源氏物語 第13帖 明石(12)
別れの前夜と琴
出立の二日前、源氏は岡辺を訪れ、はじめてはっきりと明石の君の姿を見て、その気品に驚き、しかるべき形で都に迎えようと決める。二人は塩焼く煙に寄せて歌を交わす。源氏は、これまで聞かせてもらえなかった明石の君の琴を所望し、自らも琴を弾く。明石の君の箏の音は、藤壺にも劣らない奥ゆかしさだった。源氏は琴を形見に残し、再会を約束する。

- 1あさてあさてあさてばかりばかりばかりににになりなりなりててて例例れいのののやうやうようにににいたういたういとうもももふかさふかさふかさででで渡渡わたりりり給給たまへへえりりり。。。さやかさやかさやかにににもももまだまだまだ見見み給給たまははわぬぬぬかたちかたちかたちなどなどなどいといといとよしよしよしよしよしよしゝうゝうしゅうけだかきけだかきけだかきさまさまさましししててて、、、目目めざましうざましうざましゅうもももありありありけるけるけるかなかなかなととと見見み捨捨すててて難難がたくくく口惜口惜くちおしうしうしゅう思思おぼさささるるる。。。さるべきさるべきさるべきさまさまさまにてにてにて迎迎むかへへえむむんとととおぼしおぼしおぼしなりなりなりぬぬぬ。。。さやうさやうさようにににぞぞぞ語語かたらひらひらい慰慰なぐさめめめ給給たまふふう。。。
- 2男男おとこののの御御おんかたちかたちかたち有樣有樣ありさまはははたたた更更さらにににもももいはいはいわずずず、、、年比年比としごろののの御御おんおこなひおこなひおこないにににいたくいたくいたくおもやせおもやせおもやせ給給たまへへえるるるしもしもしも言言いふふうかたかたかたなくなくなくめでたきめでたきめでたき御御おん有樣有樣ありさまにてにてにて心心こころ苦苦ぐるしげしげしげなるなるなるけしきけしきけしきにににうちうちうち淚淚なみだぐみぐみぐみつゝつゝつつ、、、哀哀あわれににに深深ふかくくく契契ちぎりりり給給たまへへえるるるはははたゞたゞただかばかりかばかりかばかりをををさいはひさいはひさいわいにてにてにてもももなどなどなどかかかやまやまやまざらざらざらむむんとととまでまでまでぞぞぞ見見みゆゆゆめれめれめれどどど、、、めでたきめでたきめでたきにににしもしもしも我我わががが身身みのののほどほどほどををを思思おもふふうにににもももつきせつきせつきせずずず。。。
- 3浪浪なみののの聲聲こえ秋秋あきののの風風かぜにににははは猶猶なおひゞきひゞきひびきことことことなりなりなり。。。鹽鹽しお燒燒やくくくかすかかすかかすかにににたなびきたなびきたなびきてててとりとりとりあつめあつめあつめたるたるたる所所ところのののさまさまさまなりなりなり。。。「「「このこのこのたびたびたびははは立立たちちち別別わかるるるともともとももしほもしほもしおやくやくやくけぶりけぶりけぶりははは同同おなじじじかたかたかたににになびかなびかなびかむむん」」」とととののの給給たまへへえばばば、、、
- 4「「「かきかきかきつめつめつめててて海士海士あまのののたくたくたくものものもの思思おもひひいにににももも今今いまはははかひかひかいなきなきなきうらみうらみうらみだにだにだにせせせじじじ」」」。。。哀哀あわれにににうちうちうち泣泣なきききてててことことことずくなずくなずくなゝるゝるなるものものものからからから、、、さるべきさるべきさるべきふしふしふしののの御御おんいらへいらへいらえなどなどなど淺淺あさからからからずずず聞聞きこゆゆゆ。。。
- 5このこのこの常常つねにににゆかしがりゆかしがりゆかしがり給給たまふふう物物もののののねねねなどなどなど更更さらににに聞聞きかかかせせせ奉奉たてまつらららざりざりざりつるつるつるをををいみじういみじういみじゅう恨恨うらみみみ給給たまふふう。。。「「「さらばさらばさらばかたみかたみかたみにににももも忍忍しのぶぶぶばかりばかりばかりのののひとことひとことひとことをををだにだにだに」」」とととのたまひのたまひのたまいててて京京きょうよりよりよりもてもてもておはしおはしおわしたりたりたりしししきんきんきんののの御御おんことことこと取取とりりりにににつかはしつかはしつかわしててて、、、
- 6心心こころことことことなるなるなるしらべしらべしらべをををほのかほのかほのかににに搔搔かききき鳴鳴ならしらしらし給給たまへへえるるる、、、深深ふかききき夜夜よのののすめすめすめるるるははは譬譬たとへへえむむん方方かたなしなしなし。。。入道入道にゅうどうもももえええ堪堪たへへえででで、、、自自みずかららら箏箏そうののの琴琴こと取取とりりりてててさしさしさし入入いれれれたりたりたり。。。
- 7自自みずからららもももいとゞいとゞいとど淚淚なみださへさへさへそゝのかさそゝのかさそそのかされれれててて留留とどむむむべきべきべき方方かたなきなきなきにににさそはるゝさそはるゝさそわるるなるなるなるべしべしべし。。。忍忍しのびやかびやかびやかににに調調しらべべべたるたるたる程程ほどいといといと上手上手じょうずめきめきめきたりたりたり。。。
- 8入道入道にゅうどうののの宮宮みやののの御御おん琴琴ことののの音音ねををを只今只今ただいまののの又又またなきなきなきものものものににに思思おもひひい聞聞きこえええたるたるたるははは今今いまめかしうめかしうめかしゅう、、、あなあなあなめでためでためでたととと、、、聞聞きくくく人人ひとののの心心こころ行行ゆきききてててかたちかたちかたちさへさへさへ思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるることことことはははげにげにげにいといといと限限かぎりなきなきなき御御おん琴琴ことののの音音ねなりなりなり。。。これこれこれははは飽飽あくくくまでまでまで彈彈ひきききすましすましすまし心心こころにくゝにくゝにくく妬妬ねたきききねねねぞぞぞまされまされまされるるる。。。
- 9このこのこの御心御心みこころにににだにだにだに始始はじめめめててて哀哀あわれににになつかしうなつかしうなつかしゅう、、、まだまだまだ耳耳みみなれなれなれ給給たまははわぬぬぬ手手てなどなどなど心心こころやましきやましきやましき程程ほどにににひきひきひきさしさしさしつゝつゝつつ飽飽あかかかずずずおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるにににももも、、、月頃月頃つきごろなどなどなど强强しひひいてててももも聞聞ききききならさならさならさゞりゞりざりつつつらむらむらんととと悔悔くやしうしうしゅうおぼさるおぼさるおぼさる。。。心心こころのののかぎりかぎりかぎり行行ゆくくくさきさきさきののの契契ちぎりをををのみのみのみししし給給たまふふう。。。
- 10「「「きんきんきんははは又又またかきかきかきあはするあはするあわするまでまでまでのののかたみかたみかたみににに」」」とととののの給給たまふふう。。。女女おんな、、、「「「なほざりなほざりなおざりにににたのめたのめたのめおくおくおくめるめるめる一一ひとことことことをををつきせつきせつきせぬぬぬ音音ねにににやややかけかけかけててて忍忍しのばばばむむん」」」。。。
- 11いふいふいうととともももなきなきなき口口くちずさびずさびずさびををを怨怨うらみみみ給給たまひひいててて、、、「「「逢逢あふふうまでまでまでのののかたみかたみかたみににに契契ちぎるるる中中なかののの緖緖おのののしらべしらべしらべはははことことことにににかはらかはらかわらざらざらざらなむなむなん。。。このこのこのねねね違違たがははわぬぬぬさきさきさきににに必必かならずずずあひあひあい見見みむむん」」」とととたのめたのめたのめ給給たまふふうめりめりめり。。。されどされどされど唯唯ただ別別わかれれれむむん程程ほどのののわりなさわりなさわりなさををを思思おもひひいむせむせむせたるたるたるもももいといといとことわりことわりことわりなりなりなり。。。
現代語訳
出立が明後日ほどになって、源氏はいつものようにあまり夜更けにならないうちにおいでになった。まだはっきりとはご覧になっていなかった容貌などが、たいそう由緒ありげで気品があって、思いのほかにすばらしかったのだなあと、見捨てがたく残念にお思いになる。しかるべき形で都に迎えようと、お思いになった。そのように話してお慰めになる。
男君のご容貌やご様子は言うまでもなく、長年の勤行でひどく面やせしていらっしゃるのが、かえって言いようもなくすばらしいご様子で、心苦しそうな様子で涙ぐみながら、しみじみと深く将来をお約束なさるのは、ただこれだけを幸せとしても、どうして満足しないことがあろうかとまで見えるが、すばらしいにつけても、わが身のほどを思うにつけても、嘆きは尽きない。
波の音は、秋の風の中で、いっそう格別に響く。塩焼く煙がかすかにたなびいて、さまざまな情趣を取り集めたような所の様子である。「今度はこうして別れても、藻塩を焼く煙が同じ方向になびくように、いずれは同じ所で暮らしましょう」とおっしゃると、
明石の君は「海人が藻を掻き集めて焚くように、さまざまに思いを募らせても、今はかいのない恨みさえ言うまいと思います」。しみじみと泣いて、言葉少なではあるものの、しかるべき折のご返事などは、心を込めて申し上げる。
源氏は、いつも聞きたがっていらっしゃった琴の音などを、まったく聞かせ申し上げなかったのを、ひどくお恨みになる。「それなら、形見にもしのべるくらいの一曲だけでも」とおっしゃって、京から持っていらっしゃった琴の御琴を取りに遣わして、
格別な曲を、ほのかにかき鳴らしなさったのが、深い夜の澄んだ空気の中に響くのは、たとえようもない。入道もこらえきれずに、自分で箏の琴を取って、娘の部屋に差し入れた。娘自身も、いっそう涙まで誘われて、こらえようもない気持ちに誘われたのだろう、忍びやかに弾いた様子は、たいそう上手であった。
入道の宮(藤壺)の琴の音を、今の世にまたとないものとお思い申し上げていたのは、華やかで、ああすばらしいと、聞く人の心が満たされて、お姿まで思いやられることでは、本当にこの上ないお琴の音である。こちらは、どこまでも弾き澄まして、奥ゆかしく、ねたましいほどの音色がまさっている。
この源氏のお心にさえ、初めてしみじみと心ひかれ、まだ聞き慣れていらっしゃらない曲などを、もどかしいほどのところで弾きやめては、物足りなくお思いになるにつけても、この数か月、どうして無理にでも聞き慣れておかなかったのだろうと、悔しくお思いになる。心の限り、将来の約束ばかりをなさる。
「この琴は、また合奏する時までの形見に」とおっしゃる。女は「いいかげんに頼みに思わせてお置きになるらしいひと言を、尽きない泣き音にかけてしのぶことでしょうか」。言うともなく口ずさんだのを、源氏はお恨みになって、
「再び逢う時までの形見として約束する琴の中の緒の調子のように、あなたの心も特に変わらないでほしい。この琴の調子が狂わないうちに、必ず会いましょう」と、頼みに思わせなさるようだ。けれども、ただ別れの時のつらさを思ってむせび泣いているのも、まったくもっともである。
意訳
出立の二日前、源氏ははじめてはっきりと明石の君の姿を見て、その気品に驚き、しかるべき形で都に迎えようと決める。二人は塩焼く煙に寄せて別れの歌を交わす。
源氏は、これまで聞かせてもらえなかった明石の君の琴を所望する。明石の君の箏の音は、藤壺の華やかな琴の音とは違う、奥ゆかしい魅力を持っていた。源氏は自分の琴を形見に残し、琴の調子が変わらないうちに必ず再会しようと約束する。
語釈・文法注
- 鹽燒く煙
- 海藻に海水をかけて焼き、塩をとる煙。須磨・明石の海辺を象徴する景物として和歌に多く詠まれる。
文法
- 願望の「なむ」(ことにかはらざらなむ)
- 未然形について「変わらないでほしい」という他への願望を表す。
- 反語の「などか…む」(などかやまざらむ)
- 「どうして満足しないことがあろうか、いや、満足する」。
和歌
このたびは立ち別るとももしほやくけぶりは同じかたになびかむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 別れの前夜、塩焼く煙を見て明石の君に詠んだ歌。今度はこうして別れても、藻塩を焼く煙が同じ方向になびくように、いずれは同じ所で暮らしましょう。
かきつめて海士のたくもの思ひにも今はかひなきうらみだにせじ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 源氏への返歌。海人が藻を掻き集めて焚くように、さまざまに思いを募らせても、今はかいのない恨みさえ言うまいと思います。
修辞
- 掛詞
- 「たくも」に「焚く藻」と、「思ひ」の「ひ」に「火」をかける。「うらみ」に「浦見」と「恨み」をかける。
なほざりにたのめおくめる一ことをつきせぬ音にやかけて忍ばむ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 源氏が琴を形見に残すと言ったのに答えた歌。いいかげんに頼みに思わせてお置きになるらしいひと言を、尽きない泣き音にかけてしのぶことでしょうか。
修辞
- 掛詞
- 「こと」に「言」と「琴」、「ね」に「音」と「泣き音」をかける。
逢ふまでのかたみに契る中の緖のしらべはことにかはらざらなむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 明石の君への返歌。再び逢う時までの形見として約束する琴の中の緒の調子のように、あなたの心も特に変わらないでほしい。
修辞
- 掛詞
- 「中の緖」に琴の弦と、二人の「仲」をかける。「こと」に「殊(特に)」と「琴」をかける。
解説
別れの前夜になって、源氏ははじめて明石の君の琴の音を聞く。その音色は、藤壺の華やかな琴とは違う、奥ゆかしく、ねたましいほどの魅力を持っていた。明石の君の気品と才能が、最後の夜に明らかになる。
源氏が琴を形見に残し、「このね違はぬさきに必ずあひ見む」と約束する場面は、二人の再会を予告している。琴は、明石の君と源氏とを結ぶ象徴として、のちの巻でも重要な役割を果たす。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、276–279頁(コマ141–142)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日