源氏物語 第44帖 竹河(25)
院での合奏
院は「故六条院(源氏)の踏歌の翌朝に、女方で管絃の遊びをなさったのが、たいそう面白かったと右大臣(夕霧)が話していた。何事もあの辺りの次に並ぶような人は少なくなった世だな。たいそう音楽の上手な女性までも多く集まって、どんなにちょっとしたことも面白かったことだろう」などと思いやって、楽器を調律させて、箏は御息所(大君)に、琵琶は侍従(薫)にお与えになる。院は和琴をお弾きになって、催馬楽「此殿」などを奏でる。御息所の琴の音は、まだ未熟なところがあったのを、院がたいそうよくお教えになったのだった。今風で爪音がよく、歌曲の伴奏なども上手にたいそうよくお弾きになる。薫は、何事も心もとなく劣ったところはおありにならない人のようだ、容貌もたいそう美しいのだろうと、やはり心がひかれる。このような折が多いので、自然と疎遠でなく見慣れていく。嫌になれなれしく恨み言を言いかけはしないが、折々につけて思う心が違ってしまった嘆かわしさをほのめかすのも、御息所はどう思ったのだろうか、わからない。
- 1「「「故故こ六六ろく條條じょう院院いんのののたうかたうかとうかのののあしたあしたあしたににに女女おんながたがたがたにてにてにてあそびあそびあそびせせせられられられけるけるける、、、いといといとおもしろかりおもしろかりおもしろかりきききととと右右みぎのののおとゞおとゞおとどののの語語かたららられれれししし。。。何何なに事事ごともももかのかのかのわたりわたりわたりのののさしさしさしつぎつぎつぎなるなるなるべきべきべき人人ひとかたくかたくかたくなりなりなりにににけるけるける世世よなりなりなりややや。。。いといといと物物ものののの上上じょう手手ずなるなるなる女女おんなさへさへさへ多多おおくくく集集あつまりりりててて、、、いかにいかにいかにはかなきはかなきはかなき事事こともももをかしかりをかしかりおかしかりけむけむけん」」」などなどなどおぼしおぼしおぼし遣遣やりりりててて、、、御御おん琴琴ことどもどもども調調しらべらべらべさせさせさせ給給たまひひいててて箏箏そうははは御御み息息やす所所どころ琵琵び琶琶はははは侍侍じ從從じゅうにににたまふたまふたまう。。。和和わ琴琴ごんををを彈彈ひかかかせせせ給給たまひひいてててこのこのこのとのとのとのなどなどなどあそびあそびあそび給給たまふふう。。。御御み息息やす所所どころののの御御おん琴琴ことののの音音ねまだまだまだかたなりかたなりかたなりなるなるなる所所ところありありありしししををを、、、いといといとようようよう敎敎おしへへへないないない奉奉たてまつりりり給給たまひひいてててけりけりけり。。。今今いまめかしうめかしうめかしゅう爪爪つま音音おとよくよくよくてててうたうたうたごくごくごくのののものものものなどなどなど上上じょう手手ずにににいといといとよくよくよく彈彈ひききき給給たまふふう。。。何何なに事事ごとももも心心こころもとなくもとなくもとなく後後おくれれれたるたるたることことことははは物物ものししし給給たまははわぬぬぬ人人ひとなめりなめりなめり、、、かたちかたちかたちいといといとをかしかるをかしかるおかしかるべしべしべしととと猶猶なお心心こころとまるとまるとまる。。。かやうかやうかようなるなるなる折折おり多多おおかれかれかればばばおのづからおのづからおのずから氣氣け遠遠どおからからからずずず見見みなれなれなれ給給たまふふう。。。うたてうたてうたてなれなれしうなれなれしうなれなれしゅうなどなどなどははは恨恨うらみみみかけかけかけねねねどどど、、、折折おり々々おりにににつけつけつけててて思思おもふふう心心こころののの違違たがへへえるるるなげかしさなげかしさなげかしさをををかすむかすむかすむもももいかゞいかゞいかがおぼしおぼしおぼしけむけむけん、、、知知しらららずずずかしかしかし。。。
現代語訳
院は「故六条院の踏歌の翌朝に、女方で管絃の遊びをなさったのが、たいそう面白かったと、右大臣が話していた。何事も、あの辺りの次に並ぶような人は少なくなってしまった世だなあ。たいそう音楽の上手な女性までも多く集まって、どんなにちょっとしたことでも面白かったことだろう」などと思いやりなさって、楽器などを調律させなさって、箏は御息所に、琵琶は侍従にお与えになる。院は和琴をお弾きになって、「此殿」などを奏でなさる。御息所の御琴の音は、まだ未熟なところがあったのを、院がたいそうよくお教え申し上げなさったのだった。今風で爪音がよくて、歌曲の伴奏なども上手に、たいそうよくお弾きになる。薫は、何事も心もとなく劣ったところはおありにならない人のようだ、容貌もたいそう美しいにちがいないと、やはり心がひかれる。このような折が多いので、自然と疎遠でなく見慣れていかれる。嫌になれなれしくなどと恨み言を言いかけはしないけれど、折々につけて、思う心が違ってしまった嘆かわしさをほのめかすのも、御息所はどうお思いになったのだろうか。それはわからないことだ。
意訳
冷泉院は源氏の六条院での女楽を懐かしみ、御息所に箏を、薫に琵琶を与えて合奏する。御息所の琴は院の教えで上達している。薫は御息所に心ひかれ、思いがかなわなかった嘆きをそれとなくほのめかす。
語釈・文法注
文法
- 「女がたにてあそび」(たうかのあしたに女がたにてあそびせられける)
- 女方での管絃の遊び。若菜下の巻の六条院の女楽を指すとされる。
- 「このとの」(このとのなどあそび給ふ)
- 催馬楽「此殿」。
- 「かたなり」(まだかたなりなる所ありしを)
- 未熟、未完成。
- 「うたごく」(うたごくのものなど)
- 歌曲。歌に合わせて弾く曲。
解説
冷泉院は六条院の栄華を懐かしむ。源氏の時代の華やかさは、もう戻らない。冷泉院の御所での合奏は、その面影をわずかに偲ばせるものである。
薫は御息所に心ひかれながらも、慎み深く振る舞う。語り手は「知らずかし」と、御息所の心中を語らない。語り手の老女房は、知らないことは知らないと言う立場をとっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、876–877頁(コマ149)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日