源氏物語 第43帖 紅梅(9)
匂宮の返歌
匂宮は、大納言の気持ちは自分の娘(中の君)の方に向けたいのだろうと話を聞き合わせて思うが、自分の思う心は別の方(宮の御方)に深く染みているので、この返事ははっきりとは言わず、翌朝、若君が退出する時に、いい加減な様子で、花の香りに誘われてしまいそうな身であったら、風の便りを見過ごしはしないだろうにと詠む。そして「やはり今は年寄りたちにお節介させないで、こっそりと」と繰り返し言うので、若君も東の御方を重々しく親しく思うようになった。かえって他の姫君たち(実の姉たち)は顔を見せたりして普通の姉妹の様子だが、若君は子ども心に、たいそう重々しく申し分ない東の御方の気立てを、かいのある方と結ばれるのを見たいと思っていたところ、春宮の御方(大君)がたいそう華やかに扱われているにつけて、同じ姉妹とは思いながらも物足りず残念なので、せめてこの宮(匂宮)と身近に結ばれるのを見たいと思っていたので、うれしい花の機会である。若君がこれは昨日の返事だと大納言に見せる。大納言は「憎らしげにおっしゃったものだ。あまり色好みの方に進みすぎるのを左大臣(夕霧)が許さないとお聞きになって、私たちが拝見する時にはたいそうまじめにお心を収めていらっしゃるのがおかしい。浮気者として申し分ないご様子を、無理にまじめぶっていらしても見どころが少なくなるだろうに」などと陰口を言って、今日も若君を参上させる時に、また、もとの香りが匂うあなたの袖が触れたら、花もえも言われぬ評判を立てるでしょう、と好色めいていますね、恐れ多いことですと、まじめに申し上げた。匂宮は、本当に縁談をまとめようと思うところがあるのかと、さすがに心をときめかして、花の香りを匂わせる宿に尋ねていったら、色に愛でたと人がとがめるだろうかと、やはり打ち解けずに返事をしたのを、大納言はもどかしいと思っている。
- 1大大だい納納な言言ごんののの御心御心みこころばへばへばへははは我我わががが方方かたざまざまざまににに思思おもふふうべかべかべかめれめれめれととと聞聞きききき合合あわせせせ給給たまへへえどどど思思おもふふう心心こころははは殊殊ことにににしみしみしみぬれぬれぬればばば、、、このこのこの返返かえり事事ごとけざやかけざやかけざやかにににももものたまひのたまひのたまいやらやらやらずずず、、、つとめてつとめてつとめてこのこのこの君君きみのののまかづるまかづるまかずるににになほざりなほざりなおざりなるなるなるやうやうようにてにてにて、、、「「「花花はなののの香香かにににさそはさそはさそわれれれぬぬぬべきべきべき身身みなりなりなりせせせばばば風風かぜのののたよりたよりたよりををを過過すぐさささましましましやややははは」」」。。。「「「さてさてさて猶猶なお今今いまははは翁翁おきなどもどもどもにににさかしらさかしらさかしらせせせででで忍忍しのびびびやかやかやかににに」」」とととかへすがへすかへすがへすかえすがえすののの給給のたまひひいててて、、、このこのこの君君きみももも東東ひんがしのののをををばばばやんごとなくやんごとなくやんごとなくむつましうむつましうむつましゅう思思おもひひいましましましたりたりたり。。。なかなかなかなかなかなかことことこと方方かたののの姫姫ひめ君君ぎみははは見見みえええ給給たまひひいなどなどなどしししててて例例れいのののはらからはらからはらからのののさまさまさまなれなれなれどどど、、、童童わらわ心地心地ここちにににいといといとおもりかおもりかおもりかにににあらまほしうあらまほしうあらまほしゅうおはするおはするおわする心心こころばへばへばえををを、、、かひかひかいあるあるあるさまさまさまにてにてにて見見み奉奉たてまつらららばやばやばやととと思思おもひひいありくありくありくににに春春とう宮宮ぐうののの御御おん方方かたのののいといといと花花はなやかやかやかにににもてもてもてなしなしなし給給たまふふうにににつけつけつけててて、、、おなじおなじおなじことことことゝゝとははは思思おもひひいながらながらながらいといといと飽飽あかかかずずず口惜口惜くちおしけれしけれしければばば、、、このこのこの宮宮みやをををだにだにだに氣氣け近近じかくくくててて見見み奉奉たてまつらららばやばやばやととと思思おもひひいありくありくありくにににうれしきうれしきうれしき花花はなのののついでついでついでなりなりなり。。。
- 2これこれこれははは昨日昨日きのうののの御御おん返返かえりりりなれなれなればばば見見みせせせ奉奉たてまつるるる。。。「「「妬妬ねたげげげにににもももののの給給のたまへへえるるるかなかなかな。。。あまりあまりあまりすきすきすきたるたるたる方方かたににに進進すすみみみ給給たまへへえるるるををを許許ゆるししし聞聞きこえええずずず」」」ととと聞聞きききき給給たまひひいててて左左ひだりののの大大おとど臣臣ど「「「われらわれらわれらががが見見み奉奉たてまつるるるにににははは、、、いといといとものものものまめやかまめやかまめやかににに御心御心みこころをさめをさめおさめ給給たまふふうこそこそこそをかしけれをかしけれおかしけれ、、、あだあだあだ人人びとにににせせせむむんにににたらひたらひたらい給給たまへへえるるる御御おんさまさまさまをををしひてしひてしいてまめまめまめだちだちだち給給たまははわむむんももも見見み所所どころすくなくすくなくすくなくやややならならならましましまし」」」などなどなどしりうごちしりうごちしりゅうごちててて今今け日日きょうもももまゐらまゐらまいらせせせ給給たまふふうにににまたまたまた、、、「「「もとつもとつもとつかかかのののにほへにほへにおえるるる君君きみががが袖袖そでふれふれふればばば花花はなもももえええならならならぬぬぬ名名なをををやややちらさちらさちらさむむん。。。とととすきずきしすきずきしすきずきしややや。。。あなあなあなかしこかしこかしこ」」」とととまめやかまめやかまめやかににに聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。誠誠まことにににいひいひいいならさならさならさむむんととと思思おもふふう所所ところあるあるあるにににやややとととさすがさすがさすがににに御心御心みこころときめきときめきときめきししし給給たまひひいててて、、、「「「花花はなののの香香かをををにほはすにほはすにおわす宿宿やどにににとめとめとめゆかゆかゆかばばば色色いろにににめづめづめずとととややや人人ひとのののとがめとがめとがめむむん」」」などなどなど猶猶なお心心こころとけとけとけずずずいらへいらへいらえ給給たまへへえるるるををを心心こころやましやましやましととと思思おもひひい居居い給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
大納言のお気持ちは、自分の娘の方に向けたいと思っているのだろうと、話を聞き合わせなさるけれど、匂宮の思う心は別の方に深く染みているので、このご返事ははっきりともおっしゃらず、翌朝、この君が退出する時に、いい加減な様子で、「花の香りに誘われてしまいそうな身であったならば、風の便りを見過ごしたりはしないだろうに」。「さて、やはり今は年寄りたちにお節介をさせないで、こっそりと」と繰り返しおっしゃって、この君も東の御方を、重々しく親しく思うようになった。かえって他の方の姫君たちは、お顔を見せなさったりして、普通の姉妹の様子だが、子ども心に、たいそう重々しく申し分なくいらっしゃるお気立てを、かいのある結婚の様子で拝見したいと思っていたところに、春宮の御方(大君)がたいそう華やかに扱われていらっしゃるにつけて、同じ姉妹とは思いながら、たいそう物足りなく残念なので、せめてこの宮と身近に結ばれていらっしゃるのを拝見したいと思っていたので、うれしい花の機会である。
これは昨日のお返事なので、若君は父にお見せ申し上げる。大納言は「憎らしげにおっしゃったものだな。あまり色好みの方に進んでいらっしゃるのを、許し申し上げないとお聞きになって、左の大臣(夕霧)の前では、また私たちが拝見する時には、たいそうまじめにお心を収めていらっしゃるのがおかしい。浮気者とするのに申し分ないご様子なのを、無理にまじめぶっていらっしゃっても、見どころが少なくなるだろうに」などと陰口を言って、今日も若君を参上させなさる時に、また、「もとの香りが匂うあなたの袖が触れたら、花もえも言われぬ評判を散らすことでしょう。と申しては好色めいていますね。恐れ多いことです」と、まじめに申し上げなさった。匂宮は、本当に縁談をまとめようと思うところがあるのかと、さすがにお心をときめかしなさって、「花の香りを匂わせる宿に尋ねていったならば、色に愛でたのかと人がとがめるだろうか」などと、やはり打ち解けずにご返事なさったのを、大納言はもどかしいと思っていらっしゃった。
意訳
匂宮は大納言の意図を察しながらも、関心は宮の御方にあるので、はっきりしない返歌をする。若君は宮の御方を慕い、匂宮と結ばれてほしいと願う。
大納言は匂宮の返歌に苦笑しつつ、さらに歌を贈る。匂宮は心をときめかせながらも、打ち解けない返事をする。
語釈・文法注
文法
- 「花の香にさそはれぬべき身なりせば」(花の香にさそはれぬべき身なりせば)
- 花の香に誘われる身なら、風の便りを見過ごさない。中の君には関心がないことを婉曲に示す。
- 「しりうごちて」(などしりうごちて)
- 陰口を言って。
- 「もとつかのにほへる君が袖」(もとつかのにほへる君が袖ふれば)
- もともと香りのよいあなたの袖。匂宮の香を褒め、中の君と結ばれれば評判になると勧める。
- 「色にめづとや」(色にめづとや人のとがめむ)
- 色好みゆえに訪ねたと、人がとがめるだろうか。
解説
大納言と匂宮の歌のやりとりは、紅梅の花をめぐって、互いの思惑がすれ違う。大納言は中の君を勧め、匂宮は宮の御方を思う。どちらも本心をはっきりとは言わない。
大納言は匂宮を「あだ人」と陰口を言いながらも、娘を嫁がせたいと願う。権勢ある宮との縁組を望む父親の思惑と、恋の相手を自分で選びたい匂宮の思いが対照的である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、854–855頁(コマ138)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日