源氏物語 第38帖 鈴虫(10)
冷泉院への参上
杯が二巡りほどした頃、冷泉院から手紙が届く。宮中の御前の遊びが急に取りやめになったのを残念がって、左大弁、式部大輔、ほかに人々を引き連れて然るべき者が皆冷泉院に参ったところ、夕霧たちは六条院にいると聞いてのことであった。冷泉院は、宮中を離れた住まいにも、昔を忘れない秋の夜の月が照っています、同じことならこちらへ、と詠む。源氏は、それほど窮屈な身でもないのに、今はのんびりしておられるところへ参ることもほとんどないのを、残念に思ってお誘いくださったのは恐れ多いと言って、急なようだが参ろうとする。源氏は、月の光は同じ宮中に見えながら、私の宿のせいで秋の様子が変わってしまった、と返す。格別な歌ではないが、ただ昔と今の院の有様を思い続けたままのものであろう。使者に杯を与え、禄もこの上ない。人々の車を順序どおりに並べ直し、前駆の人々が立ち込んで、静かだった遊びは紛れて、一同は出発した。源氏の車に兵部卿宮を乗せ、夕霧、左衛門督、藤宰相などその場にいた人々は皆参る。直衣姿の軽い装いなので、下襲だけを着加えて、月が少し昇って更けた空が趣深いので、若い人々に笛などをさりげなく吹かせたりして、忍びやかな参上の様子である。正式な折には、窮屈で堂々とした儀式を尽くして互いに対面するが、今夜は昔の臣下の身分に立ち返って、軽々しく急に参ったので、冷泉院はたいそう驚き、待ち受けて喜ぶ。成熟した院の容貌はいよいよ源氏にそっくりで、すばらしい盛りの帝位を自ら捨てて静かに暮らしている様子は哀れ深い。その夜の歌は漢詩も和歌も趣深くおもしろかったが、例によって不十分な一部を書き留めるのも気が引けるので省く。明け方に詩などを披講して、早々に人々は退出した。

- 1御御おんかはらけかはらけかわらけふたふたふたわたりわたりわたりばかりばかりばかり參參まいるるる程程ほどににに冷冷れい泉泉ぜい院院いんよりよりより御御おんせうそこせうそこしょうそこありありあり。。。御御お前前まえののの御御おんあそびあそびあそび俄俄にわかにににとまりとまりとまりぬるぬるぬるををを口口くちをしがりをしがりおしがりててて、、、左左さ大大だい辨辨べん、、、式式しき部部ぶ大大たい輔輔ふ、、、又又また人々人々ひとびとひきひきひきゐゐいてててさるさるさるべきべきべきかぎりかぎりかぎり參參まいりりりたれたれたればばば、、、大大だい將將しょうなどなどなどははは六六ろく條條じょう院院いんにににさぶらひさぶらひさぶらい給給たまふふうととと聞聞きこしめししめししめしてててなりなりなりけりけりけり。。。「「「雲雲くもののの上上うえをををかけかけかけはなれはなれはなれたるたるたるすみかすみかすみかにににももも物物ものわすれわすれわすれせせせぬぬぬ秋秋あきののの夜夜よののの月月つき。。。おなじくおなじくおなじくばばば」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえれれればばば「「「なになになにばかりばかりばかり所所ところせきせきせき身身みののの程程ほどにににもももあらあらあらずずずながらながらながら今今いまはははのどやかのどやかのどやかにににおはしますおはしますおわしますににに、、、參參まいりりりなるゝなるゝなるることことこともももをさをさをさをさおさおさなきなきなきををを、、、ほいほいほいなきなきなきことことことにににおぼしおぼしおぼしあまりあまりあまりててて驚驚おどろかさかさかさせせせ給給たまへへえるるるかたじけなしかたじけなしかたじけなし」」」とてとてとて俄俄にわかなるなるなるやうやうようなれなれなれどどど參參まいりりり給給たまははわむむんとととすすす。。。「「「月月つきかげかげかげはははおなじおなじおなじ雲雲くも居居いににに見見みえええながらながらながらわわわががが宿宿やどからからからののの秋秋あきぞぞぞかはれかはれかわれるるる」」」。。。異異ことなるなるなることことことなかなかなかめれめれめれどどど唯唯ただ昔昔むかし今今いまののの御御おん有有あり樣樣さまのののおぼしおぼしおぼし續續つづけけけられられられけるけるけるまゝまゝままなななめりめりめり。。。御御おん使使つかいにににさかづきさかづきさかずき賜賜たまひひいててて祿祿ろくいといといと二二になしなしなし。。。
- 2人々人々ひとびとののの御御おん車車くるま次次し第第だいのののまゝまゝままにににひきひきひきなほしなほしなおし、、、御御お前前まえののの人々人々ひとびと立立たちちちこみこみこみてててしづかしづかしずかなりなりなりつるつるつる御御おんあそびあそびあそびまぎれまぎれまぎれててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ院院いんののの御御おん車車くるまにににみこみこみこ奉奉たてまつりりり、、、大大だい將將しょう、、、左左さ衛衛え門門もん督督かみ、、、藤藤とう宰宰さい相相しょうなどなどなどおはしおはしおわしけるけるけるかぎりかぎりかぎり皆皆みな參參まいりりり給給たまふふう。。。直直のう衣衣しにてにてにてかろゝかかろゝかかろろかなるなるなる御御おんよそひよそひよそいどもどもどもなれなれなればばば下下した襲襲がさねねねばかりばかりばかり奉奉たてまつりりり加加くわへへえててて、、、月月つきやゝやゝややさしさしさしあがりあがりあがり更更ふけけけぬるぬるぬる空空そらおもしろきおもしろきおもしろきににに、、、若若わかききき人々人々ひとびと笛笛ふえなどなどなどわざとわざとわざとなくなくなく吹吹ふかかかせせせ給給たまひひいなどなどなどしししててて忍忍しのびびびたるたるたる御御おんまゐりまゐりまいりのののさまさまさまなりなりなり。。。麗麗うるはしかるはしかるわしかるべきべきべき折折おりふしふしふしははは所所ところせくせくせくよだけきよだけきよだけきぎじきぎじきぎじきををを盡盡つくしししてててかたみかたみかたみににに御覽御覽ごらんぜぜぜられられられ給給たまふふう。。。又又またいにしへいにしへいにしえのののたゞたゞただ人人うどざまざまざまにににおぼしおぼしおぼしかへりかへりかえりててて、、、今今こ宵宵よいはははかるがるしきかるがるしきかるがるしきやうやうようにににふとふとふとかくかくかく參參まいりりり給給たまへへえれれればばば、、、いたういたういとう驚驚おどろききき待待まちちちよろこびよろこびよろこび聞聞きこえええ給給たまふふう。。。ねびねびねびとゝのひとゝのひととのい給給たまへへえるるる御御おんかたちかたちかたちいよいよいよいよいよいよことことことものものものならならならずずず、、、いみじきいみじきいみじき御御おん盛盛さかりのののよよよををを御心御心みこころとととおぼしおぼしおぼし捨捨すてててゝゝてしづかしづかしずかなるなるなる御御おん有有あり樣樣さまににに哀哀あわれすくなからすくなからすくなからずずず。。。そのそのその夜夜よののの歌歌うたどもどもどもからからからのののもももやまとやまとやまとのののももも心心こころばへばへばえ深深ふこうううおもしろくおもしろくおもしろくのみのみのみなむなむなん。。。例例れいののの事事ことたらたらたらぬぬぬかたかたかたはしはしはしはははまねぶまねぶまねぶもももかたはらかたはらかたわらいたくいたくいたくてててなむなむなん。。。明明あけ方方がたにににふみふみふみなどなどなどかうじかうじこうじててて疾疾とくくく人々人々ひとびとまかでまかでまかで給給たまふふう。。。
現代語訳
お杯が二巡りほど回る頃に、冷泉院からお手紙がある。宮中の御前のお遊びが急に取りやめになったのを残念がって、左大弁、式部大輔、そのほか人々を引き連れて、然るべき者が皆、冷泉院に参上したところ、大将(夕霧)などは六条院に伺候していらっしゃるとお聞きになってのことであった。「宮中を離れたこの住まいにも、昔を忘れない秋の夜の月が照っています。同じことなら、こちらで」と申し上げなさったので、源氏は「何ほども窮屈な身分でもないのに、今はのんびりとしていらっしゃるところに、参上して親しむこともほとんどないのを、本意でないことと思い余って、お誘いくださったのは恐れ多い」と言って、急なようだけれど参上なさろうとする。「月の光は同じ宮中に見えながら、私の宿のせいで、秋の様子が変わってしまったことです」。格別なことはない歌のようだが、ただ昔と今の院のご様子が思い続けられたままの歌なのだろう。お使いに杯をお与えになって、禄もこの上ない。
人々のお車を順序どおりに並べ直し、前駆の人々が立ち込んで、静かだった管弦のお遊びは紛れて、一同はお出かけになった。院(源氏)のお車に親王(蛍兵部卿宮)をお乗せ申し上げ、大将、左衛門督、藤宰相など、その場にいらっしゃった方は皆参上なさる。直衣姿で軽いご装束なので、下襲だけをお召し加えになって、月が少し昇って更けた空が趣深いので、若い人々に笛などをさりげなくお吹かせになったりして、忍びやかなご参上の様子である。正式な折には、窮屈で堂々とした儀式を尽くして、互いに対面なさる。また昔の臣下の身分のようにお思い返しになって、今夜は軽々しい様子で、急にこのように参上なさったので、冷泉院はたいそう驚き、待ち受けて喜び申し上げなさる。成熟して整っていらっしゃる院のお顔立ちは、いよいよ源氏と別人とは見えず、すばらしいお盛りの帝位を、ご自分の心からお捨てになって、静かに暮らしていらっしゃるご様子に、哀れが少なくない。その夜の歌は、漢詩も和歌も、趣深くおもしろいものばかりであった。例によって、不十分な一部分を書き留めるのも気が引けるので。明け方に詩などを披講して、早々に人々は退出なさった。
意訳
冷泉院から月見の誘いがあり、源氏は返歌をして、急遽冷泉院へ参上することにする。
源氏の一行は忍びやかに冷泉院へ参り、院は喜ぶ。源氏によく似た院の姿は哀れ深く、明け方まで詩歌の宴が続く。
語釈・文法注
文法
- 「雲の上をかけはなれたるすみか」(雲の上をかけはなれたるすみかにも)
- 宮中を離れた住まい。譲位した冷泉院の御所。
- 「わが宿からの秋ぞかはれる」(わが宿からの秋ぞかはれる)
- 私の住まいのせいで、秋の様子が変わってしまった。冷泉院の譲位を惜しむ気持ちを込める。
- 「ことものならず」(御かたちいよいよことものならず)
- 別のものではない。源氏とそっくりであることをいう。冷泉院は源氏の実子。
- 「まねぶもかたはらいたくて」(まねぶもかたはらいたくてなむ)
- 語り手の省筆の言葉。
解説
冷泉院は、源氏と藤壺の間に生まれた不義の子である。成熟した院の顔は、いよいよ源氏にそっくりになっている。源氏は、帝位を捨てて静かに暮らす院の姿に、深い哀れを感じる。若菜下の巻で譲位した冷泉院は、源氏にとって、秘密の子であり、誰よりも大切な存在である。
柏木と女三の宮の子である薫の物語と、源氏と藤壺の子である冷泉院の物語とが、この巻で響き合っている。源氏が冷泉院を訪れる場面は、源氏自身の罪と、その子への愛情を静かに描いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、762–763頁(コマ92)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日