源氏物語 第38帖 鈴虫(9)
月の宴と柏木の追憶
宮中でも今夜は月の宴があるはずだったが、取りやめになって物足りなく思っていたところ、六条院に人々が参っていると聞き伝えて、あれこれの上達部なども参る。虫の音の品定めをして、琴などを合奏して興が乗ったところで、源氏は、月を見る宵はいつでも物哀れでない折はないが、今夜の新たな月の色には、本当にこの世の外のことまで思いが流れる、亡き権大納言(柏木)は、何かの折ごとに、いないにつけていっそう偲ばれることが多く、公私の催しの折にも、華やかな彩りが失せた気がする、花や鳥の色にも音にも、よく分別して語り合うかいのある人だったのにと言い出して、自らも合奏する琴の音にも涙で袖を濡らす。御簾の内の宮も耳をとめて聞いているだろうかと、心の片方では思いながらも、このような管弦の遊びの折には、まず柏木を恋しく、帝なども思い出すのだった。源氏は、今夜は鈴虫の宴で夜を明かそうと言う。

- 1うちうちうちのののおおお前前まえににに今今こ夜夜よいははは月月つきののの宴宴えんあるあるあるべかりべかりべかりつるつるつるをををとまりとまりとまりてててさうざうしかりさうざうしかりそうぞうしかりつるつるつるににに、、、このこのこの院院いんににに人々人々ひとびと參參まいりりり給給たまふふうととと聞聞きききき傳傳つたへへえててて、、、これかれこれかれこれかれ上達部上達部かんだちめなどなどなどももも參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。蟲蟲むしののの音音ねのののさだめさだめさだめをををししし給給たまひひいててて御御おん琴琴ことどもどもどもののの聲聲こえ々々ごえかきかきかきあはせあはせあわせててておもしろきおもしろきおもしろき程程ほどににに、、、「「「月月つき見見みるるる宵宵よいのののいついついつとてとてとてももも物物もの哀哀あわれならならならぬぬぬをりをりおりはははなきなきなき中中なかににに、、、今今こ宵宵よいのののあらたあらたあらたなるなるなる月月つきののの色色いろにににはははげにげにげに猶猶なお我我わががが世世よのののほかほかほかまでまでまでこそこそこそよろづよろづよろず思思おもひひいながさながさながさるれるれるれ。。。故故こ權權ごん大大だい納納な言言ごん何何なにののの折折おり々々おりにににもももなきなきなきにににつけつけつけててていとゞいとゞいとど忍忍しのばばばるゝるゝるることことことおほくおほくおおく、、、おほやけおほやけおおやけわたくしわたくしわたくし物物ものののの折折おりふしふしふしのののにほひにほひにおいうせうせうせたるたるたる心心こころちちちこそこそこそすれすれすれ。。。花花はな鳥鳥とりののの色色いろにににももも音音ねにににももも思思おもひひいわきまへわきまへわきまえいふかひいふかひいうかいあるあるあるかたかたかたのののいといといとうるさかりうるさかりうるさかりしししものものものををを」」」などなどなどのたまひのたまひのたまい出出いでででゝゝてみづからみづからみずからもももかきかきかき合合あわせせせ給給たまふふう御御おん琴琴ことののの音音ねにににももも袖袖そでぬらしぬらしぬらし給給たまひひいつつつ。。。御御み簾簾すののの內內うちにににももも耳耳みみとゞめとゞめとどめてててややや聞聞きききき給給たまふふうらむらむらんととと片片かたつつつ方方かたののの御心御心みこころにににはははおぼしおぼしおぼしながらながらながら、、、かゝるかゝるかかる御御おん遊遊あそびののの程程ほどにににはははまづまづまず戀戀こいしうしうしゅう內內うちなどなどなどにににもももおぼしおぼしおぼし出出いでででけるけるける。。。「「「今今こ宵宵よいははは鈴鈴すず蟲蟲むしのののえんえんえんにてにてにて明明あかしししてててむむん」」」とととおぼしおぼしおぼしのたまふのたまふのたまう。。。
現代語訳
宮中の帝の御前でも、今夜は月の宴があるはずだったのを、取りやめになって物足りなく思っていたところ、この六条院に人々が参上なさると聞き伝えて、あれこれの上達部なども参上なさった。虫の音の品定めをなさって、御琴などの音を合奏して興が乗ってきた頃に、源氏は「月を見る宵は、いつといっても物哀れでない折はない中で、今夜の新たな月の色には、本当にやはり、この世の外のことまでも、何かと思いが流れていくことよ。故権大納言(柏木)は、何かの折々にも、いないにつけて、いっそう偲ばれることが多く、公私の催しの折にも、華やかな彩りが失せた気がする。花や鳥の色にも音にも、よくわきまえて、語り合うかいのある方面で、たいそう立派であったのに」などと言い出しなさって、ご自身も合奏なさる御琴の音にも、袖を涙で濡らしなさった。御簾の内でも、宮が耳をとめてお聞きになっているだろうかと、お心の片方ではお思いになりながらも、このような管弦のお遊びの折には、まず柏木を恋しく、帝なども思い出しなさるのだった。源氏は「今夜は鈴虫の宴で夜を明かそう」とお思いになり、おっしゃる。
意訳
宮中の月の宴が取りやめになり、上達部たちも六条院に集まる。源氏は合奏の中で柏木を偲び、袖を濡らす。
語釈・文法注
文法
- 「さうざうし」(とまりてさうざうしかりつるに)
- 物足りない、心寂しい。
- 「うるさし」(いふかひあるかたのいとうるさかりしものを)
- ここでは、行き届いていて立派である、の意。
- 「片つ方の御心」(片つ方の御心にはおぼしながら)
- 心の片方。源氏の複雑な心中の一面。
解説
源氏は、月の宴の席で柏木を偲ぶ。柏木は源氏の妻を奪った男であるが、管弦の遊びの折には、その才能が惜しまれてならない。源氏は、御簾の内の宮が自分の言葉を聞いているかと意識しながら、柏木の死を悼む。
「片つ方の御心」という表現は、源氏の心の複雑さを示している。宮への皮肉の意識と、柏木を惜しむ純粋な思いとが、源氏の中で併存している。柏木の死は、源氏にとっても大きな喪失であった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、760–763頁(コマ91–92)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日