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源氏物語 第34帖 若菜上(47)

明石の君の感慨

登場人物:光源氏・明石の君・紫の上・女三の宮・明石の尼君

源氏は明石の君に、あなたは物の道理をわきまえているので、紫の上と仲よくして、女御の後見を同じ心でしてほしいと言う。明石の君は、言われなくても紫の上のありがたさは日ごろ口にしている、紫の上が自分を数に入れてくださるのがかえって気恥ずかしい、取るに足りない身が生き長らえているのは世間体も苦しいが、紫の上に罪のないようにかばっていただいていると答える。源氏は、紫の上はあなたのためではなく、女御のそばにいつもいられない心配から譲っているのだろう、何事も穏やかで安心だと言う。明石の君は、やはりよく控えめにしてきたものだと思う。源氏が対へ行くと、明石の君は、紫の上へのご寵愛はますます深まるようだ、女三の宮は表向きは大切にされているが、源氏の通いもそれほどではないのは恐れ多いと陰で言いながら、自分の宿縁はたいそう幸運だと思う。高貴な方でさえ思いどおりにいかない世に、自分は恨むこともない。ただ山に籠もった父が気がかりである。尼君も、入道の言葉を頼みに、来世を思って物思いにふける。

六条院の寝殿で、源氏が去った後、明石の君がひとり静かに物思いにふけり、遠い山に籠もった父のことを思っている場面(AI生成)
六条院の寝殿で、源氏が去った後、明石の君がひとり静かに物思いにふけり、遠い山に籠もった父のことを思っている場面
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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

源氏は、「あなたこそ、少し物の道理がわかっていらっしゃるようだから、たいそうよく親しくして、この女御のご後見も、紫の上と同じ心でなさってください」などと、そっとおっしゃる。明石の君は、「おっしゃらなくても、たいそうめったにないご様子を拝見するにつけて、明け暮れの口癖に申しております。目障りな者などと、お許しにならないようでしたら、これほどまでにお目をかけてくださるはずもないのに、気恥ずかしいほどに人数に入れておっしゃってくださるので、かえってまばゆいほどでございます。人数にも入らない身が、それでも消えずにいるのは、世間の聞こえもたいそう苦しく気がひけますのに、罪のないようにかばっていただいてばかりおります」と申し上げなさると、源氏は、「その紫の上のおためには、何の特別な好意があろうか。ただ、この女御のご様子に、付き添っても拝見できない気がかりさに、あなたにお譲り申し上げているのだろう。それをまたあなたも、ことさら出しゃばるでもないお振る舞いで、皆で何事も穏やかで見苦しくないので、たいそう心配もなくうれしい。ちょっとしたことでも、物の道理がわからず、ひねくれた人は、仲間に加わるにつけて、周りの人のためにまでつらいことがあるものだ。そのような直すところもなく、誰もいらっしゃるようなので、安心だ」とおっしゃるにつけても、明石の君は、「そうだ、よくこそ控えめにしてきたものだ」などと、思い続けなさる。

源氏は対の屋へお越しになった。明石の君は、「本当に、たいそう高貴な方へのご愛情ばかりがまさるようだこと。なるほど、またほかの人とは格別に、このように何もかも備えていらっしゃるご様子が、もっともだとお見えになるのはすばらしい。宮の御方(女三の宮)は、表向きのご待遇ばかりはご立派で、お通いになることも並々でないのは、恐れ多いことであるようだ。同じ血筋ではいらっしゃるけれど、もう一段身分が高い分、お気の毒で」と、陰でお噂申し上げなさるにつけても、自分の宿縁はたいそう幸運だとお思いになった。高貴な方でさえ、お思いどおりにならないような世の中に、まして自分は肩を並べられるような声望もないので、すべて今は恨めしいこともない。ただ、あの籠もってしまった山住まい(入道)を思いやることだけが、しみじみと気がかりである。尼君も、ただ「福地の園に種をまいて」というような入道の一言を頼みにして、来世のことを思いながら、物思いにふけっていらっしゃった。

意訳

源氏は明石の君に紫の上と協力して女御を後見するよう頼み、明石の君は紫の上への感謝を述べる。

明石の君は、女三の宮よりも紫の上が重んじられているのを見て、控えめにしてきた自分の宿縁を幸運だと思うが、山に籠もった父を案じる。

語釈・文法注

文法

「しりうごつ」(としりうごち聞え給ふにつけても)
陰口をきく、陰で噂する。
「ざめる」(おぼすさまにもあらざめる世に)
「ざるめる」の撥音便「ざんめる」の「ん」が表記されない形。「思いどおりでもないような世の中に」。
「福地の園」(福地の園に種まきて)
仏の教えにより功徳の種をまく所。入道が来世での再会を約束した言葉を指す。

解説

明石の君は、紫の上が源氏の寵愛を受け、女三の宮が形式的な扱いにとどまるのを見て、「我がすくせはいとたけくぞ覺え給ひける」と、自分の幸運を思う。身分の低さをわきまえ、控えめにふるまってきたことが、かえって明石の君を穏やかな境地に導いている。

六条院の女性たちは、それぞれの立場で満たされない思いを抱えている。明石の君だけが「すべて今はうらめしきふしもなし」と言えるのは、高い望みを持たず、娘の幸福を自分の幸福とする生き方を選んだからである。ただ一つの気がかりは、山に消えた父の行方であった。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、640–643頁(コマ31–32)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日