源氏物語 第34帖 若菜上(30)
明石の女御の懐妊
東宮に入内した明石の女御(桐壺の御方)は、なかなか宮中から退出できず、夏頃に体調を崩すが、すぐには許されない。懐妊だったのである。まだ幼い身で、誰もが心配する。ようやく退出し、女三の宮のいる寝殿の東面に部屋が設けられ、実母の明石の君が付き添う。紫の上は、女御に会うついでに、中の戸を開けて女三の宮にも挨拶したいと源氏に申し出る。源氏は喜び、幼い宮をよく教えてやってほしいと言う。紫の上は、宮よりも明石の君に見られることを意識して、念入りに身なりを整える。源氏は宮のもとへ行き、紫の上が会いに来るので親しくしてほしい、気立てのよい人で、遊び相手にもふさわしいと言い聞かせる。宮は、恥ずかしい、何を話せばよいのかと、おっとりと言う。源氏は、宮の幼さが見顕されるのも恥ずかしいが、紫の上の申し出を断るのもよくないと思う。

- 1桐桐きり壺壺つぼののの御御おん方方かたはははうちうちうちはへはへはええええ罷罷まかででで給給たまははわずずず、、、御御おん暇暇いとまのののありがたけれありがたけれありがたければばば心心こころ安安やすくくくならひならひならい給給たまへへえるるる若若わかききき御心御心みこころにににいといといと苦苦くるしくしくしくのみのみのみおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。夏夏なつ比比ごろなやましくなやましくなやましくししし給給たまふふうををを頓頓とみにににももも許許ゆるししし聞聞きこえええ給給たまははわねねねばばばいといといとわりなしわりなしわりなしとととおぼすおぼすおぼす。。。珍珍めずらしきしきしきさまさまさまののの御御おん心地心地ここちにににぞぞぞありありありけるけるける。。。まだまだまだいといといとあえかあえかあえかなるなるなる御御おん程程ほどにににいといといとゆゝしくゆゝしくゆゆしくぞぞぞ誰誰たれももも誰誰たれもももおぼすおぼすおぼすらむらむらんかしかしかし。。。辛辛かろうううじてじてじてまかでまかでまかで給給たまへへえりりり。。。姫姫ひめ宮宮みやのののおはしますおはしますおわしますおとゞおとゞおとどのののひんがしひんがしひんがし面面おもてににに御御おん方方かたはははしつらひしつらひしつらいたりたりたり。。。明明あか石石しののの御御おん方方かた今今いまははは御御おん身身みににに添添そひひいててて出出いででで入入いりりり給給たまふふうもももあらまほしきあらまほしきあらまほしき御御おん宿宿すく世世せなりなりなりかしかしかし。。。
- 2對對たいののの上上うえこなたこなたこなたににに渡渡わたりりりててて對對たい面面めんししし給給たまふふうついでついでついでににに「「「姫姫ひめ宮宮みやにににももも中中なかののの戶戶とあけあけあけててて聞聞きこえええむむん。。。かねてかねてかねてよりよりよりもももさやうさやうさようににに思思おもひひいしかしかしかどどど、、、序序ついでなきなきなきにににはははつゝましきつゝましきつつましきをををかゝるかゝるかかる折折おりににに聞聞きこえええなれなれなればばば心心こころ安安やすくくくなむなむなんあるあるあるべきべきべき」」」とととおとゞおとゞおとどににに聞聞きこえええ給給たまへへえばばばうちうちうちゑみゑみえみててて「「「思思おもふふうやうやうようなるなるなる御御おん語語かたらひらひらいにににこそこそこそはははあああなれなれなれ。。。いといといと幼幼おさなげげげににに物物ものししし給給たまふふうめるめるめるをををうしろやすくうしろやすくうしろやすく敎敎おしへへへなしなしなし給給たまへへえかしかしかし」」」とととゆるしゆるしゆるし聞聞きこえええ給給たまふふう。。。宮宮みやよりよりよりももも明明あか石石しののの君君きみののの恥恥はずかしげしげしげにてにてにてまじらはまじらはまじらわむむんをををおぼせおぼせおぼせばばば御御おんぐしぐしぐしすましすましすましひきひきひきつくろひつくろひつくろいててておはするおはするおわする。。。たぐひたぐひたぐいあらあらあらじじじととと見見みえええ給給たまへへえりりり。。。
- 3おとゞおとゞおとどははは宮宮みやののの御御おん方方かたににに渡渡わたりりり給給たまひひいててて「「「夕夕ゆうがたがたがたかのかのかの對對たいににに侍侍はべるるる人人ひとのののしげいさしげいさしげいさににに對對たい面面めんせせせむむんとてとてとて出出いでででたつたつたつついでついでついでににに近近ちかづきづきずき聞聞きこえええさせさせさせまほしげまほしげまほしげにににものすものすものすめるめるめるををを、、、ゆるしゆるしゆるしてててかたらひかたらひかたらい給給たまへへえこゝろこゝろこころなどなどなどはははいといといとよきよきよき人人ひとなりなりなり。。。まだまだまだわかわかしくわかわかしくわかわかしくててて御御おんあそびあそびあそびがたきがたきがたきにににもももつきなからつきなからつきなからずずずなむなむなん」」」などなどなどきこえきこえきこえ給給たまふふう。。。「「「はづかしうはづかしうはずかしゅうこそこそこそはははあらあらあらめめめ。。。何事何事なにごとをををかかか聞聞きこえええむむん」」」とととおいらかおいらかおいらかにににのたまふのたまふのたまう。。。「「「人人ひとのののいらへいらへいらえはははことことことにににしたがひしたがひしたがいてててこそこそこそはははおぼしおぼしおぼし出出いでででめめめ。。。隔隔へだててて置置おきききてててなななもてなしもてなしもてなし給給たまひひいそそそ」」」とととこまかこまかこまかにににをしへをしへをしへ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。御御おん中中なかうるはしくうるはしくうるわしくててて過過すぐししし給給たまへへえとととおぼすおぼすおぼすあまりあまりあまりににに、、、何何なにごゝろごゝろごころなきなきなき御御おんありさまありさまありさまををを見見み顯顯あらわささされれれむむんももも恥恥はずかしくしくしく味味あじ氣氣きなけれなけれなけれどどどさささのたまはのたまはのたまわむむんををを心心こころ隔隔へだてててむむんもももあいなしあいなしあいなしとととおぼすおぼすおぼすなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
桐壺の御方(明石の女御)は、ずっと宮中から退出することがおできにならず、お暇がめったにいただけないので、気楽な生活に慣れていらっしゃった若いお心には、たいそう苦しくばかりお思いになっていた。夏頃にご気分が悪くなられたのを、東宮がすぐにはお許し申し上げなさらないので、たいそうつらいとお思いになる。それは珍しいご様子、つまりご懐妊だったのである。まだたいそうか弱いお年頃なので、たいそう恐ろしいことと、誰もがお思いになっていることだろう。ようやく退出なさった。姫宮のいらっしゃる御殿の東面に、女御の御方の部屋は設えてある。明石の御方(明石の君)が、今は女御のおそばに付き添って出入りなさるのも、申し分のないご宿縁である。
対の上(紫の上)が、こちらに来て女御と対面なさるついでに、「姫宮にも、中の戸を開けてご挨拶申し上げましょう。以前からそのように思っていましたが、機会がないと気がひけるので、このような折にお目にかかって慣れれば、気が楽になるでしょう」と大臣(源氏)に申し上げなさると、源氏はほほえんで、「思いどおりのお付き合いのようですね。たいそう幼くていらっしゃるようなので、安心できるように教えてさしあげてください」と、お許し申し上げなさる。紫の上は、宮よりも、明石の君が気後れするほど立派な様子で同席するだろうことをお思いになるので、御髪を洗い、身なりを整えていらっしゃる。比べるものもあるまいとお見えになった。
大臣は宮の御方にお渡りになって、「夕方、あの対にいる人が、淑景舎(明石の女御)に対面しようとして出かけるついでに、あなたにも近づき申し上げたいような様子なので、お許しになってお話しなさい。気立てなどはたいそうよい人です。まだ若々しくて、あなたのお遊び相手としても不似合いではありません」などと申し上げなさる。宮は、「恥ずかしいでしょうね。何をお話ししましょう」と、おっとりとおっしゃる。源氏は、「人への返事は、話の内容に応じて思いつかれるでしょう。隔てを置いておもてなしなさいますな」と、細やかに教え申し上げなさる。お二人の仲がよく過ごしてほしいとお思いになるあまり、無心な宮のご様子を見顕されるのも恥ずかしく、情けないけれど、紫の上がそうおっしゃるのを、隔てを置くのもよくないとお思いになるのだった。
意訳
明石の女御が懐妊して六条院に退出し、紫の上は女御に会うついでに女三の宮にも挨拶したいと申し出る。
源氏は喜び、宮に紫の上と親しくするよう言い聞かせるが、宮の幼さが知られるのを恥ずかしく思う。
語釈・文法注
文法
- 「珍しきさまの御心地」(珍しきさまの御心地にぞありける)
- 懐妊をいう婉曲な表現。
- 「しげいさ」(かの對に侍る人のしげいさに)
- 淑景舎(しげいしゃ)。明石の女御の宮中での殿舎で、桐壺とも呼ばれる。ここでは明石の女御を指す。
- 禁止の「な…そ」(隔て置きてなもてなし給ひそ)
- 「隔てを置いておもてなしなさいますな」。
解説
紫の上が自ら女三の宮に挨拶を申し出たのは、六条院の秩序を保つための賢明な判断である。正妻となった宮に、自分から礼を尽くすことで、周囲の噂を封じようとしたのである。その時、紫の上が宮よりも明石の君の目を意識して身なりを整えるところに、女性たちの間の微妙な緊張が描かれている。
明石の女御の懐妊は、源氏の栄華をさらに確かなものにする出来事である。かつて身分の低さに苦しんだ明石の君が、今は女御に付き添って出入りしている。この「あらまほしき御宿世」は、後の明石の入道の手紙の場面へとつながっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、618–621頁(コマ20–21)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日