源氏物語 第44帖 竹河(13)
碁の賭けと少将の垣間見
中将たちが立ち去った後、姫君たちは打ちかけていた碁を打つ。「昔から争っていらっしゃる桜を賭け物にして、三番勝負で一つでも多く勝った方に花を譲ろう」と戯れ合う。暗くなったので端近くで打ち終える。御簾を巻き上げて、女房たちは皆張り合って勝利を祈る。ちょうどその時、例の少将が侍従の君(藤侍従)の部屋に来ていたが、侍従が兄たちと連れ立って出て行ったので、あたりは人少なで、廊の戸が開いていたところにそっと寄ってのぞいた。こんなにうれしい折を見つけたのは、仏などが現れなさったところに参り合わせたような心地がするのも、はかない心である。夕暮れの霞に紛れてはっきりしないが、じっと見ると、桜色の衣の色合いで大君とそれと見分けた。本当に散ってしまった後の形見にも見ていたいほど匂いやかに見えるので、ますます他の人のものになってしまうのがつらく思いが募る。若い女房たちのくつろいだ姿も夕映えに美しく見える。右方(中の君)が勝った。「高麗の乱声が遅い」などと威勢よく言う者もいる。右方に味方して、「西の御前に寄っている木を左方のものにして、長年のお争いがあったのですよ」と右方は心地よさそうに励まし申し上げる。少将は何のことかわからないが面白いと聞いて、返事もしたいが、くつろいでいる折に無粋ではないかと思って出て行った。またこのような機会もあろうかと、物陰に寄り添って様子をうかがい歩いた。
- 1中中ちゅう將將じょうなどなどなど立立たちちち給給たまひひいててて後後のち君君きん達達だちはははうちうちうちさしさしさし給給たまへへえるるる碁碁ごうちうちうち給給たまふふう。。。「「「昔昔むかしよりよりより爭爭あらそひひい給給たまふふう櫻櫻さくらをををかけかけかけものものものにてにてにて三三さん番番ばんににに數數かずひとつひとつひとつ勝勝かちちち給給たまははわむむん方方かたににに花花はなをををよせよせよせてててむむん」」」とととたはぶれたはぶれたわぶれかはしかはしかわし聞聞きこえええ給給たまふふう。。。くらうくらうくろうなれなれなればばば端端はし近近ちかうううててて打打うちちちはてはてはて給給たまふふう。。。御御み簾簾す卷卷まきききあげあげあげててて人々人々ひとびと皆皆みないどみいどみいどみねんじねんじねんじ聞聞きこゆゆゆ。。。折折おりしもしもしも例例れいののの少少しょう將將しょう、、、侍侍じ從從じゅうののの君君きみののの御御おん曹曹ぞう司司しににに來來きたりたりたりけるけるけるをををうちうちうちつれつれつれててて出出いででで給給たまひひいにににけれけれければばば、、、大大おお方方かた人人ひとずくなずくなずくなゝゝなるるるににに廊廊ろうののの戶戶とのののあきあきあきたるたるたるにににやをらやをらやおら寄寄よりりりててて覗覗のぞきききけりけりけり。。。かうかうこううれしきうれしきうれしき折折おりををを見見みつけつけつけたるたるたるははは佛佛ほとけなどなどなどののの顯顯あらはれはれわれ給給たまへへえらららむむんににに參參まいりりりたらたらたらむむん心地心地ここちするするするももも、、、はかなきはかなきはかなき心心こころににになむなむなん。。。夕夕ゆうぐれぐれぐれののの霞霞かすみのののまぎれまぎれまぎれはははさやかさやかさやかならならならねねねどどど、、、つくづくつくづくつくずくととと見見みれれればばば櫻櫻さくら色色いろのののあやめあやめあやめもももそれそれそれととと見見みわきわきわきつつつ。。。げにげにげに散散ちりりりなななむむん後後のちのののかたみかたみかたみにににももも見見みまほしくまほしくまほしくにほひにほひにおい多多おおくくく見見みえええ給給たまふふうををを、、、いとゞいとゞいとどことことことざまざまざまににになりなりなり給給たまははわむむんことことことわびしくわびしくわびしく思思おもひひいまさるまさるまさる。。。若若わかききき人々人々ひとびとのののうちうちうちとけとけとけたるたるたる姿姿すがたどもどもどもゆふゆふゆうばえばえばえもももをかしうをかしうおかしゅう見見みゆゆゆ。。。右右みぎ勝勝かたたたせせせ給給たまひひいぬぬぬ。。。「「「髙髙こ麗麗まのののらんさうらんさうらんそうおそしおそしおそしややや」」」などなどなどはやりかはやりかはやりかにににいふいふいうもももありありあり。。。右右みぎににに心心こころよせよせよせ奉奉たてまつりりりててて「「「西西にしのののおおお前前まえににによりよりよりててて侍侍はべるるる木木きををを左左ひだりににになしなしなしててて年年とし比比ごろののの御御おんあらそひあらそひあらそいのののかゝれかゝれかかればばばありありありつるつるつるぞぞぞかしかしかし」」」ととと右右みぎ方方がたははは心地心地ここちよげよげよげにににはげましはげましはげまし聞聞きこゆゆゆ。。。何何なに事事ごとととと知知しらららねねねどどどをかしをかしおかしととと聞聞ききききてててさしさしさしいらへいらへいらえもももせせせまほしけれまほしけれまほしけれどどど、、、うちうちうちとけとけとけ給給たまへへえるるる折折おり心地心地ここちなくなくなくやややはははととと思思おもひひいててて出出いでででゝゝていぬいぬいぬ。。。またまたまたかゝるかゝるかかるまぎれまぎれまぎれもももやややととと影影かげにににそひそひそいてててぞぞぞうかゞひうかゞひうかがいありきありきありきけるけるける。。。
現代語訳
中将などがお立ちになった後、君達(姫君たち)は打ちかけていらっしゃった碁をお打ちになる。「昔から争っていらっしゃる桜を賭け物にして、三番勝負で、数一つでも勝ちなさった方に花を譲ろう」と戯れ合い申し上げなさる。暗くなったので、端近くで打ち終えなさる。御簾を巻き上げて、女房たちは皆、張り合って勝利を祈り申し上げる。ちょうどその時、例の少将が、侍従の君の部屋に来ていたのを、侍従が兄たちと連れ立ってお出かけになってしまったので、あたりはたいそう人少なであるところに、廊の戸が開いていたので、そっと寄ってのぞいた。こんなにうれしい折を見つけたのは、仏などが現れなさったところに参り合わせたような心地がするのも、はかない心である。夕暮れの霞に紛れて、はっきりとはしないけれど、つくづくと見ると、桜色の衣の色合いで、それと見分けた。本当に散ってしまった後の形見にも見ていたいほど、匂いやかにお見えになるので、ますます他の人のものになってしまわれることがつらく、思いが募る。若い女房たちのくつろいだ姿も、夕映えに美しく見える。右方が勝ちなさった。「高麗の乱声が遅いわね」などと威勢よく言う者もいる。右方に味方し申し上げて、「西の御前に寄っております木を左方のものにして、長年のお争いがこうしてあったのですよ」と、右方は心地よさそうに励まし申し上げる。少将は、何のことかわからないけれど、面白いと聞いて、返事もしたいけれど、くつろいでいらっしゃる折に無粋ではないかと思って出て行った。またこのような機会もあろうかと、物陰に寄り添って、様子をうかがい歩いた。
意訳
姫君たちは桜を賭けて碁を打つ。夕暮れ、蔵人少将は廊の戸からのぞき、桜色の衣の大君を見て、ますます思いを募らせる。碁は右方の中の君が勝ち、女房たちがはやし立てる。
語釈・文法注
文法
- 「いどみねんじ」(人々皆いどみねんじ聞ゆ)
- 張り合って祈る。それぞれの方の勝利を祈る。
- 「櫻色のあやめ」(櫻色のあやめもそれと見わきつ)
- 桜色の衣の色の区別。桜の細長を着た大君を見分けた。
- 「髙麗のらんさう」(髙麗のらんさうおそしや)
- 高麗楽の乱声。勝負事で勝った時に奏する楽。
解説
蔵人少将の垣間見は、源氏物語の恋の始まりの典型的な場面である。しかし少将の恋は報われない。夕暮れの霞の中に見た大君の姿は、少将にとって永遠に手の届かない面影となる。
碁の勝負で中の君が桜を得る。大君は桜を失い、やがて冷泉院に参ることになる。桜の争いは、姉妹のその後の運命を暗示しているようでもある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、866–867頁(コマ144)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日