源氏物語 第43帖 紅梅(6)
琵琶の音を所望
大納言は、「この頃何となく騒がしくて、琴の音さえ聞かずに久しくなりました。西の方にいる人(中の君)は琵琶に熱心です。そのように上手になれると思っているのでしょうか、中途半端に弾いて聞き苦しい音色です。同じことなら心をとめて教えてやってください。この翁は特に習ったものはありませんでしたが、昔の盛りの世に遊んだ力でしょうか、聞き分けるくらいのわきまえは何事にもないわけではなかったのですが、うちとけてはお弾きにならないけれど、時々聞かせていただく琵琶の音は昔が思い出されます。故六条院(源氏)の御伝授で、左大臣(夕霧)がこの頃世に残っています。源中納言(薫)や兵部卿の宮(匂宮)は、何事にも昔の人に劣るまいと格別の宿縁のある方々で、管絃の方面は特に心をとめているが、手つきが少しなよなよした撥の音は大臣には及ばないと思いますのに、あなたの琴の音こそよく似ています。琵琶は押し手を静かにするのをよしとするものですが、柱をさす時の撥の音の様子が変わって優美に聞こえるのは、女性のこととしてかえって趣深い。さあ、お弾きになりませんか。琴を持って参れ」と言う。女房たちもほとんど隠れようとしない。たいそう若い上臈ぶった女房が見られまいとするのだけは気ままにしているので、大納言は「仕える人までこのように振る舞うのが面白くない」と腹を立てる。
- 1「「「月月つき比比ごろなになになにとととなくなくなく物物ものさわがしきさわがしきさわがしき程程ほどににに御御おん琴琴ことののの音音ねをををだにだにだにうけうけうけ給給たまはらはらわらででで久久ひさしくしくしくなりなりなり侍侍はべりりりにににけりけりけり。。。西西にしののの方方かたににに侍侍はべるるる人人ひとははは琵琵び琶琶はををを心心こころににに入入いれれれててて侍侍はべるるる。。。さもさもさもまねびまねびまねび取取とりりりつつつべくべくべくややや覺覺おぼえええ侍侍はべるるるらむらむらん、、、なまなまなまかたほかたほかたほにににしししたるたるたるににに聞聞ききききにくきにくきにくき物物ものののの音音ねがらがらがらなりなりなり。。。同同おなじくじくじくははは御心御心みこころ留留とどめめめててて敎敎おしへへへさせさせさせ給給たまへへえ、、、おきなおきなおきなはははとりとりとりたてたてたてゝゝてならふならふならう物物もの侍侍はべらららざりざりざりしかしかしかどどど、、、そのそのそのかみかみかみ盛盛さかりりりなりなりなりししし世世よににに遊遊あそびびび侍侍はべりりりししし力力ちからにににややや聞聞きききき知知しるるるばかりばかりばかりのののわきまへわきまへわきまえははは何何なに事事ごとにににもももいといといとつきなくつきなくつきなくははは侍侍はべらららざりざりざりしししををを、、、うちうちうちとけとけとけてててももも遊遊あそばさばさばさねねねどどど時々時々ときどきうけうけうけ給給たまはるはるわる御御おん琵琵び琶琶はののの音音ねなむなむなん、、、むかしむかしむかし覺覺おぼえええ侍侍はべるるる。。。故故こ六六ろく條條じょう院院いんののの御御おん傳傳つたえにてにてにて左左ひだりのののおとゞおとゞおとどなむなむなんこのこのこの比比ごろ世世よににに殘殘のこりりり給給たまへへえるるる。。。源源げん中中ちゅう納納な言言ごん、、、兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みや、、、何何なに事事ごとにににももも昔昔むかしののの人人ひとににに劣劣おとるるるまじうまじうまじゅういといといと契契ちぎりりりことことことににに物物ものししし給給たまふふう人々人々ひとびとにてにてにてあそびあそびあそびののの方方かたははは取取とりりりわきわきわきててて心心こころ留留とどめめめ給給たまへへえるるるををを手手てづかひづかひずかい少少すこしししなよびなよびなよびたるたるたるばちばちばち音音おとなむなむなん、、、おとゞおとゞおとどにににははは及及およびびび給給たまははわずずずととと思思おもひひい給給たまふるふるうるをををこのこのこの御御おん琴琴ことのののねねねこそこそこそいといといと能能よくくく覺覺おぼえええ給給たまへへえれれれ。。。琵琵び琶琶はははは押押おし手手でしづやかしづやかしずやかなるなるなるをををよきよきよきにににするするするものものものなるなるなるにににぢうぢうじゅうさすさすさすほどほどほどばちばちばち音音おとのののさまさまさまかはりかはりかわりてててなまめかしうなまめかしうなまめかしゅう聞聞きこえええたるたるたるなむなむなん、、、女女おんなののの御御おん事事ことにてにてにてなかなかなかなかなかなかをかしかりをかしかりおかしかりけるけるける。。。いでいでいであそばさあそばさあそばさむむんややや御御おん琴琴ことまゐれまゐれまいれ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。女房女房にょうぼうなどなどなどはははかくれかくれかくれ奉奉たてまつるるるもももをさをさをさをさおさおさなしなしなし。。。いといといと若若わかききき上上じょう臈臈ろうだつだつだつががが見見みえええ奉奉たてまつらららじじじととと思思おもふふうはははしもしもしも、、、心心こころにににまかせまかせまかせてててゐゐいたれたれたればばば「「「さぶらふさぶらふさぶらう人人ひとさへさへさへかくかくかくもてもてもてなすなすなすががが安安やすからからからぬぬぬ」」」ととと腹腹はら立立だちちち給給たまふふう。。。
現代語訳
「この数か月、何となく騒がしい時期なので、お琴の音さえお聞きせずに、久しくなってしまいました。西の方におります人(中の君)は、琵琶に熱心でございます。そのように習い取れると思っているのでございましょうか、中途半端に弾いているので、聞き苦しい音色です。同じことなら、お心をとめてお教えください。この翁は、取り立てて習ったものはございませんでしたが、その昔の盛りの世に遊びました力でしょうか、聞き分けるくらいのわきまえは、何事にもそれほど不似合いではございませんでしたが、うちとけてはお弾きにならないけれど、時々お聞きするあなたの琵琶の音こそ、昔が思い出されます。故六条院の御伝授で、左大臣(夕霧)がこの頃世に残っていらっしゃいます。源中納言(薫)、兵部卿の宮(匂宮)は、何事にも昔の人に劣るまいと、たいそう格別の宿縁でいらっしゃる方々で、管絃の方面は特に心をとめていらっしゃるが、手つきが少しなよなよとした撥の音は、大臣には及びなさらないと存じますが、あなたのお琴の音こそ、たいそうよく似ていらっしゃいます。琵琶は押し手を静かにするのをよいとするものですが、柱をさす時の撥の音の様子が変わって、優美に聞こえるのは、女性のこととして、かえって趣深いことです。さあ、お弾きになりませんか。お琴を持って参れ」とおっしゃる。女房などは、お隠れ申し上げる者もほとんどいない。たいそう若い、上臈ぶっている女房で、見られまいと思う者だけは、気ままに奥に座っているので、大納言は「仕える人までがこのように振る舞うのは面白くない」と腹をお立てになる。
意訳
大納言は宮の御方の琵琶の音を褒め、源氏から夕霧に伝わった琵琶の技に通じると言い、中の君に教えてほしいと頼んで、演奏を所望する。
語釈・文法注
文法
- 「なまかたほ」(なまかたほにしたるに)
- 中途半端、未熟なさま。
- 「押手」(琵琶は押手しづやかなるを)
- 琵琶の弦を左手で押さえること。
- 「ぢうさす」(ぢうさすほどばち音の)
- 柱を移して調子を変えることとされる。
- 「上臈」(いと若き上臈だつが)
- 身分の高い女房。
解説
大納言は宮の御方の琵琶の音を褒め、源氏から夕霧に伝わった技に通じると言う。宮の御方の父の蛍兵部卿宮は、源氏の弟で風雅の人であった。その血を引く宮の御方の琵琶は、昔の六条院の時代の名残を伝えている。
大納言は自分を「翁」と言い、昔の盛りの世を懐かしむ。源氏の時代を知る者として、次の世代に昔の文化が受け継がれることを願っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、850–851頁(コマ136)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日