源氏物語 第28帖 野分(8)
夕霧の手紙と明石の姫君
源氏の見舞いのお供を終えた夕霧は、雲居雁に手紙を書きたくて、明石の姫君の方に参上する。姫君はまだ紫の上のもとにいて、乳母は風に怯えて起き上がれなかったと言う。夕霧は紙と硯を借りて、紫の薄様に心を込めて「風さわぎ」の歌を書き、吹き乱れた刈萱に結びつける。女房たちが、交野の少将は紙の色に花を合わせたものだと言うと、夕霧は、それほどの色の取り合わせも思いつかなかったと素っ気なく答える。姫君が渡って来るので、夕霧は几帳のほころびから覗き見る。まだ幼い姫君の可憐な姿を、夕霧は藤の花にたとえ、このような人々を心のままに朝夕見ていたいものだと思う。

- 1むづかしきむづかしきむずかしき方々方々かたがためぐりめぐりめぐり給給たまふふう御御おん供供ともにににありきありきありきててて中將中將ちゅうじょうはははなまなまなま心心こころやましくやましくやましく書書かかかかまほしきまほしきまほしき文文ふみなどなどなど日日ひたけたけたけぬるぬるぬるををを思思おもひひいつゝつゝつつ姫君姫君ひめぎみののの御御おん方方かたににに參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。「「「まだまだまだあなたあなたあなたににになむなむなんおはしますおはしますおわします。。。風風かぜにににおぢおぢおじさせさせさせ給給たまひひいててて今朝今朝けさはははえええ起起おきききあがりあがりあがり給給たまははわざりざりざりつるつるつる」」」ととと御御おんめのとめのとめのとぞぞぞ聞聞きこゆるゆるゆる。。。
- 2「「「ものものもの騷騷さわがしげしげしげなりなりなりしかしかしかばばば宿直宿直とのいももも仕仕つかうまつらうまつらうまつらむむんととと思思おもひひい給給たまへへえしししををを、、、宮宮みやのののいといといと心苦心苦こころぐるしうしうしゅうおぼいおぼいおぼいたりたりたりしかしかしかばばばなむなむなん。。。ひゝなひゝなひいなのののはははいかゞいかゞいかがおはすおはすおわすらむらむらん」」」ととと問問とひひい給給たまへへえばばば、、、人々人々びと笑笑わらひひいててて「「「扇扇おうぎののの風風かぜだにだにだにまゐれまゐれまいればばばいみじきいみじきいみじきことことことにににおぼいおぼいおぼいたるたるたるををを、、、ほとほとしくほとほとしくほとほとしくこそこそこそ吹吹ふききき亂亂みだりりり侍侍はべりりりにににしかしかしか。。。このこのこの御御おん殿殿とのあつかひあつかひあつかいににに、、、わびわびわびにににててて侍侍はべりりり」」」などなどなどかたるかたるかたる。。。
- 3「「「ことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬ紙紙かみややや侍侍はべるるる。。。御御おんつぼねつぼねつぼねののの硯硯すずり」」」ととと乞乞こひひい給給たまへへえばばば、、、みみみ厨子厨子ずしににによりよりよりててて紙紙かみひとひとひとまきまきまき御御おん硯硯すずりののの蓋蓋ふたににに取取とりりりおとしおとしおとしててて奉奉たてまつれれればばば「「「いないないな、、、これこれこれはははかたはらいたしかたはらいたしかたわらいたし」」」とととのたまへのたまへのたまえどどど、、、北北きたのののおとゞおとゞおとどのののおぼえおぼえおぼえををを思思おもふふうににに少少すこしししなのめなのめなのめなるなるなる心地心地ここちしししててて書書かきききたまふたまふたまう。。。紫紫むらさきののの薄薄うすやうやうようなりなりなりけりけりけり。。。
- 4墨墨すみ、、、心心こころとゞめとゞめとどめててておしおしおしすりすりすり筆筆ふでのののさきさきさきうちうちうちみみみつゝつゝつつこまやかこまやかこまやかににに書書かきききやすらひやすらひやすらい給給たまへへえるるるさまさまさまいといといとよしよしよし。。。されどされどされどあやしくあやしくあやしく定定さだまりりりてててにくきにくきにくき御御おん口口くちつきつきつきこそこそこそものしものしものし給給たまへへえ「「「風風かぜさわぎさわぎさわぎむらむらむら雲雲くもまよふまよふまよう夕夕ゆうべにににもももわするゝわするゝわするるまままなくなくなくわすらわすらわすられれれぬぬぬきみきみきみ」」」吹吹ふききき亂亂みだりりりたるたるたる苅苅かる萱萱かやにににつけつけつけ給給たまへへえれれればばば、、、人々人々びと「「「交交かたののの少少しょう將將しょうははは、、、紙紙かみののの色色いろにににこそこそこそとゝのへとゝのへととのえ侍侍はべりりりけれけれけれ」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 5「「「さばかりさばかりさばかりののの色色いろももも思思おもひひいわかわかわかざりざりざりけりけりけりややや。。。いづくいづくいずくののの野野の邊邊べのののほとりほとりほとりののの花花はなよよよ」」」などなどなどかやうかやうかようののの人々人々びとにににもももことことことずくなずくなずくなににに見見みえええててて心心こころとくとくとくべくべくべくももももてなさもてなさもてなさずずず、、、いといといとすくすくしくすくすくしくすくすくしくけだかしけだかしけだかし。。。またまたまたもももかいかいかい給給たまへへえててて右右う馬馬まの助助すけににに賜賜たまへへえれれればばば、、、をかしきをかしきおかしきわらはわらはわらわ又又またいといといと馴馴なれれれたるたるたる御御おん隨身隨身ずいじんなどなどなどにににうちうちうちさゝめきさゝめきささめきててて取取とらするらするらするををを、、、若若わかききき人々人々びとたゞたゞただならならならずずずゆかしがるゆかしがるゆかしがる。。。
- 6渡渡わたらららせせせ給給たまふふうとてとてとて人々人々びとうちうちうちそよめきそよめきそよめき、、、御御おん几帳几帳きちょうひきひきひき直直なおしししなどなどなどすすす。。。見見みつるつるつる花花はなのののかほかほかおどもどもどもゝゝも思思おもひひいくらべくらべくらべまほしくまほしくまほしくててて、、、例例れいははは物物ものゆかしからゆかしからゆかしからぬぬぬ心地心地ここちにににあながちにあながちにあながちに妻妻つま戶戶どののの御簾御簾みすをををひきゝひきゝひききててて几帳几帳きちょうのののほころびほころびほころびよりよりより見見みれれればばば、、、物物もののののそばそばそばよりよりより唯唯ただはひはひはい渡渡わたりりり給給たまふふうほどほどほどぞぞぞふとふとふとうちうちうち見見みえええたるたるたる。。。人人ひとののの繁繁しげくくくまがへまがへまがえばばば何何なにのののあやめあやめあやめももも見見みえええぬぬぬほどほどほどにににいといといと心心こころもとなしもとなしもとなし。。。
- 7薄薄うす色色いろののの御御おんぞぞぞににに髮髮かみのののまだまだまだたけたけたけにににははははづれはづれはずれたるたるたる末末すえののの、、、ひきひきひき廣廣ひろげげげたるたるたるやうやうようにてにてにていといといと細細ほそくくくちひさきちひさきちいさきやうだいやうだいようだいらうたげらうたげろうたげににに心心こころぐるしぐるしぐるし。。。おとゝしおとゝしおととしばかりばかりばかりはははたまさかたまさかたまさかにににもももほのほのほのみみみ奉奉たてまつりりりしししににに、、、又又またこよなくこよなくこよなく生生おひひいまさりまさりまさり給給たまへへえるるるなななめりめりめりかしかしかし、、、ましてましてまして盛盛さかりいかならいかならいかならむむんかしかしかしととと思思おもふふう。。。
- 8かのかのかの見見みつるつるつるさきざきさきざきさきざきののの、、、櫻櫻さくら山山やま吹吹ぶきととといはいはいわゞゞば、、、これこれこれははは藤藤ふじののの花花はなとととやややいふいふいうべからべからべからむむん。。。こここだかきだかきだかき木木きよりよりより咲咲さきききかゝりかゝりかかりててて風風かぜににに靡靡なびきききたるたるたるにほひにほひにおいはははかくかくかくぞぞぞあるあるあるかしかしかしととと思思おもひひいよそへよそへよそえらるらるらる。。。かゝるかゝるかかる人々人々びとををを心心こころににに任任まかせせせててて明明あけ暮暮くれ見見み奉奉たてまつらららばやばやばや、、、さもさもさもありありありぬぬぬべきべきべき程程ほどながらながらながらへだてへだてへだてへだてへだてへだてのののけざやかけざやかけざやかなるなるなるこそこそこそつらけれつらけれつらけれなどなどなど思思おもふふうににに、、、まめまめまめ心心こころもももあくがるゝあくがるゝあくがるる心地心地ここちすすす。。。
現代語訳
源氏が気づまりな方々を巡りなさるお供をして歩いて、中将はどことなく心がいらいらして、書きたい手紙なども、日が高くなってしまうのを気にしながら、明石の姫君の御方に参上なさった。「まだあちら(紫の上のもと)にいらっしゃいます。風に怯えなさって、今朝は起き上がることもおできになりませんでした」と御乳母が申し上げる。
「何となく騒がしかったので、宿直もお仕えしようと思っておりましたが、大宮がたいそう心細くお思いになっていたので。お人形の御殿はどうでしたか」とお尋ねになると、女房たちは笑って、「扇の風が参るだけでも大変なことにお思いになるのに、危うく吹き乱れるところでございました。この御殿のお世話に、困り果てております」などと話す。
「大げさでない紙はありますか。お局の硯も」とお頼みになると、御厨子に寄って、紙一巻を御硯の蓋に取り落として差し上げると、「いや、これは気が引ける」とおっしゃるけれど、北の御殿(明石の御方)の身分を思うと、少し気楽な気持ちがしてお書きになる。紫の薄様であった。
墨を、心をこめて磨り、筆の先を見ながら、細やかに書いてはためらっていらっしゃる様子は、たいそう立派である。けれども、妙に型どおりで、感心しない歌の詠みぶりでいらっしゃる。「風さわぎむら雲まよふ夕にもわするゝまなくわすられぬきみ(風が騒ぎ、むら雲が乱れる夕べにも、忘れる間もなく忘れられないあなたよ)」。吹き乱れた刈萱に結びつけなさると、女房たちが「交野の少将は、紙の色に花の色を合わせたものでございますよ」と申し上げる。
「それほどの色の取り合わせも思いつかなかったなあ。どこの野辺のほとりの花を合わせればよいのか」などと、このような女房たちにも言葉少なに応対して、打ち解けた様子も見せず、たいそうきまじめで気高い。また書きなさって、右馬助にお与えになると、右馬助はかわいらしい童や、またたいそう物慣れた御随身などに、ささやいて渡すのを、若い女房たちはひどく知りたがる。
姫君がお渡りになるというので、女房たちがざわめいて、御几帳を引き直したりする。今まで見た花のような方々の顔とも比べてみたくて、いつもは物見高くない性分なのに、無理に妻戸の御簾を引きかぶって、几帳のほころびから見ると、物のそばから、ただ這うように歩いて渡りなさるところが、ふと見えた。女房たちが大勢行き来するので、何の見分けもつかないほどで、たいそうもどかしい。
薄紫色のお召し物に、髪がまだ背丈には届かない末が、扇を広げたようで、たいそう細く小さな体つきが、かわいらしくいじらしい。一昨年ごろは、たまにほのかにお見かけ申し上げたが、またこの上なく成長なさったようだ、まして盛りの頃にはどんなに美しいだろうと思う。
あの、今まで見た方々を桜や山吹と言うならば、この方は藤の花と言うべきだろうか。高い木から咲きかかって、風になびいている美しさは、このようであるだろうと、たとえずにはいられない。このような方々を、心のままに朝夕拝見したいものだ、そうしてもよさそうな間柄なのに、隔て隔てがはっきりしているのがつらいなどと思うと、まじめな心も浮かれ出るような気持ちがする。
意訳
夕霧は明石の姫君の方で紙と硯を借りて、雲居雁への手紙を書き、吹き乱れた刈萱に結びつける。夕霧は女房たちにも素っ気なく、きまじめで気高い。
夕霧は、几帳のほころびから幼い明石の姫君を覗き見て、藤の花にたとえる。そして、このような人々を心のままに朝夕見ていたいものだと思う。
語釈・文法注
- ひゝなの殿
- 雛遊び(人形遊び)のための小さな御殿。明石の姫君はまだ幼く、人形遊びをしていた。
- 交野の少將
- 現存しない物語『交野の少将物語』の主人公。色好みの貴公子で、手紙の紙の色に合わせた花に結びつけて贈るなど、風流を尽くしたという。
文法
- 反語の「や」(さばかりの色も思ひわかざりけりや)
- ここでは詠嘆。「それほどの色の取り合わせも思いつかなかったなあ」。
- 願望の「ばや」(明暮見奉らばや)
- 「拝見したいものだ」。自己の願望を表す。
解説
夕霧の歌は「あやしく定りてにくき御口つき」と評される。父源氏とは違って、夕霧は風流よりも誠実さの人として描かれている。交野の少将のような色好みの振る舞いを、夕霧はあえてしない。
野分の巻で夕霧は、紫の上を樺桜、玉鬘を八重山吹、明石の姫君を藤の花と、六条院の女君たちを次々に垣間見て花にたとえる。まじめな夕霧の心をも浮き立たせるほど、六条院の女性たちは美しい。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、502–505頁(コマ256–257)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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