源氏物語 第34帖 若菜上(50)
唐猫と垣間見
唐猫はまだ人に慣れていないのか、長い綱が物に絡まり、逃げようと引っ張るうちに、御簾の端が大きく引き上げられてしまうが、すぐに直す人もいない。几帳の端から少し奥に、袿姿で立っている人がいる。西から二間目の東の端なので、隠れようもなくはっきりと見える。紅梅襲であろうか、濃淡の衣を幾重にも重ね、桜の織物の細長を着ている。髪は糸を縒りかけたようになびき、裾は豊かに切りそろえられて、背丈より七、八寸も長い。衣の裾に埋もれるようにほっそりと小さく、髪のかかる横顔は、言いようもなく上品でかわいらしい。夕暮れでよく見えないのが残念である。女房たちは蹴鞠に見入っていて、御簾が上がったことに気づかない。猫がひどく鳴くので振り返った顔つきは、おっとりと若く美しい。夕霧は、近寄るのも軽々しいので、咳払いをして知らせると、その人は奥へ入る。夕霧も心残りに思うが、まして女三の宮に心を寄せていた柏木は、胸がふさがり、その姿が忘れられない。夕霧は、柏木が見たに違いないと気の毒に思う。柏木は、せめてもの慰めに猫を抱き寄せると、よい香りがして、かわいらしく鳴くのも宮になぞらえて慕わしく思う。源氏が、上達部の席が軽々しいと、一同を対の南面に招き入れる。

- 1猫猫ねこはははまだまだまだよくよくよく人人ひとにににもももなつかなつかなつかぬぬぬにににややや、、、つなつなつないといといと長長ながくくくつきつきつきたりたりたりけるけるけるををを物物ものにににひきひきひきかけかけかけまつはれまつはれまつわれにににけるけるけるををを、、、逃逃にげげげむむんとととひこじろふひこじろふひこじろう程程ほどにににみすみすみすのののそばそばそばいといといとあらはあらはあらわにににひきひきひきあげあげあげられられられたるたるたるをををとみとみとみにににひきひきひきなほすなほすなおす人人ひともももなしなしなし。。。このこのこの柱柱はしらのののもともともとにににありありありつるつるつる人々人々ひとびとももも心心こころあわたゞしげあわたゞしげあわただしげにてにてにてものものものおぢおぢおじしししたるたるたるけはひけはひけわいどもどもどもなりなりなり。。。几几き帳帳ちょうのののきはきはきわ少少すこししし入入いりりりたるたるたる程程ほどにににうちきうちきうちき姿姿すがたにてにてにて立立たちちち給給たまへへえるるる人人ひとありありあり。。。端端はしよりよりより西西にしののの二二にののの間間まのののひんがしひんがしひんがしのののそばそばそばなれなれなればばば紛紛まぎれれれ所所ところもももなくなくなくあらはあらはあらわににに見見み入入いれれれらるらるらる。。。紅紅こう梅梅ばいにににやややあらあらあらむむん濃濃こききき薄薄うすききき、、、すぎすぎすぎすぎすぎすぎにににあまたあまたあまた重重かさなりりりたるたるたるけぢめけぢめけじめ、、、はなやかはなやかはなやかににに草草そう紙紙しのののつまつまつまのののやうやうようににに見見みえええててて櫻櫻さくらののの織織おり物物もののののほそながほそながほそながなるなるなるべしべしべし、、、御御おんくしくしくしのののすそすそすそまでまでまでけざやかけざやかけざやかににに見見みゆるゆるゆるははは絲絲いとをををよりよりよりかけかけかけたるたるたるやうやうようににになびきなびきなびきてててすそすそすそのののふさやかふさやかふさやかにににそがそがそがれれれたるたるたるいといといと美美うつくしげしげしげにてにてにて七七しち八八はっ寸寸すんばかりばかりばかりぞぞぞ餘餘あまりりり給給たまへへえるるる。。。御御おんぞぞぞのののすそすそすそがちがちがちにににいといといとほそくほそくほそくさゝやかさゝやかささやかにてにてにて姿姿すがたつきつきつき髮髮かみのののかゝりかゝりかかり給給たまへへえるるるそばそばそばめめめいひいひいいしらしらしらずずずあてあてあてにににらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。夕夕ゆうかげかげかげなれなれなればばばさやかさやかさやかならならならずずず奧奧おく暗暗くらききき心地心地ここちするするするもももいといといと飽飽あかかかずずず口口くちをしをしおし。。。鞠鞠まりににに身身みをををなぐるなぐるなぐる若若わか公公きん達達だちののの花花はなのののちるちるちるををを惜惜おしみしみしみもももあへあへあえぬぬぬ氣色氣色けしきどもどもどもををを見見みるるるとてとてとて、、、人々人々ひとびとあらはあらはあらわをををふとふとふともももえええ見見みつけつけつけぬぬぬなるなるなるべしべしべし。。。猫猫ねこのののいたくいたくいたくなけなけなけばばば見見み返返かえりりり給給たまへへえるるるおもゝちおもゝちおももちもてなしもてなしもてなしなどなどなどいといといとおいらかおいらかおいらかにてにてにて若若わかくくくうつくしうつくしうつくしののの人人ひとやややとととふとふとふと見見みえええたりたりたり。。。
- 2大大だい將將しょういといといとかたはらいたけれかたはらいたけれかたわらいたけれどどどはひはひはいよらよらよらむむんもももなかなかなかなかなかなかいといといとかるがるしけれかるがるしけれかるがるしければばば、、、唯唯ただ心心こころををを得得えさせさせさせてててうちうちうちしはぶきしはぶきしわぶき給給たまへへえるるるにににぞぞぞやをらやをらやおらひきひきひき入入いりりり給給たまふふう。。。さるはさるはさるは我我わがががこゝちこゝちここちにににもももいといといと飽飽あかかかぬぬぬこゝちこゝちここちししし給給たまへへえどどど猫猫ねこのののつなつなつなゆるしゆるしゆるしつれつれつればばば心心こころにににもももあらあらあらずずず打打うちちちなげかなげかなげかるるる。。。ましてましてましてさばかりさばかりさばかり心心こころをををしめしめしめたるたるたる衛衛え門門もん督督かみははは胸胸むねつとつとつとふたがりふたがりふたがりててて誰誰たればかりばかりばかりにににかはかはかはあらあらあらむむんこゝらこゝらここらののの中中なかにににしるきしるきしるきうちきうちきうちきすがたすがたすがたよりよりよりももも人人ひとににに紛紛まぎるるるべくべくべくもももあらあらあらざりざりざりつるつるつる御御おんけはひけはひけわいなどなどなど心心こころにににかゝりかゝりかかりててて覺覺おぼゆゆゆ。。。さらぬさらぬさらぬ顏顏かおにににもてなしもてなしもてなしたれたれたれどどどまさにまさにまさにめめめとゞめとゞめとどめじじじやややととと大大だい將將しょうはははいとほしくいとほしくいとおしくおぼさおぼさおぼさるるる。。。
- 3わりなきわりなきわりなきこゝちこゝちここちのののなぐさめなぐさめなぐさめににに猫猫ねこををを招招まねきききよせよせよせてててかきかきかきいだきいだきいだきたれたれたればばばいといといとかうばしくかうばしくこうばしくてててらうたげらうたげろうたげににに打打うちちちなくなくなくもももなつかしくなつかしくなつかしく思思おもひひいよそへよそへよそえらるゝらるゝらるるぞぞぞすきずきしきすきずきしきすきずきしきややや。。。おとゞおとゞおとど御覽御覽ごらんじじじおこせおこせおこせててて「「「上達部上達部かんだちめのののざざざいといといとかろがろしかろがろしかろがろしややや、、、こなたこなたこなたにににこそこそこそ」」」とてとてとて對對たいののの南南みなみ面面おもてににに入入いりりり給給たまへへえれれればばば皆皆みなそなたそなたそなたににに參參まいりりり給給たまひひいぬぬぬ
現代語訳
猫はまだよく人に慣れていないのだろうか、綱をたいそう長く付けていたのが、物に引っかかって絡まってしまったのを、逃げようとして引っ張るうちに、御簾の端がたいそうあらわに引き上げられてしまったのを、すぐに引き直す人もいない。この柱のもとにいた女房たちも、気が動転した様子で、怖がっている気配である。几帳の端から少し奥に入ったところに、袿姿で立っていらっしゃる人がいる。階段から西の二の間の東の端なので、隠れるところもなく、はっきりと見通せる。紅梅襲であろうか、濃い色や薄い色を次々に何枚も重ねている色の変わり目が、華やかで、草子の小口のように見えて、桜襲の織物の細長であろう。御髪の裾まではっきりと見えるのは、糸を縒りかけたようになびいて、裾がふさふさと切りそろえられているのがたいそう美しく、背丈より七、八寸ほど長くていらっしゃる。御衣の裾が余って、たいそうほっそりと小柄で、体つきや髪のかかっていらっしゃる横顔は、言いようもなく上品でかわいらしい。夕方の光なので、はっきりせず、奥が暗い感じがするのも、たいそう物足りなく残念である。鞠に夢中になる若い公達が、花の散るのを惜しむ暇もない様子を見ようとして、女房たちは、御簾があらわになっているのを、すぐには気づかないのであろう。猫がひどく鳴くので、振り返りなさった顔つきや物腰などは、たいそうおっとりとして、若くかわいらしい人だなあと、ふと見えた。
大将(夕霧)は、たいそうはらはらするけれど、そばに寄っていくのも、かえってたいそう軽々しいので、ただ気づかせようとして咳払いをなさると、その人はそっと奥へお入りになる。実は、夕霧自身の気持ちとしても、たいそう物足りない気がなさるけれど、猫の綱をはずしてしまったので、思わずため息が出る。まして、あれほど思いを寄せていた衛門督(柏木)は、胸がぎゅっとふさがって、ほかの誰であろうか、大勢の中ではっきりとわかる袿姿からしても、人と見間違えるはずもなかったご様子など、心にかかって忘れられない。素知らぬ顔をしているけれど、まさか見とがめなかったはずはあるまいと、大将はお気の毒にお思いになる。
柏木は、どうしようもない気持ちの慰めに、猫を招き寄せて抱き上げると、たいそうよい香りがして、かわいらしく鳴くのも、宮になぞらえて慕わしく思われるのは、何とも色好みめいたことであるよ。大臣(源氏)がこちらをご覧になって、「上達部の座席がたいそう軽々しい。こちらへ」と言って、対の南面にお入りになったので、皆そちらへ参上なさった。
意訳
唐猫の綱で御簾が引き上げられ、袿姿で立つ女三の宮の姿があらわになり、柏木と夕霧はそれを見てしまう。
夕霧の咳払いで宮は奥に入るが、柏木はその姿が忘れられず、猫を抱いて宮を慕う。
語釈・文法注
文法
- 「ひこじろふ」(逃げむとひこじろふ程に)
- 強く引っ張る。
- 「うつくしの人や」(若くうつくしの人やとふと見えたり)
- 形容詞の語幹+「の」で、感動を込めた連体修飾。「若くかわいらしい人だなあ」。
- 推量の「なるべし」(え見つけぬなるべし)
- 断定の「なり」の連体形+推量の「べし」。「気づかないのであろう」。
解説
唐猫が御簾を引き上げ、女三の宮の姿があらわになる場面は、源氏物語の中でも最もよく知られた場面の一つである。高貴な女性が男性に姿を見られることは、当時あってはならないことであった。宮が立ったまま端近くにいたこと、女房たちが気づかなかったことは、宮とその周囲の不用意さを示している。
柏木は、猫を抱いて宮を慕う。宮の移り香のする猫は、宮の身代わりとなる。この猫への執着は、若菜下の巻で、柏木が猫を手に入れて飼う場面へとつながっていく。夕霧は冷静に事態を見ているが、柏木はすでに抜け出せない恋の淵に足を踏み入れていた。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、646–649頁(コマ34–35)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日