源氏物語 第28帖 野分(2)
夕霧、紫の上を垣間見る
春の町でも野分が吹き荒れ、紫の上は端近くで、萎れる花を見ている。見舞いに来た夕霧は、東の渡殿の小障子の上から、開いた妻戸の隙をのぞき、廂の間にいる紫の上の姿を初めて見る。その気高く美しい姿は、春の曙の霞の間から咲き乱れる樺桜を見るようで、夕霧は、父が自分を紫の上に近づけなかった理由を悟って、恐ろしくなる。源氏が来て格子を下ろさせ、紫の上とほほえみ合う二人の姿は、親とも思えないほど若々しく美しい。夕霧は風で格子が開いたので立ち退き、今参ったように咳払いをして現れる。源氏は、妻戸が開いていたことに気づき、夕霧に見られたかと疑う。

- 1南南みなみのののおとゞおとゞおとどにににももも前栽前栽せんざいつくろはつくろはつくろわせせせ給給たまひひいけるけるける折折おりにににしもしもしも、、、かくかくかく吹吹ふききき出出いでででゝゝてもとあらもとあらもとあらののの小小こはしたなくはしたなくはしたなく待待まちちちえええたるたるたる風風かぜののの氣色氣色けしきなりなりなり。。。をれをれおれかへりかへりかえり露露つゆもももとまるとまるとまるまじうまじうまじゅう吹吹ふききき散散ちらすすすををを少少すこしししはしはしはし近近ちこうううててて見見み給給たまふふう。。。
- 2おとゞおとゞおとどははは姫君姫君ひめぎみののの御御おん方方かたにににおはしますおはしますおわします程程ほどににに、、、中將中將ちゅうじょうののの君君きみ參參まいりりり給給たまひひいててて東東ひんがしののの渡殿渡殿わたどのののの小小こさうじさうじそうじのののかみかみかみよりよりより妻戶妻戶つまどのののあきあきあきたるたるたるひまひまひまををを、、、何何なに心心ごころもももなくなくなく見見み入入いれれれ給給たまへへえるるるににに、、、女房女房にょうぼう數多數多あまた見見みゆれゆれゆればばば立立たちちちとまりとまりとまりててて音音おともももせせせででで見見みるるる。。。
- 3御御おん屏風屏風びょうぶももも風風かぜのののいたういたういとう吹吹ふきききけれけれければばば押押おししし疊疊たたみみみよせよせよせたるたるたるににに、、、みみみとほしとほしとおしあらはあらはあらわなるなるなる廂廂ひさしのののおましおましおましににに居居い給給たまへへえるるる人人ひと、、、物物ものににに紛紛まぎるるるべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。
- 4氣氣け高高だかくくく淸淸きよらにらにらにさとさとさとうちうちうち匂匂におふふう心心ここちちちしししててて、、、春春はるののの曙曙あけぼのののの霞霞かすみのののまままよりよりよりおもしろきおもしろきおもしろきかばかばかばののの咲咲さききき亂亂みだれれれたるたるたるををを見見みるるる心心ここちちちすすす。。。あぢきなくあぢきなくあじきなく見見み奉奉たてまつるるる。。。我我わががが顏顏かおにににももも移移うつりりりくるくるくるやうやうようににに愛敬愛敬あいきょうははは匂匂におひひいたりたりたり。。。又又またなくなくなくめづらしきめづらしきめずらしき人人ひとののの御御おん樣樣さまなりなりなり。。。
- 5みすみすみすののの吹吹ふききき上上あげげげらるゝらるゝらるるををを人々人々びとおさへおさへおさえててて、、、いかにいかにいかにしししたるたるたるにににかかかあらあらあらむむん打打うちちち笑笑わらひひい給給たまへへえるるる、、、いといといといみじういみじういみじゅう見見みゆゆゆ。。。花花はなどもどもどもををを心苦心苦こころぐるしがりしがりしがりてててえええ見見み捨捨すてててゝゝて入入いりりり給給たまははわずずず。。。おまへおまへおまえなるなるなる人々人々びともももさまざまさまざまさまざまににに物物もの淸淸きよげげげなるなるなる姿姿すがたどもどもどもははは見見み渡渡わたさささるれるれるれどどど目目めうつるうつるうつるべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。
- 6おとゞおとゞおとどのののいといといとけけけ遠遠どおくくく遙遙はるかにににもてもてもてなしなしなし給給たまへへえるるるはははかくかくかく見見みるるる人人ひとたゞたゞただにににはははえええ思思おもふふうまじきまじきまじき御御おん有樣有樣ありさまををを、、、いたりいたりいたり深深ふかききき御心御心みこころにてにてにて、、、若若もしししかゝるかゝるかかることことこともももやややとととおぼすおぼすおぼすなりなりなりけりけりけりととと思思おもふふうにににけはひけはひけわい恐恐おそろしくしくしくててて立立たちちちさるさるさるにににぞぞぞ、、、
- 7西西にしののの御御おん方方かたよりよりよりうちうちうちののの御御おん障子障子そうじひきひきひき開開あけけけててて渡渡わたりりり給給たまふふう。。。「「「いといといとうたてうたてうたてあわたゞしきあわたゞしきあわただしき風風かぜなななめりめりめり。。。御御おん格子格子こうしおろしおろしおろしてててよよよ。。。をのこをのこおのこどもどもどもあるあるあるらむらむらんををを、、、あらはあらはあらわにににもももこそこそこそあれあれあれ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふうををを、、、又又またよりよりよりててて見見みれれればばば、、、物物もの聞聞きこえええててておとゞおとゞおとどもももほゝゑみほゝゑみほほえみてててぞぞぞ見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
- 8親親おやともともとも覺覺おぼえええずずず若若わかくくく淸淸きよらにらにらになまめきなまめきなまめきててていみじきいみじきいみじき御御おんかたちかたちかたちのののさかりさかりさかりなりなりなり。。。女女おんなもももねびねびねびとゝのひとゝのひととのい、、、飽飽あかかかぬぬぬ事事ことなきなきなき御御おんさまさまさまどもどもどもなるなるなるををを見見みるるるににに身身みにににしむしむしむばかりばかりばかり覺覺おぼゆれゆれゆれどどど、、、このこのこの渡殿渡殿わたどのののの東東ひんがしののの格子格子こうしももも吹吹ふききき放放はなちちちててて、、、立立たてててるるる所所ところのののあらはあらはあらわににになれなれなればばば恐恐おそろしくしくしくててて立立たちちちのきのきのきぬぬぬ。。。
- 9今今いま參參まいるるるやうやうようにににうちうちうちこわづくりこわづくりこわずくりてててすのこすのこすのこののの方方かたににに步步あゆみみみ出出いででで給給たまへへえれれればばば、、、「「「さればよさればよさればよ、、、あらはあらはあらわなりなりなりつつつらむらむらん」」」とてとてとて「「「かのかのかの妻戶妻戶つまどのののあきあきあきたりたりたりけるけるけるよよよ」」」ととと今今いまぞぞぞ見見み咎咎とがめめめ給給たまふふう。。。
- 10年年とし頃頃ごろかゝるかゝるかかることことことののの露露つゆなかりなかりなかりつるつるつるををを、、、風風かぜこそこそこそげにげにげに巖巖いわおももも吹吹ふききき上上あげげげつつつべきべきべきものものものなりなりなりけれけれけれ、、、さばかりさばかりさばかりののの御心御心みこころどもどもどもをををさわがしさわがしさわがしててて珍珍めずらしくしくしく嬉嬉うれしきしきしきめめめををを見見みつるつるつるかなかなかなととと覺覺おぼゆゆゆ。。。
- 11人々人々びとまゐりまゐりまいりててて、、、「「「いといといといかめしういかめしういかめしゅう吹吹ふきききぬぬぬべきべきべき風風かぜにににははは侍侍はべりりり。。。うしとらうしとらうしとらののの方方かたよりよりより吹吹ふききき侍侍はべれれればばばこのこのこのおまへおまへおまえはははのどけきのどけきのどけきなりなりなり。。。うまうまうま塲塲ばのののおとゞおとゞおとど、、、南南みなみののの釣殿釣殿つりどのなどなどなどははは危危あやうげげげににになむなむなん」」」とてとてとてとかくとかくとかく事事こと行行おこなひひいのゝしるのゝしるののしる。。。
現代語訳
南の御殿(春の町)でも、前栽を手入れさせていらっしゃったちょうどその時に、このように吹き出して、根元のまばらな小萩が、ひどい目にあうのを待ち受けていたような風の様子である。折れ返って、露もとどまらないほど吹き散らすのを、紫の上は少し端近くに出てご覧になる。
大臣(源氏)は姫君(明石の姫君)の御方にいらっしゃるころ、中将の君(夕霧)が参上なさって、東の渡殿の小障子の上から、妻戸の開いている隙間を、何気なくのぞきなさると、女房が大勢見えるので、立ち止まって、音も立てずに見る。
御屏風も、風がひどく吹いたので押し畳んで寄せてあるので、見通しのよい、むき出しの廂の御座所に座っていらっしゃる人は、ほかの人と紛れようもない。
気高く美しく、さっと照り輝くような感じがして、春の曙の霞の間から、趣深い樺桜が咲き乱れているのを見るような気がする。夕霧は、どうしようもなく見とれ申し上げる。こちらの顔にまで移ってくるように、愛嬌が匂い立っている。またとないほどすばらしい方のご様子である。
御簾が吹き上げられるのを女房たちが押さえて、どうしたのだろうか、お笑いになったのが、たいそうすばらしく見える。花などを心配して、見捨てて奥にお入りになることもできない。御前の女房たちも、さまざまにこぎれいな姿などは見渡されるけれど、目移りするはずもない。
大臣がたいそうよそよそしく、遠ざけて扱っていらっしゃったのは、このように見る人が平気ではいられないご様子なので、思慮の深いお心で、もしこのようなこともあろうかとお思いだったのだと思うと、その気配が恐ろしくて立ち去ろうとすると、
源氏が西の御方から、内側の御障子を引き開けておいでになる。「たいそういやな、慌ただしい風のようだ。御格子を下ろしなさい。男たちもいるだろうに、丸見えになってしまう」と申し上げなさるのを、夕霧がまた寄って見ると、何か申し上げて、大臣もほほえんで見申し上げなさる。
親とも思えないほど若々しく美しく、優美で、すばらしいご容貌の盛りである。女君も成熟して、不足のないお二人のご様子を見るにつけ、身にしみるほどに思われるけれど、この渡殿の東の格子も風が吹き放って、立っている所が丸見えになったので、恐ろしくて立ち退いた。
今参ったように咳払いをして、簀子の方に歩み出なさると、源氏は「やはりそうだ。丸見えだったのだろう」と思って、「あの妻戸が開いていたのだな」と、今になってお気づきになる。
夕霧は、長年このようなことは少しもなかったのに、風こそは、なるほど巌も吹き上げてしまいそうなものだ、あれほどの方々のお心を騒がせて、珍しくうれしい目を見たことよと思う。
人々が参って、「たいそう激しく吹きそうな風でございます。丑寅の方角から吹いておりますので、この御前は穏やかなのです。馬場の御殿や南の釣殿などは危なそうでございます」と言って、あれこれと手配して騒いでいる。
意訳
野分の吹き荒れる中、見舞いに来た夕霧は、開いた妻戸の隙から紫の上の姿を初めて見る。その気高く美しい姿は、春の曙の樺桜のようで、夕霧は、父が自分を紫の上に近づけなかった理由を悟る。
源氏が来て紫の上とほほえみ合う姿は、親とも思えないほど若々しく美しい。夕霧は格子が開いたので立ち退き、今参ったように現れる。源氏は、妻戸が開いていたことに気づき、夕霧に見られたかと疑う。
語釈・文法注
- もとあらの小萩
- 「宮城野のもとあらの小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て」(古今集)による。根元のまばらな萩。
- かば櫻
- 樺桜。山桜の一種で、花が濃い紅色を帯びる。紫の上の華やかな美しさのたとえ。
文法
- 「もこそ」(あらはにもこそあれ)
- 「丸見えになってしまうかもしれない」。危惧を表す。
- 「さればよ」(さればよ、あらはなりつらむ)
- 「やはりそうだ」。予想が当たったときの言葉。
解説
夕霧が紫の上を垣間見る場面は、野分の巻のもっとも有名な場面である。源氏がかつて藤壺に恋したように、夕霧も父の妻に心を奪われる危うさが暗示される。
源氏が夕霧を紫の上に近づけなかったのは、自分の若き日の経験から、このような事態を恐れたからであった。夕霧はそれを悟り、父の深慮に恐れを感じる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、494–497頁(コマ252–253)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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