源氏物語 第44帖 竹河(16)
少将と中将のおもと
少将は、かいのないことでも言おうと、いつものように侍従(藤侍従)の部屋に来ると、侍従は源侍従(薫)の手紙を見ていた。侍従が隠すのを、少将はそうだろうと見て奪い取った。侍従は、何かありそうに思われるかと思ってあまり隠さない。何ということもなく、ただ世を恨めしげにほのめかしてある。つれなく過ぎる月日を数えながら、何となく恨めしい暮れの春だなあ。少将は、人はこのようにのどかに体裁よく悔しがっているようだ、自分のひどく人に笑われそうな焦りを、一方では見慣れて侮られ始めていると思うのも胸が痛いので、特に何も言えず、いつも話し相手の中将のおもとの部屋の方に行くが、いつものようにかいもあるまいと嘆きがちである。侍従がこの返事を書こうと母のもとに参るのを見るとたいそう腹立たしく穏やかでない。若い心にはひたすら思い詰めるのだった。あきれるほど恨み嘆くので、中将のおもとも、あまり冗談も言いにくく、気の毒でほとんど返事もしない。少将は、あの碁の審判をした夕暮れのことも言い出して、「あれほどの夢をもう一度見たい。ああ、何を頼みに生きていられよう。こうして申し上げることも残り少なく思われるので、つらいのも哀れというのは本当だった」とまじめに言う。哀れと言っても言いようのないことだ。あの慰めようという縁談も少しもうれしく思う様子がないので、本当にあの夕暮れの垣間見のせいで、ますますこう困った心が添ったのだろうと中将のおもとはもっともに思い、尚侍のお耳に入れたら、ますますどんなにけしからぬお心だとお疎みになるだろう、気の毒だと思っていた心も失せた、たいそう油断のならないお心だと言い返すと、少将は「いや、もうどうでもよい。今は最後の身なので、何も恐ろしくなくなった。それにしても負けなさったのは気の毒だった。素直に私を呼び寄せて目くばせしてくだされば、勝たせて差し上げたのに」などと言って、いや、なぜ数ならぬ身に、かなわぬことは人に負けまいとする心なのだと詠む。中将のおもとは笑って、どうしようもない、強い弱いによる勝負を、あなたの心一つにどうして任せられようと答えるのさえつらかった。哀れと思って手を許してください、生死をあなたに任せる私の身ならばと詠む。泣いたり笑ったり語り明かす。
- 1かひかひかいなきなきなきことことこともももいはいはいわむむんとてとてとて、、、例例れいののの侍侍じ從從じゅうののの曹曹ぞう司司しにににきたれきたれきたればばば源源げん侍侍じ從從じゅうののの文文ふみをををぞぞぞ見見み居居い給給たまへへえりりりけるけるける。。。ひきひきひきかくすかくすかくすををを、、、さささなめりなめりなめりととと見見みててて、、、うばひうばひうばいとりとりとりつつつ事事ことありありありがほがほがおにににやややととと思思おもひひいててていたういたういとうももも隱隱かくさささずずず。。。そこはかとそこはかとそこはかとなくなくなくててて唯唯ただ世世よをををうらめしげうらめしげうらめしげにににかすめかすめかすめたりたりたり。。。「「「つれなくつれなくつれなくててて過過すぐるぐるぐる月月つき日日ひをををかぞへかぞへかぞへつゝつゝつつ物物ものうらめしきうらめしきうらめしき暮暮くれののの春春はるかなかなかな」」」。。。人人ひとはははかうかうこうこそこそこそのどやかのどやかのどやかにににさまさまさまよくよくよくねたげねたげねたげなめれなめれなめれ、、、我我わがががいといといと人人ひとわらはわらはわらわれれれなるなるなる心心こころいられいられいられををを、、、かたへかたへかたえはははめめめなれなれなれてててあなづりあなづりあなずりそめそめそめられられられたるたるたるととと思思おもふふうももも胸胸むねいたけれいたけれいたければばば、、、ことことことににに物物ものもももいはいはいわれれれででで例例れいかたらふかたらふかたらう中中ちゅう將將じょうのののおもとおもとおもとののの曹曹ぞう司司しのののかたかたかたににに行行ゆくくくももも例例れいのののかひかひかいあらあらあらじじじかしかしかしとととなげきなげきなげきがちがちがちなりなりなり。。。侍侍じ從從じゅうののの君君きみはははこのこのこの御御おん返返かえり事事ごとせせせむむんとてとてとて上上うえににに參參まいりりり給給たまふふうををを見見みるるるにににいといといと腹腹はらだゝしうだゝしうだたしゅうやすからやすからやすからずずず。。。若若わかききき心心こころちちちにににはははひとへにひとへにひとえに物物ものぞぞぞ覺覺おぼえええけるけるける。。。
- 2あさましきあさましきあさましきまでまでまで恨恨うらみみみ歎歎なげけけけばばばこのこのこのまへまへまえ申申もうすすすもももあまりあまりあまりたはぶれたはぶれたわぶれにくゝにくゝにくくいとほしいとほしいとおしととといらへいらへいらえもももをさをさをさをさおさおさせせせずずず。。。かのかのかの御御おん碁碁ごのののけんそけんそけんそせせせししし夕夕ゆう暮暮ぐれのののことことこともももいひいひいい出出いでででゝゝて「「「さばかりさばかりさばかりののの夢夢ゆめをををだにだにだに又又また見見みてててしししがながながな。。。あはれあはれあわれ何何なにをををたのみたのみたのみにてにてにていきいきいきたらたらたらむむん。。。かうかうこう聞聞きこゆるゆるゆる事事ことももものこりのこりのこり少少すくなうなうのう覺覺おぼゆれゆれゆればばばつらきつらきつらきももも哀哀あわれととといふいふいうことことことこそこそこそ誠誠まことなりなりなりけれけれけれ」」」とととまめまめまめだちだちだちててていふいふいう。。。哀哀あわれとてとてとていひいひいいやるやるやるべきべきべき方方かたなきなきなきことことことなりなりなり。。。かのかのかの慰慰なぐさめめめ給給たまははわむむん御御おんさまさまさま露露つゆばかりばかりばかりうれしうれしうれしととと思思おもふふうべきべきべき氣色氣色けしきもももなけれなけれなければばば、、、げにげにげにかのかのかの夕夕ゆう暮暮ぐれのののけんそふけんそふけんそうなりなりなりけむけむけんににに、、、いとゞいとゞいとどかうかうこうあやにくあやにくあやにくなるなるなる心心こころははは添添そひひいたるたるたるならならならむむんとととことわりことわりことわりににに思思おもひひいててて聞聞きこしししめさめさめさせせせたらたらたらばばば、、、いとゞいとゞいとどいかにいかにいかにけしからけしからけしからぬぬぬ御心御心みこころなりなりなりけりけりけりととと疎疎うとみみみ聞聞きこえええ給給たまははわむむん心苦心苦こころぐるしししととと思思おもひひい聞聞きこえええつるつるつる心心こころもももうせうせうせぬぬぬ、、、いといといと後後うしろめたきめたきめたき御心御心みこころなりなりなりけりけりけりとととむかひむかひむかいびびびつくれつくれつくればばば、、、「「「いでやいでやいでやさばれさばれさばれややや、、、今今いまはははかぎりかぎりかぎりののの身身みなれなれなればばば物物もの恐恐おそろしくしくしくもももあらあらあらずずずなりなりなりにににたりたりたり。。。さてもさてもさても負負まけけけ給給たまひひいしししこそこそこそいとほしかりいとほしかりいとおしかりしかしかしか、、、おいらかおいらかおいらかににに召召めししし寄寄よせせせてててめぐはせめぐはせめぐわせ奉奉たてまつらららましかましかましかばばばこよなからこよなからこよなからましましましものものものををを」」」などなどなどいひいひいいててて、、、「「「いでやいでやいでやなぞなぞなぞ數數かずならならならぬぬぬ身身みにににかなはかなはかなわぬぬぬははは人人ひとにににまけまけまけじじじののの心心こころなりなりなりけりけりけり」」」。。。中中ちゅう將將じょううちうちうちわらひわらひわらいててて、、、「「「わりなしわりなしわりなしややや弱弱よわきききににによらよらよらむむん勝勝しょう負負ぶをををこゝろこゝろこころひとつひとつひとつにににいかゞいかゞいかがまかするまかするまかする」」」ととといらふるいらふるいらうるさへさへさへぞぞぞつらかりつらかりつらかりけるけるける。。。「「「あはれあはれあわれとてとてとて手手てをををゆるせゆるせゆるせかしかしかしいきいきいきしにしにしにををを君君きみにににまかするまかするまかする我我わががが身身みとととならならならばばば」」」。。。泣泣なきききみみみ笑笑わらひひいみみみ語語かたらひらひらい明明あかすすす。。。
現代語訳
かいのないことでも言おうということで、いつものように侍従の部屋に来ると、侍従は源侍従の手紙を見ていらっしゃった。侍従が引き隠すのを、少将はそうだろうと見て、奪い取った。侍従は、何かありそうな顔に思われるかと思って、あまり隠さない。何ということもなく、ただ世を恨めしげにほのめかしてある。「つれなく過ぎてゆく月日を数えながら、何となく恨めしい暮れの春であることよ」。少将は、人はこのようにのどかに体裁よく悔しがっているようだ、自分のたいそう人に笑われそうな心の焦りを、一方では見慣れて侮られ始めたのだと思うのも胸が痛いので、特に何も言えずに、いつも話し相手の中将のおもとの部屋の方に行くのも、いつものようにかいもあるまいと嘆きがちである。侍従の君が、この御返事をしようとして母上のもとに参上なさるのを見ると、たいそう腹立たしく穏やかでない。若い心には、ひたすら思い詰めるのだった。
あきれるほど恨み嘆くので、中将のおもとは、この前に申し上げるのも、あまり冗談も言いにくく、気の毒で、返事もほとんどしない。少将は、あの御碁の審判をした夕暮れのことも言い出して、「あれほどの夢をせめてもう一度見たいものだ。ああ、何を頼みにして生きていられようか。こうして申し上げることも残り少なく思われるので、つらいのも哀れということこそ本当だった」とまじめになって言う。哀れと言っても、言いようのないことである。あの慰めようとなさる縁談のことも、少しもうれしく思う様子もないので、本当にあの夕暮れの垣間見のせいで、ますますこのように困った心が添ったのだろうと、もっともに思って、「尚侍のお耳にお入れしたら、ますますどんなにけしからぬお心だったのだとお疎み申し上げなさるでしょう。お気の毒だと思い申し上げていた心も失せました。たいそう油断のならないお心だったのですね」と言い返すと、「いや、どうでもよい。今は最後の身なので、何も恐ろしくなくなった。それにしても、負けなさったのは気の毒だった。素直に私を呼び寄せて目くばせしてくだされば、この上なかったろうに」などと言って、「いや、なぜ数ならぬ身に、かなわぬことは、人に負けまいとする心なのだろう」。中将のおもとは笑って、「どうしようもないことです。強い弱いによる勝負を、あなたの心一つにどうして任せられましょう」と答えるのさえ、つらかった。「哀れと思って、手を許してください。生死をあなたに任せる私の身なのだから」。泣いたり笑ったりしながら語り明かす。
意訳
少将は藤侍従の部屋で薫の恨みの歌を見て、薫の余裕ある態度と自分の焦りを比べて胸を痛める。
少将は女房の中将のおもとに、碁の夕暮れの垣間見を打ち明けて嘆く。中将のおもとはたしなめるが、少将は碁の勝負に寄せて歌を詠み、生死を任せると訴え、泣いたり笑ったりして語り明かす。
語釈・文法注
文法
- 「つらきも哀」(つらきも哀といふことこそ誠なりけれ)
- つらいことも、かえって哀れ深いという古言による。
- 「むかひびつくれば」(いと後めたき御心なりけりとむかひびつくれば)
- 向かい火をつける。相手の言葉に対抗して言い返すこと。
- 「めぐはせ」(めぐはせ奉らましかば)
- 目くばせ。碁の勝負で合図を送って助けること。
- 「手をゆるせ」(あはれとて手をゆるせかし)
- 碁で手加減することと、恋を許すことをかける。
解説
少将の嘆きは、ついに女房の中将のおもとに垣間見を打ち明けるところまで至る。碁の勝負に寄せた歌の応酬は、少将の真剣さと女房の機知が交錯し、悲しみの中にもどこか滑稽さが漂う。
薫は余裕をもって恨みを歌に詠み、少将はなりふり構わず嘆く。対照的な二人の恋のあり方が描かれる。しかしどちらの恋も、大君の院参りによって終わりを迎える。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、868–869頁(コマ145)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日