源氏物語 第44帖 竹河(11)
桜の頃の姫君たち
三月になって、咲く桜もあれば散り乱れて空を曇らせる花もあり、一面の花盛りの頃、のどかに暮らしている所では紛れることもなく、端近くに出ていても咎められることもないだろう。姫君たちはその頃十八、九歳ほどだったろうか、容貌も気立ても、それぞれに美しい。大君はたいそうはっきりとして気高く、今風の様子で、本当に臣下の妻としてお世話するのは似つかわしくないと見える。桜の細長に山吹など季節に合った色合いが、親しみやすい程度に重なった裾まで、愛嬌がこぼれ落ちるように見え、振る舞いなども洗練されて、こちらが恥ずかしくなるほどの気配まで添っている。もう一人(中の君)は、薄紅梅の衣に、髪は色つやよく、柳の糸のようにしなやかに見える。たいそうすらりとして優美で、澄んだ様子で、重々しく思慮深い点では勝っているが、華やかな美しさでは大君がこの上ないと人は思っていた。二人が碁を打とうと向かい合っている、髪の生え際や髪のかかり具合などがたいそう見ごたえがある。侍従の君(藤侍従)が審判をしようと近くに控えていると、兄君たちがのぞいて、「侍従はずいぶん信頼されたものだな。碁の審判を許されたとは」と言って、大人びた様子で座ると、御前の女房たちはあれこれ居住まいを正す。中将(長男)が「宮仕えが忙しくなるうちに、人に後れを取ってしまったのはたいそう残念だ」と嘆くと、弁(次男)は「弁官はまして私的な奉公を怠ってしまいそうですが、そうばかりお見捨てになるでしょうか」などと言う。姫君たちが碁を打つのをやめて恥じらっている様子がたいそう美しい。中将は「宮中などに出歩いても、故殿が生きていらしたらと思うことが多いのです」などと涙ぐんで姫君たちを見る。二十七、八歳ほどなので、たいそう分別があって、姫君たちの身の上を、何とか昔の父の心づもりどおりにしたいと思っている。
- 1三三やよ月月ひににになりなりなりててて咲咲さくくく櫻櫻さくらあれあれあればばば散散ちりりりかひかひかいくもりくもりくもり、、、大大おお方方かたののの盛盛さかりなるなるなるころころころのどやかのどやかのどやかにににおはするおはするおわする所所ところにににはははまぎるゝまぎるゝまぎるることことことなくなくなく端端はしぢかぢかちかなるなるなる罪罪つみもももあるあるあるまじかまじかまじかめりめりめり。。。そのそのそのころころころ十十じゅう八八はち九九くののの程程ほどにににやややおはしおはしおわしけむけむけん、、、御御おんかたちかたちかたちももも心心こころばへばへばえもももとりどりとりどりとりどりにににぞぞぞをかしきをかしきおかしき。。。姬姬ひめ君君ぎみはははいといといとあざやかあざやかあざやかにににけだかうけだかうけだこう今今いまめかしきめかしきめかしきさまさまさまししし給給たまひひいてててげにげにげにたゞたゞただ人人びとにてにてにてみみみ奉奉たてまつらららばばばにげなふにげなふにげなうぞぞぞ見見みえええ給給たまふふう。。。櫻櫻さくらののの細細ほそ長長なが山山やま吹吹ぶきなどなどなどののの折折おりにににあひあひあいたるたるたる色色いろあひあひあいののの、、、なつかしきなつかしきなつかしき程程ほどににに重重かさなりりりたるたるたるすそすそすそまでまでまで愛愛あい敬敬ぎょうのののこぼれこぼれこぼれ落落おちちちたるたるたるやうやうようににに見見みゆるゆるゆる、、、御御おんもてもてもてなしなしなしなどなどなどもももらうらうじうらうらうじうろうろうじゅう心心こころ耻耻はずかしきしきしきけけけさへさへさへそひそひそい給給たまへへえりりり。。。今今いま一一ひと所所ところははは薄薄うす紅紅こう梅梅ばいにににみみみぐしぐしぐし色色いろにてにてにて柳柳やなぎののの絲絲いとのののやうやうようにににたをたをたをたをたおたおととと見見みゆゆゆ。。。いといといとそびやかそびやかそびやかににになまめかしうなまめかしうなまめかしゅうすみすみすみたるたるたるさまさまさましししててておもりかおもりかおもりかににに心心こころ深深ふかきききけけけははは優優まさりりり給給たまへへえれれれどどど、、、匂匂におひひいやかやかやかなるなるなるけはひけはひけはいはははこよなしこよなしこよなしとととぞぞぞ人人ひと思思おもへへえるるる。。。碁碁ごうちうちうち給給たまふふうとてとてとてさしさしさし向向むかひひい給給たまへへえるるるかんざしかんざしかんざしみみみぐしぐしぐしのののかゝりかゝりかかりたるたるたるさまさまさまどもどもどもいといといと見見み所所どころありありあり。。。
- 2侍侍じ從從じゅうののの君君きみけんそけんそけんそししし給給たまふふうとてとてとて近近ちこううう侍侍さぶらひらひらい給給たまふふうににに、、、兄兄あに君君ぎみ達達たちさしさしさしのぞきのぞきのぞき給給たまひひいててて「「「侍侍じ從從じゅうのののおぼえおぼえおぼえこよなくこよなくこよなくなりなりなりにににけりけりけり。。。御御おん碁碁ごのののけんそけんそけんそ許許ゆるささされれれにににけるけるけるをををややや」」」とてとてとておとなおとなしきおとなおとなしきおとなおとなしきさまさまさましししてててついついつい居居い給給たまへへえばばば、、、おおお前前まえなるなるなる人々人々ひとびととかうとかうとこう居居いなほるなほるなおる。。。中中ちゅう將將じょう、、、宮宮みや仕仕づかえのののいそがしういそがしういそがしゅうなりなりなり侍侍はべるるる程程ほどににに人人ひとにににおとりおとりおとりにににたるたるたるはははいといといと本本ほ意意いなきなきなきわざわざわざかなかなかなととと憂憂うれへへえ給給たまへへえばばば「「「辨辨べん官官かんはははまいてまいてまいて私私わたくしののの宮宮みや仕仕づかえをこたりをこたりおこたりぬぬぬべきべきべきまゝまゝままにににさのみさのみさのみやややはははおぼしおぼしおぼしすてすてすてむむん」」」などなどなど申申もうししし給給たまふふう。。。碁碁ご打打うちちちさしさしさしててて耻耻はじらひらひらいててておはさうずるおはさうずるおわそうずるいといといとをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。「「「內內うちわたりわたりわたりなどなどなどまかりまかりまかりありきありきありきてててももも故故こ殿殿とののののおはしまさおはしまさおわしまさましかましかましかばばばととと思思おもううう給給たまへへえらるゝらるゝらるることことこと多多おおくくくこそこそこそ」」」などなどなど淚淚なみだぐみぐみぐみててて見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。廿廿にじゅう七七しち八八はちののの程程ほどににに物物ものししし給給たまへへえばばばいといといとよくよくよくとゝのひとゝのひととのいてててこのこのこの御御おん有有あり樣樣さまどもどもどもをををいかでいかでいかでいにしへいにしへいにしえおぼしおぼしおぼしおきおきおきてててしししににに違違たがへへえずずずもももがながながなととと思思おもひひい居居い給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
三月になって、咲く桜もあれば、散り乱れて空を曇らせる花もあり、一面の花盛りの頃、のどかにお暮らしになっている所では、紛れることもなく、端近くに出ていても咎められることもないようである。姫君たちは、その頃十八、九歳ほどでいらっしゃったろうか、ご容貌も気立ても、それぞれに美しい。大君はたいそうはっきりとして気高く、今風の様子をしていらっしゃって、本当に臣下の妻としてお世話申し上げるのは似つかわしくなくお見えになる。桜の細長に山吹など、季節に合った色合いが、親しみやすい程度に重なっている裾まで、愛嬌がこぼれ落ちているように見え、お振る舞いなども洗練されて、こちらが恥ずかしくなるほどの気配まで添っていらっしゃった。もうお一方(中の君)は、薄紅梅の衣に、御髪は色つやよく、柳の糸のようにしなやかに見える。たいそうすらりとして優美で、澄んだ様子をして、重々しく思慮深い点では勝っていらっしゃるけれど、華やかな美しさはこの上ないと、人は大君を思っていた。碁をお打ちになるということで向かい合っていらっしゃる、髪の生え際や御髪のかかっている様子などが、たいそう見ごたえがある。
侍従の君が審判をなさるということで近くに控えていらっしゃると、兄君たちがのぞきなさって、「侍従はずいぶんご信頼が厚くなったものだな。御碁の審判を許されたとはね」と言って、大人びた様子をしてお座りになると、御前にいる女房たちは、あれこれ居住まいを正す。中将が「宮仕えが忙しくなりますうちに、人に後れを取ってしまったのは、たいそう不本意なことだなあ」と嘆きなさると、弁は「弁官はまして私的な奉公を怠ってしまいそうなので、そうばかりお見捨てになるでしょうか」などと申し上げなさる。碁を打つのを途中でやめて恥じらっていらっしゃるのが、たいそう美しい様子である。中将は「宮中のあたりなどに出歩きましても、故殿が生きていらっしゃったらと思われることが多いのです」などと涙ぐんで、姫君たちを拝見なさる。二十七、八歳ほどでいらっしゃるので、たいそうよく分別があって、この姫君たちのご様子を、何とかして昔、父がお考えになっていたことに違えずにしたいものだと思っていらっしゃった。
意訳
桜の盛り、十八、九歳の姫君たちはそれぞれ美しい。大君は華やかで気高く、中の君はしなやかで思慮深い。二人が碁を打つところに、藤侍従が審判として控える。
兄の中将と弁がのぞきに来て、宮仕えの忙しさを嘆き、亡き父を思って涙ぐむ。中将は妹たちの身の振り方を父の意向どおりにしたいと願う。
語釈・文法注
文法
- 「端ぢかなる罪」(端ぢかなる罪もあるまじかめり)
- 姫君が人目につく端近くに出ていることへの非難。
- 「けんそ」(侍從の君けんそし給ふとて)
- 見証。碁などの勝負の審判、立会人。
- 「辨官」(辨官はまいて私の宮仕をこたりぬべき)
- 太政官の事務官。右中弁である次男の言葉。
解説
桜の盛りの姫君たちの描写は、この巻で最も華やかな場面である。大君の華やかさと中の君のしなやかさが対比され、二人の性格の違いが描き分けられている。
兄の中将は父を思って涙ぐむ。髭黒亡き後、長男として妹たちの将来を案じる中将の姿には、父を失った家の苦しさがにじんでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、864–865頁(コマ143)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日