源氏物語 第43帖 紅梅(8)
匂宮と若君
匂宮が中宮の上の御局から宿直所へ出る時である。大勢の殿上人がお送りする中に若君を見つけて、「昨日はどうしてあんなに早く退出したのか。いつ参上したのか」などと言う。若君は「早く退出してしまったのが悔しくて、まだ宮中にいらっしゃると人が申したので急いで参りました」と幼いながらも親しげに申し上げる。匂宮は「宮中でなく気楽な所にも時々は遊びに来なさい。若い人たちが何となく集まる所だよ」と言う。若君を呼び離して話すので、人々は近くに寄らず、退出して散っていき静かになると、匂宮は「春宮からは少し暇を許されたようだね。たいそうしきりにかわいがっていらしたのに、寵を取られて体裁が悪いようだ」と言う。若君が「まとわりつかせなさったのがつらかったのですが、宮の御前でならば」と言いさして控えていると、匂宮は「私を人並みでないと見放したというのか。もっともだ。しかし面白くない。古風な同じ血筋で、東の御方と申し上げる方は、私を思ってくださるだろうかと、こっそり話してみよ」などと言うついでに、若君がこの花を差し上げると、匂宮はほほえんで「恨み言を言った後だったら」と言って、手から離さずに見る。枝の様子、花房、色も香りも普通ではなく、「園に咲く紅梅は色に取られて香りは白梅に劣ると言うようだが、たいそう見事に色と香を並べて咲いたものだ」と、心をとめていた花なので、かいがあってもてはやす。「今夜は宿直のようだ。そのままこちらに」と若君を引き止めたので、若君は春宮にも参上できず、花も恥じらうほど香ばしい匂宮の近くに寝かせてもらったのを、幼心にこの上なくうれしく慕わしく思う。「この花の主はどうして春宮に入内なさらなかったのか」と言うと、若君は「知りません、心を知る人に、などと聞いていました」などと話す。
- 1中中ちゅう宮宮ぐうののの上上うえののの御御おん局局つぼねよりよりより御御おんとのゐとのゐとのいどころどころどころににに出出いででで給給たまふふうほどほどほどなりなりなり。。。殿殿てん上上じょう人人びとあまたあまたあまた御御おん送送おくりにににまゐるまゐるまいる中中なかににに見見みつけつけつけ給給たまひひいててて「「「昨日昨日きのうはははなどなどなどいといといと疾疾とくくくはははまかでまかでまかでにににししし。。。いついついつ參參まいりりりつるつるつるぞぞぞ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。「「「疾疾とくくくまかでまかでまかで侍侍はべりりりにににしししくやしさくやしさくやしさににに、、、まだまだまだ內內うちにににおはしますおはしますおわしますととと人人ひとののの申申もうしししつれつれつればばば急急いそぎぎぎまゐりまゐりまいりつるつるつるややや」」」とととをさなげをさなげおさなげなるなるなるものものものからからから馴馴なれれれ聞聞きこゆゆゆ。。。「「「內內うちならならならででで心心こころやすきやすきやすき所所ところにににももも時々時々ときどきはははあそべあそべあそべかしかしかし。。。若若わかききき人人ひとどもどもどものののそこはかとそこはかとそこはかとなくなくなくあつまるあつまるあつまる所所ところぞぞぞ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。このこのこの君君きみ召召めしししはなちはなちはなちててて語語かたらひらひらい給給たまへへえばばば、、、人々人々ひとびとははは近近ちこうううもももまゐらまゐらまいらずずず罷罷まかででで散散ちりりりなどなどなどしししてててしめやかしめやかしめやかににになりなりなりぬれぬれぬればばば「「「春春とう宮宮ぐうにににはははいとまいとまいとま少少すこしししゆるさゆるさゆるされれれにににたたためりめりめりななな。。。いといといとしげうしげうしぎょうおもほしおもほしおもおしまどはすまどはすまどわすめりめりめりしししををを、、、時時ときとらとらとられれれててて人人ひとわろかわろかわろかめりめりめり」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「まつはさまつはさまつわさせせせ給給たまへへえりりりしししこそこそこそ苦苦くるしかりしかりしかりしがしがしが、、、御御お前前まえにににはははしもしもしも」」」ととと聞聞きこえええさしさしさしててて居居いたれたれたればばば「「「われわれわれをををばばば人人ひとげげげなしなしなしととと思思おもひひいはなたはなたはなたれれれたるたるたるとととななな。。。ことわりことわりことわりなりなりなり。。。されどされどされど安安やすからからからずずずこそこそこそ。。。ふるめかしきふるめかしきふるめかしき同同おなじじじすぢすぢすじにてにてにて東東ひんがしととと聞聞きこゆゆゆなるなるなるはははあひあひあい思思おもひひい給給たまひひいてててむむんやややととと忍忍しのびびびててて語語かたらひらひらい聞聞きこえええよよよ」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうついでついでついでににに、、、このこのこの花花はなををを奉奉たてまつれれればばばうちうちうちゑみゑみえみててて「「「うらみうらみうらみててて後後のちならならならましかましかましかばばば」」」とてとてとてうちうちうちももも置置おかかかずずず御御ご覽覽らんずずず。。。
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現代語訳
匂宮が中宮の上の御局から、宿直所にお出になる時である。殿上人が大勢お送りに参る中に、若君をお見つけになって、「昨日はどうしてあんなに早く退出したのか。いつ参上したのか」などとおっしゃる。「早く退出いたしましたのが悔しくて、まだ宮中にいらっしゃると人が申しましたので、急いで参りましたよ」と、幼げではあるものの、親しげに申し上げる。「宮中でなく、気楽な所にも時々は遊びに来なさい。若い人たちが何となく集まる所だよ」とおっしゃる。この君を呼び離してお話しなさるので、人々は近くにも参らず、退出して散りなどして静かになったので、「春宮からは、少し暇を許されたようだね。たいそうしきりにかわいがって離さなかったようだったのに、寵を取られて体裁が悪いようだね」とおっしゃると、「まとわりつかせなさったのがつらかったのですが、宮の御前でならば」と言いさして控えていると、「私を人並みでないと見放したというのか。もっともなことだ。しかし面白くないことだ。古風な同じ血筋で、東の御方と申し上げるらしい方は、私を思ってくださるだろうかと、こっそりお話し申し上げよ」などとおっしゃるついでに、若君がこの花を差し上げると、匂宮はほほえんで、「恨み言を言った後だったらよかったのに」と言って、手から離さずにご覧になる。
枝の様子、花房、色も香りも普通ではなく、「園に咲く紅梅は、その色に取られて、香りは白梅に劣ると言うようだが、たいそう見事に、色と香を並べて咲いたものだな」と言って、お心をとめていらっしゃる花なので、かいがあってもてはやしなさる。「今夜は宿直のようだね。そのままこちらに」と引き止めたので、若君は東宮にも参上できず、花も恥じらいそうなほど香ばしい匂宮の近くに寝かせてくださったのを、幼心にはこの上なくうれしく、慕わしく思い申し上げる。「この花の主は、どうして春宮には入内なさらなかったのか」。「知りません。心を知る人に、などと聞いておりました」などと話し申し上げる。
意訳
匂宮は若君に親しく語りかけ、東の御方(宮の御方)への関心をほのめかす。若君が紅梅の枝を差し上げると、匂宮は色も香も見事な花を喜び、若君を宿直に引き止める。
語釈・文法注
文法
- 「時とられて」(時とられて人わろかめり)
- 寵愛を他の人に奪われて。春宮の寵愛が姉の大君に移ったことをからかう。
- 「東と聞ゆなる」(東と聞ゆなるは)
- 東の御方、宮の御方。匂宮の関心は中の君ではなく、宮の御方にある。
- 「心知らむ人に」(心知らむ人になどこそ聞き侍りしか)
- 大納言が「知る人ぞ知る」の古歌を踏まえ、匂宮に、と言っていたことを伝える。
解説
大納言は中の君を匂宮に勧めるつもりだったが、匂宮の関心は東の御方、つまり宮の御方に向いている。姿を見せない宮の御方の奥ゆかしさが、匂宮の好奇心をかき立てるのである。
若君は無邪気に匂宮を慕い、大人たちの思惑の使いとなる。匂宮の香に包まれて眠る若君の喜びは、匂宮の魅力を子どもの目から描いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、852–855頁(コマ137–138)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日