源氏物語 第44帖 竹河(10)
翌朝の手紙
翌朝、四位の侍従(薫)から主人の侍従(藤侍従)のもとに、「昨夜はたいそう取り乱してしまいましたが、人々はどうご覧になったでしょう、ご覧ください」と、人に見せるつもりらしく仮名がちに書いて、端に、竹河の歌の一節を謡い出したあの一言に、深い心の底を知ってくれただろうかと書いてあった。藤侍従が寝殿に持って参ると、皆で見る。玉鬘は「筆跡などもたいそう見事だこと。どういう人が今からこうも整っているのでしょう。幼くして院にも先立たれ、母宮がしどけなくお育てになったのに、やはり人に勝るはずの人なのでしょう」と言って、自分の息子たちの筆跡が悪いことを恥ずかしめる。藤侍従の返事は本当にたいそう若々しく、「昨夜は水駅だと女房たちがおとがめしたようです。竹河で夜を更かすまいと急いだのも、どんな節を心に置いたのでしょうか」。本当にこの一件をきっかけにして、薫は藤侍従の部屋に来て、色めいた様子を見せる。少将の推測どおり、皆が薫に心を寄せた。藤侍従も若い心に、近い縁者として明け暮れ親しみたいと思っていた。
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現代語訳
翌朝、四位の侍従のもとから主人の侍従のもとに、「昨夜はたいそう取り乱しておりましたが、人々はどうご覧になったでしょうかと、お見せください」と、人に見せるつもりらしく、仮名がちに書いて、端に、「竹河の歌の一節を謡い出した、あの一言に、私の深い心の底を知ってくれただろうか」と書いてあった。寝殿に持って参って、あれこれの方がご覧になる。玉鬘は「筆跡などもたいそう見事なこと。どのような人が今からこのように整っていらっしゃるのでしょう。幼くて院にも先立たれ申し上げ、母宮がしどけなくお育てになったけれど、やはり人に勝るはずの人なのでしょう」と言って、尚侍の君は、自分の君達の筆跡などが悪いことを恥ずかしめなさる。返事は本当にたいそう若々しく、「昨夜は、水駅だと女房たちがおとがめ申し上げたようです。竹河で夜を更かすまいと急いだのも、どのような節を心に置いたのでしょうか」。本当にこの一件をきっかけにして、この君(薫)は侍従の部屋にいらっしゃって、色めいた様子を見せて寄ってくる。少将が推し量ったとおり、皆が心を寄せた。侍従の君も、若い心に、近い縁者として明け暮れ親しみたいと思っていた。
意訳
翌朝、薫は藤侍従に、昨夜の竹河に寄せて深い心を知ってほしいという歌を送る。玉鬘はその筆跡を褒め、息子たちを恥ずかしめる。以後、薫は藤侍従を訪れて親しくなり、皆が薫に心を寄せる。
語釈・文法注
文法
- 「おぼしう」(とおぼしう假名がちにかきて)
- 人に見せるつもりらしく、女房たちに見せることを意識して。
- 「ひとふし」(竹河のはしうちいでしひとふしに)
- 一節。竹の節と歌の一節をかける。
- 「辱め」(この君達の手など惡しきことを辱め給ふ)
- 恥ずかしい思いをさせる、たしなめる。
解説
薫の歌は、「竹河」の「ふし(節)」に寄せて、自分の深い心を知ってほしいと詠む。「まめ人」と言われた薫が、ここで初めて恋の心をほのめかす。その相手は、姫君たちのどちらかであろう。
玉鬘は薫の筆跡を見て、母の女三の宮がしどけなく育てたのにと言う。女三の宮の頼りなさは、世間にも知られていたのである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、862–865頁(コマ142–143)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日