源氏物語 第24帖 胡蝶(10)
橘の歌と源氏の告白
雨上がりのしめやかな夕方、楓や柏木の若葉が青々と茂る空を眺めて、源氏は玉鬘のつややかな美しさを思い出し、忍んで訪ねる。手習いをしていた玉鬘が起き上がって恥じらう様子に、源氏は夕顔の面影を重ね、昔の人と見間違えるほどだと涙ぐむ。源氏は箱の蓋の果物の中から橘を手に取って、昔の人を思わせる歌を詠み、玉鬘の手を取る。玉鬘はいやだと思いながらもおっとりと返歌する。源氏はついに思いを打ち明け、震える玉鬘に、人に気づかれぬようにするから、さりげなく思い合ってほしいと言う。

- 1心心こころにににかゝれかゝれかかれるるるまゝまゝままにににしばしばしばしばしばしば渡渡わたりりり給給たまひひいつゝつゝつつ見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。雨雨あめのののうちうちうち降降ふりりりたるたるたる名殘名殘なごりのののいといといと物物ものしめやかしめやかしめやかなるなるなる夕夕ゆうつかたつかたつかた、、、御御おんまへまへまえのののわかゝへでわかゝへでわかかえで、、、柏木柏木かしわぎなどなどなどののの靑靑あおやかやかやかににに繁繁しげりりりあひあひあいたるたるたるががが何何なにとととなくなくなく心心ここちちちよげよげよげなるなるなる空空そらををを見見みいだしいだしいだし給給たまひひいててて、、、
- 2「「「和和かしししててて又又また淸淸きよ」」」とととずじずじずじ給給たまひひいててて、、、まづまづまずこのこのこの姫君姫君ひめぎみののの御御おんさまさまさまのののにほひやかにほひやかにおいやかげさげさげさをををおぼしおぼしおぼし出出いでででられられられててて、、、例例れいののの忍忍しのびやかびやかびやかににに渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。手手て習習ならいなどなどなどしししてててうちとけうちとけうちとけ給給たまへへえりりりけるけるけるををを、、、起起おきききあがりあがりあがり給給たまひひいててて耻耻はじらひらひらい給給たまへへえるるる顏顏かおののの色色いろあひあひあいいといといとをかしをかしおかし。。。
- 3なごやかなごやかなごやかなるなるなるけはひけはひけわいのののふとふとふと昔昔むかしおぼしおぼしおぼし出出いでででらるゝらるゝらるるにににももも忍忍しのびびびがたくがたくがたくててて、、、見見みそめそめそめ奉奉たてまつりりりしししはははいといといとかうかうこうしもしもしもおぼえおぼえおぼえ給給たまははわずずずととと思思おもひひいしししををを、、、あやしうあやしうあやしゅう唯唯ただそれそれそれかかかととと思思おもひひいまがへまがへまがえらるゝらるゝらるる折々折々おりおりこそこそこそあれあれあれ。。。あはれあはれあわれなるなるなるわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。
- 4中將中將ちゅうじょうのののさらにさらにさらに昔昔むかしざまざまざまのののにほひにほひにおいにににももも見見みえええぬぬぬならひならひならいにににさしもさしもさしも似似にぬぬぬものものものととと思思おもふふうにににかゝるかゝるかかる人人ひとももも物物ものししし給給たもうううけるけるけるよよよ」」」とてとてとて淚淚なみだぐみぐみぐみ給給たまへへえりりり。。。
- 5箱箱はこののの葢葢ふたなるなるなる御御おんくだものくだものくだものゝゝのなかなかなかににに橘橘たちばなのののあるあるあるをををまさぐりまさぐりまさぐりててて、、、「「「橘橘たちばなのののかをりかをりかおりししし袖袖そでににによそふれよそふれよそうればばばかはれかはれかわれるるる身身みととともももおもほえおもほえおもおえぬぬぬかなかなかな。。。世世よとととともともともののの心心こころにににかけかけかけててて忘忘わすれれれ難難がたきききににに慰慰なぐさむむむことことことなくなくなくててて過過すぎぎぎつるつるつる年年とし頃頃ごろををを、、、かくかくかくててて見見み奉奉たてまつるるるははは夢夢ゆめにににやややとととのみのみのみ思思おもひひいなすなすなすををを、、、猶猶なおえええこそこそこそ忍忍しのぶぶぶまじけれまじけれまじけれ。。。おぼしおぼしおぼし踈踈うとむむむなななよよよ」」」とてとてとて御御おん手手てををを執執とらへへえ給給たまへへえれれればばば、、、
- 6女女おんなかやうかやうかようにににもももならひならひならい給給たまははわざりざりざりつるつるつるをををいといといとうたてうたてうたておぼゆれおぼゆれおぼゆれどどど、、、おほどかおほどかおおどかなるなるなるさまさまさまにてにてにてものしものしものし給給たまふふう。。。「「「袖袖そでののの香香かをををよそふるよそふるよそうるからからからににに橘橘たちばなのののみみみさへさへさへはかなくはかなくはかなくなりなりなりもももこそこそこそすれすれすれ」」」。。。
- 7むつかしむつかしむつかしととと思思おもひひいてててうつぶしうつぶしうつぶし給給たまへへえるるるさまさまさまいみじういみじういみじゅう懷懷なつかしうしうしゅう手手てつきつきつきのののつぶつぶつぶつぶつぶつぶととと肥肥こえええ給給たまへへえるるる身身みなりなりなり肌肌はだつきつきつきのののこまやかこまやかこまやかににに美美うつくしげしげしげなるなるなるににになかなかなかなかなかなかなるなるなる物物もの思思おもひひいそふそふそう心心ここちちちししし給給たまひひいててて、、、今日今日きょうははは少少すこししし思思おもふふう事事こと聞聞きこえええしらせしらせしらせ給給たまひひいけるけるける。。。
- 8女女おんなははは心心こころうくうくうくいかにいかにいかにせせせむむんとととおぼえおぼえおぼえてててわなゝかわなゝかわななかるゝるゝるる氣色氣色けしきもももしるけれしるけれしるけれどどど、、、「「「何何なにかかかかくかくかくうとましうとましうとましとととはははおぼいおぼいおぼいたるたるたる。。。いといといとよくよくよくもてもてもてかくしかくしかくしててて人人ひとににに咎咎とがめめめらるらるらるべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ心心こころのののほどほどほどぞぞぞよよよ。。。さりげなくさりげなくさりげなくてててあひあひあい思思おもひひい給給たまへへえ。。。
- 9淺淺あさくくくももも思思おもひひい聞聞きこえええさせさせさせぬぬぬ心心こころざしざしざしににに又又またそふそふそうべけれべけれべければばば世世よにににたぐひたぐひたぐいあるあるあるまじきまじきまじき心地心地ここちなむなむなんするするするををを、、、このこのこの音音おとづれづれずれ聞聞きこゆるゆるゆる人々人々びとにににははは思思おぼしししおとすおとすおとすべくべくべくやはやはやはあるあるあるいといといとかうかうこう深深ふかききき心心こころあるあるある人人ひとははは世世よにににありがたかるありがたかるありがたかるべきべきべきわざわざわざなれなれなればばば後後うしろめたくめたくめたくのみのみのみこそこそこそ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。いといといとさかしらさかしらさかしらなるなるなる御御おん親親おや心心ごころなりなりなりかしかしかし。。。
- 10雨雨あめはははやみやみやみててて風風かぜののの竹竹たけににになるなるなるほどほどほど華華はなやかやかやかにににさしさしさし出出いでででたるたるたる月月つき影影かげをかしきをかしきおかしき夜夜よのののさまさまさまもももしめやかしめやかしめやかなるなるなるににに、、、人々人々びとはははこまやかこまやかこまやかなるなるなる御御おん物語物語ものがたりににに畏畏かしこまりまりまりおきおきおきてててけけけ近近じかくくくももも侍侍さぶらははわずずず。。。
現代語訳
心にかかるままに、たびたびおいでになっては、お会い申し上げなさる。雨が少し降った名残の、たいそうしっとりとした夕方、御前の若楓や柏木などが青々と茂り合っているのが、何となく気持ちよさそうな空をご覧になって、
「和して又清し」と口ずさみなさって、まずこの姫君のご様子のつややかな美しさをお思い出しになって、いつものように忍んでおいでになった。手習いなどをして、くつろいでいらっしゃったのを、起き上がりなさって恥じらっていらっしゃる顔の色合いが、たいそう美しい。
物柔らかな様子が、ふと昔を思い出させなさるにつけても堪えきれずに、「初めてお会いした時は、それほど似ていらっしゃらないと思っていたが、不思議なほど、ただその人かと見間違えられる折々がある。しみじみとしたことだね。
中将(夕霧)が、まったく昔の母(葵の上)の美しさにも似ていない例があるので、親子というものはそれほど似ないものと思っていたのに、このような人もいらっしゃったのだね」と言って、涙ぐんでいらっしゃる。
箱の蓋に盛った果物の中に橘があるのをもてあそんで、「昔の人の袖の香をしのばせる橘の香りに、あなたをよそえて見ると、別の人とも思われないことよ。長年心にかけて忘れがたいのに、慰めることもなく過ごしてきた年月を、こうしてお会いしているのは夢かとばかり思っているが、やはりこらえることができそうにない。お嫌いにならないでください」と言って、お手をお取りになったので、
女君は、このようなことにもお慣れになっていなかったので、たいそういやだとお思いになるけれど、おっとりとした様子でいらっしゃる。「母の袖の香によそえて見られるので、橘の実である私の身までも、はかなくなってしまうのではないでしょうか」。
いやだと思ってうつ伏していらっしゃる様子がたいそう慕わしく、手つきがふっくらと肉づいていらっしゃる体つきや肌のきめが、こまやかでかわいらしいので、かえって物思いが増す気持ちがなさって、今日は少し思うことを打ち明けなさった。
女君はつらく、どうしたらよいだろうと思って、震えていらっしゃる様子もはっきりわかるけれど、「どうしてそんなにいやだとお思いになるのか。たいそううまく隠して、人に咎められることもないような心づもりですよ。さりげなくして、思い合ってください。
浅くは思い申し上げていない志に、また新たな思いが加わるのだから、世に類のない気持ちがするのに、このお便り申し上げる人々より、低くお思いになってよいものだろうか。これほど深い心のある人は世にめったにいないはずなので、あなたのことが気がかりでならないのです」とおっしゃる。何とも出過ぎた親心であるよ。
雨はやんで、風が竹を鳴らすころ、華やかに差し出た月の光が趣深い夜の様子も、しっとりとしているので、女房たちは、こまやかなお話にかしこまって、近くにもお控えしていない。
意訳
雨上がりの夕方、源氏は玉鬘を訪ね、恥じらう様子に夕顔の面影を重ねて涙ぐむ。源氏は橘を手に取って、昔の人を思わせる歌を詠み、玉鬘の手を取る。玉鬘はいやだと思いながらもおっとりと返歌する。
源氏はついに思いを打ち明け、震える玉鬘に、人に気づかれぬようにするから、さりげなく思い合ってほしいと言う。語り手は、何とも出過ぎた親心だと皮肉る。
語釈・文法注
- 和して又淸し
- 白居易の詩「四月天気和且清、緑槐陰合沙堤平」による。初夏の穏やかで清らかな天気をいう。
文法
- 「もこそすれ」(はかなくなりもこそすれ)
- 「はかなくなってしまうのではないか」。危惧を表す。
- 草子地(いとさかしらなる御親心なりかし)
- 語り手の批評。「何とも出過ぎた親心であるよ」と、源氏の言動を皮肉る。
和歌
橘のかをりし袖によそふればかはれる身ともおもほえぬかな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 玉鬘に詠みかけた歌。昔の人の袖の香をしのばせる橘の香りに、あなたをよそえて見ると、別の人とも思われないことよ。
修辞
- 本歌取り
- 「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(古今集)による。橘の香に昔の恋人(夕顔)をしのぶ。
袖の香をよそふるからに橘のみさへはかなくなりもこそすれ
- 詠者
- 玉鬘
- 状況
- 源氏への返歌。母の袖の香によそえて見られるので、橘の実である私の身までも、母のようにはかなくなってしまうのではないでしょうか。
修辞
- 掛詞
- 「み」に「(橘の)実」と「身」をかける。
解説
橘の香に昔の人をしのぶ古今集の歌をふまえて、源氏は玉鬘に夕顔の面影を重ねる。親の情を装いながら、源氏はついに恋心を打ち明ける。
玉鬘の返歌は、母のようにはかなくなることへの恐れを込めて、源氏の求愛をやんわりと拒む。語り手の「さかしらなる御親心」という皮肉が、源氏の矛盾した立場を鋭く突いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、460–461頁(コマ234)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日