源氏物語 第34帖 若菜上(43)
明石の君と尼君
明石の君は南の御殿にいたが、入道からの手紙が届いたと聞いて、ひそかに尼君のもとへ来る。手紙を読んで涙が止まらず、父に二度と会えないまま別れてしまったことを嘆く。同時に、父が身分不相応な望みを抱いていたのは、この夢を頼みにしていたからだと思い当たる。尼君は、あなたのおかげでうれしい思いもしたが、悲しい思いも人一倍だった、都を捨てて明石に沈んだのも世の人と違う宿縁と思っていたが、生きているうちに別れる仲とは思わず、極楽で同じ蓮に住むことまで頼みにしていたのに、と嘆く。明石の君も泣き、父が山に籠もってそのまま亡くなったらかいがないと、夜通し語り明かす。明け方、明石の君は、源氏に見られている身なので、急に姿を隠すのも軽々しいと、寝殿に戻る。尼君が若宮に会いたいと泣くと、明石の君は、女御も尼君を思い出していて、源氏も、尼君が若宮の即位まで長生きしてほしいと言っていたと伝え、尼君はまた喜ぶ。

- 1御御おん方方かたははは南南みなみのののおとゞおとゞおとどにににおはするおはするおわするををを、、、かゝるかゝるかかる御御おんせうそこせうそこしょうそこなむなむなんあるあるあるとととありありありけれけれければばば忍忍しのびびびててて渡渡わたりりり給給たまへへえりりり重重おも々々おもしくしくしく身身みをををもてなしもてなしもてなしててて、、、おぼろけおぼろけおぼろけならならならでででははは通通かよひひいあひあひあい見見み給給たまふふうことことこともももかたきかたきかたきををを、、、哀哀あわれなるなるなることことことなむなむなんととと聞聞ききききててて覺覺おぼ束束つかなけれなけれなければばば打打うちちち忍忍しのびびびてててものしものしものし給給たまへへえるるるにににいといといといみじくいみじくいみじく悲悲かなしげしげしげなるなるなる氣色氣色けしきにてにてにて居居い給給たまへへえりりり。。。火火ひ近近ちかくくく取取とりりりよせよせよせてててこのこのこの文文ふみををを見見み給給たまふふうにににげにげにげにせきせきせきとめとめとめむむん方方かたぞぞぞなかりなかりなかりけるけるける。。。よそよそよそののの人人ひとははは何何なにとととももも目目めとゞむとゞむとどむまじきまじきまじきことことことのののまづまづまず昔昔むかしきしきしきし方方かたのののことことこと思思おもひひい出出いででで戀戀こいしししととと思思おもひひい渡渡わたりりり給給たまふふう心心こころにににはははあひあひあい見見みででで過過すぎぎぎはてはてはてぬるぬるぬるにににこそこそこそはははととと見見み給給たまふふうにににいみじくいみじくいみじくいふかひなしいふかひなしいうかいなし。。。淚淚なみだをををえええせきせきせきとめとめとめずずず、、、このこのこの夢夢ゆめがたりがたりがたりをををかつはかつはかつは行行ゆくくくさきさきさき賴賴たのもしくもしくもしく、、、さらばさらばさらばひがひがひが心心こころにてにてにて我我わががが身身みをををさしもさしもさしもあるあるあるまじきまじきまじきさまさまさまにににあこがらしあこがらしあこがらし給給たまふふうととと、、、中中なかごろごろごろ思思おもひひいたゞよはたゞよはただよわれれれしししことことことはははかくかくかくはかなきはかなきはかなき夢夢ゆめにににたのみたのみたのみをををかけかけかけててて心心こころ高高たかくくくものしものしものし給給たまふふうなりなりなりけりけりけりとととかつがつかつがつかつがつ思思おもひひい合合あわせせせ給給たまふふう。。。
- 2尼尼あま君君ぎみ久久ひさしくしくしくためらひためらひためらいててて「「「君君きみののの御御おん德德とくにににははは嬉嬉うれしくしくしくおもだゝしきおもだゝしきおもだたしきことことことをををももも身身みにににあまりあまりあまりてててならびならびならびなくなくなく思思おもひひい侍侍はべりりり。。。哀哀あわれにににいぶせきいぶせきいぶせき思思おもひひいもももすぐれすぐれすぐれてててこそこそこそ侍侍はべれれれ。。。數數かずならならならぬぬぬ方方かたにてにてにてもももながらへながらへながらへししし都都みやこををを捨捨すてててゝゝてかしこかしこかしこにににしづみしづみしずみ居居いしししをををだにだにだに世世よののの人人ひとににに違違たがひひいたるたるたる宿宿すく世世せにににもももあるあるあるかなかなかなととと思思おもひひい侍侍はべりりりしかしかしかどどど、、、生生いけけけるるる世世よににに行行ゆきききはなれはなれはなれ隔隔へだたるたるたるべきべきべき中中なかののの契契ちぎりとととははは思思おもひひいかけかけかけずずず、、、同同おなじじじはちすはちすはちすににに住住すむむむべきべきべき後後のちののの世世よのののたのみたのみたのみをををさへさへさへかけかけかけててて年年とし月月つきををを過過すぐしししきききててて俄俄にわかにににかくかくかく覺覺おぼえええぬぬぬ御御おん事事こと出出いででできききててて背背そむきききにににししし世世よににに立立たちちち返返かえりりりててて侍侍はべるるる。。。かひかひかいあるあるある御御おん事事ことををを見見み奉奉たてまつりりり喜喜よろこぶぶぶものものものからからから片片かたつつつ方方かたにににははは覺覺おぼ束束つかなくなくなく悲悲かなしきしきしきことことことののの打打うちちち添添そひひいててて絕絕たえええぬぬぬをををつひにつひについにかくかくかくあひあひあい見見みずずず隔隔へだてててながらながらながらこのこのこの世世よををを別別わかれれれぬるぬるぬるなむなむなん口惜口惜くちおしくしくしく覺覺おぼえええ侍侍はべるるる。。。世世よにににへへへししし時時ときだにだにだに人人ひとににに似似にぬぬぬ心心こころばへばへばえににによりよりより世世よをををもてもてもてひがむるひがむるひがむるやうやうようなりなりなりしししををを若若わかきききどちどちどち賴賴たのみみみならひならひならいててておのおのおのおのおのおのはははまたまたまたなくなくなく契契ちぎりりりりおきおきおきてててけれけれければばばかたみかたみかたみにににいといといと深深ふかくくくこそこそこそ賴賴たのみみみ侍侍はべりりりしかしかしか。。。いかなれいかなれいかなればばばかくかくかく耳耳みみににに近近ちかききき程程ほどながらながらながらかくかくかくててて別別わかれれれぬぬぬらむらむらん」」」ととといひいひいいつゞけつゞけつづけててていといといと哀哀あわれにににうちうちうちひそみひそみひそみ給給たまふふう。。。
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- 4「「「若若わか宮宮みやはははいかゞいかゞいかが坐坐おわしますしますします。。。いかでいかでいかでかかか見見み奉奉たてまつるるるべきべきべき」」」とととてててももも泣泣なきききぬぬぬ。。。「「「今今いま見見み奉奉たてまつりりり給給たまひひいてててむむん女御女御にょうごののの君君きみもももいといといと哀哀あわれににになむなむなん覺覺おぼししし出出いでででつゝつゝつつ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうめるめるめる。。。院院いんももも事事ことのののついでついでついでにににもしもしもし世世よののの中中なか思思おもふふうやうやうようならならならばばばゆゝしきゆゝしきゆゆしきかねかねかねごとごとごとなれなれなれどどど尼尼あま君君ぎみそのそのその程程ほどまでまでまでながらへながらへながらへ給給たまははわなむなむなんとととのたまふのたまふのたまうめりめりめりききき。。。いかにいかにいかに思思おぼすすすことことことにににかかかあらあらあらむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、またまたまたうちうちうちゑみゑみえみててて「「「いでやいでやいでやさればこそさればこそさればこそ樣樣さま々々ざまためしためしためしなきなきなきすくせすくせすくせにににこそこそこそ侍侍はべれれれ」」」とてとてとて喜喜よろこぶぶぶ。。。
現代語訳
御方(明石の君)は南の御殿にいらっしゃったが、このようなお手紙があるということだったので、ひそかにお越しになった。重々しく身を処して、よほどのことでなければ、通い合って会いなさることもめったにないのに、しみじみとしたことがあると聞いて気がかりなので、そっといらっしゃると、尼君はたいそうひどく悲しそうな様子でいらっしゃった。明石の君が灯火を近く取り寄せて、この手紙をご覧になると、なるほど涙をせき止める方法もなかった。よその人なら何とも目にとめないようなことも、まず昔の過ぎ去ったことを思い出して、恋しいと思い続けていらっしゃるお心には、会わないままで終わってしまったのだと思うと、たいそう言いようもなく悲しい。涙をせき止められず、この夢の話を、一方では将来が頼もしく、「それでは、父がひがんだ心で、わが身をあのようにあってはならない様子にさまよわせなさったと、途中で思い迷ったことは、このようなはかない夢に頼みをかけて、心高くいらっしゃったからだったのだ」と、ようやく思い合わせなさる。
尼君は、長い間気持ちを静めてから、「あなたのおかげで、うれしく晴れがましいことも、身に余るほど、並ぶものもなく思っております。しみじみと晴れない思いも、人一倍でございます。人数にも入らない身であっても、長く暮らした都を捨てて、あちらに沈んでおりましたのさえ、世の人とは違った宿縁であることよと思っておりましたが、生きている間に離れ離れになるような夫婦の縁とは思いもよらず、同じ蓮に住むはずの来世の頼みまでかけて、年月を過ごしてきましたのに、急にこのような思いがけないこと(姫君の入内)が起こって、背いて捨てた都に立ち返ってまいりました。かいのある姫君のことを拝見して喜ぶものの、一方では気がかりで悲しいことがつきまとって絶えませんでしたが、とうとうこのように会わないまま隔てて、この世を別れてしまったことが、残念に思われます。入道は、世間にいた時でさえ、人に似ない気性のために、世をすねているようでしたが、若い者同士頼み合い慣れて、互いにまたとなく契りを交わしておいたので、互いにたいそう深く頼り合っておりました。どうして、このように耳に聞こえる近さにいながら、こうして別れてしまったのでしょう」と、言い続けて、たいそうしみじみと泣き顔になりなさる。
御方もひどく泣いて、「人に優れるような将来のことも、何とも思われません。人数にも入らない身には、何事もはっきりとかいのあるはずもないものの、父がしみじみとしたありさまで、行方も知れずに終わってしまうことだけが残念です。何事も、しかるべき人のためと思っておりましたのに、そのまま山に籠もりきりになって、世の中も定めないものですから、そのまま亡くなってしまわれたら、かいもないことです」と言って、一晩中しみじみとしたことを語り明かしなさる。「昨日も大臣の君(源氏)が、私があちら(寝殿)にいるとご覧になっていたのに、急にこっそり隠れたら、軽々しいようでしょう。この身ひとつは何ほども気にいたしませんが、こうして付き添っていらっしゃる女御のためなどが気の毒なので、心のままに身を処することもできないのです」と言って、明け方にお帰りになった。
尼君は、「若宮はいかがいらっしゃいますか。どうにかして拝見したいものです」と言っても泣いた。御方は、「すぐに拝見なさるでしょう。女御の君も、たいそうしみじみと尼君のことをお思い出しになりながら、お話しになっているようです。院(源氏)も、何かのついでに、『もし世の中が思いどおりになったら(若宮が即位したら)、縁起でもない予言だが、尼君にはその時まで長生きしてもらいたい』とおっしゃっていたようです。どういうおつもりなのでしょう」とおっしゃると、尼君はまたほほえんで、「さあ、だからこそ、さまざまに例のない宿縁でございます」と言って喜ぶ。
意訳
明石の君は入道の手紙を読んで涙し、父が抱いていた高い望みの理由をようやく知る。尼君も、夫と生き別れになった悲しみを語る。
二人は夜通し語り明かし、明石の君は明け方に戻る。尼君は若宮に会いたいと泣くが、源氏の言葉を聞いて喜ぶ。
語釈・文法注
文法
- 「あこがらす」(我が身をさしもあるまじきさまにあこがらし給ふ)
- 心をさまよわせる、浮かれさせる。入道が明石の君に身分不相応な望みを抱かせたこと。
- 願望の「なむ」(尼君その程までながらへ給はなむ)
- 未然形に付く「なむ」は他者への願望。「長生きしてほしい」。
- 「さればこそ」(いでやさればこそ)
- 「だからこそ」「やはり思ったとおり」。
解説
明石の君は、父の夢の話を読んで、これまで理解できなかった父の行動の意味をようやく知る。受領の娘でありながら源氏との結婚を強いられ、娘を手放さざるを得なかった明石の君の苦しみも、すべてはこの夢に発していた。入道の宿願の物語は、ここで娘の側から受け止められる。
尼君の「同じはちすに住むべき後の世のたのみ」という言葉には、入道と長年連れ添った妻としての深い悲しみがこもっている。入道は娘と孫の栄華のために妻とも別れ、一人で山へと去った。一族の栄華の陰には、こうした別れの悲しみがあった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、634–637頁(コマ28–29)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日