源氏物語 第44帖 竹河(32)
薫の諫め
薫は「全くそこまでお考えになるべきことではありません。このような宮仕えが穏やかでないことは、昔からそういうものとなっているのです。院は位を退いて静かにお暮らしになり、何事もはっきりしないご様子になったので、誰もがうちとけていらっしゃるようですが、それぞれ内々には、どうして張り合うお気持ちがないことがありましょう。人は何の咎とも思わないことも、ご自身にとっては恨めしいものです。つまらないことに心を動かしなさるのは、女御や后のいつもの癖でしょう。それくらいの揉め事もないものと思ってご決心なさったのでしょうか。ただ穏やかに振る舞って見過ごしなさるべきことです。男の立場で奏上すべきことでもございません」とたいそうそっけなく申し上げるので、玉鬘は「対面の折に訴えようとお待ち申し上げていたかいもなく、あっさりとしたお裁きですこと」と笑っていらっしゃる。人の親としてしっかりなさっている割には、たいそう若々しくおっとりした感じがする。御息所もこのような方なのだろう。薫は、宇治の姫君に心がひかれて思われるのも、このような雰囲気が趣深いからなのだと思っていた。
- 1「「「更更さらにににかうかうこうまでまでまで覺覺おぼすすすまじきまじきまじき事事ことににになむなむなん。。。かゝるかゝるかかる御御おんまじらひまじらひまじらいののの安安やすからからからぬぬぬ事事ことははは昔昔むかしよりよりよりさるさるさることことことゝゝとなりなりなり侍侍はべりりりにににけるけるけるををを、、、位位くらいををを去去さりりりててて靜靜しずかにににおはしましおはしましおわしまし、、、何何なに事事ごともももけざやかけざやかけざやかならならならぬぬぬ御御おん有有あり樣樣さまとととなりなりなりにににたるたるたるににに誰誰たれもももうちうちうちとけとけとけ給給たまへへえるるるやうやうようなれなれなれどどどおのおのおのおのおのおのうちうちうちうちうちうちにににはははいかゞいかゞいかがいどましくいどましくいどましくもももおぼすおぼすおぼす事事こともももなからなからなからむむん。。。人人ひとははは何何なにののの咎咎とがととと見見みぬぬぬことことことももも我我わががが御御おん身身みにににとりとりとりてててはははうらめしくうらめしくうらめしくなむなむなん。。。あいなきあいなきあいなき事事ことににに心心こころををを動動うごかししし給給たまふふうことことこと女女にょうご御御おん后后きさきののの常常つねののの御御おん癖癖くせなるなるなるべしべしべし。。。さばかりさばかりさばかりのののまぎれまぎれまぎれもももあらあらあらじじじものものものとてとてとてやややはははおぼしおぼしおぼし立立たちちちけむけむけん。。。唯唯ただなだらかなだらかなだらかにににもてもてもてなしなしなしててて御御ご覽覽らんじじじ過過すぐすぐすぐすべきべきべきことことことににに侍侍はべるるるなりなりなり。。。をのこをのこおのこののの方方かたにてにてにて奏奏そうすすすべきべきべきことことことにににももも侍侍はべらららぬぬぬことことことににになむなむなん」」」ととといといといとすくすくしうすくすくしうすくすくしゅう申申もうししし給給たまへへえばばば「「「對對たい面面めんののの序序ついでにににうれへうれへうれえ聞聞きこえええむむんととと待待まちちちつけつけつけ奉奉たてまつりりりたるたるたるかひかひかいもももなくなくなくあはあはあわののの御御おんことわりことわりことわりややや」」」とととうちうちうち笑笑わらひひいててておはするおはするおわする。。。人人ひとののの親親おやにてにてにてはかばかしがりはかばかしがりはかばかしがり給給たまへへえるるる程程ほどよりよりよりははは、、、いといといと若若わかやかやかやかにににおほどいおほどいおおどいたるたるたる心心こころちちちすすす。。。御御み息息やす所所どころもももかやうかやうかようにににぞぞぞおはすおはすおわすべかべかべかめるめるめる。。。宇宇う治治じののの姫姫ひめ君君ぎみののの心心こころとまりとまりとまりててて覺覺おぼゆるゆるゆるももも、、、かうかうこうざまざまざまなるなるなるけはひけはひけはいのののをかしきをかしきおかしきぞぞぞかしかしかしととと思思おもひひい居居い給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
薫は「全くそこまでお考えになるべきことではございません。このような宮仕えが穏やかでないことは、昔からそういうものとなっておりますのに、院は位を退いて静かにお暮らしになり、何事もはっきりしないご様子になってしまわれたので、誰もがうちとけていらっしゃるようですが、それぞれ内々には、どうして張り合うお気持ちもないことがありましょう。人は何の咎とも思わないことでも、ご自身にとっては恨めしいものです。つまらないことにお心を動かしなさるのは、女御や后のいつものお癖なのでしょう。それくらいの揉め事もないものと思ってご決心なさったのでしょうか。ただ穏やかに振る舞って、見過ごしなさるべきことでございます。男の立場で奏上すべきことでもございませんことで」と、たいそうそっけなく申し上げなさるので、玉鬘は「対面の折に訴え申し上げようとお待ち申し上げていたかいもなく、あっさりとしたお裁きですこと」と笑っていらっしゃる。人の親としてしっかりしていらっしゃる割には、たいそう若々しく、おっとりとした感じがする。御息所も、このような方でいらっしゃるのだろう。薫は、宇治の姫君に心がひかれて思われるのも、このような雰囲気が趣深いからなのだと思っていらっしゃった。
意訳
薫は、後宮の争いは昔からのことで、穏やかに見過ごすべきだと、そっけなく玉鬘を諫める。玉鬘は笑って、あっさりした裁きだと言う。その若々しくおっとりした様子に、薫は宇治の姫君に心ひかれるのも、このような雰囲気のためだと思う。
語釈・文法注
文法
- 「すくすくしう」(いとすくすくしう申し給へば)
- そっけなく、事務的に。
- 「あはの御ことわり」(あはの御ことわりや)
- あっさりとした、淡泊なお裁き。
- 「宇治の姫君」(宇治の姫君の心とまりて覺ゆるも)
- 宇治に住む八の宮の姫君たち。橋姫の巻以降の物語の中心となる。
解説
薫は、後宮の争いを女性たちの「常の御癖」と突き放す。冷静で理知的な薫らしい言葉だが、玉鬘の苦しみに寄り添うものではない。
巻の終わり近く、「宇治の姫君」の名が現れる。薫の心は、既に宇治に向かっている。竹河の巻の時間は、橋姫の巻以降の宇治十帖と重なっており、ここで二つの物語がつながる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、880–881頁(コマ151)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日