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源氏物語 第45帖 橋姫(14)

薫の申し入れ

登場人物:薫・大君・中の君

薫はそっと立ち去って、京へ車を引いて来るよう人を走らせた。先ほどの宿直人に、「折悪しく参ってしまったが、かえってうれしく、思うことを少し慰められた。このように参っていることを申し上げよ。ひどく濡れてしまった恨み言も申し上げたい」と言うので、宿直人が参って申し上げる。姫君たちは、このように見られていたとは思いもよらず、うちとけていたことなどを聞かれたのではないかと、たいそう恥ずかしい。不思議に香ばしく匂う風が吹いたのに、思いがけない時なので気づかなかった心の鈍さよと、心も乱れて恥じ入っている。取り次ぐ女房もたいそう不慣れな者のようなので、薫は、時と場合によって何事も臨機応変にと思って、まだ霧に紛れているうちに、先ほどの御簾の前に歩み出て膝をついて座る。山里びた若い女房たちは答える言葉も思いつかず、敷物を差し出す様子もおぼつかない。

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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

そっと立ち去って、京へお車を引いて参るよう人を走らせなさった。先ほどの宿直人に、「折悪しく参ってしまったけれど、かえってうれしく、思うことを少し慰められた。このように参っていることを申し上げよ。ひどく濡れてしまった恨み言も申し上げたいものだ」とおっしゃるので、宿直人が参って申し上げる。姫君たちは、このように見られていたとはお思いもよらず、うちとけていたことなどをお聞きになったのではないかと、たいそうひどく恥ずかしい。不思議に香ばしく匂う風が吹いたのを、思いがけない時なので、気づかなかった心の鈍さよと、心も乱れて恥じ入っていらっしゃる。お取り次ぎなどする女房もたいそう不慣れな人のようなので、薫は、時と場合によってこそ何事もと思って、まだ霧に紛れているうちなので、先ほどの御簾の前に歩み出て、膝をついてお座りになる。山里びた若い女房たちは、お答えする言葉も思いつかず、御敷物を差し出す様子もおぼつかない。

意訳

薫は京へ迎えの車を呼ばせ、宿直人を通じて姫君たちに来訪を告げる。姫君たちはのぞかれていたと知って恥じ入り、香りに気づかなかったことを悔やむ。薫は御簾の前に進み出て座り、不慣れな女房たちはうろたえる。

語釈・文法注

文法

「かごと」(いたうぬれにたるかごとも)
恨み言、言い訳。露に濡れたことを口実にした恨み言。
「心おぞさ」(驚かざりける心おぞさよ)
心の鈍さ、うかつさ。
「をりからにこそ萬のことも」(をりからにこそ萬のこともと思ひて)
時と場合によって何事も臨機応変にふるまうべきだ、という思い。

解説

姫君たちは、薫の香りに気づかなかったことを悔やむ。薫の芳香は、ここでも姫君たちに存在を知らせる手がかりとなっていた。

薫は不慣れな女房たちを見て、自ら御簾の前に進み出る。道心の人を自任する薫だが、恋のためには思い切った行動もとる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、894–895頁(コマ158)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日