源氏物語 第17帖 絵合(4)
絵を好む帝と二人の女御
冷泉帝は絵を好み、自らも上手に描く。絵の上手な斎宮女御に心を移し、たびたび訪れるようになる。権中納言はそれを聞いて負けじと、名人たちに当世風の物語絵を描かせ、娘の弘徽殿女御のもとに集めて、帝にも気軽には見せない。源氏はそれを笑い、自分も古い絵を選んで献上しようとする。源氏は須磨・明石の旅で描いた絵日記を取り出し、初めて紫の上に見せる。紫の上は、見せてくれなかったことを恨みつつ、ともに涙を流す。

- 1二所二所ふたところののの御御おんおぼえおぼえおぼえどもどもどもとりどりとりどりとりどりにににいどみいどみいどみ給給たまへへえりりり。。。うへうへうえはははよろづよろづよろずののの事事ことにににすぐれすぐれすぐれててて、、、繪繪えををを興興きょうあるあるあるものものものにににおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。立立たてゝてゝてて好好このままませせせ給給たまへへえばばばにににややや、、、ににになくなくなく書書かかかかせせせ給給たまふふう。。。齋宮齋宮さいぐうののの女御女御にょうごいといといとをかしうをかしうおかしゅう書書かかかかせせせ給給たまひひいけれけれければばば、、、これこれこれににに御心御心みこころうつりうつりうつりててて渡渡わたらららせせせ給給たまひひいつゝつゝつつかきかきかき通通かよははわさささせせせ給給たまふふう。。。
- 2殿上殿上てんじょうののの若若わかききき人々人々びともももこのこのこの事事ことまねぶまねぶまねぶをををばばば御心御心みこころとゞめとゞめとどめてててをかしきをかしきおかしきものものものにににおもほしおもほしおもおしたれたれたればばば、、、ましてましてましてをかしげをかしげおかしげなるなるなる人人ひとののの心心こころばへばへばえあるあるあるさまさまさまにににまほまほまほならならならずずず書書かきききすさびすさびすさびなまめかしうなまめかしうなまめかしゅうそひそひそいふしふしふしてててとかくとかくとかく筆筆ふでうちうちうちやすらひやすらひやすらい給給たまへへえるるるさまさまさま、、、らうたげらうたげろうたげさささににに御心御心みこころしみしみしみててて、、、いといといとしげうしげうしぎょう渡渡わたらららせせせ給給たまひひいてててありありありしししよりよりよりけにけにけに御御おん思思おもひひいまされまされまされるるるををを、、、
- 3權中納言權中納言ごんちゅうなごん聞聞きききき給給たまひひいててて飽飽あくくくまでまでまでかどかどしくかどかどしくかどかどしく今今いまめきめきめき給給たまへへえるるる御心御心みこころにてにてにて、、、われわれわれ人人ひとににに劣劣おとりりりなななむむんやややとととおぼしおぼしおぼし勵勵はげみみみててて、、、すぐれすぐれすぐれたるたるたる上手上手じょうずどもどもどもををを召召めししし取取とりりりててていみじういみじういみじゅういましめいましめいましめてててまたまたまたなきなきなきさまさまさまなるなるなる繪繪えどもどもどもをををににになきなきなき紙紙かみどもどもどもににに書書かききき集集あつめめめさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 4物語繪物語繪ものがたりえこそこそこそ心心こころばへばへばえににに見見みえええててて見見み所所どころあるあるあるものものものなれなれなれとととててて、、、おもしろくおもしろくおもしろく心心こころばへばへばえあるあるある限限かぎりをををえりえりえりつゝつゝつつ書書かかかかせせせ給給たまふふう。。。例例れいののの月月つきなみなみなみののの繪繪えももも見見み馴馴なれれれぬぬぬさまさまさまににに言言ことののの葉葉はををを書書かききき續續つづけけけててて御覽御覽ごらんぜぜぜさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 5わざとわざとわざとをかしうをかしうおかしゅうしししたれたれたればばば、、、又又またこなたこなたこなたにてにてにてもももこれこれこれををを御覽御覽ごらんずるずるずるににに心心こころやすくやすくやすくもももとりとりとり出出いででで給給たまははわずずず、、、いといといといたくいたくいたく秘秘ひめめめてててこのこのこの御御おん方方かたにににもてもてもて渡渡わたらららせせせ給給たまふふうををを惜惜おしみみみらうじらうじろうじ給給たまへへえばばば、、、おとゞおとゞおとど聞聞きききき給給たまひひいててて、、、「「「猶猶なお權中納言權中納言ごんちゅうなごんののの御心御心みこころののの若々若々わかわかしさしさしさこそこそこそ改改あらたまりまりまりがたがたがたかかかめれめれめれ」」」などなどなど笑笑わらひひい給給たまふふう。。。
- 6「「「あながちあながちあながちににに隱隱かくしししててて心心こころ安安やすくくくももも御覽御覽ごらんぜぜぜさせさせさせずずず惱惱なやましましまし聞聞きこゆるゆるゆるいといといとめざましめざましめざましややや。。。古代古代こたいののの御御おん繪繪えどもどもどもののの侍侍はべるるる參參まいらせらせらせむむん」」」ととと奏奏そうししし給給たまひひいててて、、、殿殿とのににに舊舊ふるききき新新あたらしきしきしき繪繪えどもどもども入入いりりりたるたるたる御御おん厨子厨子ずしどもどもども開開あかかかせせせ給給たまひひいててて女君女君おんなぎみととと諸共諸共もろともににに今今いまめかしきめかしきめかしきはははそれそれそれぞれぞれぞれとととえりえりえり整整ととのへへえさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 7王昭君王昭君おうしょうくんなどなどなどやうやうようののの繪繪えはははおもしろくおもしろくおもしろくあはれあはれあわれなれなれなれどどど、、、事事ことののの忌忌いみあるあるあるはははこたみこたみこたみははは奉奉たてまつらららじじじとととえりえりえりとゞめとゞめとどめ給給たまふふう。。。かのかのかの旅旅たびののの御御おん日記日記にきのののはこはこはこをををももも取取とりりり出出いでででさせさせさせ給給たまひひいててて、、、このこのこのついでついでついでにににぞぞぞ女君女君おんなぎみにににももも見見みせせせ奉奉たてまつりりり給給たまひひいけるけるける。。。
- 8知知しらららででで今今いま見見みむむん人人ひとだにだにだに少少すこししし物物もの思思おもひひい知知しらららむむん人人ひとははは淚淚なみだ惜惜おしむむむまじくまじくまじくあはれあはれあわれなりなりなり。。。まいてまいてまいて忘忘わすれれれがたくがたくがたくそのそのその夜夜よののの夢夢ゆめをををおぼしおぼしおぼしさますさますさます折折おりなきなきなき御心御心みこころどもどもどもにににははは取取とりりり返返かえししし悲悲かなしうしうしゅうおぼしおぼしおぼし出出いでででらるらるらる。。。今今いままでまでまで見見みせせせ給給たまははわざりざりざりけるけるけるうらみうらみうらみをををぞぞぞ聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるける。。。
- 9「「「一人一人ひとり居居いててて眺眺ながめめめしししよりよりよりはははあまあまあまのののすむすむすむかたかたかたををを書書かきききてててぞぞぞ見見みるるるべかりべかりべかりけるけるける。。。おぼつかなさおぼつかなさおぼつかなさははは慰慰なぐさみみみなななましましましものものものををを」」」とととのののたまふたまふたまう。。。いといといとあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼしててて「「「うきうきうきめめめ見見みしししそのそのそのをりをりおりよりよりよりももも今日今日きょうはははまたまたまた過過すぎぎぎにににしししかたかたかたにににかへるかへるかえる淚淚なみだかかか」」」。。。
- 10中宮中宮ちゅうぐうばかりばかりばかりにににははは見見みせせせ奉奉たてまつるるるべきべきべきものものものなりなりなり。。。かたはかたはかたわなるなるなるまじきまじきまじき一一いちでふでふじょうづゝづゝずつさすがさすがさすがににに浦々浦々うらうらののの有樣有樣ありさまさやかさやかさやかににに見見みえええたるたるたるをををえりえりえり給給たまふふうついでついでついでにににもももかのかのかのあるじあるじあるじののの家居家居いえいぞぞぞまづまづまずいかにいかにいかにとととおぼしおぼしおぼしやらやらやらぬぬぬ時時ときののの間間まもももなきなきなき。。。
現代語訳
二人の女御のご寵愛は、それぞれに張り合っていらっしゃる。帝は何事にもすぐれていらっしゃって、絵を興味深いものとお思いになっていた。とりわけお好みになるからだろうか、またとないほど上手にお描きになる。斎宮女御がたいそう趣深くお描きになったので、帝はこれにお心が移って、たびたびお渡りになっては、互いに描いて見せ合いなさる。
殿上の若い人々も、絵を学ぶ者をお心にとめて、おもしろいものとお思いになっていたので、まして美しい人が、心得のある様子で、くだけた調子で描き興じ、優美に物に寄りかかって、あれこれと筆を休めていらっしゃる様子の愛らしさに、お心がひかれて、たいそう頻繁にお渡りになって、以前よりもいっそうご寵愛がまさったのを、
権中納言はお聞きになって、どこまでも才気にあふれ、当世風でいらっしゃるご性分なので、自分がほかの人に劣ってよいものかと奮起なさって、すぐれた名人たちを召し寄せて、厳しく言い含めて、またとないような絵の数々を、またとない紙に描き集めさせなさる。物語絵こそ趣向が見えて見どころがあるものだと言って、おもしろく趣のあるものばかりを選んでは描かせなさる。例の月ごとの行事の絵も、見慣れない趣向で、詞書を書き連ねて帝にお見せになる。
わざわざ趣向を凝らしてあるので、帝がまたこちら(斎宮女御)でもこれをご覧になろうとすると、気軽には取り出しなさらず、たいそう秘密にして、帝がこの斎宮女御の方に持っていらっしゃるのを惜しんで独占なさるので、源氏の大臣はお聞きになって、「やはり権中納言のお心の若々しさは、改まりそうにないようだ」などとお笑いになる。
「むやみに隠して、帝に気軽にもお見せせず、お悩ませ申し上げるとは、たいそう目に余ることです。私のところに古い絵がございますので、献上いたしましょう」と帝に奏上なさって、殿(二条院)で、古い絵や新しい絵が入っている御厨子をいくつも開けさせなさって、女君(紫の上)と一緒に、当世風のものはそれぞれ選び整えさせなさる。『長恨歌』や『王昭君』などのような絵は、おもしろく感動的だけれど、不吉なことのあるものは今回は献上すまいと、選び残しなさる。
あの旅の御日記の箱も取り出させなさって、この機会に女君にもお見せになった。事情を知らずに今見る人でさえ、少し物の情趣を解する人なら涙を惜しまずに流すほどしみじみとしている。まして、忘れがたく、あの夢のような日々を思い覚ますことのない二人のお心には、改めて悲しく思い出される。紫の上は、今まで見せてくださらなかった恨みを申し上げなさった。
「都でひとり物思いにふけっていたよりは、海人の住むあなたのいる所の様子を、絵に描いて見ていればよかったのに。心細さも慰められたでしょうに」とおっしゃる。源氏はたいそうしみじみとお思いになって、「つらい目にあったあの時よりも、今日はまた、過ぎ去った昔に立ち返って流れる涙であることよ」。
中宮(藤壺)にだけはお見せ申し上げるべきものである。見苦しくないものを一帖ずつ、さすがに浦々の様子がはっきり見えるものをお選びになるにつけても、あの明石の家の主の住まいは、まずどうしているかと、お思いやりにならない時の間もない。
意訳
絵を好む冷泉帝は、絵の上手な斎宮女御に心を移す。権中納言は負けじと、名人たちに当世風の物語絵を描かせて弘徽殿女御のもとに集め、帝にも気軽には見せない。
源氏はそれを笑い、自分も古い絵を選んで献上しようとする。源氏は須磨・明石の旅で描いた絵日記を初めて紫の上に見せ、二人は歌を交わして涙を流す。
語釈・文法注
- 長恨歌王昭君
- 『長恨歌』は唐の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を描いた白居易の詩。王昭君は漢の元帝の宮女で、匈奴に嫁がされた悲劇の女性。いずれも帝の愛する女性が不幸になる話なので、入内の時期にはふさわしくない。
文法
- 反実仮想の「まし」(慰みなましものを)
- 「慰められたでしょうに」。
- 「べかりける」(書きてぞ見るべかりける)
- 「描いて見ていればよかったのに」。当然の推量「べし」と詠嘆の「けり」で、そうしなかったことを悔やむ。
和歌
一人居て眺めしよりはあまのすむかたを書きてぞ見るべかりける
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 源氏の須磨の絵日記を見て詠んだ歌。都でひとり物思いにふけっていたよりは、海人の住むあなたのいる所の様子を、絵に描いて見ていればよかったのに。
修辞
- 掛詞
- 「かた」に「方(方角)」と「潟」、「書き」に「描き」をかける。
うきめ見しそのをりよりも今日はまた過ぎにしかたにかへる淚か
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 紫の上への返歌。つらい目にあったあの時よりも、今日はまた、過ぎ去った昔に立ち返って流れる涙であることよ。
修辞
- 掛詞
- 「うきめ」に「憂き目」と「浮き海布(め)」、「かた」に「方」と「潟」をかける。
解説
帝の絵への関心が、二人の女御の寵愛争いの軸となる。斎宮女御は自ら絵を描く才能によって帝の心をつかみ、権中納言は財力と名人の力で対抗する。
源氏が須磨の絵日記を紫の上に見せる場面は、二人が離れていた時期の苦しみを共有し直す場面でもある。この絵日記が、のちの絵合で決定的な役割を果たすことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、326–327頁(コマ166)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日