源氏物語 第34帖 若菜上(12)
朱雀院の出家
苦しい病をおして裳着を終えた朱雀院は、三日後についに出家する。御方々は悲しみにくれ、朧月夜はそばを離れずに嘆き沈む。院は、子を思う道には限りがあったが、このような別れは耐えがたいと心を乱しながらも、脇息に寄りかかって、天台座主をはじめ三人の阿闍梨から法服を授けられる。世を悟った僧たちさえ涙を抑えられず、女宮たちや女御、更衣、多くの人々が泣きどよめく。院は、静かな所にすぐに籠もるつもりだったのに、それがかなわないのも、ただ幼い宮に引かれてのことだと言う。帝をはじめ、見舞いが相次ぐ。

- 1御御おん心地心地ここちいといといと苦苦くるしきしきしきををを念念ねんじじじつゝつゝつつおぼしおぼしおぼしおこしおこしおこしてててこのこのこの御御おんいそぎいそぎいそぎはてはてはてぬれぬれぬればばば三三みっ日日かすぐしすぐしすぐしててて遂遂ついににに御御おんぐしぐしぐしおろしおろしおろし給給たまふふう。。。よろしきよろしきよろしき程程ほどののの人人ひとののの上上うえにてにてにてだにだにだに今今いまはははとととてててさまさまさまかはるかはるかわるははは悲悲かなしげしげしげなるなるなるわざわざわざなれなれなればばば、、、ましてましてましていといといと哀哀あわれげげげににに御御おん方方かた々々がたもももおぼしおぼしおぼしまどふまどふまどう。。。內內ない侍侍しのののかんかんかんののの君君きみはははつとつとつと侍侍さぶらひひい給給たまひひいててていみじくいみじくいみじくおぼしおぼしおぼしいりいりいりたるたるたるをををこしらへこしらへこしらえかねかねかね給給たまひひいててて、、、子子こををを思思おもふふう道道みちはははかぎりかぎりかぎりありありありけりけりけり、、、かくかくかく思思おもひひいしみしみしみ給給たまへへえるるるわかれわかれわかれののの堪堪たへへえ難難かたくくくもももあるあるあるかなかなかなとてとてとて、、、御心御心みこころ亂亂みだれれれぬぬぬべけれべけれべけれどどど、、、あながちあながちあながちににに御御おんけうそくけうそくきょうそくにににかゝりかゝりかかり給給たまひひいててて、、、山山やまののの座座ざ主主すよりよりより始始はじめめめててて御御おんいむいむいむことことことののの阿阿あ闍闍ざ梨梨り三三さん人人にんさぶらひさぶらひさぶらいてててほふぶくほふぶくほうぶくなどなどなど奉奉たてまつるるる程程ほど、、、このこのこの世世よををを別別わかれれれ給給たまふふう御御おん作作さ法法ほういみじくいみじくいみじく悲悲かなししし。。。
- 2今今け日日きょうははは世世よををを思思おもひひいすましすましすましたるたるたる僧僧そう達達たちなどなどなどだにだにだに淚淚なみだももも得得えとゞめとゞめとどめねねねばばば、、、ましてましてまして女女おんな宮宮みや達達たち女御女御にょうご更衣更衣こういこゝらこゝらここらののの男男おとこ女女おんなかみかみかみしもしもしもゆすりゆすりゆすりみちみちみちててて泣泣なきききとよむとよむとよむににに、、、いといといと心心こころあわたゞしうあわたゞしうあわただしゅう、、、かゝらかゝらかからでででしづやかしづやかしずやかなるなるなる所所ところにににやがてやがてやがて籠籠こもるるるべくべくべく覺覺おぼしししまうけまうけもうけけるけるけるほほほ意意いたがひたがひたがいててておぼしめさおぼしめさおぼしめさるゝるゝるるももも、、、唯唯ただこのこのこの幼幼おさなききき宮宮みやにににひかひかひかされされされてててとととおぼしおぼしおぼしのたまはすのたまはすのたまわす。。。內內うちよりよりより始始はじめめめ奉奉たてまつりりりててて御御おんとぶらひとぶらひとぶらいのののしげさしげさしげさいといといと更更さらなりなりなり。。。
現代語訳
ご気分がたいそう苦しいのをこらえながら、気力をふるい起こして、この御裳着のご準備が終わったので、三日過ぎて、とうとう御髪をお下ろしになる。普通の身分の人の上でさえ、いよいよ出家して姿が変わるのは悲しいことなので、まして院のことは、たいそう悲しそうに御方々もお嘆き惑いになる。尚侍の君(朧月夜)は、ずっとおそばにお仕えなさって、ひどく思い沈んでいらっしゃるのを、院はなだめかねなさって、「子を思う道には限りがあったのだ。このように思い込んでいらっしゃる人との別れが、耐えがたいことよ」とおっしゃって、お心も乱れてしまいそうだけれど、無理に御脇息に寄りかかりなさって、比叡山の座主をはじめとして、御受戒の阿闍梨三人がお仕えして、法服などを差し上げる時、この世をお別れになる御作法は、たいそう悲しい。
今日は、世を悟りきった僧たちなどでさえ、涙もこらえられないので、まして女宮たちや、女御、更衣、大勢の男女が、上も下も揺れ動いて泣き騒ぐので、院はたいそう心が落ち着かず、このようにではなく、静かな所にすぐに籠もるつもりでいらっしゃった本意とは違ってしまったとお思いになるのも、ただこの幼い宮に心を引かれてのことだと、おっしゃる。帝をはじめとして、お見舞いの多さはいうまでもない。
意訳
朱雀院は裳着の三日後に出家し、朧月夜をはじめ、多くの人々が嘆き悲しむ。
院は、静かな所にすぐに籠もれないのも、幼い女三の宮に心が引かれるからだと言う。
語釈・文法注
文法
- 「だに…まして」(よろしき程の人の上にてだに…ましていと哀げに)
- 「…でさえ~なのだから、まして」。軽いものを挙げて、重いものを類推させる。
- 詠嘆の「かな」(堪へ難くもあるかな)
- 「耐えがたいことよ」。
- 「おぼしのたまはす」(ひかされてとおぼしのたまはす)
- 「思ひ言ふ」の尊敬語。お思いになっておっしゃる。
解説
朱雀院の出家の場面で、院は「子を思ふ道はかぎりありけり」と言う。子を思う心にも限りがあって出家を決意できたが、朧月夜との別れはそれ以上に耐えがたい、という意味である。院の朧月夜への深い愛情が、出家の場面で改めて示される。
院はすぐに山寺に籠もるつもりだったが、女三の宮のことが気がかりで果たせない。出家しても断ち切れない親心は、この後も院が女三の宮を案じ続けることにつながり、物語の重要な動機となる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、598–599頁(コマ10)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日