源氏物語 第44帖 竹河(15)
院の催促と少将の嘆き
こうして月日をはかなく過ごすのも、行く末が気がかりで、尚侍(玉鬘)はあれこれと思い悩む。冷泉院からは手紙が毎日ある。「女御がよそよそしく隔てていると思うのか、上(玉鬘)は私をあちらに悪く言っているようだ」とたいそう憎らしげにおっしゃるので、女御も「冗談にも苦しいことです。同じことならこの頃のうちにご決心ください」などとたいそう真剣に申し上げる。玉鬘は、そうなる運命でいらっしゃるのだろう、こうも強いておっしゃるのも恐れ多いと思う。調度などは前からたくさん用意してあるので、女房たちの装束など、ちょっとしたことの準備を急ぐ。これを聞いて蔵人の少将は死ぬほど思い詰めて母北の方(雲居の雁)を責めるので、北の方は聞きかねて、「たいそう気が引けることにつけてお便り申し上げるのも、世にも愚かな親心の迷いからです。お察しくださる方もあれば、推し量って、やはり慰めてやってください」などと気の毒そうに申し上げるのを、玉鬘は「苦しいことだ」と嘆いて、「どうお決めすべきかもわからないのですが、院から無理におっしゃるので思い乱れております。本気のお気持ちなら、この時期を思い静めて、慰め申し上げる様子もご覧になってからなら、世間の聞こえも穏やかでしょう」などと申し上げるのも、この院参りを済ませてから中の君をと思っているのだろう。同時に両方というのは、いかにも得意顔のようで嫌だし、まだ位なども浅い頃なのにと思うが、少将の方は全く中の君に思いを移す気配もない。ほのかに大君を見て以来、面影に恋しく、どんな機会にとばかり思っていたので、こうして望みが絶えてしまったのを、限りなく嘆いている。
- 1かくかくかくいふいふいうににに月月つき日日ひはかなくはかなくはかなく過過すぐすぐすぐすももも行行ゆくくく末末すえうしろめたきうしろめたきうしろめたきをををかんかんかんののの殿殿とのはははよろづよろづよろずにににおぼすおぼすおぼす。。。院院いんよりよりよりははは御御おんせうそこせうそこしょうそこ日日ひ々々びにににありありあり。。。「「「女女にょうご御御おんうとうとしくうとうとしくうとうとしく覺覺おぼしししへだつるへだつるへだつるにににややや上上うえはははこゝこゝここににに聞聞きこえええ疎疎うとむるむるむるなめりなめりなめり」」」ととといといといとにくげにくげにくげにににおぼしおぼしおぼしのののたまへたまへたまえばばば「「「たはぶれたはぶれたわぶれにににももも苦苦くるしうしうしゅうなむなむなん。。。同同おなじくじくじくはははこのこのこの比比ごろのののほどほどほどにににおぼしおぼしおぼしたちたちたちねねね」」」などなどなどいといといとまめやかまめやかまめやかににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。さるべきさるべきさるべきにににこそこそこそはははおはすおはすおわすらめらめらめ、、、いといといとかうかうこうあやにくあやにくあやにくにににののの給給のたまふふうもももかたじけなしかたじけなしかたじけなしなどなどなどおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。御御おん調調ちょう度度どなどなどなどはははそこらそこらそこらしししおかおかおかせせせ給給たまへへえれれればばば人々人々ひとびとのののそうぞくそうぞくそうぞく何何なにくれくれくれのののはかなきはかなきはかなきことことことをををぞぞぞ急急いそぎぎぎ給給たまふふう。。。これこれこれををを聞聞きくくくににに藏藏くろう人人どののの少少しょう將將しょうはははしぬしぬしぬばかりばかりばかり思思おもひひいててて母母はは北北きたののの方方かたをををせめせめせめ奉奉たてまつれれればばば聞聞ききききわづらひわづらひわずらい給給たまひひいててて「「「いといといとかたはらいたきかたはらいたきかたわらいたきことことことにににつけつけつけてててほのめかしほのめかしほのめかし聞聞きこゆるゆるゆるももも、、、世世よにににかたくなしきかたくなしきかたくなしき闇闇やみのののまよひまよひまよいににになむなむなんおぼしおぼしおぼし知知しるるる方方かたもももあらあらあらばばば推推おしししはかりはかりはかりててて猶猶なお慰慰なぐさめめめさせさせさせ給給たまへへえ」」」などなどなどいとほしげいとほしげいとおしげににに聞聞きこえええ給給たまふふうををを、、、苦苦くるしうしうしゅうもももあるあるあるかなかなかな」」」とととうちうちうち歎歎なげききき給給たまひひいててて「「「いかなるいかなるいかなることことことゝゝと思思おもううう給給たまへへえ定定さだむむむべきべきべきやうやうようもももなきなきなきををを、、、院院いんよりよりよりわりなくわりなくわりなくのたまはするのたまはするのたまわするににに思思おもひひい給給たまへへえ亂亂みだれれれてててなむなむなん。。。まめやかまめやかまめやかなるなるなる御心御心みこころならならならばばばこのこのこの程程ほどをををおぼしおぼしおぼししづめしづめしずめててて慰慰なぐさめめめ聞聞きこえええむむんさまさまさまをををももも見見み給給たまひひいてててなむなむなん、、、世世よののの聞聞きこえええもももなだらかなだらかなだらかならならならむむん」」」などなどなど申申もうししし給給たまふふうももも、、、このこのこの御御おんまゐりまゐりまいりすぐしすぐしすぐしててて中中なかののの君君きみをををとととおぼすおぼすおぼすなるなるなるべしべしべし。。。
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現代語訳
このように言っているうちに、月日をはかなく過ごすのも、行く末が気がかりなので、尚侍の殿はあれこれとお思いになる。院からはお便りが毎日ある。「女御がよそよそしく隔てていると思うのか、上(玉鬘)は私のことをこちらに悪く申し上げているようだ」と、たいそう憎らしげにお思いになりおっしゃるので、女御も「冗談にも苦しいことです。同じことなら、この頃のうちにご決心ください」などと、たいそう真剣に申し上げなさる。玉鬘は、そうなるべき運命でいらっしゃるのだろう、このように強いておっしゃるのも恐れ多いなどとお思いになった。御調度などは、前からたくさん用意しておかれたので、女房たちの装束や何やかやのちょっとしたことを、お急ぎになる。これを聞くと、蔵人の少将は死ぬほど思い詰めて母北の方を責め申し上げるので、北の方は聞きかねなさって、「たいそう気が引けることにつけて、ほのめかし申し上げるのも、世にも愚かな親心の闇の迷いからでございます。お察しくださる方面もありましたら、推し量って、やはり慰めてやってくださいませ」などと気の毒そうに申し上げなさるのを、玉鬘は「苦しいことだなあ」とお嘆きになって、「どのようなことにお決め申し上げるべきかもわかりませんのに、院から無理におっしゃるので、思い乱れておりまして。本気のお気持ちならば、この時期を思い静めて、慰め申し上げる様子もご覧になってから、世間の聞こえも穏やかでございましょう」などと申し上げなさるのも、この院参りを済ませてから、中の君をとお思いになるのだろう。
同時に両方というのは、いかにも得意顔のようで嫌だろう、まだ位なども浅い頃なのになどとお思いになるが、男(少将)の方は、全くそのように思いを移しそうにもない。ほのかに拝見して以来は、面影に恋しく、どのような機会にとばかり思われていたのに、このように望みが絶えてしまったのを、限りなく思い嘆いていらっしゃる。
意訳
冷泉院からは毎日便りがあり、女御も勧めるので、玉鬘は大君の院参りを決める。蔵人少将は死ぬほど思い詰め、母の雲居の雁が玉鬘に訴える。玉鬘は院参りの後で中の君をと考えるが、少将は大君しか思えず、望みが絶えたことを嘆く。
語釈・文法注
文法
- 「闇のまよひ」(世にかたくなしき闇のまよひになむ)
- 子を思う親心の迷い。「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」(後撰集)による。
- 「したりがほ」(さしあはせてはうたてしたりがほならむ)
- 得意顔。姉妹を同時に縁づけるのは、いかにも得意げに見える。
- 「あさへたる」(まだ位などもあさへたる程を)
- 浅い、低い。少将の官位がまだ低いこと。
解説
大君の院参りが決まり、蔵人少将は絶望する。母の雲居の雁が子のために玉鬘に訴える姿は、子を思う親の心を示している。かつて夕霧との恋で父に反対された雲居の雁が、今は子の恋のために奔走している。
玉鬘は中の君を少将にと考えるが、少将の心は大君から離れない。一度見た面影に囚われる恋は、源氏物語の男たちに共通するものである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、866–869頁(コマ144–145)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日