源氏物語 第34帖 若菜上(22)
雪の朝
女三の宮はまだ幼いので、乳母たちが近くに控えていて、妻戸を開けて出ていく源氏を見送る。明け方の空に雪明かりがおぼろに見え、庭には消え残った雪が白く広がる。源氏は「なほ残れる雪」と口ずさみながら、紫の上の部屋の格子を叩くが、女房たちはそら寝をしてしばらく待たせてから開ける。源氏は、すっかり冷えてしまったのはあなたを恐れる心が深いからだと冗談を言い、夜着を引きのける。紫の上は、少し涙に濡れた単衣の袖を隠して、恨むでもなく優しくふるまうが、すっかり打ち解けたわけではない。源氏は、身分の高い宮でもこれほどの人はいないと比べる。その日は紫の上のそばで過ごし、宮には、雪で気分が悪いからと手紙を送る。宮の返事は乳母の口上だけで、源氏は張り合いのない返事だと思う。院の耳に入るのも気の毒で、せめてこの頃はと思うが、思うようにいかない。

- 1いといといといはけなきいはけなきいわけなき御御おん有樣有樣ありさまなれなれなればばば乳乳め母母のとたちたちたち近近ちかくくく侍侍さぶらひひいけりけりけり。。。妻妻つま戶戶ど押押おししし開開あけけけててて出出いででで給給たまふふうををを見見み奉奉たてまつりりりおくるおくるおくる。。。明明あけけけくれくれくれののの空空そらににに雪雪ゆきののの光光ひかり見見みえええててておぼつかなしおぼつかなしおぼつかなし。。。名名な殘殘ごりまでまでまでとまれとまれとまれるるる御御おんにほひにほひにおい、、、やみやみやみはははあやなしあやなしあやなしとととひとりごたひとりごたひとりごたるるる雪雪ゆきははは所所ところ々々どころ消消きえええ殘殘のこりりりたるたるたるがががいといといと白白しろききき庭庭にわのののふとふとふとけぢめけぢめけじめ見見みえええわかれわかれわかれぬぬぬ程程ほどなるなるなるににに、、、猶猶なお殘殘のこれれれるるる雪雪ゆきととと忍忍しのびやかびやかびやかににに口口くちずさみずさみずさみ給給たまひひいつゝつゝつつ、、、御御み格格こう子子し打打うちちち叩叩たたききき給給たまふふうももも久久ひさしくしくしくかゝるかゝるかかることことことなかりなかりなかりつるつるつるならひならひならいににに、、、人々人々ひとびともももそらそらそらねねねをををしししつゝつゝつつやゝやゝややまたまたまたせせせ奉奉たてまつりりりてててひきひきひきあげあげあげたりたりたり。。。「「「こよなくこよなくこよなく久久ひさしかりしかりしかりつるつるつる身身みもももひえひえひえにににけるけるけるははは、、、おぢおぢおじ聞聞きこゆるゆるゆる心心こころのののおろかおろかおろかならならならぬぬぬにににこそこそこそあめれあめれあめれ。。。さるはさるはさるは罪罪つみもももなしなしなしややや」」」とてとてとて御御おんぞぞぞひきひきひきやりやりやりなどなどなどししし給給たまふふうににに、、、少少すこしししぬれぬれぬれたるたるたる御御おんひとへひとへひとえののの袖袖そでをををひきひきひき隱隱かくしししててて、、、うらうらうらもももなくなくなくなつかしきなつかしきなつかしきものものものからからから打打うちちち解解とけけけてててはははたたたあらあらあらぬぬぬ御御おん用意用意よういなどなどなどいといといと耻耻はずかしげしげしげにににをかしをかしおかし。。。限限かぎりなきなきなき人人ひとととと聞聞きこゆれゆれゆれどどどかたかめるかたかめるかたかめる世世よをををとととおぼしおぼしおぼしくらべくらべくらべらるらるらる。。。
- 2萬萬よろずいにしへいにしへいにしえのののことことことをををおぼしおぼしおぼし出出いでででつゝつゝつつ、、、解解とけけけ難難かたききき御御おん氣色氣色けしきををを恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまひひいてててそのそのその日日ひははは暮暮くらししし給給たまへへえれれればばば、、、えええわたりわたりわたり給給たまははわででで寢寢しん殿殿でんにににははは御御おんせうそこせうそこしょうそこをををぞぞぞ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。今今け朝朝さののの雪雪ゆきににに心地心地ここちあやまりあやまりあやまりててていといといとなやましくなやましくなやましく侍侍はべれれればばば心心こころやすきやすきやすき方方かたにににためらひためらひためらい侍侍はべるるるとととありありあり。。。御御おんめのとめのとめのとさささ聞聞きこえええさせさせさせ侍侍はべりりりぬぬぬとととばかりばかりばかりことばことばことばににに聞聞きこえええたりたりたり。。。殊殊ことなるなるなることことことなのなのなの御御おん返返かえりりりやややとととおぼすおぼすおぼす。。。院院いんににに聞聞きこししし召召めさささむむんことことこともももいとほしいとほしいとおし、、、このこのこの頃頃ころばかりばかりばかりつくろはつくろはつくろわむむんとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、えええさささもももあらあらあらぬぬぬををを、、、さささははは思思おもひひいしししことことことぞぞぞかしかしかしあなあなあな苦苦くるしししとととみづからみづからみずから思思おもひひいつゞけつゞけつづけ給給たまふふう。。。
現代語訳
宮はたいそう幼いご様子なので、乳母たちが近くにお仕えしていた。源氏が妻戸を押し開けてお出になるのを、お見送り申し上げる。明け方の空に雪明かりが見えて、ぼんやりとしている。お帰りになった後まで残っている御香りに、「闇はあやなし」と独り言を言いたくなる。雪は所々消え残っているのが、たいそう白い庭と、ふと見分けがつかないほどであるので、源氏は「なほ残れる雪」とひそやかに口ずさみなさりながら、紫の上の御格子をお叩きになるが、久しくこのようなことがなかった習慣で、女房たちもそら寝をしながら、しばらくお待たせ申し上げてから引き上げた。「ずいぶん長く待たされて、体もすっかり冷えてしまったのは、あなたを恐れ申し上げる心が並々でないからでしょうね。そうはいっても、私には罪もないのですよ」と言って、御夜着を引きのけなどなさると、紫の上は少し濡れている御単の袖を引き隠して、恨む様子もなく優しいものの、すっかり打ち解けているわけでもないお心づかいなどが、たいそう気後れするほど美しい。この上ない身分の方と申しても、これほどの人はめったにいないだろうと、源氏はお比べにならずにいられない。
何かと昔のことをお思い出しになりながら、打ち解けがたいご様子をお恨み申し上げなさって、その日は紫の上のもとでお過ごしになったので、宮のもとへはお出かけになれず、寝殿にはお手紙を差し上げなさる。「今朝の雪で気分が悪くなって、たいそう具合が悪うございますので、気楽な所で休んでおります」とある。御乳母が、「そのように申し上げました」とだけ、口上で申し上げた。源氏は、そっけないお返事だなあとお思いになる。院のお耳に入るのも気の毒だ、せめてこの頃だけは取り繕おうとお思いになるけれど、そうもいかないのを、「やはり思っていたとおりだ、ああ苦しい」と、ご自身で思い続けていらっしゃる。
意訳
雪の明け方、源氏は紫の上のもとに戻り、涙に濡れた袖を隠す紫の上の姿に、比べようのない人だと思う。
その日は紫の上のもとで過ごし、宮には病と称して手紙を送るが、乳母の口上だけの返事に張り合いのなさを感じる。
語釈・文法注
文法
- 引き歌「やみはあやなし」(やみはあやなしとひとりごたる)
- 「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる」(古今集・凡河内躬恒)による。闇の中でも梅の香りは隠れないように、源氏の香りが残っていること。
- 引き歌「猶殘れる雪」(猶殘れる雪と忍びやかに口ずさみ)
- 白居易の詩句「子城の陰なる処に猶残れる雪」によるとされる。
- 「かたかめる」(かたかめる世をとおぼしくらべらる)
- 「かたかるめる」の撥音便「かたかんめる」の「ん」が表記されない形。「めったにいないようだ」。
解説
女房たちがそら寝をして源氏を待たせるのは、紫の上の心を思いやった、ささやかな抗議である。源氏は冗談めかして機嫌をとるが、紫の上の濡れた袖が、一夜の涙を物語っている。紫の上は恨みを口にせず、隠すことで、かえってその深い悲しみを伝えている。
宮への手紙に対する乳母の口上だけの返事は、女三の宮の幼さと、周囲の人々の配慮の足りなさを示している。源氏は「さは思ひしことぞかし」と、自分の選択を早くも悔い始めている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、610–613頁(コマ16–17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日