源氏物語 第38帖 鈴虫(6)
秋の野と尼たち
秋ごろ、源氏は宮の住む西の渡殿の前、中の塀の東の辺り一帯を野のように造らせた。閼伽の棚などを設けて、そちらに仏事向きに整えた住まいの設えはたいそう優美である。宮の弟子として慕って出家した尼たちは、乳母や古参の女房たちはもちろん、若い盛りの者も、心が定まって、尼として一生を過ごせそうな者だけを選んで尼にさせた。我も我もと競い合ったが、源氏はそれを聞いて、あってはならないことだ、本心からでない人が少しでも交じると、周りの人が迷惑し、軽々しい噂が立つものだと諫めて、十人余りほどだけが尼姿で仕えている。源氏はこの野に虫を放たせて、風が少し涼しくなっていく夕暮れに訪れ、虫の音を聞くふりをして、やはり宮を思い切れない様子を申し上げて悩ませるので、宮は、いつものように、あってはならないお心のようだと、ひたすら煩わしく思う。源氏は人前では変わりなく振る舞っていたが、内心ではつらいことを知った様子がはっきりしていて、すっかり変わってしまった源氏の心を何とか見ないで済ませたいという気持ちから、ほとんど思い立った出家なので、今は源氏から離れて気楽なのに、なおこのように言い寄るのがつらく、人里離れた住まいにでも移りたいと思うが、大人びた態度でそう強く申し出ることもできない。

- 1秋秋あき頃頃ごろ西西にしののの渡渡わた殿殿どのののの前前まえののの中中なかののの塀塀へいののの東東ひんがしのののきはきはきわをををおしなべておしなべておしなべて野野のにににつくらつくらつくらせせせ給給たまへへえりりり。。。あかあかあかののの棚棚たななどなどなどしししてててそのそのその方方かたにににしししなさなさなさせせせ給給たまへへえるるる御御おんしつらひしつらひしつらいなどなどなどいといといとなまめきなまめきなまめきたりたりたり。。。御御おん弟弟で子子しにににしたひしたひしたい聞聞きこえええたるたるたる尼尼あまどもどもども御御おん乳乳め母母のとふるふるふる人人びとどもどもどもはははさるさるさるものものものにてにてにて、、、若若わかきききさかりさかりさかりのののももも心心こころさだまりさだまりさだまりさるさるさる方方かたにてにてにて世世よををを盡盡つくしししつつつべきべきべきかぎりかぎりかぎりはははえりえりえりてててなむなむなんなさなさなさせせせ給給たまひひいけるけるける。。。さるさるさるきほひきほひきおいにににはははわれわれわれもももわれわれわれもももととときしろひきしろひきしろいけれけれけれどどどおとゞおとゞおとどののの君君きみ聞聞きこしめししめししめしててて「「「あるあるあるまじきまじきまじきことことことなりなりなり、、、心心こころならならならぬぬぬ人人ひとすこしすこしすこしもももまじりまじりまじりぬれぬれぬればばばかたへかたへかたえののの人人ひと苦苦くるしうしうしゅうあはあはしきあはあはしきあわあわしき聞聞きこえええ出出いでででくるくるくるわざわざわざなりなりなり」」」ととと諫諫いさめめめ給給たまひひいててて十十じゅう餘餘よ人人にんばかりばかりばかりののの程程ほどぞぞぞかたちかたちかたちことことことにてにてにてはははさぶらふさぶらふさぶらう。。。
- 2このこのこの野野のににに蟲蟲むしどもどもどもはなたはなたはなたせせせ給給たまひひいててて風風かぜすこしすこしすこし凉凉すずしくしくしくなりなりなり行行ゆくくく夕夕ゆう暮暮ぐれににに渡渡わたりりり給給たまひひいててて、、、蟲蟲むしののの音音ねきゝきゝきき給給たまふふうやうやうようにてにてにて猶猶なお思思おもひひい離離はなれれれぬぬぬさまさまさまををを聞聞きこえええなやましなやましなやまし給給たまへへえばばば、、、例例れいののの御心御心みこころはははあるあるあるまじきまじきまじきにににこそこそこそあああなれなれなれととと偏偏ひとえにににむつかしきむつかしきむつかしきことことことににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。人人ひと目目めにににこそこそこそ變變かわるるることことことなくなくなくもてもてもてなしなしなし給給たまひひいしししががが、、、うちうちうちにににはははうきうきうきをををしりしりしり給給たまふふう氣色氣色けしきしるくしるくしるくこよなうこよなうこよのう變變かわりりりにににししし御心御心みこころをををいかでいかでいかで見見みえええ奉奉たてまつらららじじじののの御心御心みこころにてにてにておほうおほうおおうははは思思おもひひいなりなりなり給給たまひひいにににししし御御おん世世よのののそむきそむきそむきなれなれなればばば今今いまはははもてもてもてはなれはなれはなれててて心心こころやすきやすきやすきににに猶猶なおかやうかやうかようににになどなどなど聞聞きこえええ給給たまふふうぞぞぞ、、、苦苦くるしうしうしゅうててて人人ひとばなればなればなれたらたらたらむむん御御おん住住すまひまひまいにににもももがががなななとととおぼしおぼしおぼしなれなれなれどどど、、、およすけおよすけおよすけてててえええさささもももしひしひしい申申もうししし給給たまははわずずず。。。
現代語訳
秋ごろ、宮のお住まいの西の渡殿の前、中の塀の東の辺り一帯を、野のようにお造らせになった。閼伽の棚などを設けて、そちらに仏道向きに整えさせなさったお住まいの設えなどは、たいそう優美である。宮のお弟子として慕い申し上げて出家した尼たちは、御乳母や古参の女房たちはもちろんのこととして、若い盛りの者も、心が定まって、そのような尼として一生を過ごせそうな者だけを選んで、尼にさせなさった。そのような競い合いには、我も我もと争い合ったけれど、源氏の君がお聞きになって、「あってはならないことだ。本心からでない人が少しでも交じると、周りの人が迷惑し、軽々しい評判が立つものだ」とお諫めになって、十人余りほどだけが尼姿でお仕えしている。
源氏はこの野に虫を放たせなさって、風が少し涼しくなっていく夕暮れにお渡りになって、虫の音をお聞きになるふりをして、やはり宮を思い切れない様子を申し上げて悩ませなさるので、宮は、いつものお心で、あってはならないことのようだと、ひたすら煩わしいことにお思い申し上げていらっしゃった。源氏は人目にこそ変わることなく扱っていらっしゃったが、内心では、つらいことを知っていらっしゃる様子がはっきりしていて、この上なく変わってしまった源氏のお心を、何とかして見ないで済ませたいというお気持ちで、大半はそのように思い立ちなさった出家なので、今は源氏から離れて気楽なのに、なおこのようになどと申し上げなさるのがつらくて、人里離れたお住まいにでも移りたいとお思いになるけれど、大人びて、そこまで強くは申し出ることもおできにならない。
意訳
源氏は宮の住まいの前を野のように造り、本心から出家を望む者だけを宮の尼弟子とする。
源氏は虫の音を聞くふりをして宮に未練を訴えるが、源氏から逃れるために出家した宮は煩わしく思う。
語釈・文法注
文法
- 「あかの棚」(あかの棚などして)
- 閼伽棚。仏に供える水や花を置く棚。
- 「きしろふ」(われもわれもときしろひけれど)
- 競い合う、張り合う。
- 「およすく」(およすけてえさもしひ申し給はず)
- 大人びる、分別がつく。
解説
源氏は宮の住まいの前に秋の野を造り、虫を放つ。この野が、次の場面の鈴虫の宴の舞台となる。源氏が尼の選び方に厳しい態度を示すのは、軽々しい出家が宮の評判を傷つけることを恐れてのことである。
源氏は、出家した宮になお未練を訴える。宮は、変わってしまった源氏の心を見たくなくて出家したのに、源氏はなお言い寄ってくる。宮の出家の本当の理由が、ここで明らかにされている。宮の心は、もはや源氏から離れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、758–761頁(コマ90–91)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日