源氏物語 第44帖 竹河(8)
藤侍従邸の夕べ
侍従の君(薫)は「まめ人」の名を不本意に思ったので、二十日余りの頃、梅の花盛りに、匂いが乏しいように扱われたので、色好みであるところを見せてやろうと思って、藤侍従のもとを訪れた。中門を入る時に、同じ直衣姿の人が立っていた。隠れようとしたのを引き止めると、いつもここをうろつく蔵人の少将だった。寝殿の西面で琵琶と箏の琴の音がするのに心を惑わせて立っていたのだろう、苦しそうだ、人の許さない恋を思い始めるのは罪深いことだと薫は思う。琴の音も止んだので、少将が「さあ案内してください。私はたいそう不案内なので」と言って連れ立って、西の渡殿の前の紅梅の木のもとで、催馬楽「梅が枝」を口ずさんで立ち寄る気配が、花よりもはっきりとさっと匂ったので、女房たちは妻戸を押し開けて、和琴でたいそうよく合わせた。女の琴で呂の歌はこうは合わせられないのに見事だと思って、もう一度繰り返し謡うと、琵琶も比類なく今風に趣深く弾いている所だと心ひかれたので、今夜は少しうちとけて冗談なども言う。
- 1侍侍じ從從じゅうののの君君きみまめまめまめ人人びとののの名名なをををうれたしうれたしうれたしととと思思おもひひいけれけれければばば二二に十十じゅう餘餘よ日日かののの比比ころ梅梅うめののの花花はな盛盛ざかりなるなるなるににににほひにほひにおいすくなすくなすくなげげげにににとりなさとりなさとりなされれれししし、、、すきすきすきものものものならならならはさはさはさむむんかしかしかしとととおぼしおぼしおぼしててて藤藤とう侍侍じ從從じゅうののの御御お許許もとにににおはしおはしおわしたりたりたり。。。中中ちゅう門門もん入入いりりり給給たまふふう程程ほどににに同同おなじじじ直直のう衣衣しすがたすがたすがたなるなるなる人人ひとたてたてたてりりりけりけりけり。。。かくれかくれかくれなななむむんととと思思おもひひいけるけるけるをををひきひきひきとゞめとゞめとどめたれたれたればばば、、、このこのこの常常つねにににたちたちたちわづらふわづらふわずらう少少しょう將將しょうなりなりなりけりけりけり寢寢しん殿殿でんののの西西にし面面おもてににに琵琵び琶琶は箏箏そうののの琴琴ことののの聲聲こえするするするににに心心こころをををまどはしまどはしまどわしててて立立たてててるるるなめりなめりなめり、、、苦苦くるしげしげしげややや、、、人人ひとのののゆるさゆるさゆるさぬぬぬ事事こと思思おもひひいはじめはじめはじめむむんははは罪罪つみ深深ふかかるかるかるべきべきべきわざわざわざかなかなかなととと思思おもふふう。。。琴琴ことののの聲聲こえももも止止やみみみぬれぬれぬればばば「「「いざいざいざしるべしるべしるべししし給給たまへへえ、、、まろまろまろはははいといといとたどたどしたどたどしたどたどし」」」とてとてとて引引ひきききつれつれつれててて、、、西西にしののの渡渡わた殿殿どのののの前前まえなるなるなる紅紅こう梅梅ばいののの木木きのののもともともとににに梅梅うめがががえええをををうそぶきうそぶきうそぶきててて立立たちちちよるよるよるけはひけはひけはいののの、、、花花はなよりよりよりもももしるくしるくしるくさとさとさとうちうちうち匂匂におへへえれれればばば、、、妻妻つま戶戶どおしおしおしあけあけあけててて人々人々ひとびとあづまあづまあずまをををいといといとよくよくよく搔搔かききき合合あわせせせたりたりたり。。。女女おんなののの琴琴ことにてにてにてりよりよりよののの歌歌うたはははかうかうこうしもしもしもあはせあはせあわせぬぬぬをををいたしいたしいたしととと思思おもひひいててて、、、今今いまひとひとひとかへりかへりかえりおりおりおりかへしかへしかえしうたふうたふうたうををを、、、琵琵び琶琶はもももににになくなくなく今今いまめかしうめかしうめかしゅう故故ゆえありありありてててもてもてもてないないない給給たまへへえるるるあたりあたりあたりぞぞぞかしかしかしととと、、、心心こころとまりとまりとまりぬれぬれぬればばば今今こ夜夜よいははは少少すこしししうちうちうちとけとけとけてててはかなしはかなしはかなしごとごとごとなどなどなどもももいふいふいう。。。
現代語訳
侍従の君(薫)は「まめ人」の名を不本意だと思ったので、二十日余りの頃、梅の花盛りであるのに、匂いが乏しいように扱われたので、色好みであるところを見せてやろうとお思いになって、藤侍従のもとにいらっしゃった。中門をお入りになる時に、同じ直衣姿の人が立っていた。隠れようと思ったのを引き止めると、このいつもここをうろつく少将であった。寝殿の西面で、琵琶や箏の琴の音がするのに心を惑わせて立っているのだろう、苦しそうだ、人の許さないことを思い始めるのは、罪深いことにちがいないなあと思う。琴の音も止んだので、「さあ案内してください。私はたいそう不案内で」と言って連れ立って、西の渡殿の前にある紅梅の木のもとで、「梅が枝」を口ずさんで立ち寄る気配が、花よりもはっきりとさっと匂ったので、女房たちは妻戸を押し開けて、和琴でたいそうよく合わせた。女の琴で呂の歌はこうは合わせられないのに見事だと思って、もう一度繰り返して謡うと、琵琶も比類なく今風で、趣深く弾いていらっしゃるあたりだなと、心がひかれたので、今夜は少しうちとけて冗談なども言う。
意訳
「まめ人」と言われたのが悔しい薫は、梅の盛りに藤侍従を訪れる。中門で、姫君の琴の音に聞き入る蔵人少将に出会う。二人で紅梅のもとで「梅が枝」を謡うと、女房たちが和琴を合わせ、薫は少しうちとけて冗談を言う。
語釈・文法注
文法
- 「梅がえ」(梅がえをうそぶきて)
- 催馬楽「梅枝」。梅の枝に来る鶯を謡う。
- 「あづま」(あづまをいとよく搔き合せたり)
- 東琴、和琴。
- 「りよの歌」(女の琴にてりよの歌は)
- 呂の調子の歌。女性の琴で呂の歌に合わせるのは難しいとされた。
解説
薫は「まめ人」の汚名を返上しようと、自ら色好みの振る舞いをしてみせる。しかし中門で出会った蔵人少将の真剣な恋に比べ、薫の振る舞いはどこか演技めいている。
蔵人少将の恋を「罪深かるべきわざ」と思う薫は、許されない恋から生まれた自らの出生を、無意識に意識しているのかもしれない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、862–863頁(コマ142)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日