源氏物語 第45帖 橋姫(13)
月下の姫君たち
あちらに通じているらしい透垣の戸を少し押し開けて見ると、月が趣深く霧の立ちこめた空を眺めて、簾を少し短く巻き上げて女房たちが座っている。簀子にはたいそう寒そうに、痩せてくたびれた衣の童女が一人、同じような大人の女房などが座っている。内にいる一人は柱に少し隠れて座り、琵琶を前に置いて撥を手でもてあそんでいたが、雲に隠れていた月が急にたいそう明るく差し出たので、「扇でなくても、これでも月は招き寄せられるのね」と言ってのぞいた顔は、たいそうかわいらしく、つややかに美しいようだ。添い臥している人は琴の上に傾きかかって、「入る日を呼び返す撥というのはあったけれど、変わったことを思いつくお心ですね」と言って笑っている気配は、もう少し重々しく趣がある。「呼び返すことはできなくても、これも月に縁のないものではないわ」など、たわいないことをうちとけて言い交わしている様子は、よそから想像していたのとは全く違って、たいそうしみじみと親しみやすく趣深い。昔物語などに語り伝えて、若い女房などが読むのを聞くと、必ずこのようなことを書いているのを、そんなことはあるまいと憎らしく推し量っていたが、本当にしみじみとした物陰があるものだと心が移りそうだ。霧が深いのではっきりとは見えない。また月が出てほしいと思っていると、奥の方から「人がいらっしゃいます」と告げる人がいたのか、簾を下ろして皆入ってしまった。驚いた様子でもなく穏やかに振る舞って、そっと隠れた気配は衣ずれの音もせず、たいそうなよやかで痛々しく、たいそう上品で優雅なのを、薫はしみじみと思う。
- 1あなたあなたあなたににに通通かよふふうべかべかべかめるめるめる透透すい垣垣がいののの戶戶とををを少少すこししし押押おししし明明あけけけててて見見み給給たまへへえばばば、、、月月つきをかしきをかしきおかしき程程ほどにににきりきりきり渡渡わたれれれるるるをををながめながめながめててて、、、すだれすだれすだれををを少少すこししし短短みじかくくく卷卷まききき上上あげげげててて人々人々ひとびと居居いたりたりたり。。。簀簀す子子のこにににいといといと寒寒さむげげげににに身身みほそくほそくほそくなえばめなえばめなえばめるるる童童わらわ一一ひと人人り同同おなじじじさまさまさまなるなるなるおとなおとなおとななどなどなど居居いたりたりたり。。。內內うちなるなるなる人人ひとひとりひとりひとりははは柱柱はしらににに少少すこししし居居いかくれかくれかくれててて琵琵び琶琶はををを前前まえににに置置おきききてててばちばちばちををを手手てまさぐりまさぐりまさぐりにににしししつゝつゝつつ居居いたるたるたるににに、、、雲雲くもがくれがくれがくれたりたりたりつるつるつる月月つきののの俄俄にわかにににいといといと明明あかくくくさしさしさし出出いでででたれたれたればばば「「「扇扇おうぎならならならでででこれこれこれしししてててももも月月つきはははまねきまねきまねきつつつべかりべかりべかりけりけりけり」」」とてとてとてさしさしさしのぞきのぞきのぞきたるたるたる顏顏かおいみじくいみじくいみじくらうたげらうたげろうたげににににほひやかにほひやかにおいやかなるなるなるべしべしべし。。。そひそひそいふしふしふしたるたるたる人人ひとははは琴琴ことののの上上うえにににかたぶきかたぶきかたぶきかゝりかゝりかかりててて「「「入入いるるる日日ひをををかへすかへすかえすばちばちばちこそこそこそありありありけれけれけれ。。。さまさまさまことことことにににももも思思おもひひい及及およびびび給給たまふふう御心御心みこころかなかなかな」」」とてとてとてうちうちうち笑笑わらひひいたるたるたるけはひけはひけはい今今いま少少すこしししおもりかおもりかおもりかににによしよしよしづきづきずきたりたりたり。。。「「「及及およばばばすすすともともともこれこれこれももも月月つきににに離離はなるゝるゝるるものものものかかかははは」」」などなどなど、、、はかなきはかなきはかなきことことことをををうちうちうち解解とけけけのたまひのたまひのたまいかはしかはしかわしたるたるたる御御おんけはひけはひけはいどもどもども、、、更更さらににによそよそよそににに思思おもひひいやりやりやりしししにににはははにににずずず、、、いといといと哀哀あわれににになつかしうなつかしうなつかしゅうをかしをかしおかし。。。昔昔むかし物物もの語語がたりなどなどなどににに語語かたりりり傳傳つたへへえててて若若わかききき女房女房にょうぼうなどなどなどののの讀讀よむむむをををももも聞聞きくくくににに、、、必必かならずずずかやうかやうかようのののことことことをををいひいひいいたるたるたるさしもさしもさしもあらあらあらざりざりざりけむけむけんとととにくゝにくゝにくくおしおしおしはからはからはからるゝるゝるるををを、、、げにげにげに哀哀あわれなるなるなるものものものゝゝのくまくまくまあるあるあるべきべきべき世世よなりなりなりけりけりけりととと心心こころうつりうつりうつりぬぬぬべしべしべし。。。霧霧きりののの深深ふかけれけれければばばさやかさやかさやかににに見見みゆゆゆべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。又又また月月つきさしさしさし出出いでででなななむむんととと覺覺おぼすすすほどほどほどににに奧奧おくののの方方かたよりよりより「「「人人ひと坐坐おわすすす」」」ととと告告つげげげ聞聞きこゆるゆるゆる人人ひとやややあらあらあらむむん、、、簾簾す垂垂だれおろしおろしおろしててて皆皆みな入入いりりりぬぬぬ。。。驚驚おどろききき顏顏がおにににはははあらあらあらずずずなごやかなごやかなごやかにににもてもてもてなしなしなしてててやをらやをらやおらかくれかくれかくれぬるぬるぬるけはひけはひけはいどもどもどもきぬきぬきぬののの音音おともももせせせずずず、、、いといといとなよゝかなよゝかなよよかににに心苦心苦こころぐるしうしうしゅうててていみじういみじういみじゅうあてあてあてにににみやびかみやびかみやびかなるなるなるををを哀哀あわれととと思思おもひひい給給たまふふう。。。
現代語訳
あちらに通じているらしい透垣の戸を少し押し開けてご覧になると、月が趣深いほどに霧の立ちこめた空を眺めて、簾を少し短く巻き上げて、女房たちが座っている。簀子には、たいそう寒そうに、痩せてくたびれた衣を着た童女が一人と、同じような様子の大人の女房などが座っている。内にいる一人は、柱に少し隠れるように座って、琵琶を前に置き、撥を手でもてあそびながら座っていたが、雲に隠れていた月が急にたいそう明るく差し出たので、「扇でなくても、これでも月は招き寄せられそうだったわね」と言って、のぞいた顔は、たいそうかわいらしく、つややかに美しいようだ。添い臥している人は、琴の上に傾きかかって、「入る日を呼び返す撥というのはあったけれど、変わったことを思いつきなさるお心ですね」と言って笑っている気配は、もう少し重々しく、趣がある。「呼び返すまではできなくても、これも月に縁のないものではないわ」など、たわいないことをうちとけて言い交わしていらっしゃるご様子は、全くよそから想像していたのとは似ず、たいそうしみじみと親しみやすく趣深い。昔物語などに語り伝えて、若い女房などが読むのを聞くと、必ずこのようなことを書いているのを、そんなことはなかったろうと憎らしく推し量られたのに、本当にしみじみとした物陰があるに違いない世なのだったと、心が移ってしまいそうだ。霧が深いので、はっきりと見えそうもない。また月が出てほしいとお思いになるうちに、奥の方から「人がいらっしゃいます」と告げ申し上げる人がいたのだろうか、簾を下ろして皆入ってしまった。驚いた様子ではなく、穏やかに振る舞って、そっと隠れた気配は、衣ずれの音もせず、たいそうなよやかで痛々しく、たいそう上品で優雅なのを、しみじみとお思いになる。
意訳
薫は透垣の戸から姫君たちをのぞき見る。霧の月夜、中の君は撥で月を招くと戯れ、大君は入日を返す撥の故事で応じて笑う。うちとけた姉妹の様子は想像以上に親しみやすく、薫は昔物語のような出来事が本当にあるのだと心を動かされる。人の気配を知らされた姫君たちは、静かに奥へ隠れる。
語釈・文法注
文法
- 「扇ならでこれしても月はまねきつべかりけり」(扇ならでこれしても月はまねきつべかりけり)
- 扇で月を招くという故事による。撥でも月を招けると戯れる。
- 「入る日をかへすばち」(入る日をかへすばちこそありけれ)
- 撥で入日を招き返したという故事。また琵琶の撥を収める部分を「隠月」ということを踏まえるともいう。
- 「昔物語」(昔物語などに語り傳へて)
- 昔の物語。山里に美しい姫君がひっそり住むという物語の型。
解説
宇治十帖で最も名高い垣間見の場面である。霧の月夜、琵琶の撥で月を招く中の君と、それを笑う大君の姿は、多くの絵巻や絵画に描かれてきた。
薫は、昔物語のような出来事が現実にあることに驚く。物語の登場人物が「物語のようだ」と感じる、源氏物語らしい自己言及的な表現である。道心を自任していた薫の心が、ここで初めて大きく動かされる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、892–895頁(コマ157–158)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日