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源氏物語 第25帖 蛍(1)

兵部卿宮の訪れ

登場人物:玉鬘・光源氏・兵部卿宮(螢宮)・宰相の君

太政大臣となった源氏のもとで、女君たちはそれぞれ落ち着いて暮らしているが、玉鬘だけは源氏の思いがけない求愛に悩んでいる。源氏はたびたび訪れては思いをほのめかし、玉鬘は気づかぬふりをする。五月雨のころ、兵部卿宮から熱心な手紙が届き、源氏は宰相の君に返事を書かせる。源氏のうるさい求愛から逃れたい玉鬘は、宮の手紙には少し目を通すようになる。宮は、珍しく色よい返事に喜んで、忍んで訪れる。源氏は自ら席を整え、空薫物をくゆらせて、宮を迎える。

五月雨の夕闇に包まれた六条院の西の対の妻戸の前に、兵部卿宮が座って御簾越しに思いを語り、奥では源氏が香をくゆらせながら様子をうかがっている場面(AI生成)
五月雨の夕闇に包まれた六条院の西の対の妻戸の前に、兵部卿宮が座って御簾越しに思いを語り、奥では源氏が香をくゆらせながら様子をうかがっている場面
  1. 1今いま今いまいまはははかくかくかくおもおもしきおもおもしきおもおもしきほどほどほどににによろづよろづよろずのどやかのどやかのどやかにににおぼしおぼしおぼし靜しづ靜しづしずめめめたるたるたる御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまなれなれなればばば、、、賴たの賴たのたのみみみ聞きこ聞きこきこえええさせさせさせ給たま給たまたまへへえるるる人々びと人々びとびとさまざまさまざまさまざまにににつけつけつけててて皆みな皆みなみな思おも思おもおもふふうさまさまさまににに定さだ定さださだまりまりまりたゞよはしからたゞよはしからただよわしからででであらまほしくあらまほしくあらまほしくててて過す過すすぐしぐしぐし給たま給たまたまふふう。。。
  2. 2對たい對たいたいののの姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみこそこそこそいとほしくいとほしくいとおしく思おもひ思おもひおもいののの外ほか外ほかほかなるなるなるおもひおもひおもいそひそひそいててていかにいかにいかにせせせむむんとととおぼしおぼしおぼし亂みだ亂みだみだるるるめれめれめれかのかのかのげんげんげんががが憂う憂ううかりかりかりしししさまさまさまにににはははなずらふなずらふなずらうべきべきべきけはひけはひけわいならならならねねねどどど、、、かゝるかゝるかかるすぢすぢすじにににかけかけかけてててももも人ひと人ひとひとののの思おも思おもおもひひいよりよりより聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべき事こと事ことことならならならねねねばばば心こころ心こころこころ一ひと一ひとひとつつつにににおぼしおぼしおぼしつゝつゝつつさまさまさまことことことににに疎うと疎うとうとましましましととと思おも思おもおもひひいきこえきこえきこえ給たま給たまたまふふう。。。
  3. 3何事なにごと何事なにごとなにごとをををもももおぼしおぼしおぼし知し知ししりりりたるたるたる御おん御おんおん齡よはひ齡よはひよわいなれなれなればばばとざまとざまとざまかうざまかうざまこうざまにににおぼしおぼしおぼし集あつ集あつあつめめめつゝつゝつつ、、、母君はゝぎみ母君はゝぎみははぎみのののおはせおはせおわせずずずなりなりなりにににけるけるけるくちくちくち惜くちを惜くちをくちおしさしさしさももも又また又またまたとりとりとりかへしかへしかえし惜を惜をおしくしくしく悲かな悲かなかなしくしくしくおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
  4. 4おとゞおとゞおとどもももうちうちうち出い出いいでででそめそめそめ給たま給たまたまひひいてててはははなかなかなかなかなかなか苦くる苦くるくるしくしくしくおぼせおぼせおぼせどどど人ひと人ひとひとめめめををを憚はゞか憚はゞかはばかりりり給たま給たまたまひひいつゝつゝつつはかなきはかなきはかなき事こと事ことことをををもももえええ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず。。。苦くる苦くるくるしくしくしくもももおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるまゝまゝままににに繁しげ繁しげしげくくく渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまひひいつゝつゝつつ、、、おまへおまへおまえののの人ひと人ひとひと遠とほ遠とほとおくくくのどやかのどやかのどやかなるなるなる折をり折をりおりはははたゞたゞただならならならずずずけしきばみけしきばみけしきばみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうごとごとごとににに、、、胸むね胸むねむね潰つぶ潰つぶつぶれれれつゝつゝつつけざやかけざやかけざやかにににはしたなくはしたなくはしたなく聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべきにににはははあらあらあらねねねばばば、、、唯たゞ唯たゞただ見み見みみ知し知ししらららぬぬぬさまさまさまにににもてもてもてなしなしなし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  5. 5人ひと人ひとひとざまざまざまのののわらゝかわらゝかわららかにににけけけ近ぢか近ぢかじかくくく物もの物ものものししし給たま給たまたまへへえばばばいたくいたくいたくまめだちまめだちまめだちたるたるたる心ここ心ここここちちちししし給たま給たまたまへへえどどど、、、猶なほ猶なほなおをかしくをかしくおかしくあいぎやうづきあいぎやうづきあいぎょうずきたるたるたるけはひけはひけわいのみのみのみ見み見みみえええ給たま給たまたまへへえばばば兵部卿ひやうぶきやう兵部卿ひやうぶきやうひょうぶきょうののの宮みや宮みやみやなどなどなどはははまめやかまめやかまめやかにににせめせめせめ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  6. 6御おん御おんおんらうらうろうののの程ほど程ほどほどはははいくばくいくばくいくばくならならならぬぬぬににに、、、五月雨さみだれ五月雨さみだれさみだれににになりなりなりぬるぬるぬるうれへうれへうれえをををししし給たま給たまたまひひいててて、、、「「「少すこ少すこすこしししけけけ近ぢか近ぢかじかきききほどほどほどをををだにだにだに許ゆる許ゆるゆるししし給たま給たまたまははわゞゞば思おも思おもおもふふうことことことをををももも片かた片かたかたはしはしわしはるけはるけはるけてててしししがががななな」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえるるるををを殿との殿とのとの御覽ごらん御覽ごらんごらんじじじててて、、、
  7. 7「「「なになになにかかかはははこのこのこのきんだちきんだちきんだちのののすきすきすき給たま給たまたまははわむむんははは見み見みみ所どころ所どころどころありありありなむなむなんかしかしかし。。。もてもてもてはなれはなれはなれてててななな聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいそそそ」」」ととと敎をし敎をしおしへへへててて、、、「「「御おん御おんおんかへりかへりかえり時々ときどき時々ときどきときどき聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえ」」」とてとてとて御おん御おんおんかへりかへりかえり敎をし敎をしおしへへへててて書か書かかかかかせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえどどど、、、いといといとうたてうたてうたておぼえおぼえおぼえ給たま給たまたまへへえばばば、、、「「「みだりみだりみだり心ごこ心ごこごこちちちあしあしあし」」」とてとてとて聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず。。。
  8. 8人々びと人々びとびとももも殊こと殊ことことにににやんごとなくやんごとなくやんごとなくよせよせよせおもきおもきおもきなどなどなどもももをさをさをさをさおさおさなしなしなし。。。唯たゞ唯たゞただ母君はゝぎみ母君はゝぎみははぎみののの御おん御おんおん伯父をぢ伯父をぢおじなりなりなりけるけるける宰相さいしやう宰相さいしやうさいしょうばかりばかりばかりののの人ひと人ひとひとのののむすめむすめむすめにてにてにて心こころ心こころこころばせばせばせなどなどなど口惜くちを口惜くちをくちおしからしからしからぬぬぬががが世よ世よよににに衰おとろ衰おとろおとろへへえ殘のこ殘のこのこりりりたるたるたるををを尋たづ尋たづたずねねねとりとりとり給たま給たまたまへへえるるるぞぞぞ宰相さいしやう宰相さいしやうさいしょうののの君きみ君きみきみとてとてとて、、、
  9. 9手て手ててなどなどなどもももよろしくよろしくよろしく書か書かかききき、、、大方おほかた大方おほかたおおかたもももおとなびおとなびおとなびたるたるたる人ひと人ひとひとなれなれなればばばさるべきさるべきさるべき折々をりをり折々をりをりおりおりののの御おん御おんおん返かへ返かへかえりりりなどなどなど書か書かかかかかせせせ給たま給たまたまへへえばばば、、、召め召めめししし出い出いいでででゝゝてことばことばことばなどなどなどのたまひのたまひのたまいててて書か書かかかかかせせせ給たま給たまたまふふう。。。物もの物ものものなどなどなどのたまふのたまふのたまうさまさまさまをををゆかしゆかしゆかしとととおぼすおぼすおぼすなるなるなるべしべしべし
  10. 10さうじみさうじみそうじみはははかくかくかくうたてうたてうたてあるあるある物もの物ものものなげかしさなげかしさなげかしさののの後のち後のちのちはははこのこのこの宮みや宮みやみやなどなどなどははは哀あはれ哀あはれあわれげげげににに聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう時とき時ときときははは少すこ少すこすこししし見み見みみいれいれいれ給たま給たまたまふふう時とき時ときときもももありありありけりけりけり。。。何なに何なになにかかかととと思おも思おもおもふふうにににはははあらあらあらずずず。。。かくかくかく心こころ心こころこころ憂う憂ううききき御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしき見み見みみぬぬぬわざわざわざもがなもがなもがなとととさすがさすがさすがにににざれざれざれたるたるたる所ところ所ところところつきつきつきててておぼしおぼしおぼしけりけりけり
  11. 11殿との殿とのとのはははあいなくあいなくあいなくおのれおのれおのれ心こころ心こころこころげさうげさうげそうしししててて宮みや宮みやみやををを待ま待ままちちち聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうももも知し知ししりりり給たま給たまたまははわででで、、、よろしきよろしきよろしき御おん御おんおん返かへ返かへかえりりりなるなるなるををを珍めづら珍めづらめずらしがりしがりしがりててていといといと忍しの忍しのしのびやかびやかびやかにてにてにておはしましおはしましおわしましたりたりたり。。。妻戶つまど妻戶つまどつまどのののまままににに御おん御おんおん褥しとね褥しとねしとね參まゐ參まゐまいらららせせせてててみみみ几帳きちやう几帳きちやうきちょうばかりばかりばかりををを隔へだて隔へだてへだてにてにてにて近ちか近ちかちかきききほどほどほどなりなりなり。。。
  12. 12いといといといたういたういとう心こころ心こころこころしししててて心こころ心こころこころにくきにくきにくき程ほど程ほどほどににににほはしにほはしにおわしてててつくろひつくろひつくろいおはするおはするおわするさまさまさま、、、親おや親おやおやにににはははあらあらあらでででむつかしきむつかしきむつかしき御おん御おんおんさかしらさかしらさかしら人ひと人ひとひとのののさすがさすがさすがにににあはれあはれあわれににに見み見みみえええ給たま給たまたまふふう。。。宰相さいしやう宰相さいしやうさいしょうののの君きみ君きみきみなどなどなどももも人ひと人ひとひとのののいらへいらへいらえ聞きこ聞きこきこえええむむんことことこともももおぼえおぼえおぼえずずず、、、耻はづ耻はづはずかしくかしくかしくててて居ゐ居ゐいたるたるたるををを「「「うもれうもれうもれたりたりたり」」」とととひきひきひきつみつみつみ給たま給たまたまへへえばばばいといといとわりなしわりなしわりなし。。。
  13. 13夕ゆふ夕ゆふゆう闇やみ闇やみやみ過す過すすぎぎぎててておぼつかなきおぼつかなきおぼつかなき空そら空そらそらののの氣色けしき氣色けしきけしきののの曇くも曇くもくもらはしきらはしきらわしきににに、、、打う打ううちちちしめりしめりしめりたるたるたる宮みや宮みやみやののの御おん御おんおんけはひけはひけわいもももいといといとえんえんえんなりなりなり。。。內うち內うちうちよりよりよりほのめくほのめくほのめく追おひ追おひおい風かぜ風かぜかぜもももいとゞしきいとゞしきいとどしき御おん御おんおん匂にほひ匂にほひにおいののの立た立たたちちち添そ添そそひひいたれたれたればばばいといといと深ふか深ふかふかくくくかをりかをりかおり滿み滿みみちちちててて、、、かねてかねてかねておぼしおぼしおぼしゝゝしよりよりよりもももをかしきをかしきおかしき御おん御おんおんけはひけはひけわいををを心こころ心こころこころとゞめとゞめとどめ給たま給たまたまひひいけりけりけり。。。
  14. 14うちうちうち出い出いいでででゝゝて思おも思おもおもふふう心こころ心こころこころののの程ほど程ほどほどをををのたまひのたまひのたまい續つゞ續つゞつづけけけたるたるたる言こと言ことことののの葉は葉ははおとなおとなしくおとなおとなしくおとなおとなしく、、、ひたぶるひたぶるひたぶるにににすきずきしくすきずきしくすきずきしくはははあらあらあらでででいといといとけはひけはひけわい殊こと殊ことことなりなりなり。。。おとゞおとゞおとどいといといとをかしをかしおかしとととほのほのほの聞き聞きききききおはすおはすおわす。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

今はこのように重々しい身分で、何事ものんびりとお心を静めていらっしゃるご様子なので、頼り申し上げていらっしゃる女君たちは、それぞれの身分に応じて、皆思いどおりに落ち着いて、不安定なところもなく、理想的に過ごしていらっしゃる。

対の姫君(玉鬘)だけは、お気の毒に、思いもよらない物思いが加わって、どうしたらよいだろうと思い乱れていらっしゃるようだ。あの大夫監のいやだった様子とは比べものにならない気配ではあるけれど、このような方面のことで、人が思い寄って申し上げられることではないので、心一つにお思いになりながら、格別にうとましいとお思い申し上げていらっしゃる。

何事もおわかりになる年齢なので、あれこれと思い集めて、母君がいらっしゃらなくなってしまった残念さも、また改めて惜しく悲しく思われる。

大臣(源氏)も、口に出し始めてからは、かえって苦しくお思いになるけれど、人目をはばかりなさって、ちょっとしたことも申し上げることがおできにならない。苦しくお思いになるままに、しきりにおいでになっては、御前の人が遠くのどかな折には、ただならぬ思いをほのめかし申し上げなさるたびに、玉鬘は胸がつぶれる思いだけれど、はっきりと恥をかかせるように申し上げるべきでもないので、ただ気づかないふりをしてお扱い申し上げなさる。

人柄が明るく親しみやすくていらっしゃるので、たいそう生まじめにしている気持ちでいらっしゃるけれど、やはり美しく愛嬌のある様子ばかりがお見えになるので、兵部卿宮などは、熱心に求愛申し上げなさる。

ご苦労の期間はそれほどでもないのに、五月雨の季節になってしまった嘆きをなさって、「せめて少し近いところだけでもお許しくださったら、思うことの片端でも晴らしたいものです」と申し上げなさったのを、殿がご覧になって、

「何の、この親王たちが恋をなさるのは、見どころがあるだろう。よそよそしくお返事なさいますな」とお教えになって、「お返事を時々申し上げなさい」と言って、お返事を教えて書かせ申し上げなさるけれど、玉鬘はたいそういやにお思いになるので、「気分が悪い」と言ってお書きにならない。

女房たちも、特に身分が高く頼りになる後ろ盾のある者は、ほとんどいない。ただ母君(夕顔)の伯父であった宰相くらいの人の娘で、気立てなども悪くない者が、世に落ちぶれて残っていたのを、探し出してお仕えさせていらっしゃるのが宰相の君といって、

字などもかなりうまく書き、おおよそ大人びた人なので、しかるべき折々のお返事などを書かせなさっているので、源氏は呼び出して、言葉などをおっしゃって書かせなさる。宮が何とおっしゃるか、その様子を見たいとお思いなのであろう。

ご本人(玉鬘)は、このようにいやな嘆かわしいことがあってからは、この宮などがしみじみと申し上げなさる時は、少しご覧になる時もあった。何かと思うわけではない。このようないやなご様子(源氏の求愛)を見ないですむ方法があればよいのにと、さすがに才気のあるところが出てきて、お思いになっていた。

殿が、わけもなく自分で心をときめかせて宮を待ち申し上げていらっしゃるのもご存じなく、宮は、まずまずのお返事であったのを珍しがって、たいそう忍んでいらっしゃった。妻戸の間に御褥を差し上げて、御几帳だけを隔てとして、近い所である。

源氏はたいそう気を配って、空薫物を奥ゆかしいほどに薫らせて、身づくろいしていらっしゃる様子は、親ではなく、わずらわしいおせっかいな人なのに、さすがにしみじみと見える。宰相の君なども、宮にどうお返事したらよいかもわからず、恥ずかしくて座っているのを、源氏が「引っ込み思案だ」とつねりなさるので、たいそう困っている。

夕闇が過ぎて、はっきりしない空の様子が曇りがちなところに、しっとりとした宮のご様子も、たいそう優美である。内からほのかに漂う追い風も、いっそう引き立つ源氏のお香りが加わっているので、たいそう深く香りが満ちて、宮は、かねて思っていたよりも趣深いご様子に、心をおとめになった。

口に出して、思う心のほどをおっしゃり続ける言葉は落ち着いていて、ひたすら好色めいたところはなく、たいそう様子が格別である。大臣は、たいそう趣深いとひそかにお聞きになっている。

意訳

女君たちが落ち着いて暮らす中、玉鬘だけは源氏の求愛に悩んでいる。五月雨のころ、兵部卿宮から熱心な手紙が届き、源氏は宰相の君に返事を書かせる。源氏から逃れたい玉鬘は、宮の手紙には少し目を通すようになる。

宮は、色よい返事に喜んで忍んで訪れる。源氏は自ら席を整え、空薫物をくゆらせて宮を迎え、宮の落ち着いた語りぶりをひそかに聞いている。

語釈・文法注

そらだきもの
空薫物。どこからともなく香るように、部屋でたく香。源氏は、宮を迎えるために自ら香をたいて準備した。

文法

推定の「めれ」(おぼし亂るめれ)
「思い乱れていらっしゃるようだ」。「こそ」の結び。
願望の「もがな」(見ぬわざもがな)
「見ないですむ方法があればよいのに」。

解説

螢の巻は、源氏の求愛に悩む玉鬘の姿から始まる。源氏は親の立場を装いながら、宮の求婚を取り持つように見せて、実は宮の反応を楽しんでいる。語り手は、それを「むつかしき御さかしら人」と皮肉っている。

玉鬘が宮の手紙に目を通すようになったのは、宮に心を寄せたからではなく、源氏の求愛から逃れたいという思いからであった。玉鬘の複雑な心理が、さりげなく描かれている。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、464–467頁(コマ236–237)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日