源氏物語 第42帖 匂宮(8)
薫の芳香
あの香ばしさこそは、この世の匂いではなかった。不思議なほど、薫が身動きするあたりから遠く離れたところまで、追い風が本当に百歩の外まで薫りそうな心地がした。誰でもあれほどの身分になった人が、たいそう粗末に、ありのままの姿でいるはずがない。さまざまに人に勝ろうと身なりを整え心を配るものなのに、薫は、こうも困るほど、こっそり忍んで立ち寄ろうとしても、物陰でもはっきり分かる香りが隠れようもないのを煩わしがって、ほとんど香を焚きしめもしないのだが、たくさんの唐櫃に埋もれている香の数々も、この君のものは言いようもない匂いを加え、御前の花の木も、薫がちょっと袖を触れる梅の香りは、春雨の雫に濡れても身にしみる人が多く、秋の野に持ち主のない藤袴も、もとの香りは隠れて、薫の懐かしい追い風によって、折り取ることでいっそう香りが勝るのだった。
- 1かのかのかのかうばしさかうばしさこうばしさぞぞぞこのこのこの世世よのののにほひにほひにおいならならならずずず、、、あやしきあやしきあやしきまでまでまでうちうちうちふるまひふるまひふるまい給給たまへへえるるるあたりあたりあたり遠遠とおくくく隔隔へだたるたるたる程程ほどのののおひおひおい風風かぜもももまことまことまことににに百百ひゃく步步ぶののの外外ほかももも薫薫かおりりりぬぬぬべきべきべき心地心地ここちしししけるけるける。。。誰誰たれもももさばかりさばかりさばかりににになりなりなりぬるぬるぬる御御おん有有あり樣樣さまのののいといといとやつればみやつればみやつればみたゞたゞただありありありなるなるなるやややはははあるあるあるべきべきべき。。。さまざまさまざまさまざまにににわれわれわれ人人ひとにににまさらまさらまさらむむんとととつくろひつくろひつくろい用用よう意意いすすすべかべかべかめるめるめるををを、、、かくかくかくかたはかたはかたわなるなるなるまでまでまで打打うちちち忍忍しのびびび立立たちちちよらよらよらむむんももも物物もののののくまくまくまもももしるきしるきしるきほのめきほのめきほのめきのののかくれかくれかくれあるあるあるまじきまじきまじきにににうるさがりうるさがりうるさがりてててをさをさをさをさおさおさ取取とりりりもももつけつけつけ給給たまははわねねねどどどあまたあまたあまたののの御御おん唐唐から櫃櫃びつにににうづもれうづもれうずもれたるたるたるかうかうこうのののかかかどもどもどもゝゝも、、、このこのこの君君きみのののはははいふいふいうよしよしよしもももなきなきなき匂匂におひひいをををくはへくはへくわえ、、、御御お前前まえののの花花はなののの木木きもももはかなくはかなくはかなく袖袖そでかけかけかけたまふたまふたまう梅梅うめののの香香かははは春春はる雨雨さめののの雫雫しずくにににもももぬれぬれぬれ身身みにににしむるしむるしむる人人ひとおほくおほくおおく、、、秋秋あきののの野野のにににぬしぬしぬしなきなきなき藤藤ふじ袴袴ばかまももももともともとのののかをりかをりかおりはははかくれかくれかくれてててなつかしきなつかしきなつかしき追追おい風風かぜことことことにににをりをりおりなしなしなしからからからなむなむなんまさりまさりまさりけるけるける。。。
現代語訳
あの香ばしさこそは、この世の匂いではなく、不思議なまでに、身動きなさるあたりから遠く隔たった所まで、追い風も本当に百歩の外までも薫りそうな心地がした。誰でもあれほどの身分になった人のご様子が、たいそう粗末で、ありのままでいることがあろうか。さまざまに、自分こそ人に勝ろうと身なりを整え心を配るもののようだが、薫は、このように困るほど、こっそり忍んで立ち寄ろうとしても、物陰でもはっきり分かるほのかな香りが隠れようもないのを煩わしがって、ほとんど香を焚きしめもなさらないけれど、たくさんの御唐櫃に埋もれている香の数々も、この君のものは言いようもない匂いを加え、御前の花の木も、ちょっと袖をお触れになる梅の香りは、春雨の雫に濡れても、その香りが身にしみる人が多く、秋の野に持ち主のない藤袴も、もとの香りは隠れて、懐かしい追い風によって、特に折り取ることでいっそう香りが勝るのだった。
意訳
薫の身からは、この世のものとは思えない芳香が漂い、百歩の外まで香る。忍び歩きにも困るほどで、薫は香を焚きしめることもしないが、袖が触れた梅や藤袴にまでその香りが移る。
語釈・文法注
文法
- 「百步の外も薫りぬべき」(まことに百步の外も薫りぬべき心地しける)
- 百歩の先まで香る。「百歩香」という薫物の名にちなむともいう。
- 「うつし」(取りもつけ給はねど)
- 香を衣に焚きしめること。薫は、わざわざ香を焚きしめる必要がない。
- 「ぬしなき藤袴」(秋の野にぬしなき藤袴も)
- 「主知らぬ香こそ匂へれ秋の野に誰が脱ぎかけし藤袴ぞも」(古今集)による。
解説
薫の名の由来となった芳香が描かれる。生まれつき身から香る薫りは、この世のものではないとされ、仏や菩薩の化身を思わせる。前の場面の「假に宿れるか」という表現とも響き合う。
薫りは、忍び歩きを困難にする。恋の物語の主人公として、この芳香は逆に不利になる。宇治十帖では、薫の香りがさまざまな場面で人々に気づかれる契機となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、842–845頁(コマ132–133)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日