源氏物語 第34帖 若菜上(44)
文箱を女御へ
明石の君は文箱を持たせて寝殿に戻る。東宮からは女御に早く参内するよう催促があり、紫の上も、若宮が生まれてどれほど待ち遠しいだろうと言って、若宮をひそかに参内させる準備をする。女御は、出産という恐ろしいことを経て面やつれし、いっそう優美である。源氏は、面やつれした姿もかえって趣があると言う。紫の上たちが帰った夕暮れ、明石の君は女御の前に出て、入道の文箱のことを話す。いつか思いが叶った時までと隠しておくつもりだったが、世の中は定めがたいので、正気のうちに申し上げておく、願文は近くの御厨子に置いて、しかるべき時にその願を果たしてほしい、他人には漏らさないように、自分も出家しようと思う、と語る。そして、紫の上の深い心を決しておろそかに思わないように、自分よりも長生きしてほしいと思っている、初めは身の程を思って譲ったが、紫の上がこれほどまでとは思っていなかった、今は安心していると言う。女御は涙ぐんで聞く。入道の手紙は、陸奥紙の黄ばんだ厚い紙五、六枚に、香が深くしみこませて書いてある。女御の額髪が涙に濡れていく横顔は、上品で美しい。

- 1このこのこのふばこふばこふばこははは持持もたたたせせせててて參參もうううのぼりのぼりのぼり給給たまひひいぬぬぬ宮宮みやよりよりよりとくとくとく參參まいりりり給給たまふふうべきべきべきよしよしよしのみのみのみあれあれあればばば「「「かくかくかく思思おぼしししたるたるたることわりことわりことわりなりなりなり。。。珍珍めずららしきらしきらしきことことことさへさへさへそひそひそいててていかにいかにいかに心心こころもとなくもとなくもとなくおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらん」」」ととと紫紫むらさきののの上上うえもももののの給給のたまひひいててて、、、若若わか宮宮みや忍忍しのびびびててて參參まいらせらせらせ奉奉たてまつらららむむんののの御御おん心心こころづかひづかひずかいししし給給たまふふう。。。御御み息息やす所所どころははは御御おんいとまいとまいとまののの心心こころ安安やすからからからぬぬぬにににこりこりこり給給たまひひいててて、、、かゝるかゝるかかるついでついでついでにににしばししばししばしあらあらあらまほしくまほしくまほしくおぼしおぼしおぼしたるたるたる、、、程程ほどなきなきなき御御おん身身みにににさるさるさる恐恐おそろしきしきしきことことことをををししし給給たまへへえれれればばば、、、少少すこしししおもおもおも瘦瘦やせせせほそりほそりほそりててていみじくいみじくいみじくなまめかしきなまめかしきなまめかしき御御おんさまさまさまししし給給たまへへえりりり。。。「「「かくかくかくためらひためらひためらい難難かたくくくおはするおはするおわする程程ほどつくろひつくろひつくろい給給たまひひいてててこそこそこそははは」」」などなどなど御御おん方方かたなどなどなどははは心苦心苦こころぐるしがりしがりしがり聞聞きこえええ給給たまふふうをををおとゞおとゞおとどははは「「「かやうかやうかようにににおもおもおも瘦瘦やせせせててて見見みえええ奉奉たてまつりりり給給たまははわむむんもももなかなかなかなかなかなか哀哀あわれなるなるなるべきべきべきわざわざわざなりなりなり」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう對對たいののの上上うえなどなどなどののの渡渡わたりりり給給たまひひいぬるぬるぬる夕夕ゆうつつつ方方かたしめやかしめやかしめやかなるなるなるににに御御おん方方かたおおお前前まえににに參參まいりりり給給たまひひいてててこのこのこのふばこふばこふばこ聞聞きこえええ知知しらせらせらせ給給たまふふう「「「思思おもふふうさまさまさまににに適適かなひひいはてはてはてさせさせさせ給給たまふふうまでまでまではははとりとりとり隱隱かくしししててて置置おきききててて侍侍はべるるるべけれべけれべけれどどど、、、世世よののの中中なか定定さだめめめがたけれがたけれがたければばばうしろめたさうしろめたさうしろめたさににになむなむなん。。。何事何事なにごとをををももも御心御心みこころとととおぼしおぼしおぼしかずまへかずまへかずまえざらざらざらむむんこなたこなたこなた、、、ともかくもともかくもともかくもはかなくはかなくはかなくなりなりなり侍侍はべりりりなななばばば必必かならずずずしもしもしも今今いまははわのののとぢめとぢめとじめををを御覽御覽ごらんぜぜぜらるらるらるべきべきべき身身みにににももも侍侍はべらららねねねばばば、、、猶猶なおうつしうつしうつしごゝろごゝろごころうせうせうせずずず侍侍はべるるる世世よににになむなむなんはかなきはかなきはかなきことことことをををももも聞聞きこえええさせさせさせおくおくおくべくべくべく侍侍はべりりりけるけるけるととと思思おもひひい侍侍はべりりりててて、、、むつかしくむつかしくむつかしくあやしきあやしきあやしき跡跡あとなれなれなれどどど、、、これこれこれももも御覽御覽ごらんぜぜぜよよよこのこのこの御御おん願願がん文文もんははは近近ちかきききみづしみづしみずしなどなどなどににに置置おかかかせせせ給給たまひひいててて必必かならずずずさるべからさるべからさるべからむむん折折おりににに御覽御覽ごらんじじじてててこのこのこのうちうちうちのののことことことどもどもどもはははせせせさせさせさせ給給たまへへえ疎疎うとききき人人ひとにににはははなななもらさもらさもらさせせせ給給たまひひいそそそ。。。
- 2かばかりかばかりかばかりととと見見み奉奉たてまつりりり置置おきききつれつれつればばばみづからみづからみずからももも世世よをををそむきそむきそむき侍侍はべりりりなむなむなんととと思思おもううう給給たまへへえなりなりなり行行ゆけけけばばば、、、よろづよろづよろず心心こころのどかのどかのどかにににももも覺覺おぼえええ侍侍はべらららずずず。。。對對たいののの上上うえののの御心御心みこころおろかおろかおろかににに思思おもひひい聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうななな。。。いといといとありがたくありがたくありがたく物物ものししし給給たまふふう深深ふかききき御御おん氣色氣色けしきををを見見み侍侍はべれれればばば、、、身身みにににはははこよなくこよなくこよなくまさりまさりまさりててて長長ながききき御御おん世世よにににもももあらあらあらなむなむなんとととぞぞぞ思思おもひひい侍侍はべるるる。。。もとよりもとよりもとより御御おん身身みににに添添そひひい聞聞きこえええさせさせさせむむんにににつけつけつけてててももも、、、つゝましきつゝましきつつましき身身みののの程程ほどににに侍侍はべれれればばばゆづりゆづりゆずり聞聞きこえええそめそめそめ侍侍はべりりりにににしししをををいといといとかうかうこうしもしもしも物物ものししし給給たまははわじじじとととなむなむなん、、、としとしとしごろごろごろははは猶猶なお世世よののの常常つねににに思思おもううう給給たまへへえ渡渡わたりりり侍侍はべりりりつるつるつる。。。今今いまはははきしきしきし方方かた行行ゆくくくさきさきさきうしろうしろうしろ安安やすくくく思思おもひひいなりなりなりにににててて侍侍はべりりり」」」などなどなどいといといと多多おおくくく聞聞きこえええ給給たまふふう淚淚なみだぐみぐみぐみててて聞聞ききききおはすおはすおわす。。。かくかくかくむつましかるむつましかるむつましかるべきべきべきおおおまへまへまえにににももも常常つねににに打打うちちち解解とけけけぬぬぬさまさまさまししし給給たまひひいててて、、、わりなくわりなくわりなく物物ものづゝみづゝみずつみしししたるたるたるさまさまさまなりなりなり。。。このこのこのふみふみふみののの詞詞ことばいといといとうたてうたてうたてこはくこはくこわくにくげにくげにくげなるなるなるさまさまさまををを、、、みちのくにみちのくにみちのくにがみがみがみにてにてにて年年とし經經へにににけれけれければばばきばみきばみきばみあつあつあつこえこえこえたるたるたる五五ご六六ろく枚枚まいににに、、、さすがにさすがにさすがにかうかうこうにににいといといと深深ふかくくくしみしみしみたるたるたるににに書書かききき給給たまへへえりりり。。。いといといと哀哀あわれとととおぼしおぼしおぼしててて御御おんひたひひたひひたいがみがみがみのののやうやうやうやうようようぬれぬれぬれゆくゆくゆく御御おんそばそばそばめめめあてあてあてににになまめかしなまめかしなまめかし。。。
現代語訳
明石の君は、この文箱を持たせて寝殿に参上なさった。東宮から、早く参内なさるようにとばかり催促があるので、紫の上も、「このようにお思いになるのはもっともなことです。珍しい若宮のことまで加わって、どんなに待ち遠しくお思いでしょう」とおっしゃって、若宮をひそかに参内させ申し上げる準備をなさる。御息所(女御)は、お暇がなかなかいただけないのにお懲りになって、このような機会にしばらく里にいたいとお思いになっていた。まだお若い身で、あのように恐ろしいこと(出産)をなさったので、少し面やせして、たいそう優美なご様子をしていらっしゃる。「このように体調がすぐれないうちは、養生なさってから」などと、御方などはお気の毒がり申し上げなさるのを、大臣(源氏)は「このように面やせしてお会いになるのも、かえって趣があるだろう」などとおっしゃる。対の上などがお帰りになった夕方、しんみりとしている時に、御方は女御の御前に参上なさって、この文箱のことをお話し申し上げなさる。「思いどおりにすべてがかなうまでは、隠しておくべきでございましょうが、世の中は定めがたいので、気がかりでございまして。何事もご自分のお心でおわかりになれないうちに、私がともかくも死んでしまいましたら、必ずしも臨終の際をご覧いただける身でもございませんので、やはり正気を失わずにいるうちに、つまらないことでも申し上げておくべきだと思いまして。見苦しく変な筆跡ですが、これもご覧ください。この御願文は、近くの御厨子などにお置きになって、必ずしかるべき折にご覧になって、この中のことをお果たしください。親しくない人にはお漏らしなさいますな。
これほどまでとお見届け申し上げましたので、私も出家しようと思うようになっていきますので、何事も心のどかには思われません。対の上のお心を、決しておろそかにお思い申し上げなさいますな。たいそうめったにないほどでいらっしゃる深いご様子を拝見しますと、私などよりはるかにまさって、長生きしていただきたいと思っております。もともとあなたのおそばに付き添い申し上げるにつけても、気後れする身の程でございますので、お譲り申し上げ始めたのですが、まさかこれほどまでにしてくださるまいと、長年はやはり世間並みに思っておりました。今は、過去のことも将来のことも安心できるように思うようになりました」などと、たくさん申し上げなさるのを、女御は涙ぐんで聞いていらっしゃる。このように親しくしてもよいはずの女御の御前でも、明石の君はいつも打ち解けない様子をなさって、むやみに遠慮している様子である。入道の手紙の言葉は、たいそうひどく堅苦しく無愛想な様子だが、陸奥紙で、年月が経ったので黄ばんで厚ぼったくなった五、六枚に、それでも香がたいそう深くしみこんだものに書いてある。女御はたいそうしみじみとお思いになって、御額髪がだんだん涙に濡れていく御横顔は、上品で優美である。
意訳
女御は東宮から参内を催促され、紫の上は若宮を参内させる準備をする。明石の君は女御に入道の文箱を渡し、願を果たしてほしいと頼む。
明石の君は、紫の上の深い心を決しておろそかにしないようにと女御に言い、女御は入道の古い手紙を読んで涙ぐむ。
語釈・文法注
文法
- 「御息所」(御息所は御いとまの心安からぬに)
- 皇子を産んだ女御をいう。明石の女御を指す。
- 禁止の「な…そ」(疎き人にはなもらさせ給ひそ)
- 「親しくない人にはお漏らしなさいますな」。
- 願望の「なむ」(長き御世にもあらなむ)
- 他者への願望。「長生きしてほしい」。
解説
明石の君は、入道の願文を女御に託し、紫の上の恩を決して忘れないようにと言い聞かせる。自分の身分の低さをわきまえ、娘を紫の上に譲った明石の君は、今もなお女御の前で「わりなく物づゝみしたるさま」である。その慎み深さが、明石の君の人柄の美しさである。
入道の手紙は「いとうたてこはくにくげなるさま」の筆跡で書かれているが、紙には香が深くしみこんでいる。無骨で頑固な入道の人柄と、その奥にある深い愛情とが、手紙の姿そのものに表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、636–639頁(コマ29–30)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日