源氏物語 第38帖 鈴虫(3)
蓮の歌の贈答
宮が御座を譲った仏の飾りつけを見やるにつけても、源氏はさまざまな思いがわいて、このような仏事を一緒に営むことになろうとは思いもしなかった、せめて来世では、あの極楽の蓮の花の中の宿で、隔てなく一緒にいようと思ってほしいと言って泣く。源氏は、来世は同じ蓮の台にと約束したのに、露が別れるように、今日は別々の身になったのが悲しい、と硯に筆を浸して、香染めの扇に書きつける。宮は、隔てなく蓮の宿を約束しても、あなたの心は澄まず、同じ台に住もうとはしないでしょう、と書く。源氏は、言っても仕方のないほどけなされたものだと笑いながらも、やはり哀れに物思いにふけっている様子である。

- 1おましおましおましををを讓讓ゆずりりり給給たまへへえるるる佛佛ほとけののの御御おんしつらひしつらひしつらい見見みやりやりやり給給たまふふうもももさまざまさまざまさまざまににに、、、「「「かゝるかゝるかかる方方かたののの御御おん營營いとなみみみをををももも諸諸もろ共共ともににに急急いそがががむむんものものものとととははは思思おもひひいよらよらよらざりざりざりしししことことことなりなりなり。。。よしよしよし後後のちののの世世よにににだにだにだにかのかのかの花花はなのののなかなかなかのののやどりやどりやどりににに隔隔へだてててなくなくなくとととおもほせおもほせおもおせ」」」とてとてとて、、、うちうちうちなきなきなき給給たまひひいぬぬぬ。。。「「「はちすはちすはちす葉葉ばをををおなじおなじおなじうてなうてなうてなととと契契ちぎりりりおきおきおきててて露露つゆのののわかるゝわかるゝわかるるけふけふきょうぞぞぞ悲悲かなしきしきしき」」」ととと御御おん硯硯すずりにににさしさしさしぬらしぬらしぬらしててて香香こう染染ぞめめめなるなるなる御御おん扇扇おうぎににに書書かきききつけつけつけ給給たまへへえりりり。。。宮宮みや、、、「「「へだてへだてへだてなくなくなく蓮蓮はちすののの宿宿やどをををちぎりちぎりちぎりてててももも君君きみがががこゝろこゝろこころやややすますますまじじじとととすすすらむらむらん」」」ととと書書かききき給給たまへへえれれればばば、、、「「「いふかひいふかひいうかいなくなくなくもももおもほしおもほしおもおしくたすくたすくたすかなかなかな」」」ととと打打うちちち笑笑わらひひいながらながらながら、、、猶猶なお哀哀あわれととと物物ものをををおもほしおもほしおもおしたるたるたる御御おん氣色氣色けしきなりなりなり。。。
現代語訳
宮が御座所をお譲りになった仏の飾りつけを見やりなさるにつけても、源氏はさまざまに思われて、「このような仏事のお営みを、ご一緒に急いで準備することになろうとは、思いも寄らなかったことです。せめて来世では、あの極楽の蓮の花の中の宿で、隔てなく一緒にいようとお思いください」と言って、お泣きになった。「来世は同じ蓮の台にと約束しておいて、蓮の葉の露が別れて落ちるように、別々の身となった今日が悲しいことよ」と、御硯に筆を浸して、香染めの御扇にお書きつけになった。宮は、「隔てなく同じ蓮の宿にと約束しても、あなたの心は澄まずに、そこに住もうとはなさらないでしょう」とお書きになったので、源氏は「言っても仕方のないほど、けなしなさるものですね」と笑いながらも、やはり哀れに物思いをしていらっしゃるご様子である。
意訳
源氏は来世は同じ蓮の台にと詠み、宮は、あなたの心は澄まず住まないだろうと返し、源氏は笑いながらも哀れに思う。
語釈・文法注
文法
- 「花のなかのやどり」(かの花のなかのやどりに)
- 極楽浄土の蓮の花の中の宿。往生した者は蓮の花の中に生まれるとされた。
- 「おなじうてな」(はちす葉をおなじうてなと契りおきて)
- 一蓮托生。極楽で同じ蓮の台に生まれること。
- 「すまじ」(君がこゝろやすまじとすらむ)
- 「澄まじ」と「住まじ」をかける。心が澄まず、蓮の宿に住もうとしないだろう。
- 「おもほしくたす」(いふかひなくもおもほしくたすかな)
- お思いになってけなす。見下す。
解説
源氏は、来世では宮と同じ蓮の台にと詠む。夫婦の縁は切れたが、来世での再会を願う歌である。しかし宮は、源氏の心は澄まず、同じ台に住もうとはしないだろうと返す。宮の歌には、源氏の愛情の薄さへの静かな批判が込められている。
出家した宮は、かつてのように源氏の言葉にただ従うことはない。宮の歌は、源氏の心を見透かしている。源氏は笑ってごまかすが、宮の言葉は源氏の胸に刺さっている。夫婦の間の溝の深さが、歌の贈答に表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、758–759頁(コマ90)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日