源氏物語 第42帖 匂宮(12)
薫を慕う女たちと六の君
薫は自分がこのように人にもてはやされる有様なので、ちょっとした気まぐれの言葉をかける相手も、すっかり拒む気持ちもなく靡きやすいので、自然といい加減な通い所も多くなるが、相手のために大げさに扱うこともしない。たいそううまく紛らわして、何となく情がなくもない程度なのが、かえってもどかしいので、思いを寄せた女たちは誘われるように三条の宮(女三の宮の邸)に女房として集まる者が多い。つれない様子を見るのもつらいことだが、関係が絶えてしまうよりはと心細さに思い悩んで、そうであってはならない身分の人々が、はかない縁に望みをかけている者も多い。さすがに薫はたいそう親しみやすく見どころのある人柄なので、見る人は皆自分の心にだまされるようにして見過ごしてしまう。薫は、母宮が生きている限りは、朝夕に目を離さずお目にかかり、お世話申し上げることだけでもと思い、そう言うので、右大臣(夕霧)も大勢の娘たちのうち一人はと思いながら、口に出せない。さすがに近い血縁で珍しくもない間柄だとは思うが、この君(薫)と匂宮をおいて、他に肩を並べられる婿を探し出せるだろうかと思い悩む。正妻腹の姫たちよりも、典侍腹の六の君がたいそう優れて美しく、気立てなども整って成長しているのを、世間の評判が母の身分のせいで軽んじられそうなのが惜しく気の毒に思って、一条の宮(落葉の宮)にそういう世話の種となる子もなく寂しいので、六の君を引き取って養女にさせた。わざとらしくなく、この人々(薫や匂宮)に見せ始めたら必ず心をとどめるだろう、人の良し悪しを見分ける人は格別だろうと考えて、あまり厳めしくは育てず、今風で趣あるように風流を好ませて、男の心を引くような手がかりを多くつくっている。
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現代語訳
自分がこのように人にもてはやされるようにおなりになった有様なので、ちょっとした気まぐれの言葉をおかけになる相手も、すっかり拒む気持ちもなく靡きやすいので、自然といい加減な通い所も多くなるが、相手のために大げさに扱うこともなさらない。たいそううまく紛らわして、何となく情がなくもない程度なのが、かえってもどかしいので、思いを寄せた人は誘われるようにして、三条の宮に参上して集まる者が多くいる。つれない様子を見るのもつらいことのようだが、関係が絶えてしまうよりはと、心細さに思い悩んで、そうであってはならない身分の人々が、はかない縁に望みをかけている者が多い。さすがにたいそう親しみやすく見どころのあるお人柄なので、見る人は皆、自分の心にだまされるようにして見過ごしてしまう。薫は、「母宮が生きていらっしゃる限りは、朝夕に目を離さずお目にかかり、お世話申し上げることだけでも」と思いおっしゃるので、右大臣も、大勢いらっしゃる御娘たちを、一人はとお思いになりながら、口に出してはおっしゃれない。
さすがに近い血縁で珍しくもない間柄であるとは思うけれど、この君達(薫と匂宮)をおいて、他に肩を並べられるような人を探し出せる世だろうかと思い悩みなさる。正妻腹の姫君たちよりも、典侍腹の六の君は、たいそう優れて美しく、気立てなども整ってお育ちになったのを、世間の評判が母の身分のせいで軽んじられそうなのに、このように惜しいのを気の毒にお思いになって、一条の宮(落葉の宮)が、そのような世話の種もお持ちでなく寂しいので、引き取って養女として差し上げなさった。わざとらしくなく、この人々に見せ始めたら、必ず心をとどめなさるだろう、人の良し悪しを見分ける人は格別だろうなどとお思いになって、たいそう厳めしくはお育てにならず、今風で趣あるように風流を好ませて、男の心を引くような手がかりを多くつくっていらっしゃる。
意訳
薫は女たちに冷たくはないが深入りもしない。思いを寄せる女たちは三条の宮に女房として集まる。薫は母宮の世話を第一とし、夕霧も娘を薫に嫁がせたいと言い出せない。
夕霧は、典侍腹の美しい六の君を落葉の宮の養女にして、薫や匂宮の心を引くように風流に育てる。
語釈・文法注
文法
- 「なげの詞」(はかなくなげの詞をちらし給ふあたり)
- かりそめの、気まぐれの言葉。
- 「ゆかしげなきなからひ」(さすがにゆかしげなきなからひなるを)
- 近い血縁で、目新しさのない間柄。夕霧と薫は表向き兄弟である。
- 「ないしのすけばら」(ないしのすけばらの六の君)
- 典侍の生んだ子。母は藤典侍(惟光の娘)。
- 「一條の宮」(一條の宮のさるあつかひぐさも)
- 落葉の宮。子がなかった。
解説
薫は女たちに冷たくはないが、深い関係にはならない。そのもどかしさが、かえって女たちを引きつける。三条の宮に女房として集まる女たちの姿は、薫の魅力と同時に、薫の心の空虚さをも示している。
夕霧は六の君を落葉の宮の養女として、薫や匂宮の心を引くよう風流に育てる。かつて源氏が玉鬘を六条院に置いて男たちの心を引いたのと同じ手法である。六の君は後に匂宮の妻となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、844–847頁(コマ133–134)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日