源氏物語 第23帖 初音(4)
明石の君のもとへ
夕暮れ、源氏は北の町の明石の君を訪ねる。御簾の内からは優雅な香りが漂い、本人の姿は見えないが、硯のあたりには草子が散らばり、琴が置かれている。娘からの返事を喜んだ明石の君の手習いには、鶯の古巣を訪ねる初音の喜びを詠んだ歌などが書き散らしてある。源氏は、気品のある明石の君に心ひかれ、元日の夜にもかかわらず泊まってしまう。夜明け前に春の町に戻った源氏は、不機嫌な紫の上の機嫌をとり、狸寝入りをして日が高くなるまで寝ている。

- 1暮暮くれ方方がたににになるなるなる程程ほどににに明石明石あかしののの御御おん方方かたににに渡渡わたりりり給給たまふふう。。。近近ちかききき渡殿渡殿わたどのののの戶戶と押押おしししあくるあくるあくるよりよりより御簾御簾みすののの內內うちののの追追おい風風かぜなまめかしくなまめかしくなまめかしく吹吹ふききき匂匂におはしはしわしててて、、、物物ものよりよりより殊殊ことにににけだかくけだかくけだかくおぼさるおぼさるおぼさる。。。さうじみさうじみそうじみははは見見みえええずずず。。。
- 2いづらいづらいずらととと見見みまはしまはしまわし給給たまふふうににに、、、硯硯すずりのののあたりあたりあたり賑賑にぎはゝしくはゝしくわわしく草草そう子子しどもどもども取取とりりり散散ちらしらしらしたるたるたるををを取取とりりりつゝつゝつつ見見み給給たまふふう。。。
- 3唐唐からののののののことごとしきことごとしきことごとしきはしはしはしさしさしさしたるたるたるしとねしとねしとねにににをかしげをかしげおかしげなるなるなるきんきんきんうちうちうちおきおきおき、、、わざとわざとわざとめきめきめきよしよしよしあるあるある火火ひ桶桶おけににに侍從侍從じじゅうをををくゆらかしくゆらかしくゆらかしててて物物ものごとごとごとにににしめしめしめたるたるたるににに、、、えびかうえびかうえびこうのののかかかのののまがへまがへまがえるるるいといといとえんえんえんなりなりなり。。。
- 4手手て習習ならいどもどもどもののの亂亂みだれれれうちうちうち解解とけけけたるたるたるもももすぢすぢすじかはりかはりかわりゆゑゆゑゆえあるあるある書書かきききざまざまざまなりなりなり。。。ことごとしくことごとしくことごとしくさうさうそうがちがちがちなどなどなどにににもももざえざえざえがらがらがらずずずめやすくめやすくめやすく書書かきききすさびすさびすさびたりたりたり。。。
- 5小小こ松松まつののの御御おん返返かえしししをををめづらしめづらしめずらしととと見見みけるけるけるまゝまゝままににに、、、あはれあはれあわれなるなるなるふることふることふることゞゞどももも書書かきききまぜまぜまぜててて、、、「「「めづらしめづらしめずらしややや花花はなのののねぐらねぐらねぐらににに木木こづたひづたひずたいてててたにたにたにのののふるふるふる巢巢すをををとへとへとへるるる鶯鶯うぐいす。。。聲聲こえ待待まちちち出出いでででたるたるたる」」」などなどなどもももありありあり「「「咲咲さけけけるるるをかべをかべおかべににに家家いえしししあれあれあればばば」」」などなどなどひきひきひき返返かえししし慰慰なぐさめめめたるたるたるすぢすぢすじなどなどなどかきかきかきまぜまぜまぜつゝつゝつつあるあるあるををを、、、取取とりりりててて見見み給給たまひひいつゝつゝつつほゝゑみほゝゑみほほえみ給給たまへへえるるる、、、恥恥はずかしげしげしげなりなりなり。。。
- 6筆筆ふでさしさしさしぬらしぬらしぬらしててて書書かきききすさみすさみすさみ給給たまふふう程程ほどにににゐざりゐざりいざり出出いでででゝゝてさすがさすがさすがにににみづからみづからみずからのののもてなしもてなしもてなしはははかしこまりかしこまりかしこまりおきおきおきてててめやすきめやすきめやすき用意用意よういなるなるなるををを、、、猶猶なお人人ひとよりよりよりははは殊殊ことなりなりなりとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 7白白しろきききにににけざやかけざやかけざやかなるなるなる髮髮かみのののかゝりかゝりかかりののの少少すこしししさばらかさばらかさばらかなるなるなる程程ほどににに薄薄うすらぎらぎらぎにににけるけるけるもももいとゞいとゞいとどなまめかしさなまめかしさなまめかしさ添添そひひいてててなつかしけれなつかしけれなつかしければばば、、、新新あたらしきしきしき年年としののの御御おんさわがれさわがれさわがれもももやややとととつゝましけれつゝましけれつつましけれどどどこなたこなたこなたにににとまりとまりとまり給給たまひひいぬぬぬ猶猶なおおぼえおぼえおぼえことことことなりなりなりかしかしかしととと、、、かたがたかたがたかたがたににに心心こころおきおきおきててておぼすおぼすおぼす。。。
- 8南南みなみのののおとゞおとゞおとどにににはははましてましてましてめざましがるめざましがるめざましがる人々人々びとありありあり。。。まだまだまだ曙曙あけぼのののの程程ほどににに渡渡わたりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。かうかうこうしもしもしもあるあるあるまじきまじきまじき夜夜よ深深ぶかさささぞぞぞかしかしかしととと思思おもふふうににに、、、名殘名殘なごりもももたゞたゞただならならならずずずあはれあはれあわれににに思思おもふふう。。。
- 9待待まちちちとりとりとり給給たまへへえるるるはたはたはたなまけやけしなまけやけしなまけやけしとととおぼすおぼすおぼすべかべかべかめるめるめる心心こころののの中中なかはからはからはかられれれ給給たまひひいててて、、、「「「怪怪あやしきしきしきうたゝねうたゝねうたたねをををしししててて若若わか々々わかしかりしかりしかりけるけるけるいぎたなさいぎたなさいぎたなさをををさしもさしもさしも驚驚おどろかしかしかし給給たまははわででで」」」ととと御御おん氣色氣色けしきとりとりとり給給たまふふうもももをかしうをかしうおかしゅう見見みゆゆゆ。。。
- 10殊殊ことなるなるなる御御おんいらへいらへいらえもももなけれなけれなければばば、、、わづらはしくわづらはしくわずらわしくてててそらねそらねそらねをををしししつゝつゝつつ日日ひ高高たかくくく大殿大殿おおとのごもりごもりごもりおきおきおきたりたりたり。。。今日今日きょうははは客客きゃくののの事事ことにににまぎらはしまぎらはしまぎらわしてててぞぞぞおもがくしおもがくしおもがくし給給たまふふう。。。
現代語訳
暮れ方になるころに、明石の御方においでになる。近い渡殿の戸を押し開けるとすぐに、御簾の内からの追い風が優雅に香って、他よりも格別に気品があるとお思いになる。ご本人の姿は見えない。
どこにいるのかと見回しなさると、硯のあたりがにぎやかで、草子などが取り散らかしてあるのを、手に取ってはご覧になる。
唐の東京錦の仰々しい縁取りをした敷物に、美しい琴を置き、特別にあつらえた由緒ある火桶に侍従香をくゆらせて、あらゆる物に香りを染み込ませてあるところに、衣被香の香りが混じり合っているのが、たいそう優美である。
手習いの紙などが、くつろいで書き乱してあるのも、筆跡が普通と違って趣のある書きぶりである。仰々しく草仮名を多くするなどして、学識ぶることもなく、感じよく書き流してある。
小松のお返事を珍しく思ったままに、しみじみとした古歌なども書き混ぜて、「珍しいことよ、花のねぐらに木伝って、谷の古巣を訪ねてくれた鶯よ。声を待ち得たことです」などともあり、「咲ける岡辺に家しあれば」などと、自分を慰めた趣の歌なども書き混ぜてあるのを、手に取ってご覧になりながらほほえんでいらっしゃるのは、こちらが気恥ずかしくなるほどである。
筆を濡らして書き興じていらっしゃるところに、明石の君がいざり出て、さすがに自分の振る舞いは控えめにして、感じのよい心づかいであるのを、やはり人よりは格別だとお思いになる。
白い衣に、くっきりとした髪のかかりが、少しさらりとするくらいに薄くなっているのも、いっそう優美さが加わって慕わしいので、新年早々の騒ぎにもなろうかと気がかりだけれど、こちらにお泊まりになった。やはりご寵愛は格別なのだと、方々では気をもんでいらっしゃる。
南の御殿では、なおさら心外に思う女房たちがいる。源氏はまだ夜明け前のうちにお戻りになった。明石の君は、こんなにまで早くお帰りにならなくてもよい夜深さなのにと思うにつけ、名残もただならずしみじみと思う。
待ち受けていらっしゃった方(紫の上)が、また面白くないとお思いになっているらしいお心の中が推し量られなさって、「妙なうたた寝をして、若々しくも寝過ごしてしまったのを、起こしてもくださらないで」とご機嫌をとりなさるのも、面白く見える。
格別のお返事もないので、面倒になって、狸寝入りをしながら、日が高くなるまでお休みになって、起きなさった。今日は臨時客のことに紛らわして、顔を合わせないようになさる。
意訳
源氏は北の町の明石の君を訪ねる。御簾の内からは優雅な香りが漂い、娘からの返事を喜んだ明石の君の手習いが書き散らしてある。源氏は、気品のある明石の君に心ひかれ、元日の夜にもかかわらず泊まってしまう。
夜明け前に春の町に戻った源氏は、不機嫌な紫の上の機嫌をとるが、返事もないので、狸寝入りをして日が高くなるまで寝ている。
語釈・文法注
- とうぎやうき
- 東京錦。中国の洛陽(東京)で織られたという錦。唐から渡来した高級品。
- 臨時客
- 正月二日ごろ、大臣家で上達部や親王たちを招いて催す宴。
文法
- 推定の「べかめる」(おぼすべかめる)
- 「お思いになっているらしい」。「べかるめる」の撥音便無表記。
- 「もや」(御さわがれもや)
- 「騒ぎにもなろうか」。危惧を表す。
解説
明石の君の住まいは、唐渡りの調度や香の香りに満ち、手習いの筆跡にも教養がにじむ。身分は低くても、その気品と教養が源氏を惹きつけている。
元日の夜を明石の君のもとで過ごした源氏は、翌朝、紫の上の機嫌をとろうとする。六条院の平和な正月の陰に、女君たちの微妙な感情の揺れが描かれる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、444–445頁(コマ226)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日