源氏物語 第28帖 野分(6)
明石の君への見舞い
春の町では格子を上げ渡して、昨夜見捨てがたかった花が萎れ伏しているのを、源氏と紫の上が見ている。夕霧が中宮の返事を伝えると、源氏は中宮のもとへ参上しようと直衣に着替える。几帳の陰にわずかに紫の上の袖口が見え、夕霧は胸がどきどきして目をそらす。源氏は鏡を見ながら、夕霧の朝の姿が美しいと言い、中宮に会うのは気が引けると言って出かけるが、夕霧のぼんやりした様子を見て、紫の上に、昨日の風の紛れに夕霧があなたを見たのではないかと尋ねる。紫の上は顔を赤らめて否定する。源氏は北に回って明石の御方を見舞うが、風の騒ぎを見舞うだけで、すぐに立ち去ってしまう。明石の御方は「おほかたに」の歌を独り言につぶやく。

- 1南南みなみのののおとゞおとゞおとどにににはははみみみ格子格子こうしまゐりまゐりまいり渡渡わたしししてててよべよべよべ見見み捨捨すててて難難がたかりかりかりししし花花はなどもどもどもののの、、、行行ゆくくくへへへももも知知しらららぬぬぬやうやうようにてにてにて萎萎しおれれれ伏伏ふしししたるたるたるををを見見み給給たまひひいけりけりけり。。。中將中將ちゅうじょうみはしみはしみはしににに居居い給給たまひひいててて御御おんかへりかへりかえり聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「荒荒あらききき風風かぜをををもももふせがふせがふせがせせせ給給たまふふうべくべくべくやややととと若々若々わかわかしくしくしく心心こころぼそくぼそくぼそく覺覺おぼえええ侍侍はべるるるををを、、、今今いまなむなむなん慰慰なぐさみみみ侍侍はべりりりぬるぬるぬる」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえれれればばば、、、
- 2「「「怪怪あやしくしくしくあえかあえかあえかにににおはするおはするおわする宮宮みやなりなりなり。。。女女おんなどちどちどちははは物物もの恐恐おそろしくしくしくおぼしおぼしおぼしぬぬぬべかりべかりべかりつるつるつる夜夜よのののさまさまさまなれなれなればばば、、、げにげにげにおろかおろかおろかなりなりなりととともももおぼいおぼいおぼいつつつらむらむらん」」」とてとてとてやがてやがてやがて參參まいりりり給給たまふふう。。。御御おん直衣直衣のうしなどなどなど奉奉たてまつるるるとてとてとて御簾御簾みすひきひきひきあげあげあげててて入入いりりり給給たまふふうににに、、、短短みじかききき御御おん几帳几帳きちょうひきひきひきよせよせよせてててはつかはつかはつかににに見見みゆるゆるゆる御御おん袖袖そで口口ぐちははは、、、さささにににこそこそこそあらあらあらめめめととと思思おもふふうににに胸胸むねつぶつぶつぶつぶつぶつぶとととなるなるなる心地心地ここちするするするもももうたてうたてうたてあれあれあればばばほかほかほかざまざまざまににに見見みやりやりやりつつつ。。。
- 3殿殿との御御おん鏡鏡かがみなどなどなど見見み給給たまひひいててて、、、忍忍しのびびびててて「「「中將中將ちゅうじょうののの朝朝あさけけけののの姿姿すがたはははきよげきよげきよげなりなりなりななな。。。唯今唯今ただいまはははきびはきびはきびわなるなるなるべきべきべき程程ほどをををかたくなしからかたくなしからかたくなしからずずずととと見見みゆるゆるゆるももも心心こころのののやみやみやみにににやややあらあらあらむむん」」」とてとてとて我我わががが御御おん顏顏かおはははふりふりふりがたくがたくがたくよしよしよしととと見見み給給たまふふうべかべかべかめりめりめり。。。
- 4いといといといたくいたくいたく心心こころげさうげさうげそうししし給給たまひひいててて、、、「「「宮宮みやににに見見みえええ奉奉たてまつるるるははは恥恥はずかしうしうしゅうこそこそこそあれあれあれ。。。何何なにばかりばかりばかりあらはあらはあらわなるなるなるゆゑゆゑしさゆゑゆゑしさゆえゆえしさももも見見みえええ給給たまははわぬぬぬ人人ひとのののおくゆかしくおくゆかしくおくゆかしく心心こころづかひづかひずかいせせせられられられ給給たまふふうぞぞぞかしかしかし。。。いといといとおほどかおほどかおおどかににに女女おんなしきしきしきものものものからからから氣色氣色けしきづきづきずきてててぞぞぞおはするおはするおわするややや」」」とてとてとて出出いででで給給たまふふうににに、、、
- 5中將中將ちゅうじょうながめながめながめ入入いりりりてててとみとみとみにににももも驚驚おどろくくくまじきまじきまじき氣色氣色けしきにてにてにて居居い給給たまへへえるるるををを、、、心心こころときときとき人人ひとののの御御おん目目めにににはははいかゞいかゞいかが見見み給給たまひひいけむけむけん、、、立立たちちちかへりかへりかえり女君女君おんなぎみににに「「「昨日昨日きのうののの風風かぜのののまぎれまぎれまぎれににに中將中將ちゅうじょうははは見見み奉奉たてまつりりりやややしししけむけむけん。。。かのかのかの戶戶とのののあきあきあきたりたりたりしししににによよよ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、おもておもておもてうちうちうち赤赤あかめめめててて「「「いかでいかでいかでかかかさささはははあらあらあらむむん。。。渡殿渡殿わたどのののの方方かたにににははは人人ひとののの音音おともももせせせざりざりざりしししものものものををを」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふう。。。猶猶なお「「「怪怪あやししし」」」とととひとりひとりひとりごちごちごちててて渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 6御簾御簾みすののの內內うちににに入入いりりり給給たまひひいぬれぬれぬればばば中將中將ちゅうじょう渡殿渡殿わたどのののの戶戶と口口ぐちににに人々人々びとのののけはひけはひけわいするするするににによりよりよりててて物物ものなどなどなどいひいひいいたはぶるれたはぶるれたわぶるれどどど、、、思思おもふふう事事ことのののすぢすぢすぢすぢすじすじなげかしくなげかしくなげかしくててて例例れいよりよりよりもももしめりしめりしめりててて居居い給給たまへへえりりり
- 7こなたこなたこなたよりよりよりやがてやがてやがて北北きたににに通通とおりりりててて明石明石あかしののの御御おん方方かたををを見見み遣遣やりりり給給たまへへえばばば、、、はかばかしきはかばかしきはかばかしきけいしけいしけいしだつだつだつ人人ひとなどなどなどももも見見みえええずずず、、、馴馴なれれれたるたるたる下仕下仕しもづかえどもどもどもぞぞぞ草草くさののの中中なかにににまじりまじりまじりてててありくありくありく。。。わらはべわらはべわらわべなどなどなどのののをかしきをかしきおかしきあこめあこめあこめ姿姿すがたうちうちうちとけとけとけててて心心こころとゞめとゞめとどめ取取とりりり分分わきききうゑうゑうえ給給たまふふう龍膽龍膽りゅうたん朝顏朝顏あさがおのののはひはひはいまじれまじれまじれるるるませませませももも皆皆みな散散ちりりり亂亂みだれれれたるたるたるををを、、、とかうとかうとこうひきひきひき出出いででで尋尋たずぬるぬるぬるなるなるなるべしべしべし。。。
- 8物物ものののの哀哀あわれににに覺覺おぼえええけるけるけるまゝまゝままににに箏箏そうののの琴琴ことをををかきかきかきまさぐりまさぐりまさぐりつゝつゝつつはしはしはし近近じかくくく居居い給給たまへへえるるるににに、、、御御おんさきさきさきおふおふおう聲聲こえのののしけれしけれしければばば打打うちちち解解とけけけなえばめなえばめなえばめるるる姿姿すがたににに小袿小袿こうちきひきひきひきおとしおとしおとしてててけぢめけぢめけじめ見見みせせせたるたるたるいといといといたしいたしいたし。。。はしはしはしののの方方かたににについついつい居居い給給たまひひいててて風風かぜのののさわぎさわぎさわぎばかりばかりばかりをををとぶらひとぶらひとぶらい給給たまひひいてててつれなくつれなくつれなく立立たちちち歸歸かえりりり給給たまふふうももも心心こころやましげやましげやましげなりなりなり「「「おほかたにおほかたにおおかたに荻荻おぎののの葉葉はすぐるすぐるすぐる風風かぜののの音音おともももうきうきうき身身みひとつひとつひとつにににしむしむしむ心心ここちちちしてしてして」」」とととひとりひとりひとりごちごちごちけりけりけり。。。
現代語訳
南の御殿では、御格子を上げ渡して、昨夜見捨てがたかった花々が、行方も知れないようにして萎れ伏しているのを、源氏と紫の上がご覧になっていた。中将は御階に座って、中宮のお返事を申し上げなさる。「荒い風をも防いでくださるかと、子どもっぽく心細く思っておりましたが、今になって慰められました」と申し上げなさると、
源氏は「妙にか弱くていらっしゃる宮だ。女同士では、何となく恐ろしくお思いになったに違いない夜の様子だったので、本当におろそかだとお思いになっただろう」と言って、すぐに参上なさる。御直衣などをお召しになろうとして、御簾を引き上げて中にお入りになると、短い御几帳を引き寄せて、わずかに見える御袖口は、あの方であろうと思うと、胸がどきどきする気持ちがするのも嫌なので、夕霧はよその方に目をそらした。
殿は御鏡などをご覧になって、ひそかに「中将の朝の姿は美しいね。今はまだ子どもっぽいはずの年頃を、見苦しくないと見えるのも、親の心の闇だろうか」と言って、ご自分のお顔はいつまでも古びず、美しいとご覧になっているようだ。
たいそう念入りに身づくろいをなさって、「中宮にお目にかかるのは気が引けることだ。どれほど目立った重々しさもお見せにならない方が、奥ゆかしく、こちらも気をつかわずにはいられないのだよ。たいそうおっとりとして女らしいけれども、気品がおありになるよ」と言ってお出かけになると、
中将が物思いにふけって、すぐには気づきそうにもない様子で座っていらっしゃるのを、勘の鋭いお方の目にはどうご覧になったのだろうか、源氏は引き返して女君に、「昨日の風の紛れに、中将はあなたをお見かけしたのではないか。あの戸が開いていたからね」とおっしゃると、紫の上は顔を赤らめて、「どうしてそんなことがありましょう。渡殿の方には人の音もしませんでしたのに」と申し上げなさる。源氏はやはり「怪しい」と独り言を言って、中宮の方へお渡りになった。
源氏が御簾の内にお入りになったので、中将は渡殿の戸口に女房たちの気配がするのに近寄って、冗談などを言うけれど、思うことのあれこれが嘆かわしくて、いつもよりも沈んで座っていらっしゃった。
源氏は中宮のもとから、そのまま北に通って、明石の御方をご覧になると、しっかりした家司らしい人なども見えず、物慣れた下仕えたちが草の中にまじって歩いている。童女などが美しい衵姿でくつろいで、明石の御方が心をとめて特別に植えさせなさった竜胆や朝顔が這いまじっている籬も、皆散り乱れているのを、あれこれと引き出して探しているのであろう。
明石の御方は、何となくしみじみと思われるままに、箏の琴をかき鳴らしながら端近くに座っていらっしゃったが、源氏の御前駆の声がしたので、くつろいで柔らかくなった衣の姿に小袿を引き掛けて、けじめを見せているのは、たいそう奥ゆかしい。源氏は端の方にちょっと座りなさって、風の騒ぎだけをお見舞いになって、そっけなくお帰りになるのも、明石の御方には恨めしいようだ。「おほかたに荻の葉すぐる風の音もうき身ひとつにしむ心ちして(世間一般に荻の葉を吹き過ぎる風の音も、つらいわが身一つにしみる気持ちがして)」と独り言を言った。
意訳
源氏は中宮のもとへ参上しようと着替えるが、夕霧のぼんやりした様子を見て、紫の上に、昨日の風の紛れに夕霧があなたを見たのではないかと尋ねる。紫の上は顔を赤らめて否定する。
源氏は北に回って明石の御方を見舞うが、風の騒ぎを見舞うだけで、すぐに立ち去ってしまう。明石の御方は、わが身のつらさを嘆く歌を独り言につぶやく。
語釈・文法注
文法
- 推量の「べかめり」(よしと見給ふべかめり)
- 「べかるめり」の撥音便無表記。「美しいとご覧になっているようだ」。
- 「もの」+「を」(人の音もせざりしものを)
- 逆接の接続助詞。「人の音もしませんでしたのに」。
解説
源氏が鏡を見ながら夕霧の美しさを褒め、自分の顔も衰えていないと満足する姿は、ユーモラスに描かれている。しかし、夕霧の様子から紫の上が見られたことを察する源氏の鋭さは、かつて自分が藤壺を思った経験から来るものでもあろう。
明石の御方への源氏の見舞いはそっけないもので、明石の御方の「おほかたに」の歌には、身分の低さゆえに源氏の愛情を十分に受けられない嘆きが込められている。六条院の女君たちの間の、源氏の扱いの差が浮き彫りになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、498–501頁(コマ254–255)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日