源氏物語 第42帖 匂宮(13)
賭弓の還饗
賭弓の還饗の準備を、右大臣(夕霧)は六条院でたいそう念入りにして、親王たちもお招きしようと心づかいをする。その日、大人になっている親王たちは皆参上する。后(明石の中宮)腹の親王たちは誰ということなく気高く清らかである。中でもこの兵部卿の宮(匂宮)は本当にたいそう優れて格別に見える。四の皇子で常陸の宮と呼ばれる更衣腹の方は、思いなしか雰囲気がずっと劣っている。例によって左方が強引に勝った。例年より早く事が終わって、大将(夕霧)は退出する。兵部卿の宮、常陸の宮、后腹の五の宮を一つ車に招いて乗せて退出する。宰相中将(薫)は負け方なのでひっそり退出しようとしたのを、親王たちがいらっしゃるお見送りに来ないのかと引き止めさせて、子息の衛門督、権中納言、右大弁など、そのほかの上達部も大勢あちこちの車に乗り合わせて誘い立てて六条院へ向かう。道のりが少しあるうちに雪がちらちら散って、優美な黄昏時である。楽器の音を趣深く吹き立てて遊びながら入っていくのを見ると、本当にここをおいて、どんな仏の国にこのような折の心の慰め所を求めようかと思われる。寝殿の南の廂に、いつものように南向きに中将・少将たちが並び、北向きに向かい合って相伴の親王たちや上達部の座がある。杯が始まって興が乗ってくると、求子を舞って、翻す袖の風に、御前近くの梅がたいそうほころびこぼれた匂いがさっと散り渡ると、例の中将(薫)の香りがいっそう引き立てられて、言いようもなく優美である。わずかにのぞく女房たちも、暗くてよく見えないが、香りこそ本当に似るものがないと褒め合う。右大臣も見事だと見る。容貌や心づかいもいつもより勝って、乱れない様子で控えているのを見て、右大臣が、右の中将も声を加えなさい、ひどく客人ぶっていると言うと、薫は憎らしくない程度に「神のます」などと歌う。
- 1のりゆみのりゆみのりゆみのののかへりかへりかえりあるじあるじあるじのののまうけまうけもうけ六六ろく條條じょう院院いんにてにてにていといといと心心こころことことことにににししし給給たまひひいててて御御み子子こをををもももおはしまさおはしまさおわしまさせせせむむんののの心心こころづかひづかひずかいししし給給たまへへえりりり。。。そのそのその日日ひみこみこみこたちたちたちおとなおとなおとなにににおはするおはするおわするははは皆皆みなさぶらひさぶらひさぶらい給給たまふふう。。。きさいきさいきさい腹腹ばらのののははは孰孰いずれととともももなくなくなくけけけ高高だかくくく淸淸きよげげげにににおはしますおはしますおわします。。。中中なかにににもももこのこのこの兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みやはははげにげにげにいといといと勝勝すぐれれれてててこよなうこよなうこよのう見見みえええたまふたまふたまう。。。四四しのののみみみ子子こ常常ひた陸陸ちののの宮宮みやととと聞聞きこゆるゆるゆる更更こう衣衣い腹腹ばらのののははは思思おもひひいなしなしなしにににやややけはひけはひけはいこよなうこよなうこよのう劣劣おとりりり給給たまへへえりりり。。。例例れいののの左左ひだりあながちあながちあながちににに勝勝かちちちぬぬぬ。。。例例れいよりよりよりははは疾疾とくくく事事ことはてはてはてゝゝて大大だい將將しょうまかでまかでまかで給給たまふふう。。。兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょうののの宮宮みや常常ひた陸陸ちののの宮宮みや后后きさき腹腹ばらののの五五ごののの宮宮みやとととひとつひとつひとつ車車くるまにににまねきまねきまねきのせのせのせ奉奉たてまつりりりててて罷罷まかででで給給たまふふう。。。宰宰さい相相しょう中中ちゅう將將じょうはははまけまけまけ方方がたにてにてにて音音おとなくなくなく罷罷まかででで給給たまひひいにににけるけるけるををを「「「皇皇み子子こ達達たちおはしますおはしますおわします御御おん送送おくりににに參參まいりりり給給たまふふうまじまじまじややや」」」ととと推推おししし留留とどめめめさせさせさせててて御御み子子こののの衛衛え門門もんの督督かみ、、、權權ごんの中中ちゅう納納な言言ごん、、、右右う大大だい辨辨べんなどなどなど、、、さらさらさらぬぬぬ上上かん達達だち部部めあまたあまたあまたこれこれこれかれかれかれにににのりのりのりまじりまじりまじりいざなひいざなひいざない立立たてててゝゝて六六ろく條條じょう院院いんへへへおはすおはすおわす。。。
- 2道道みちのののやゝやゝやや程程ほどふるふるふるににに雪雪ゆきいさゝかいさゝかいささか散散ちりりりててて艶艶えんなるなるなるたそがれたそがれたそがれ時時どきなりなりなり。。。物物ものののの音音ねをかしきをかしきおかしき程程ほどににに吹吹ふききき立立たててて遊遊あそびびびててて入入いりりり給給たまふふうをををげにげにげにこゝこゝここをををおきおきおきててていかならいかならいかならむむん佛佛ほとけののの御御おん國國くににににかかかはははかやうかやうかようのののをりをりおり節節ふしののの心心こころやりやりやり所所どころををを求求もとめめめむむんととと見見みえええたりたりたり。。。寢寢しん殿殿でんののの南南みなみののの廂廂ひさしににに常常つねのののごとごとごと南南みなみむきむきむきににに中中ちゅう少少しょう將將しょうつきつきつきわたりわたりわたり北北きたむきむきむきににに向向むかへへえてててゑがゑがえがのののみこみこみこ達達たち上上かん達達だち部部めののの御御お座座ましありありあり。。。御御おんかはらけかはらけかわらけなどなどなど始始はじまりまりまりててて物物ものおもしろくおもしろくおもしろくなりなりなりゆくゆくゆくにににもとめこもとめこもとめこ舞舞まひひいてててかよれかよれかよれるるる袖袖そでどもどもどもののの打打うちちちかへすかへすかえす羽羽は風風かぜににに御御お前前まえ近近ちかききき梅梅うめのののいといといといたくいたくいたく綻綻ほころひひいこぼれこぼれこぼれたるたるたるにほひにほひにおいのののさとさとさとうちうちうち散散ちりりりわたれわたれわたれるるるににに、、、例例れいののの中中ちゅう將將じょうののの御御おんかをりかをりかおりのののいとゞしくいとゞしくいとどしくもてもてもてはやさはやさはやされれれててていひいひいい知知しらららずずずなまめかしなまめかしなまめかし。。。はつかはつかはつかにににのぞくのぞくのぞく女房女房にょうぼうなどなどなどももも闇闇やみはははあやなくあやなくあやなく心心こころもとなきもとなきもとなき程程ほどなれなれなれどどど、、、香香かにににこそこそこそげにげにげに似似にたるたるたるものものものなかりなかりなかりけれけれけれとととめでめでめであへあへあえりりり。。。おとゞおとゞおとどもももめでたしめでたしめでたしととと見見み給給たまふふう。。。かたちかたちかたちようようよういいいももも常常つねよりよりよりまさりまさりまさりててて亂亂みだれれれぬぬぬさまさまさまにににをさめをさめおさめたるたるたるををを見見みててて、、、「「「右右みぎのののすけすけすけももも聲聲こえくはへくはへくわえ給給たまへへえややや。。。いたういたういとうまらうとまらうとまろうとだゝしだゝしだたしややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばばにくからにくからにくからぬぬぬほどほどほどににに神神かみのののますますますなどなどなど。。。
現代語訳
賭弓の還饗の準備を、右大臣は六条院でたいそう念入りになさって、親王たちもお招きしようという心づかいをしていらっしゃった。その日、親王たちのうち大人になっていらっしゃる方は皆参上なさる。后腹の親王たちは、どなたということなく気高く清らかでいらっしゃる。中でもこの兵部卿の宮は、本当にたいそう優れて格別にお見えになる。四の皇子で常陸の宮と申し上げる更衣腹の方は、思いなしか雰囲気がずっと劣っていらっしゃった。例によって左方が強引に勝った。例年よりは早く事が終わって、大将(夕霧)は退出なさる。兵部卿の宮、常陸の宮、后腹の五の宮と、一つ車にお招きしてお乗せ申し上げて退出なさる。宰相中将(薫)は負け方なので、ひっそりと退出なさったのを、「親王たちがいらっしゃるお見送りに参上なさらないのか」と引き止めさせて、御子の衛門督、権中納言、右大弁など、そのほかの上達部も大勢、あちこちの車に乗り合わせ、誘い立てて六条院へいらっしゃる。
道のりが少しあるうちに、雪がちらちらと散って、優美な黄昏時である。楽器の音を趣深い程度に吹き立てて遊びながらお入りになるのを見ると、本当にここをおいて、どんな仏の御国に、このような折の心の慰め所を求めようかと思われた。寝殿の南の廂に、いつものように南向きに中将・少将たちが並び、北向きに向かい合って、相伴の親王たちや上達部のお座席がある。杯などが始まって、興が乗ってゆくと、求子を舞って、翻す袖の打ち返す風に、御前近くの梅がたいそうひどくほころびこぼれている匂いが、さっと散り渡ると、例の中将のお香りが、いっそう引き立てられて、言いようもなく優美である。わずかにのぞく女房なども、暗くて「闇はあやなし」で、よく見えないけれど、「香りこそ本当に似るものがない」と褒め合っていた。右大臣も見事だとご覧になる。容貌や心づかいもいつもより勝って、乱れない様子で控えているのを見て、「右の中将も声を加えなさいよ。ひどく客人ぶっているね」とおっしゃると、薫は憎らしくない程度に「神のます」などと歌う。
意訳
正月の賭弓の後、夕霧は六条院で還饗を催し、匂宮ら親王たちを招く。負け方の薫も引き止められて同行する。
雪の黄昏、宴が始まり、求子の舞の袖の風に梅の香が散ると、薫の香りがいっそう引き立つ。夕霧に促されて、薫は控えめに歌う。
語釈・文法注
文法
- 「のりゆみのかへりあるじ」(のりゆみのかへりあるじのまうけ)
- 賭弓の還饗。正月十八日の賭弓の後、勝った方の大将が自邸で催す饗宴。
- 「ゑが」(北むきに向へてゑがのみこ達)
- 垣下。饗宴で主客の相伴をする人。
- 「もとめこ」(もとめこ舞ひて)
- 求子。東遊の曲の一つ。
- 「闇はあやなく」(闇はあやなく心もとなき程なれど)
- 「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる」(古今集)による。
- 「神のます」(にくからぬほどに神のますなど)
- 神楽歌「八少女」の一節とされる。
解説
六条院での饗宴は、源氏の時代の華やかさを思わせる。夕霧は六条院の主として、源氏の栄華を受け継いでいる。雪の黄昏、梅の香、舞の袖という美しい場面の中で、薫の香りがひときわ際立つ。
「香にこそげに似たるものなかりけれ」と女房たちは褒め合う。闇の中でも隠れない薫の香りは、古今集の梅の歌を踏まえて描かれる。この場面で匂宮の巻は閉じられ、物語は宇治十帖へと向かっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、846–848頁(コマ134–135)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日