべきべきべき」」」ととといといといとよしよしよしありありありてててあてあてあてなるなるなる聲聲こえしししてててひきひきひき入入いりりりながらながらながらほのかほのかほのかにににのたまふのたまふのたまう。。。
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現代語訳
薫は「この御簾の前では、きまりが悪うございます。一時の浅い心だけでは、こうして訪ねて参ることもできないような山の険しい道と存じますのに、変わったおもてなしでございますね。このように露に濡れる旅を重ねましたら、いくら何でもお分かりいただけるだろうと、頼もしく思っております」と、たいそう真剣におっしゃる。若い女房たちで、穏やかに物を申し上げられそうな者もなく、消え入るように恥ずかしがっているのも見苦しいので、奥深くにいる年配の女房を起こして出すまで時間がかかって、わざとらしいのもつらくて、大君が「何事も分からない有様で、分かったような顔をして、どうして申し上げられましょう」と、たいそう趣深く上品な声で、奥に引っ込みながら、ほのかにおっしゃる。
「一方で分かっていながら、つらさを知らない顔をするのも、世の常と存じておりますが、あなたお一人までが、あまりにとぼけていらっしゃるのは、残念なことでございましょう。めったにないほど万事を思い澄ましたお住まいなどに一緒に暮らしていらっしゃるお心の中は、何事も涼しく推し量られますので、やはりこうして忍びきれずにおります私の心の深さ浅さの程も、お分かりいただけてこそ、かいがございましょう。世間並みの色恋の方面とは、お考えにならないでください。そのような方面は、わざわざ勧める人がおりましても靡きそうもない心の強さでございまして、自然とお聞き合わせになることもございましょう。所在なくばかり過ごしております世の話もお聞かせする相手として頼りにし申し上げ、またこのように世を離れて物思いにふけっていらっしゃるお心の紛らわしにも、それほどまでにとお驚きになるほど、お便り申し上げ慣れましたら、どんなに思いどおりでございましょう」などと多くおっしゃるので、
意訳
薫は御簾の前で、山道を露に濡れて通ってきた真心を訴える。若い女房たちが答えられないので、大君が自らほのかに答える。薫は、色恋ではなく、世の話をする相手として親しくしたいと長々と述べる。
語釈・文法注
文法
- 「かげぢ」(尋ね參るまじき山のかげぢに)
- 山陰の道、険しい山道。
- 「かゞやかしげ」(消え返りかゞやかしげなるも)
- 恥ずかしそうなさま。
- 「おぼめかせ給へらむ」(ひとところしもあまりおぼめかせ給へらむこそ)
- とぼける、知らないふりをする。
解説
薫と大君の最初の対話である。大君は自ら答えるが、慎み深く、奥に引っ込みながら話す。大君の慎重さと品格がここで示される。
薫は色恋ではないと強調しながら、親しい交わりを求める。道心と恋心の間で揺れる薫の言葉は、自分でも気づかぬうちに恋の告白になっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、894–897頁(コマ158–159)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日