源氏物語 第17帖 絵合(9)
管絃の遊びと源氏の出家願望
二十日過ぎの月が昇り、管絃の遊びが始まる。権中納言は和琴、帥宮は箏、源氏は七絃の琴を弾き、夜明けの美しい景色の中で宴は果てる。源氏は須磨の絵日記を藤壺に献上する。権中納言は、源氏が梅壺女御を後押しすることに心穏やかでないが、帝の娘への愛情を頼みにする。冷泉帝の御代は盛りを迎えるが、源氏は世の無常を思い、身に過ぎた栄華を恐れて、いずれ出家しようと考え、嵯峨野に御堂を造らせる。

- 1廿餘日廿餘日はつかあまりののの月月つきさしさしさし出出いでででゝゝてこなたこなたこなたはははまだまだまださはやかさはやかさわやかならならならねねねどどど大方大方おおかたののの空空そらをかしきをかしきおかしきほどほどほどなるなるなるにににふんふんふんのののののの御御おん琴琴ことめしめしめし出出いでででゝゝて、、、權中納言權中納言ごんちゅうなごん和琴和琴わごんたまはりたまはりたまわり給給たまふふう。。。さささはははいへいへいえどどど人人ひとにににはははまさりまさりまさりてててかきかきかきたてたてたて給給たまへへえりりり。。。
- 2みこみこみこさうさうそうののの御御おん琴琴こと、、、おとゞおとゞおとどきんきんきん、、、琵琶琵琶びわははは少將少將しょうしょうののの命婦命婦みょうぶ仕仕つこうううまつるまつるまつる。。。うへうへうえ人人ひとののの中中なかにににすぐれすぐれすぐれたるたるたるををを召召めしししててて、、、はうしはうしほうしたまはすたまはすたまわす。。。いみじういみじういみじゅう面面おも白白しろししし。。。
- 3明明あけけけはつるはつるはつるまゝまゝままににに花花はなののの色色いろももも人人ひとののの御御おんかたちかたちかたちどもどもどもゝゝもほのかほのかほのかににに見見みえええててて鳥鳥とりののの囀囀さえずるるるほどほどほど心地心地ここちゆきゆきゆきめでたきめでたきめでたきあさぼらけあさぼらけあさぼらけなりなりなり。。。祿祿ろくどもどもどもははは、、、中宮中宮ちゅうぐうののの御御おん方方かたよりよりより賜賜たまははわすすす。。。みこみこみこははは御御おんぞぞぞ又又また重重かさねねねててて賜賜たまはりはりわり給給たまふふう。。。
- 4そのそのその頃頃ころののの事事ことにににはははこのこのこの繪繪えののの定定さだめめめをををししし給給たまふふう。。。「「「かのかのかの浦々浦々うらうらののの卷卷まきははは中宮中宮ちゅうぐうははは侍侍さぶらははわせせせ給給たまへへえ」」」ととと聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいけれけれければばば、、、これこれこれがががはじめはじめはじめ又又またのこりのこりのこりののの卷々卷々まきまきゆかしがらゆかしがらゆかしがらせせせ給給たまへへえどどど、、、「「「今今いまつぎつぎつぎつぎつぎつぎににに」」」ととと聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 5うへうへうえにににももも御心御心みこころゆかゆかゆかせせせ給給たまひひいててておぼしおぼしおぼしめしめしめしたるたるたるををを嬉嬉うれしくしくしく見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。はかなきはかなきはかなき事事ことにににつけつけつけてててもももかうかうこうもてなしもてなしもてなし聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、權中納言權中納言ごんちゅうなごんははは猶猶なおおぼえおぼえおぼえをををさるべきさるべきさるべきにににやややととと心心こころやましうやましうやましゅう思思おぼさささるるるべかべかべかめりめりめり。。。
- 6上上うえののの御御おんこゝろざしこゝろざしこころざしはははもとよりもとよりもとよりおぼしおぼしおぼししみしみしみにににけれけれければばば猶猶なおこまやかこまやかこまやかにににおぼしおぼしおぼしたるたるたるさまさまさまををを、、、人人ひと知知しれれれずずず見見み奉奉たてまつりりり給給たまひひいてててぞぞぞ賴賴たのもしくもしくもしくさりともさりともさりともとととおぼさおぼさおぼされれれけるけるける。。。
- 7さるべきさるべきさるべき節會節會せちえどもどもどもにににもももこのこのこの御御おん時時ときよりよりよりととと末末すえののの人人ひとののの言言いひひい傳傳つたふふうべきべきべき例例れいをををそへそへそえむむんとととおぼしおぼしおぼし、、、私私わたくしざまざまざまのののかゝるかゝるかかるはかなきはかなきはかなき御御おん遊遊あそびももも珍珍めずらしきしきしきすぢすぢすじにににせせせさせさせさせ給給たまひひいててていみじきいみじきいみじき盛盛さかりののの御御おん世世よなりなりなり。。。
- 8おとゞおとゞおとどぞぞぞ猶猶なお常常つねなきなきなきものものものににに世世よをををおぼしおぼしおぼしててて今今いま少少すこしししおとなびおとなびおとなびおはしますおはしますおわしますととと見見み奉奉たてまつりりりててて猶猶なお世世よををを背背そむきききなななむむんととと深深ふかくくくおもほすおもほすおもおすべかべかべかめるめるめる。。。
- 9昔昔むかしのののためしためしためしををを見見み聞聞きくくくにににももも、、、齡齡よわい足足たらららでででつかさつかさつかさ位位くらい高高たかくくくのぼりのぼりのぼり世世よにににぬけぬけぬけぬるぬるぬる人人ひとののの長長ながくくくはははえええ保保たもたたたぬぬぬわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。このこのこの御御おん世世よにににははは身身みのののほどほどほどおぼえおぼえおぼえ過過すぎぎぎにににけりけりけり。。。中頃中頃なかごろなきなきなきににになりなりなりててて沈沈しずみみみたりたりたりしししうれへうれへうれえににに變變かわりりりててて今今いままでまでまでもももながらふるながらふるながらうるなりなりなり。。。
- 10今今いまよりよりより後後のちのののさかえさかえさかえははは猶猶なお命命いのちうしろめたしうしろめたしうしろめたし。。。しづかしづかしずかににに籠籠こもりりり居居いててて後後のちののの世世よののの事事ことをををつとめつとめつとめかつはかつはかつわ齡齡よわいをををももも延延のべべべむむんとととおぼしおぼしおぼしててて、、、山里山里やまざとののの長閑長閑のどかなるなるなるをををしめしめしめてててみみみ堂堂どう作作つくらららせせせ給給たまふふう。。。
- 11佛佛ほとけ經經きょうのののいとなみいとなみいとなみ添添そへへえてててせせせさせさせさせ給給たまふふうめるめるめるににに、、、末末すえののの君君きみたちたちたち思思おもふふうさまさまさまにににかしづきかしづきかしずきいだしいだしいだしててて見見みむむんとととおぼしおぼしおぼしめすめすめすにににぞぞぞ、、、疾疾とくくく捨捨すててて給給たまははわむむんことことことははは難難かたげげげなるなるなる。。。いかにいかにいかにおぼしおぼしおぼし置置おきききつるつるつるにににかかかととといといといとしりしりしりがたしがたしがたし。。。
現代語訳
二十日過ぎの月が差し出て、こちらはまだ明るくはないけれど、空全体が趣深いころに、書司の御琴を取り出させて、権中納言が和琴を賜りなさる。そうは言っても、人よりはまさって掻き鳴らしなさった。帥の宮は箏の御琴、源氏の大臣は七絃の琴、琵琶は少将の命婦がお務めする。殿上人の中で優れた者を召して、拍子をお命じになる。たいそうおもしろい。
夜が明けきるにつれて、花の色も人々のご容貌も、ほのかに見えてきて、鳥がさえずるころ、気持ちのよい、すばらしい明け方である。禄などは、中宮の御方からお与えになる。帥の宮は御衣をさらに重ねて賜りなさる。
そのころのことでは、この絵の評定をなさる。源氏が「あの浦々の巻は、中宮のお手元にお置きください」と申し上げなさったので、中宮は、この初めの巻や、残りの巻々もご覧になりたがられるけれど、源氏は「いずれ順々に」と申し上げなさる。
帝もご満足なさってお思いになっていらっしゃるのを、源氏はうれしく拝見なさる。ちょっとしたことにつけても、このように梅壺女御を引き立て申し上げなさるので、権中納言は、やはり女御のご寵愛も劣ることになるのだろうかと、心穏やかでなくお思いになるようだ。帝の弘徽殿女御へのご愛情は、もとから深くお心にしみていらっしゃったので、やはり細やかにお思いになっている様子を、人知れず拝見なさって、頼もしく、いくら何でもとお思いになった。
しかるべき節会などにも、この帝の御代から始まったと後の世の人が言い伝えるような先例を加えようとお思いになり、私的なこのようなちょっとしたお遊びも、珍しい趣向でおさせになって、たいそうな盛りの御代である。
源氏の大臣は、やはり世の中を無常なものとお思いになって、帝がもう少し大人におなりになったと拝見したら、やはり出家しようと深くお思いになっているようだ。昔の例を見聞きするにつけても、年若くして官位が高く昇り、世に抜きん出た人は、長くは栄えを保てないものであった。この御代には、自分は身の程も声望も過ぎてしまった。途中で失脚して沈んでいた嘆きに代わって、今まで生き長らえているのである。
これから後の栄華は、やはり命が気がかりだ。静かに籠もって、来世のための勤行をし、一方では寿命も延ばそうとお思いになって、山里ののどかな所を占めて、御堂を造らせなさる。仏像や経の準備も添えておさせになるようだが、幼い子どもたちを思いどおりに大切に育て上げて見ようとお思いになるので、早く世をお捨てになることは難しそうである。どのようにお考えになっていたのか、まったくわからない。
意訳
絵合の後、管絃の遊びが催され、源氏は七絃の琴を弾く。夜明けの美しい景色の中で宴は果てる。源氏は須磨の絵日記を藤壺に献上する。権中納言は心穏やかでないが、帝の娘への愛情を頼みにする。
冷泉帝の御代は盛りを迎えるが、源氏は世の無常を思い、身に過ぎた栄華を恐れて、いずれ出家しようと考える。嵯峨野に御堂を造らせるが、子どもたちの成長を見届けたいとも思い、すぐには世を捨てられない。
語釈・文法注
- ふんの司
- 書司(ふみのつかさ)。後宮十二司の一つで、書籍や楽器などを管理した。
文法
- 推定の「めり」(おもほすべかめる)
- 「お思いになっているようだ」。「べかるめる」の撥音便「べかんめる」の撥音を表記しない形。
- 打消の接続助詞「で」(齡足らで)
- 「年齢が足りないのに」。若くして高い位に昇ることをいう。
解説
絵合の巻は、源氏の栄華の頂点を描いて終わる。しかし、その頂点で源氏は出家を思う。身に過ぎた栄華を恐れる源氏の心は、のちの物語の展開を予感させる。
源氏が造らせる御堂は、のちの松風の巻で登場する嵯峨の御堂である。明石の君を迎える大堰の山荘も近くにあり、物語は新たな舞台へと移っていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、334–335頁(コマ170)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日