源氏物語 第34帖 若菜上(23)
淡雪の文
紫の上は、宮に対して思いやりのないことだと気をもむ。翌朝、源氏は紫の上のもとで目覚め、女三の宮に手紙を送る。白い紙に「中道を」の歌を書き、梅の枝に付ける。源氏は端近くに出て、白い衣を着て梅の花を手にもてあそび、雪の残る庭や、紅梅に鳴く鶯を眺める。その姿は、とても子を持つ重い位の人とは見えない若々しさである。源氏は紫の上に梅の花を見せ、桜に移したら心ひかれるのだがと言う。やがて宮の返事が届き、紅の薄様に包まれたその筆跡のあまりの幼さに、源氏は胸がつぶれる思いで、紫の上に見せまいかとためらうが、隠すのもかえって気を悪くさせると思い、少し広げる。紫の上は横目で見て、そ知らぬふりをする。宮の歌は「はかなくて」で、筆跡はひどく幼い。源氏は見ないようにして紛らし、紫の上にはただ安心していなさいとだけ言う。この日は昼に宮のもとへ行く。

- 1女女おんな君君ぎみももも思思おもひやりひやりいやりなきなきなき御心御心みこころかなかなかなととと苦苦くるしがりしがりしがり給給たまふふう。。。今今け朝朝さははは例例れいのののやうやうようににに大大おお殿殿との籠籠ごもりりり起起おきききさせさせさせ給給たまひひいててて宮宮みやののの御御おん方方かたににに御御おん文文ふみ奉奉たてまつれれれたまふたまふたまう。。。殊殊ことににに恥恥はずかしげしげしげもももなきなきなき御御おんさまさまさまなれなれなれどどど御御おん筆筆ふでなどなどなどひきひきひきつくろひつくろひつくろいてててしろきしろきしろき紙紙かみににに、、、「「「中中なかみちみちみちをををへだつるへだつるへだつる程程ほどはははなけれなけれなけれどもどもども心心こころみだるゝみだるゝみだるるけさけさけさののの泡泡あわゆきゆきゆき」」」。。。梅梅うめにににつけつけつけ給給たまへへえりりり。。。人人ひとめしめしめしててて「「「西西にしののの渡渡わた殿殿どのよりよりより奉奉たてまつらららせよせよせよ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。やがてやがてやがて見見み出出いしししててて端端はし近近ちかくくく坐坐おわしますしますします。。。白白しろききき御御おんぞぞぞどもどもどもををを着着き給給たまひひいててて花花はなをををまさぐりまさぐりまさぐり給給たまひひいつつつ。。。友友ともまつまつまつ雪雪ゆきのののほのかほのかほのかににに殘殘のこれれれるるる上上うえににに打打うちちち散散ちりりりそふそふそう空空そらをををながめながめながめ給給たまへへえりりり鶯鶯うぐいすののの若若わかやかやかやかににに近近ちかききき紅紅こう梅梅ばいののの末末すえにににうちうちうち鳴鳴なきききたるたるたるををを、、、袖袖そでこそこそこそ匂匂におへへえととと花花はなをををひきひきひき隱隱かくしししててて御御み簾簾す押押おししし上上あげげげててて眺眺ながめめめ給給たまへへえるるるさまさまさま、、、夢夢ゆめにににもももかゝるかゝるかかる人人ひとののの親親おやにてにてにて重重おもききき位位くらいととと見見みえええ給給たまははわずずず、、、若若わこうううなまめかしきなまめかしきなまめかしき御御おんさまさまさまなりなりなり。。。
- 2御御おん返返かえりりり少少すこししし程程ほど經經ふるるる心地心地ここちすれすれすればばば入入いりりり給給たまひひいててて女女おんな君君ぎみににに花花はなををを見見みせせせ奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。「「「花花はなととといはいはいわゞゞばかくかくかくこそこそこそ匂匂におははわましましましけれけれけれななな。。。櫻櫻さくらにににうつしうつしうつしてててははは又又またちりちりちりばかりばかりばかりももも心心こころわくわくわく方方かたなくなくなくやややあらあらあらましましまし」」」などなどなどのたまふのたまふのたまう。。。「「「これこれこれももも數數あま多多たにににうつろはうつろはうつろわぬぬぬ程程ほど目目めとまるとまるとまるにににやややあらあらあらむむん。。。花花はなののの盛盛さかりにににならべならべならべててて見見みばやばやばや」」」などなどなどのたまふのたまふのたまうににに御御おんかへりかへりかえりありありあり。。。紅紅くれないののの薄薄うす葉葉ようにににあざやかあざやかあざやかににに押押おししし包包つつまままれれれたるたるたるををを、、、胸胸むねつぶれつぶれつぶれててて御御おん手手てのののいといといと若若わかきききをををしばししばししばし見見みせせせ奉奉たてまつらららででであらあらあらばやばやばや、、、隔隔へだつつつとととはははなけれなけれなけれどどどあはあはしきあはあはしきあわあわしきやうやうようならならならむむんははは、、、人人ひとのののほどほどほどかたじけなしかたじけなしかたじけなしとととおぼすおぼすおぼすににに、、、ひきひきひき隱隱かくししし給給たまははわむむんももも心心こころおきおきおき給給たまふふうべけれべけれべければばば、、、かたかたかたそばそばそばひろげひろげひろげ給給たまへへえるるるををを、、、しりしりしり目目めににに見見みおこせおこせおこせててて添添そひひいふしふしふし給給たまへへえりりり。。。「「「はかなくはかなくはかなくてててうはうはうわのののそらそらそらにににぞぞぞ消消きえええぬぬぬべきべきべき風風かぜにににたゞよふたゞよふただよう春春はるのののあわあわあわ雪雪ゆき」」」。。。御御おん手手てげにげにげにいといといと若若わかくくく幼幼おさなげげげなりなりなり。。。さばかりさばかりさばかりののの程程ほどににになりなりなりぬるぬるぬる人人ひとはははいといといとかくかくかくはははおはせおはせおわせぬぬぬものものものをををととと目目めとまれとまれとまれどどど見見みぬぬぬやうやうようににに紛紛まぎらはしはしわしててて止止やみみみ給給たまひひいぬぬぬ。。。ことことこと人人びとののの上上うえならならならばばばさささこそこそこそあれあれあれなどなどなどははは忍忍しのびびびててて聞聞きこえええ給給たまふふうべけれべけれべけれどどど、、、いとほしくいとほしくいとおしくててて、、、「「「唯唯ただ心心こころ安安やすくくくををを思思おもひひいなしなしなし給給たまへへえ」」」とととのみのみのみ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。今今け日日きょうははは宮宮みやののの御御おん方方かたににに晝晝ひるわたりわたりわたり給給たまふふう。。。
現代語訳
女君(紫の上)も、宮に対して思いやりのないお心だと、気をもんでいらっしゃる。今朝は、いつものように紫の上のもとでお休みになってお起きになって、宮の御方にお手紙を差し上げなさる。特に気後れするようなご様子の方でもないけれど、御筆などを念入りにして、白い紙に、「中みちをへだつる程はなけれども心みだるゝけさの泡ゆき(二人の間を隔てるほどの道のりではないのに、今朝の泡雪のように、私の心は乱れています)」。梅の枝にお付けになった。人を呼んで、「西の渡殿から差し上げよ」とおっしゃる。そのまま外を眺めて、端近くにいらっしゃる。白い御衣を何枚か重ねてお召しになって、梅の花をもてあそんでいらっしゃる。友を待つ雪がほのかに残っている上に、さらに降り散りそう空をお眺めになっていた。鶯が若々しく、近くの紅梅の梢で鳴いたのを、「袖こそ匂へ」と花を引き隠して、御簾を押し上げて眺めていらっしゃる様子は、とてもこのような人の親で、重い位の方とはお見えにならず、若く優美なご様子である。
お返事が少し時間がかかりそうな気がするので、源氏は奥にお入りになって、女君に梅の花をお見せになる。「花というなら、このように匂ってほしいものだね。これを桜に移したら、またほんの少しも、ほかの花に心を分ける余地はないだろうに」などとおっしゃる。「これも、たくさんの花に心が移らないうちだから目にとまるのでしょうか。花の盛りの桜と並べて見たいものだ」などとおっしゃるところに、お返事がある。紅の薄様に、あざやかに包まれているのを、源氏は胸がつぶれる思いで、御筆跡がたいそう幼いのを、しばらくお見せせずにおきたい、隔てるというのではないが、軽々しく見せるようなのは、宮のご身分に対して恐れ多いとお思いになるけれど、隠しなさるのも、紫の上が気を悪くなさるだろうから、片端を広げなさったのを、紫の上は横目で見やって、物に寄りかかっていらっしゃった。「はかなくてうはのそらにぞ消えぬべき風にたゞよふ春のあわ雪(はかなくて、空の上で消えてしまいそうです。風に漂う春の淡雪のように)」。御筆跡は、なるほどたいそう幼く子どもっぽい。あれほどの年頃になった人は、これほどではいらっしゃらないものなのにと、紫の上は目にとまるけれど、見ないようにして紛らしておしまいになった。ほかの人のことであったら、「この程度のものですよ」などと、そっと申し上げなさるところだけれど、源氏は宮がお気の毒で、「ただ安心していると思っていらっしゃい」とだけ申し上げなさる。今日は宮の御方に、昼にお出かけになる。
意訳
源氏は女三の宮に手紙を送り、梅の花をもてあそびながら、紫の上と花について語り合う。
宮の返事の筆跡はあまりに幼く、紫の上はそ知らぬふりをし、源氏はただ安心するようにとだけ言う。
語釈・文法注
文法
- 引き歌「袖こそ匂へ」(袖こそ匂へと花をひき隱して)
- 「折りつれば袖こそ匂へ梅の花ありとやここに鶯の鳴く」(古今集・読人知らず)による。
- 反実仮想「ましけれ」(かくこそ匂はましけれな)
- 「まし」の已然形「ましか」に代わる「ましけれ」。「このように匂ってほしいものだ」。
- 願望の「ばや」(しばし見せ奉らであらばや)
- 自己の願望。「しばらくお見せせずにいたい」。
解説
源氏が梅の花をもてあそび、鶯を眺める姿は、四十歳とは思えない若々しさで描かれる。しかし、その美しさとは裏腹に、源氏の心は女三の宮への失望で曇っている。紅梅を桜に移したらと言う源氏の言葉は、紫の上への愛情を語りながら、さらに多くを望む心も感じさせる。
女三の宮の歌は、源氏の歌の「泡ゆき」を受けて「あわ雪」と詠むが、その筆跡は年齢に似合わず幼い。紫の上がそれを見ても何も言わないのは、宮をあなどる気持ちを見せない誇りと思いやりからである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、612–613頁(コマ17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日