源氏物語 第28帖 野分(3)
三条宮の大宮と夕霧
夕霧は、風を心配して三条宮から来たが、祖母の大宮が子どものように怖がっているので戻ると言う。源氏は、年をとると若返るものだと同情して、夕霧を送り出す。夕霧は誠実な人柄で、毎日欠かさず三条宮と六条院に参上している。大宮は、こんな野分は初めてだと震えながら、夕霧の来訪を喜ぶ。昔は威勢を誇った大宮も、今は夕霧だけを頼りにしている。夕霧は夜通し風の音を聞きながら、恋しい雲居雁のことよりも、垣間見た紫の上の面影が忘れられず、あってはならない思いだと自分を戒める。夕霧は、このような方と並ぶ花散里を気の毒に思い、紫の上のような人を妻にしたいと思う。

- 1「「「中將中將ちゅうじょうははは何處何處いずくよりよりよりものしものしものしつるつるつるぞぞぞ」」」、、、「「「ののの宮宮みやににに侍侍はべりりりつるつるつるををを、、、風風かぜいたくいたくいたく吹吹ふきききぬぬぬべしべしべしととと人々人々びとののの申申もうしししつれつれつればばば、、、覺束覺束おぼつかなさなさなさににになむなむなん參參まいりりりててて侍侍はべりりりつるつるつる。。。かしこかしこかしこにににはははましてましてまして心心こころぼそくぼそくぼそく風風かぜののの音音おとをををももも今今いまはははかへりてかへりてかえりて若若わかききき子子このののやうやうようにににおぢおぢおじ給給たまふふうめれめれめればばば、、、心苦心苦こころぐるしきしきしきにににまかでまかでまかで侍侍はべりりりなむなむなん」」」ととと申申もうししし給給たまへへえばばば、、、
- 2「「「げにげにげに、、、はやはやはやまうでまうでもうで給給たまひひいねねね。。。老老おいいいもてもてもていきいきいきててて又又またわかうわかうわこうなるなるなることことこと世世よにににあるあるあるまじきまじきまじきことことことなれなれなれどどど、、、げにげにげにさささのみのみのみこそこそこそあれあれあれ」」」などなどなど哀哀あわれがりがりがり聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、「「「かうかうこう騷騷さわがしげしげしげにににはべはべはべめるめるめるををを、、、このこのこの朝臣朝臣あそん侍侍さぶらへへえばばばととと思思おもひひい給給たまへへえ讓讓ゆずりりりててて」」」などなどなど御御おんせうそこせうそこしょうそこ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 3道道みちすがらすがらすがらいりいりいりもみもみもみするするする風風かぜなれなれなれどどど、、、麗麗うるわしくしくしく物物ものししし給給たまふふう君君きみにてにてにて、、、三條三條さんじょうののの宮宮みやととと六條院六條院ろくじょういんとととににに參參まいりりりててて御覽御覽ごらんぜぜぜられられられ給給たまははわぬぬぬ日日ひなしなしなし。。。うちうちうちののの御御おん物物もの忌忌いみなどなどなどににに得得え去去さらららずずず籠籠こもりりり給給たまふふうべきべきべき日日ひよりよりより外外ほかははは、、、いそがしきいそがしきいそがしき公事公事おおやけごと節會節會せちえなどなどなどのののいとまいとまいとまいるいるいるべくべくべく事事こと繁繁しげきききにににあはせあはせあわせてててももも、、、まづまづまずこのこのこの院院いんににに參參まいりりり宮宮みやよりよりよりぞぞぞ出出いででで給給たまひひいけれけれければばば、、、
- 4ましてましてまして今日今日きょうかゝるかゝるかかる空空そらののの氣色氣色けしきににによりよりより風風かぜのののさきさきさきにににあくがれあくがれあくがれありきありきありき給給たまふふうももも哀哀あわれににに見見みゆゆゆ。。。宮宮みやいといといと嬉嬉うれしくしくしくたのもしたのもしたのもしととと待待まちちちゅ受受うけけけ給給たまひひいててて、、、「「「こゝらこゝらここらののの齡齡よわいにににまだまだまだかくかくかく騷騷さわがしきしきしき野分野分のわきにににこそこそこそあはあはあわざりざりざりつれつれつれ」」」ととと唯唯ただわなゝきわなゝきわななき給給たまふふう。。。
- 5大大おおきききなるなるなる木木きののの枝枝えだなどなどなどののの折折おるゝるゝるる音音おともももいといといとうたてうたてうたてありありありおとゞおとゞおとどののの瓦瓦かわらさへさへさへ殘殘のこるるるまじうまじうまじゅう吹吹ふききき散散ちらすらすらすににに、、、「「「かくかくかくてててものしものしものし給給たまへへえるるることことこと」」」とととかつかつかつはははののの給給たまふふう。。。そこらそこらそこら所所ところせかりせかりせかりししし御御おん勢勢いきおひひいのののしづまりしづまりしずまりててて、、、このこのこの君君きみををを賴賴たのもしもしもし人人ひとにににおぼしおぼしおぼしたるたるたる、、、常常つねなきなきなき世世よなりなりなり。。。今今いまももも大方大方おおかたのののおぼえおぼえおぼえののの薄薄うすらぎらぎらぎ給給たまふふうことことことはははなけれなけれなけれどどど內內うちのののおほいとのおほいとのおおいとのゝゝの御御おんけはひけはひけわいはははなかなかなかなかなかなか少少すこししし疎疎うとくくくぞぞぞありありありけるけるける。。。
- 6中將中將ちゅうじょうよもすがらよもすがらよもすがら荒荒あらききき風風かぜののの音音おとにににもももすゞろすゞろすずろににに物物ものあはれあはれあわれなりなりなり。。。心心こころにににかけかけかけててて戀戀こいしししととと思思おもふふう人人ひとののの御御おん事事ことはははさしさしさしおかおかおかれれれててて、、、ありありありつるつるつる御御おん面面おも影影かげののの忘忘わすららられれれぬぬぬををを、、、こここはははいかにいかにいかに覺覺おぼゆるゆるゆる心心こころぞぞぞあるあるあるまじきまじきまじき思思おもひひいもももこそこそこそ添添そへへえ、、、いといといと恐恐おそろしきしきしきととととととみづからみづからみずから思思おもひひいまぎらはしまぎらはしまぎらわし、、、
- 7ことことこと事事ことににに思思おもひひい移移うつれれれどどど猶猶なおふとふとふと覺覺おぼえええつゝつゝつつきききしししかたかたかた行行ゆくくくすゑすゑすえありがたうありがたうありがとうももも物物ものししし給給たまひひいけるけるけるかなかなかな。。。かかるかかるかかる御御おんなからひなからひなからいににに、、、いかでいかでいかでひんがしひんがしひんがしののの御御おん方方かたさるさるさるものものものゝゝのかずかずかずにてにてにて立立たちちち並並ならびびび給給たまひひいつつつらむらむらん、、、たとしへなかりたとしへなかりたとしえなかりけりけりけりややや、、、あなあなあないとほしいとほしいとおしととと覺覺おぼゆゆゆ。。。
- 8おとゞおとゞおとどののの御御み心心こころばへばへばえをををありがたしありがたしありがたしととと思思おもひひい知知しりりり給給たまふふう。。。人人ひとがらがらがらのののいといといとまめやかまめやかまめやかなれなれなればばばにげなさにげなさにげなさををを思思おもひひいよらよらよらねねねどどど、、、さやうさやうさようならならならむむん人人ひとをををこそこそこそ同同おなじうじうじゅうははは見見みててて明明あかししし暮暮くらさささめめめ、、、限限かぎりあらあらあらむむん命命いのちののの程程ほどももも今今いま少少すこしししははは必必かならずずず延延のびびびなむなむなんかしかしかしととと思思おもひひい續續つづけけけらるらるらる
現代語訳
源氏が「中将はどこから来たのか」とお尋ねになると、「三条宮におりましたが、風がひどく吹きそうだと人々が申しましたので、気がかりで参りました。あちらでは、まして心細く、風の音をも、今はかえって幼い子のようにお怖がりになるようですので、お気の毒ですから退出いたしましょう」と申し上げなさるので、
「本当に、早く参りなさい。年をとって、また若返ることは世にあるはずもないことだけれど、本当にそういうものなのだ」などと同情申し上げなさって、「このように騒がしいようですが、この朝臣がお仕えしているので、お任せして」などとお便りを申し上げなさる。
道すがら、激しく吹き荒れる風だけれど、きちんとしていらっしゃる君なので、三条宮と六条院とに参上して、お目にかからない日はない。宮中の御物忌などで、やむを得ず籠もりなさる日以外は、忙しい公事や節会などで暇のないほど用事が多いのに重なっても、まずこの院に参り、宮のもとから出仕なさったので、
まして今日、このような空模様のために、風より先にあちこち歩き回っていらっしゃるのも、しみじみと見える。大宮はたいそううれしく頼もしいと待ち受けなさって、「これまでの長い年齢で、まだこれほど騒がしい野分には遭わなかった」と、ただ震えていらっしゃる。
大きな木の枝などが折れる音もたいそう恐ろしい。御殿の瓦さえ残らないほど吹き散らすので、「よくこうして来てくださったこと」と、一方ではおっしゃる。あれほど盛んだったご威勢も衰えて、この君を頼みにしていらっしゃるのは、無常な世の中である。今も世間一般のご信望が薄らぐことはないけれど、内大臣のお心づかいは、かえって少し疎遠であった。
中将は一晩中、荒い風の音にも、何となくしみじみとした気持ちである。心にかけて恋しいと思う人(雲居雁)のことはさしおかれて、さっきのお面影が忘れられないのを、これはどうしたことだろう、あってはならない思いでも加わったら、たいそう恐ろしいことだと、自分で思い紛らわして、
ほかのことに思いを移そうとするけれど、やはりふと思い出されては、過去にも将来にも、めったにないほどの方でいらっしゃったことよ。このようなご夫婦の間に、どうして東の御方(花散里)が、妻の一人として肩を並べていらっしゃったのだろう、比べようもないことよ、ああ気の毒にと思われる。
大臣のお心づかいを、めったにないものと思い知りなさる。人柄がたいそうまじめなので、不似合いなことは思いもよらないけれど、あのような人をこそ、同じことなら妻として朝夕を過ごしたいものだ、限りある命のほども、もう少しはきっと延びるだろうと、思い続けずにはいられない。
意訳
夕霧は、風を怖がる祖母の大宮のもとに戻る。夕霧は誠実な人柄で、毎日欠かさず三条宮と六条院に参上している。昔は威勢を誇った大宮も、今は夕霧だけを頼りにしている。
夕霧は夜通し風の音を聞きながら、恋しい雲居雁よりも、垣間見た紫の上の面影が忘れられず、あってはならない思いだと自分を戒める。夕霧は、紫の上のような人を妻にしたいと思う。
語釈・文法注
- 三條の宮
- 大宮の住まい。夕霧の祖母で、亡き葵の上の母。夕霧は幼いころ、ここで雲居雁とともに育った。
文法
- 「もこそ」(あるまじき思ひもこそ添へ)
- 「あってはならない思いが加わったら困る」。危惧を表す。
- 推量の「らむ」(立ち並び給ひつらむ)
- 原因推量。「どうして肩を並べていらっしゃったのだろう」。
解説
夕霧の誠実な人柄は、祖母の大宮への孝行ぶりに表れている。一方で、紫の上の面影に心を奪われる夕霧の姿は、父源氏の若き日の藤壺への思いを思わせる。
夕霧が紫の上と花散里を比べて、花散里を気の毒に思うのは、夕霧が花散里に育てられた身だけに、皮肉でもある。容貌の美しさに心ひかれるのは、まだ若い夕霧の未熟さでもあろう。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、496–497頁(コマ253)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日