源氏物語 第25帖 蛍(8)
紫の上と物語、夕霧
紫の上も、明石の姫君のためと称して物語を楽しむ。こまのの物語の絵の、昼寝する幼い姫君を見て、自分の幼いころを思い出す。源氏は、姫君に色恋めいた物語を読み聞かせるなと言い、紫の上は、うつほ物語の藤原の君の娘は、しっかりしすぎて女らしさがないと評する。源氏は、娘の教育について、ほどよく育てるのが大切だと語り、継母の意地悪な物語は選り除いて、姫君のための絵物語を作らせる。夕霧は、紫の上には近づけないが、明石の姫君のもとには出入りを許される。夕霧は、雲居雁と遊んだ日々を思い出して涙ぐみ、ほかの女には本気にならず、雲居雁に六位の浅葱の袖を見直させたいと思い続ける。

- 1紫紫むらさきののの上上うえももも姫君姫君ひめぎみののの御御おんあつらへあつらへあつらえにににことことことつけつけつけててて物語物語ものがたりははは捨捨すててて難難がたくくく覺覺おぼしししたりたりたり。。。こまのこまのこまのゝゝのののの繪繪えにてにてにてあるあるあるををを、、、「「「いといといとよくよくよく書書かきききたるたるたる繪繪えかなかなかな」」」とてとてとて御覽御覽ごらんずずず。。。
- 2ちひさきちひさきちいさき女君女君おんなぎみののの何何なに心心ごころもももなくなくなくててて晝晝ひるねねねししし給給たまへへえるるる所所ところををを、、、昔昔むかしののの有樣有樣ありさまおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝて女君女君おんなぎみははは見見み給給たまふふう。。。「「「かゝるかゝるかかるわらはわらはわらわどちどちどちだにだにだにいかにいかにいかにざれざれざれたりたりたりけりけりけり、、、まろまろまろこそこそこそ猶猶なおためしためしためしにににしししつつつべくべくべく心心こころのどけさのどけさのどけさははは人人ひとににに似似にざりざりざりけれけれけれ」」」ととと聞聞きこえええ出出いででで給給たまへへえりりり。。。げにげにげにたぐひたぐひたぐい多多おおからからからぬぬぬ事事ことどもどもどもははは好好このみみみ集集あつめめめ給給たまへへえりりりけむけむけんかしかしかし。。。
- 3「「「姫君姫君ひめぎみののの御前御前おまえにてにてにてこのこのこの世世よ馴馴なれれれたるたるたる物語物語ものがたりなどなどなどななな讀讀よみみみ聞聞きかかかせせせ給給たまひひいそそそみそかみそかみそか心心ごころつきつきつきたるたるたるものものものゝゝのむすめむすめむすめなどなどなどははは、、、をかしをかしおかしとととにににはははあらあらあらねねねどどどかゝるかゝるかかる事事こと世世よにににはははありありありけりけりけりととと見見み馴馴なれれれ給給たまははわむむんぞぞぞゆゝしきゆゝしきゆゆしきややや」」」とととのたまふのたまふのたまうもももこよなしこよなしこよなしととと、、、對對たいののの御御おんかたかたかた聞聞きききき給給たまははわゞゞば心心こころ置置おききき給給たまひひいつつつべくべくべくなむなむなん。。。
- 4うへうへうえ「「「心心こころ淺淺あさげげげなるなるなる人人ひとまねまねまねどもどもどもははは見見みるるるにににもももかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたくこそこそこそ空穂空穂うつほののの藤原藤原ふじわらののの君君きみのののこそこそこそ、、、いといといとおもりかおもりかおもりかにににはかばかしきはかばかしきはかばかしき人人ひとにてにてにてあやまちあやまちあやまちなかなかなかめれめれめれどどど、、、すくよかすくよかすくよかににに言言いひひい出出いでででたるたるたるしわざしわざしわざももも女女おんなしきしきしき所所ところなかなかなかめるめるめるぞぞぞひとひとひとやうやうようなななめるめるめる」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 5「「「うつゝうつゝうつつののの人人ひともももさささぞぞぞあるあるあるべかべかべかめるめるめる。。。ひとびとしくひとびとしくひとびとしくたてたてたてたるたるたるおもむきおもむきおもむきことことことにてにてにて善善よききき程程ほどににに搆搆かまへへえぬぬぬややや。。。よしよしよしなからなからなからぬぬぬ親親おやののの心心こころとゞめとゞめとどめててておふしおふしおおしたてたてたてたるたるたる人人ひとののの、、、こめかしきこめかしきこめかしきををを生生いけけけるるるしるししるししるしにてにてにて後後おくれれれたるたるたる事事こと多多おおかるかるかるははは、、、何何なにわざわざわざをををしししてててかしづきかしづきかしずきしししぞぞぞととと、、、親親おやのののしわざしわざしわざさへさへさへ思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるるこそこそこそいとほしけれいとほしけれいとおしけれ。。。
- 6げにげにげにさささいへいへいえどどど、、、そのそのその人人ひとのののけはひけはひけわいよよよととと見見みえええたるたるたるはははかひかひかいありありあり。。。おもたゞしおもたゞしおもただしかしかしかし。。。詞詞ことばののの限限かぎりりりまばゆくまばゆくまばゆく譽譽ほめめめ置置おきききたるたるたるににに、、、しししいでいでいでたるたるたるわざわざわざ言言いひひい出出いでででたるたるたることことことののの中中なかにににげにげにげにととと見見みえええ聞聞きこゆるゆるゆることことことなきなきなき、、、いといといと見見み劣劣おとりりりするするするわざわざわざなりなりなり。。。すべてすべてすべてよからよからよからぬぬぬ人人ひとにににいかでいかでいかで人人ひとほめほめほめさせさせさせじじじ」」」などなどなど、、、唯唯ただこのこのこの姫君姫君ひめぎみののの點點てんつかつかつかれれれ給給たまふふうまじくまじくまじくとととよろづよろづよろずにににおぼしおぼしおぼしのたまふのたまふのたまう。。。
- 7まゝはゝまゝはゝままははののの腹腹はらぎたなきぎたなきぎたなき昔昔むかし物語物語ものがたりももも多多おおかるかるかるををを、、、心心こころ見見みえええににに心心こころづきなしづきなしずきなしとととおぼせおぼせおぼせばばば、、、いみじくいみじくいみじくえりえりえりつゝつゝつつなむなむなん書書かききき整整ととのへへえさせさせさせ繪繪えなどなどなどにににももも書書かかかかせせせ給給たまひひいけるけるける。。。
- 8中將中將ちゅうじょうののの君君きみをををこなたこなたこなたにににはははけどほくけどほくけどおくもてもてもてなしなしなし聞聞きこえええ給給たまへへえれれれどどど、、、姫君姫君ひめぎみののの御御おんかたかたかたにににはははさしさしさし放放はなちちち聞聞きこえええ給給たまははわずずずならはしならはしならわし給給たまふふう。。。「「「我我わががが世世よのののほどほどほどはははとてもかくてもとてもかくてもとてもかくても同同おなじじじごとごとごとなれなれなれどどど、、、なからなからなからむむん世世よををを思思おもひひいやるやるやるににに猶猶なおみみみつきつきつき思思おもひひいしみしみしみぬるぬるぬる事事ことどもどもどもこそこそこそ取取とりりりわきわきわきてててはははおぼゆおぼゆおぼゆべけれべけれべけれ」」」とてとてとて、、、南南みなみおもておもておもてののの御簾御簾みすののの內內うちははは許許ゆるししし給給たまへへえりりり
- 9だいばんだいばんだいばん所所どころののの女房女房にょうぼうののの中中なかははは許許ゆるししし給給たまははわずずず。。。あまたあまたあまたおはせおはせおわせぬぬぬ御御おんなからひなからひなからいにてにてにて、、、いといといとやむごとなくやむごとなくやむごとなくかしづきかしづきかしずき聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。大方大方おおかたののの心心こころもちゐもちゐもちいなどなどなどもももいといといとものものしくものものしくものものしく、、、まめやかまめやかまめやかににに物物ものししし給給たまふふう君君きみなれなれなればばば、、、うしろうしろうしろ安安やすくくくおぼしおぼしおぼしゆづれゆづれゆずれりりり。。。
- 10まだまだまだいはけいはけいわけたるたるたるひゝなひゝなひいな遊遊あそびなどなどなどのののけはひけはひけわいののの見見みゆれゆれゆればばば、、、かのかのかの人人ひとののの諸共諸共もろともににに遊遊あそびびびててて過過すぐしぐしぐしゝゝし年年とし月月つきのののまづまづまず思思おもひひい出出いでででらるれらるれらるればばば、、、ひゝなひゝなひいなののの殿殿とのののの宮宮みやづかへづかへづかえいといといとよくよくよくししし給給たまひひいててて折々折々おりおりにににうちうちうちしほたれしほたれしおたれ給給たまひひいけりけりけり。。。
- 11さささもももありありありぬぬぬべきべきべきあたりあたりあたりにににははははかなしごとはかなしごとはかなしごとももものたまひのたまひのたまいふるゝふるゝふるるはははあまたあまたあまたあれあれあれどどど、、、賴賴たのみみみかくかくかくべくべくべくもももしししなさなさなさずずず。。。さるさるさる方方かたににになどなどなどかかかははは見見みざらざらざらむむんととと、、、心心こころとまりとまりとまりぬぬぬべきべきべきをををもももしひしひしいてててなほざりごとなほざりごとなおざりごとにににしししなしなしなしててて、、、猶猶なおかのかのかの綠綠みどりのののををを見見みえええなほしなほしなおしてててしししがががなななととと、、、思思おもふふう心心こころのみのみのみぞぞぞやんごとなきやんごとなきやんごとなきふしふしふしにににはははとまりとまりとまりけるけるける。。。
- 12あながちあながちあながちににになどなどなどかゝづらひかゝづらひかかずらい惑惑まどははわゞゞば倒倒たおるゝるゝるる方方かたににに許許ゆるししし給給たまひひいもももしししつつつべかべかべかめれめれめれどどど、、、つらしつらしつらしととと思思おもひひいししし折々折々おりおりいかでいかでいかで人人ひとにににもももことわらことわらことわらせせせ奉奉たてまつらららむむんととと思思おもひひい置置おきききししし事事こと忘忘わすれれれがたくがたくがたくててて、、、さうじみさうじみそうじみばかりばかりばかりにににはははおろかおろかおろかならならならぬぬぬあはれあはれあわれをををつくしつくしつくし見見みせせせててて、、、大大おおかたかたかたにににはははいられいられいられ思思おもへへえらららずずず。。。せうとせうとしょうとののの君達君達きんだちなどなどなどもももなまなまなまねたしねたしねたしなどなどなどのみのみのみ思思おもふふうことことこと多多おおかりかりかり。。。
現代語訳
紫の上も、姫君(明石の姫君)のご注文にかこつけて、物語は捨てがたくお思いになっている。こまのの物語の絵になっているのを、「たいそうよく描いてある絵だこと」と言ってご覧になる。
小さな女君が無心に昼寝していらっしゃる所を、昔の自分の様子をお思い出しになって、女君(紫の上)はご覧になる。「このような子どもどうしでさえ、何とませていたことか。私こそ、やはり例にしてよいほど、のんびりしていたことは人と違っていました」と申し上げなさった。本当に、類の少ないことを好んでお集めになったのだろうよ。
源氏は「姫君の御前では、このような色恋めいた物語などを読み聞かせなさいますな。ひそかに恋心を抱いた物語の娘などは、面白いとは思わないにしても、このようなことが世の中にはあるのだと見慣れてしまわれるのは、困ったことだ」とおっしゃるのも、ひどい分け隔てだと、対の御方(玉鬘)がお聞きになったら、気を悪くなさるに違いない。
上は「軽々しい人まねの話などは、見ていても気恥ずかしいものです。うつほ物語の藤原の君の娘は、たいそう重々しく、しっかりした人で、間違いはないようですが、ぶっきらぼうに言い出したことやふるまいも、女らしいところがないようなのは、一本調子のようですね」とおっしゃるので、
「現実の人も、そのようであるようだ。一人前らしく振る舞う態度が格別で、ほどよく構えることができないのだね。たしなみのある親が心をこめて育てた娘が、おっとりしていることだけを取り柄にして、劣ったところが多いのは、どんなふうに大切に育てたのかと、親のやり方まで思いやられるのが気の毒だ。
とはいえ、なるほど、その人の娘らしいと見えるのは、かいがあって晴れがましいものだ。言葉の限りまばゆいほど褒めておいたのに、したことや言ったことの中に、なるほどと見え聞こえることがないのは、たいそう見劣りすることだ。すべて、よくない人に娘を褒めさせまい」などと、ただこの姫君が非難されなさらないようにと、さまざまにお考えになり、おっしゃる。
継母の意地の悪い昔物語も多いけれど、継母の心が見えて不快だとお思いになるので、たいそう選び抜いて、清書させたり、絵などにも描かせたりなさった。
中将の君(夕霧)を、こちら(紫の上)には近づけないようにお扱いになっているけれど、姫君の御方には遠ざけ申し上げず、親しませていらっしゃる。「私の生きている間は、どうであっても同じことだが、亡くなった後の世を思いやると、やはり見慣れて心にしみた人どうしこそ、格別に思われるだろう」と言って、南面の御簾の内には入ることをお許しになっていた。
台盤所の女房の中に入ることはお許しにならない。ご兄弟の多くないお仲で、たいそう大切にお世話申し上げていらっしゃる。おおよその心づかいなども、たいそう重々しく、まじめでいらっしゃる君なので、源氏は安心して姫君のことをお任せになっている。
まだ幼い雛遊びなどの様子が見えるので、夕霧は、あの人(雲居雁)と一緒に遊んで過ごした年月がまず思い出されるので、雛の御殿の宮仕えをたいそうよくなさって、折々に涙ぐんでいらっしゃった。
しかるべき身分の女性には、ちょっとした戯れ言をおっしゃりかけることは多いけれど、頼みをかけさせるほどにはなさらない。そのような相手として、どうして世話をしないことがあろうかと、心がとまりそうな人をも、あえていい加減な戯れにとどめて、やはりあの緑の袖を見直させたいものだと思う心ばかりが、大切な一点にとどまっていた。
無理にまといついて騒いだら、内大臣も根負けして許してくださるかもしれないけれど、つらいと思った折々、何とかして人にもわからせてやりたいと思った事が忘れがたくて、ご本人(雲居雁)にだけは並々でない情を尽くして見せて、表向きにはじれったがる様子もお見せにならない。雲居雁の兄弟の君達なども、何となく憎らしいとばかり思うことが多かった。
意訳
紫の上も物語を楽しみ、源氏は明石の姫君の教育のために、色恋めいた物語や継母の意地悪な物語を選り除いて、姫君のための絵物語を作らせる。
夕霧は明石の姫君のもとへの出入りを許され、雲居雁と遊んだ日々を思い出して涙ぐむ。夕霧は、ほかの女には本気にならず、雲居雁に六位の浅葱の袖を見直させたいと思い続ける。
語釈・文法注
- こまのゝ物語
- 狛野物語。現存しない物語。幼い姫君の昼寝の場面が絵に描かれていたらしい。
- 藤原の君の娘
- うつほ物語の登場人物、あて宮。多くの求婚者を退けて東宮妃となる。紫の上は、しっかりしすぎて女らしさに欠けると評する。
- 綠の袖
- 六位の官人が着る浅緑(浅葱)の袍の袖。少女の巻で、雲居雁の乳母に六位の身分を侮られたことを、夕霧は忘れずにいる。
文法
- 禁止の「な…そ」(な讀み聞かせ給ひそ)
- 「読み聞かせなさいますな」。
- 推定の「べかめれ」(許し給ひもしつべかめれ)
- 「お許しになることもありそうだ」。「べかるめれ」の撥音便無表記。
解説
源氏が明石の姫君のために物語を選ぶ場面には、物語が女性の教育に与える影響への関心が表れている。物語論を語った源氏が、一方で娘には色恋の物語を読ませまいとするのは、矛盾しているようで、親心の現実をよく示している。
夕霧が雲居雁を思い続ける一途さは、源氏の多情とは対照的である。六位の屈辱を晴らすまでは雲居雁の父に屈しないという夕霧の誇りが、二人の恋の行方を左右していく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、474–475頁(コマ242)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日