源氏物語 第20帖 朝顔(3)
源氏の求愛と紫の上の不安
源氏は、今さら若者めいた恋文も似合わないと思いながら、朝顔の姫君への思いをやめられず、東の対に宣旨を招いて熱心に語らう。しかし姫君は、世間の噂を恐れて打ち解けない。世間では二人の結婚が噂され、紫の上はそれを聞いて、同じ皇族でも身分の高い朝顔の姫君に源氏の心が移れば、自分は追いやられるのではないかと不安に思う。紫の上は、表には出さずに人知れず悩む。

- 1立立たちちちかへりかへりかえり今今いまさらさらさらにににわかわかしきわかわかしきわかわかしき御御おんふみふみふみがきがきがきなどなどなどももも似似にげげげなきなきなき事事こととととおぼせおぼせおぼせどどど猶猶なおかくかくかく昔昔むかしよりよりよりもてもてもてはなれはなれはなれぬぬぬ御御おん氣色氣色けしきながらながらながら、、、口口くちをしくをしくおしくててて過過すぎぎぎぬるぬるぬるををを思思おもひひいつゝつゝつつえええやむやむやむまじくまじくまじく思思おぼさささるれるれるればばばさらさらさらがへりがへりがえりてててまめやかまめやかまめやかににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。ひんがしひんがしひんがしののの對對たいにににはなれはなれはなれおはしおはしおわしててて宣旨宣旨せんじををを迎迎むかへへえつゝつゝつつ語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
- 2さぶらふさぶらふさぶらう人々人々びとのののさしもさしもさしもあらあらあらぬぬぬきはきはきわののの事事ことをををだにだにだに靡靡なびきききやすやすやすなるなるなるなどなどなどははは過過あやまちちちもももしししつつつべくべくべくめでめでめで聞聞きこゆれゆれゆれどどど宮宮みやはははそのかみそのかみそのかみだにだにだにこよなくこよなくこよなく覺覺おぼししし離離はなれれれたりたりたりしししををを今今いまはははましてましてまして誰誰たれももも思思おもひひいなかるなかるなかるべきべきべき御御おん齡齡よわい覺覺おぼえええにてにてにてはかなきはかなきはかなき木木き草草くさにににつけつけつけたるたるたる御御おんかへりかへりかえりなどなどなどののの折折おり過過すぐさぐさぐさぬぬぬもももかるがるしくかるがるしくかるがるしくやややとりなさとりなさとりなさるるるらむらむらんなどなどなど人人ひとののの物物ものいひいひいいををを憚憚はばかりりり給給たまひひいつゝつゝつつうちとけうちとけうちとけ給給たまふふうべきべきべき御御おん氣色氣色けしきもももなけれなけれなければばば、、、ふりふりふりがたくがたくがたく同同おなじじじさまさまさまなるなるなる御心御心こころばへばへばえををを世世よののの人人ひとにににかはりかはりかわり珍珍めずらしくしくしくもももねたくねたくねたくももも思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
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現代語訳
源氏は、改めて今さら若者めいたお手紙のやりとりなども似合わないこととお思いになるけれど、やはりこのように昔から縁の切れないご様子でありながら、残念なまま過ぎてしまったことを思うと、思いをやめられそうにないので、若返ったように熱心に申し上げなさる。東の対に離れていらっしゃって、宣旨を迎えては語り合いなさる。
お仕えする女房たちで、それほどでもない身分の男にさえなびきやすい者などは、過ちもしてしまいそうなほど源氏をほめそやすけれど、宮(姫君)は、昔でさえこの上なく思い離れていらっしゃったのに、今はまして、誰も色恋を思うはずもないお年や評判なので、ちょっとした木や草につけたお返事などを、折を逃さずにするのも、軽々しく取りざたされるのではないかなどと、人の噂をはばかりなさって、打ち解けなさるご様子もないので、源氏は、いつまでも変わらないお心ばえを、世間の人とは違って珍しくも、また妬ましくもお思い申し上げなさる。
世間に漏れ聞こえて、「前斎院に熱心に求婚なさっているので、女五の宮なども好ましくお思いだそうだ」、「似合いのご夫婦だろう」などと言っていたのを、
対の上(紫の上)は伝え聞きなさって、しばらくは、いくら何でも、そのようなことがあれば、私に隠してはおかれまいとお思いになっていたけれど、急に気をつけて拝見なさると、ご様子なども、いつもと違って上の空なのもつらく、本気でお思いになっているだろうことを、素知らぬ顔で冗談めかしておっしゃっていたのだろうよと、
同じ皇族の血筋ではいらっしゃるけれど、あちらは声望も格別で、昔から高貴な方として世に知られていらっしゃるので、源氏のお心が移ってしまったら、みじめなことになるだろうと、長年のご寵愛などは並ぶ者もないほどで、さすがに慣れてしまっているので、人に圧倒されることになろうとは、などと人知れずお嘆きになる。
すっかり見捨てて名残もないようにはなさらないとしても、たいそう頼りない身の上で、幼いころから見慣れていらっしゃった長年の親しみは、かえって軽んじられる方になるのではないかなどと、さまざまに思い乱れなさるので、たいしたことでない時こそ恨み言などを憎らしくなく申し上げなさるけれど、本当につらいとお思いになるので、顔色にもお出しにならない。
源氏は端近で物思いがちで、宮中への宿直が多くなり、仕事といえばお手紙を書くことばかりなので、本当に人の噂は根も葉もないことではないようだ。せめてそれとなくほのめかしてくださればいいのにと、紫の上はうとましくばかりお思い申し上げなさる。
意訳
源氏は朝顔の姫君への思いをやめられず、宣旨を招いて熱心に語らうが、姫君は世間の噂を恐れて打ち解けない。世間では二人の結婚が噂される。
紫の上は噂を聞いて、身分の高い朝顔の姫君に源氏の心が移れば、後見のない自分は追いやられるのではないかと不安に思う。紫の上は、表には出さずに人知れず悩む。
語釈・文法注
- 同じすぢ
- 同じ皇族の血筋。紫の上は兵部卿宮の娘、朝顔の姫君は式部卿宮の娘で、ともに桐壺帝の兄弟の娘にあたる。しかし紫の上は母の身分が低く、正式な結婚の手続きも経ていないため、正妻としての立場は不安定であった。
文法
- 伝聞の「なり」(思したなり)
- 「お思いだそうだ」。「思したるなり」の撥音便「思したんなり」の撥音を表記しない形。
- 「こそ…め」(方にこそはあらめ)
- 「方になるのだろう」。
解説
朝顔の姫君との噂は、紫の上にとって大きな脅威となる。紫の上は、源氏の正妻格として扱われてきたものの、正式な結婚の儀式を経ておらず、後見もない。身分の高い朝顔の姫君が正妻として迎えられれば、自分の地位は揺らぐことになる。
紫の上が、軽い時には恨み言を言っても、本当につらい時には顔色にも出さないという描写は、紫の上の成熟と、その内面の孤独を鮮やかに描いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、372–373頁(コマ189)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日