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源氏物語 第38帖 鈴虫(7)

鈴虫の宴

登場人物:女三の宮・光源氏・秋好中宮

十五夜の月がまだ姿を隠している夕暮れに、宮は仏前で端近くに座って物思いにふけりながら念誦している。若い尼君たちが二、三人、花を供えようとして鳴らす閼伽坏の音や、水の気配などが聞こえ、俗世とは様変わりした勤めに精を出しているのがたいそう哀れなところへ、源氏がいつものように訪れて、虫の音がたいそうしきりに乱れる夕べだなと言って、自分もひそかに経を口ずさむ。阿弥陀の大呪がたいそう尊くほのかに聞こえる。本当に、さまざまな虫の声が聞こえる中で、鈴虫が鳴き出したところは華やかで趣がある。源氏は、秋の虫の声はどれも趣があるが、松虫が特にすぐれていると、秋好中宮が遠い野辺から特に探し取って放させたのに、はっきり鳴いて生き続けるものは少ないようだ、名に反して命のはかない虫なのだろう、心のままに人の聞かない奥山や遠い野の松原で惜しみなく鳴くのも、ひどく隔て心のある虫だ、鈴虫は気安く当世風なのがかわいいと言う。宮は、秋はつらいものと知ってしまったが、振り捨てがたい鈴虫の声です、とひそかに詠む。その様子はたいそう優美で上品でおっとりしている。源氏は、何とおっしゃったか、思いがけないお言葉だと言って、自分の心から草の宿を厭って出家なさったが、やはり鈴虫の声のようにあなたの声は衰えず美しい、と返し、琴を取り寄せて珍しく弾く。

十五夜の夕暮れ、尼姿の女三の宮が仏前で念誦し、鈴虫の鳴く秋の野を前に源氏が琴を弾いている場面(AI生成)
十五夜の夕暮れ、尼姿の女三の宮が仏前で念誦し、鈴虫の鳴く秋の野を前に源氏が琴を弾いている場面
  1. 1十じふ十じふじゅう五ご五ごご夜や夜ややののの月つき月つきつきのののまだまだまだ影かげ影かげかげかくしかくしかくしたるたるたる夕ゆふ夕ゆふゆう暮ぐれ暮ぐれぐれににに佛ほとけ佛ほとけほとけのののおおお前まへ前まへまえににに宮みや宮みやみやおはしおはしおわしててて端はし端はしはし近ちか近ちかちこうううながめながめながめ給たま給たまたまひひいつゝつゝつつ念ねん念ねんねん誦ず誦ずずししし給たま給たまたまふふう。。。若わか若わかわかききき尼あま尼あまあま君ぎみ君ぎみぎみたちたちたち二ふた二ふたふた三み三みみ人たり人たりたり花はな花はなはな奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるとてとてとてならすならすならすあかつきあかつきあかつきののの音おと音おとおと、、、水みづ水みづみずのののけはひけはひけわいなどなどなど聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる、、、さまさまさまかはりかはりかわりたるたるたるいとなみいとなみいとなみにににそゝぎそゝぎそそぎあへあへあえるるる、、、いといといと哀あはれ哀あはれあわれなるなるなるににに例れい例れいれいのののわたりわたりわたり給たま給たまたまひひいててて「「「蟲むし蟲むしむしののの音ね音ねねいといといとしげうしげうしぎょう亂みだ亂みだみだるゝるゝるる夕ゆふべ夕ゆふべゆうべかなかなかな」」」とてとてとて、、、われわれわれももも忍しの忍しのしのびびびてててうちうちうち誦ず誦ずずじじじ給たま給たまたまふふう。。。阿あ阿ああ彌み彌みみ陀だ陀だだのののだいずだいずだいずいといといとたふとくたふとくとうとくほのぼのほのぼのほのぼの聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。げにげにげに聲こゑ聲こゑこえ々ごゑ々ごゑごえ聞きこ聞きこきこえええたるたるたる中なか中なかなかににに鈴すゞ鈴すゞすず蟲むし蟲むしむしのののふりふりふり出い出いいでででたるたるたるほどほどほどはなやかはなやかはなやかにににをかしをかしおかし。。。
  2. 2「「「秋あき秋あきあきののの蟲むし蟲むしむしののの聲こゑ聲こゑこえいづれいづれいずれとととなきなきなき中なか中なかなかににに松まつ松まつまつ蟲むし蟲むしむしのののなむなむなんすぐれすぐれすぐれたるたるたるとてとてとて、、、中ちゆう中ちゆうちゅう宮ぐう宮ぐうぐうののの遙はる遙はるはるけきけきけき野の野のの邊べ邊べべををを分わ分わわけけけててていといといとわざとわざとわざと尋たづ尋たづたずねねねとりとりとりつゝつゝつつはなたはなたはなたせせせ給たま給たまたまへへえるるる、、、しるくしるくしるく鳴な鳴ななきききつゝつゝつつふるふるふるこそこそこそすくなかすくなかすくなかなれなれなれ名な名ななにににはははたがひたがひたがいててて命いのち命いのちいのちののの程ほど程ほどほどはかなきはかなきはかなき蟲むし蟲むしむしにににぞぞぞあるあるあるべきべきべき。。。心こころ心こころこころにににまかせまかせまかせててて人ひと人ひとひと聞き聞ききかかかぬぬぬ奧おく奧おくおく山やま山やまやま遙はる遙はるはるけきけきけき野の野ののののの松まつ松まつまつ原ばら原ばらばらににに聲こゑ聲こゑこえをををしましましまぬぬぬもももいといといとへだてへだてへだて心こころ心こころこころあるあるある蟲むし蟲むしむしににになむなむなんありありありけるけるける。。。鈴すゞ鈴すゞすず蟲むし蟲むしむしははは心こころ心こころこころやすくやすくやすく今いま今いまいまめいめいめいたるたるたるこそこそこそらうたけれらうたけれろうたけれ」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえばばば、、、宮みや宮みやみや、、、「「「大おほ大おほおおかたかたかたののの秋あき秋あきあきをををばばばうしうしうしとととしりしりしりにににしししをををふりふりふり捨す捨すすてててがたきがたきがたきすゞむしすゞむしすずむしののの聲こゑ聲こゑこえ」」」ととと忍しの忍しのしのびやかびやかびやかにににのたまふのたまふのたまう、、、いといといとなまめいなまめいなまめいてててあてあてあてにににおほどかおほどかおおどかなりなりなり。。。「「「いかにいかにいかにとととかかかややや。。。いでいでいで思おもひ思おもひおもいののの外ほか外ほかほかなるなるなる御おん御おんおん事こと事ことことにににこそこそこそ」」」とてとてとて、、、「「「こゝろこゝろこころもてもてもて草くさ草くさくさのののやどりやどりやどりをををいとへいとへいとえどもどもどもなほなほなおすゞすゞすず蟲むし蟲むしむしののの聲こゑ聲こゑこえぞぞぞふりふりふりせせせぬぬぬ」」」などなどなど聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいてててきんきんきんののの御おん御おんおん琴こと琴ことこと召め召めめしししててて珍めづら珍めづらめずらしくしくしく彈ひ彈ひひききき給たま給たまたまふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

十五夜の月がまだ姿を隠している夕暮れに、宮は仏の御前にいらっしゃって、端近くで物思いにふけりながら念誦していらっしゃる。若い尼君たちが二、三人、花をお供えしようとして鳴らす閼伽坏の音や、水の気配などが聞こえるのも、俗世とは様変わりした勤めに精を出しているのが、たいそう哀れなところに、源氏がいつものようにお渡りになって、「虫の音がたいそうしきりに乱れる夕べだね」と言って、ご自分もひそかに経を口ずさみなさる。阿弥陀の大呪がたいそう尊く、ほのかに聞こえる。本当に、さまざまな虫の声が聞こえる中に、鈴虫が鳴き出したところは、華やかで趣がある。

源氏は「秋の虫の声は、どれがすぐれているということもない中で、松虫が特にすぐれているといって、中宮(秋好中宮)が遠い野辺を分けて、たいそう特別に探し取っては放させなさったが、はっきりと鳴き続けて生き延びるものは少ないようだ。名(松=待つ・長寿)に反して、命のはかない虫なのだろう。心のままに、人の聞かない奥山や遠い野の松原で、惜しみなく声を立てるのも、ひどく隔て心のある虫であるよ。鈴虫は気安く当世風なのがかわいい」などとおっしゃると、宮は、「秋(飽き)はつらいものと、だいたい知ってしまいましたけれど、振り捨てがたい鈴虫の声です」と、ひそやかにおっしゃる。その様子はたいそう優美で、上品で、おっとりしている。源氏は「何とおっしゃったのですか。いや、思いがけないお言葉です」と言って、「ご自分の心から草の宿(この世)を厭いなさったけれど、やはり鈴虫の声のように、あなたの声は衰えず美しいことよ」などと申し上げなさって、琴の御琴をお取り寄せになって、珍しくお弾きになる。

意訳

十五夜の夕暮れ、尼たちが勤めに励む中、源氏が訪れ、鈴虫の声が華やかに聞こえる。

源氏は松虫と鈴虫を比べ、宮は秋はつらいが鈴虫の声は捨てがたいと詠み、源氏は返歌して琴を弾く。

語釈・文法注

文法

「あかつき」(花奉るとてならすあかつきの音)
閼伽坏。仏に供える水を入れる器。
「だいず」(阿彌陀のだいずいとたふとく)
大呪。阿弥陀如来の長い陀羅尼。
「大かたの秋をばうしとしりにしを」(大かたの秋をばうしとしりにしを)
「秋」に「飽き」をかけ、源氏に飽きられたつらさを暗示する。
「ふりせぬ」(なほすゞ蟲の聲ぞふりせぬ)
古びない、衰えない。「振り」は鈴の縁語。

解説

鈴虫の巻の題名の由来となる場面である。十五夜の夕暮れ、尼たちの勤めの音と、秋の虫の声とが響き合う。源氏は松虫と鈴虫を比べ、気安く当世風な鈴虫をかわいいとほめる。

宮の歌は、「秋(飽き)」に源氏に飽きられたつらさをかけている。それでも鈴虫の声(この世の情趣)は捨てがたいと詠む宮の言葉には、出家してもなお残る未練がほのかに表れている。源氏はその言葉に驚き、宮の声の美しさをほめる。二人の間に、つかのまの心の通い合いが生まれている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、760–761頁(コマ91)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日