古典ライブラリー

源氏物語 第13帖 明石(9)

明石の君との契り

登場人物:光源氏・明石の君・明石の入道・明石の尼君・惟光

秋、源氏は入道に娘をこちらへと促すが、娘は身分の差を思って応じない。娘は、文を交わすだけでも身に余ると思い、親たちも先行きを案じる。入道はひそかに吉日を選び、八月十三日の月夜、源氏を岡辺の家に招く。源氏は馬で月下の浦を行き、紫の上を恋しく思う。娘は源氏を避けて部屋に閉じこもるが、源氏は契りを結ぶ。娘の気配は六条御息所に似ていた。

十三夜の月の下、木立の深い岡辺の家の槇の戸口がわずかに開き、源氏が中の明石の君に語りかけている場面(AI生成)
十三夜の月の下、木立の深い岡辺の家の槇の戸口がわずかに開き、源氏が中の明石の君に語りかけている場面
  1. 1明石あかし明石あかしあかしにににははは例れい例れいれいののの秋あき秋あきあきははは濱風はまかぜ濱風はまかぜはまかぜののの殊こと殊ことことなるなるなるににに、、、獨寢ひとりね獨寢ひとりねひとりねもももまめやかまめやかまめやかににに物もの物ものもの侘わび侘わびわびしうしうしゅうててて入道にふだう入道にふだうにゅうどうにににももも折々をりをり折々をりをりおりおり語かた語かたかたらはらはらわせせせ給たま給たまたまふふう。。。「「「とかうとかうとこうまぎらはしまぎらはしまぎらわしててて、、、こちこちこち參まゐ參まゐまいらららせよせよせよ」」」とととののの給たま給たまたまひひいててて、、、渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまははわむむんことことことをををばばばあるあるあるまじうまじうまじゅう思おぼ思おぼおぼしししたるたるたるををを、、、さうじみさうじみそうじみはははたたた更さら更さらさらににに思おも思おもおもひひい立た立たたつつつべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。
  2. 2いといといと口惜くちを口惜くちをくちおしきしきしき際きは際きはきわののの田舍人ゐなかびと田舍人ゐなかびといなかびとこそこそこそかりかりかりにににくだりくだりくだりたるたるたる人ひと人ひとひとのののうちとけうちとけうちとけ事ごと事ごとごとにににつきつきつきてててさやうさやうさようににに輕かろ輕かろかろらからからかににに語かた語かたかたらふらふらうわざわざわざをををもももすすすなれなれなれ、、、人數ひとかず人數ひとかずひとかずにににもももおぼさおぼさおぼされれれざらざらざらむむんものものものゆゑゆゑゆえわれわれわれはははいみじきいみじきいみじき物思ものおもひ物思ものおもひものおもいをををやややそへそへそえむむん、、、
  3. 3かくかくかく及およ及およおよびびびなきなきなき心こころ心こころこころををを思おも思おもおもへへえるるる親達おやたち親達おやたちおやたちももも世よ世よよごもりごもりごもりてててすぐすすぐすすぐす年月としつき年月としつきとしつきこそこそこそあいなだのみあいなだのみあいなだのみににに行ゆ行ゆゆくくく末すゑ末すゑすえ心こころ心こころこころにくゝにくゝにくく思おも思おもおもふふうらめらめらめ、、、なかなかなかなかなかなかなるなるなる心こころ心こころこころをををややや盡つく盡つくつくさささむむんととと思おも思おもおもひひいててて、、、唯ただ唯ただただこのこのこの浦うら浦うらうらにににおはさおはさおわさむむん程ほど程ほどほど斯かか斯かかかかるるる御おん御おんおん文ふみ文ふみふみばかりばかりばかりををを聞きこ聞きこきこえええかはさかはさかわさむむんこそこそこそおろかおろかおろかならならならねねね、、、
  4. 4年頃としごろ年頃としごろとしごろ音おと音おとおとにににのみのみのみ聞き聞きききききててていついついつかかかはははさるさるさる人ひと人ひとひとののの御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまをををほのかほのかほのかにににももも見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんなどなどなど遙はるか遙はるかはるかににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええしししををを、、、かくかくかく思おも思おもおもひひいかけかけかけざりざりざりししし御おん御おんおん住すま住すますまひひいにてにてにてまほまほまほならならならねねねどどどほのかほのかほのかにににももも見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり、、、よよよににになきなきなきものものものととと聞き聞ききききき傳つた傳つたつたへへえししし御おん御おんおん琴こと琴ことことののの音ね音ねねをををももも風かぜ風かぜかぜにににつけつけつけててて聞き聞ききききき、、、
  5. 5明暮あけくれ明暮あけくれあけくれののの御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさま覺束おぼつか覺束おぼつかおぼつかなからなからなからでででかくかくかくまでまでまで世よ世よよにににあるあるあるものものものととと思おぼ思おぼおぼししし尋たづ尋たづたずぬるぬるぬるなどなどなどこそこそこそかゝるかゝるかかる海士あま海士あまあまののの中なか中なかなかににに朽く朽くくちちちぬるぬるぬる身み身みみにににあまるあまるあまる事こと事ことことなれなれなれなどなどなど思おも思おもおもふふうににに、、、いよいよいよいよいよいよ耻はづか耻はづかはずかしうしうしゅうててて露つゆ露つゆつゆもももけぢかきけぢかきけじかき事こと事ことことははは思おも思おもおもひひいよらよらよらずずず。。。
  6. 6親達おやたち親達おやたちおやたちはははこゝらこゝらここらののの年頃としごろ年頃としごろとしごろのののいのりいのりいのりがががなふなふなうべきべきべきををを思おも思おもおもひひいながらながらながら、、、ゆくりかゆくりかゆくりかににに見み見みみせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててておぼしおぼしおぼしかずまへかずまへかずまえざらざらざらむむん時とき時ときときいかなるいかなるいかなる歎なげき歎なげきなげきをををかかかせせせむむんととと思おも思おもおもひひいやるやるやるにににゆゝしくゆゝしくゆゆしくててて、、、めでたきめでたきめでたき人ひと人ひとひとととと聞きこ聞きこきこゆゆゆともともともつらうつらうつろういみじういみじういみじゅうもももあるあるあるべきべきべきををを目め目めめににに見み見みみえええぬぬぬほとけほとけほとけ神かみ神かみかみををを賴たの賴たのたのみみみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて人ひと人ひとひとののの御心みこころ御心みこころみこころをををももも宿世すくせ宿世すくせすくせをををももも知し知ししらららでででなどなどなどうちうちうち返かへ返かへかえししし思おも思おもおもひひい亂みだ亂みだみだれれれたりたりたり。。。
  7. 7君きみ君きみきみはははこのこのこの頃ころ頃ころころののの浪なみ浪なみなみののの音おと音おとおとににに「「「かのかのかの物もの物ものものののの音ね音ねねををを聞き聞ききかかかばやばやばや。。。さらさらさらずずずばばばかひかひかいなくなくなくこそこそこそ」」」などなどなど常つね常つねつねはははののの給たま給たまたまふふう。。。忍しの忍しのしのびびびてててよろしきよろしきよろしき日ひ日ひひ見み見みみせせせててて母君ははぎみ母君ははぎみははぎみのののとかくとかくとかく思おも思おもおもひひい煩わづら煩わづらわずらふふうををを聞き聞ききききき入い入いいれれれずずず、、、弟子でし弟子でしでしどもどもどもなどなどなどにににだにだにだに知しら知しらしらせせせずずず心こころ心こころこころ一ひと一ひとひとつつつにににたちたちたちゐゐいかゞやくかゞやくかがやくばかりばかりばかりしつらひしつらひしつらいててて、、、
  8. 8十三日じふさんにち十三日じふさんにちじゅうさんにちののの月つき月つきつきののの華はな華はなはなやかやかやかにににさしさしさし出い出いいでででたるたるたるににに、、、唯ただ唯ただただ「「「あたらあたらあたら夜よ夜よよのののととと聞きこ聞きこきこえええたりたりたり。。。君きみ君きみきみはははすきすきすきのののさまさまさまやややととと思おぼ思おぼおぼせせせどどど御おん御おんおん直衣なほし直衣なほしのうし奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり引ひ引ひひきききつくろひつくろひつくろいててて夜よ夜よよふかしふかしふかしててて出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。御車みくるま御車みくるまみくるまははは二に二にになくなくなく作つく作つくつくりりりたれたれたれどどど所ところ所ところところせしせしせしとととててて御おん御おんおん馬むま馬むまうまにてにてにて出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。惟光これみつ惟光これみつこれみつなどなどなどばかりばかりばかりをををさぶらはさぶらはさぶらわせせせ給たま給たまたまふふう。。。
  9. 9やゝやゝやや遠とほ遠とほとおくくく入い入いいるるる所ところ所ところところなりなりなりけりけりけり。。。道みち道みちみちのののほどほどほどもももよもよもよもののの浦々うらうら浦々うらうらうらうら見み見みみ渡わた渡わたわたししし給たま給たまたまひひいててて思おも思おもおもふふうどちどちどち見み見みみまほしきまほしきまほしき入江いりえ入江いりえいりえののの月つき月つきつきかげかげかげにににもももまづまづまず戀こひ戀こひこいしきしきしき人ひと人ひとひとののの御おん御おんおん事こと事ことことををを思おも思おもおもひひい出い出いいででで聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうにににやがてやがてやがて馬むま馬むまうまひきひきひきすぎすぎすぎててて赴おもむ赴おもむおもむきききぬぬぬべくべくべくおぼすおぼすおぼす。。。
  10. 10「「「秋あき秋あきあきののの夜よ夜よよのののつきげつきげつきげののの駒こま駒こまこまよよよわがわがわがこふるこふるこうる雲居くもゐ雲居くもゐくもいにににかけれかけれかけれ時とき時ときときのののまままももも見み見みみむむん」」」とととうちうちうちひとりごたひとりごたひとりごたれれれ給たま給たまたまふふう。。。造つく造つくつくれれれるるるさまさまさま木こ木ここぶかくぶかくぶかくいたきいたきいたき所ところ所ところところまさりまさりまさりててて見所みどころ見所みどころみどころあるあるある住すま住すますまひひいなりなりなり。。。
  11. 11海うみ海うみうみのののつらつらつらはははいかめしういかめしういかめしゅうおもしろくおもしろくおもしろく、、、これこれこれははは心こころ心こころこころぼそくぼそくぼそくすみすみすみたるたるたるさまさまさま、、、こゝこゝここににに居ゐ居ゐいててて思おも思おもおもひひい殘のこ殘のこのこすすす事こと事ことことはははあらあらあらじじじとととすすすらむらむらんとととおぼしおぼしおぼしやらやらやらるゝるゝるるににに物もの物ものもの哀あはれ哀あはれあわれなりなりなり。。。三昧堂さんまいだう三昧堂さんまいだうさんまいどう近ちか近ちかちかくくくててて鐘かね鐘かねかねののの聲こゑ聲こゑこえ松まつ松まつまつののの風かぜ風かぜかぜににに響ひび響ひびひびきききあひあひあいてててものものものがなしうがなしうがなしゅう岩いは岩いはいわににに生お生おおひひいたるたるたる松まつ松まつまつののの根ね根ねねざしざしざしももも心こころ心こころこころばへばへばえあるあるあるさまさまさまなりなりなり。。。
  12. 12前栽せんざい前栽せんざいせんざいどもどもどもににに蟲むし蟲むしむしののの聲こゑ聲こゑこえをををつくしつくしつくしたりたりたり。。。こゝかしここゝかしこここかしこののの有樣ありさま有樣ありさまありさまなどなどなど御覽ごらん御覽ごらんごらんずずず。。。むすめむすめむすめすませすませすませたるたるたる方かた方かたかたははは心こころ心こころこころことことことにににみがきみがきみがきててて月つき月つきつき入い入いいれれれたるたるたる槇まき槇まきまきののの戶口とぐち戶口とぐちとぐち、、、氣色けしき氣色けしきけしきばかりばかりばかりおしおしおしあけあけあけたりたりたり。。。
  13. 13うちうちうちやすらひやすらひやすらい何なに何なになにかかかとととののの給たま給たまたまふふうにににもももかうかうこうまでまでまでははは見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららじじじととと深ふか深ふかふこううう思おも思おもおもふふうににに物もの物ものもの歎なげ歎なげなげかしうかしうかしゅうててて、、、うちとけうちとけうちとけぬぬぬ心こころ心こころこころざまざまざまをををこよなうこよなうこよのうももも人ひと人ひとひとめいめいめいたるたるたるかなかなかな、、、さしもさしもさしもあるあるあるまじきまじきまじききはきはきわののの人ひと人ひとひとだにだにだにかばかりかばかりかばかりいひいひいいよりよりよりぬれぬれぬればばば心こころ心こころこころ强づよ强づよづようううしもしもしもあらあらあらずずずならひならひならいたりたりたりしししををを、、、
  14. 14いといといとかくかくかくやつれやつれやつれたるたるたるにににあなづらはしきあなづらはしきあなずらわしきにににやややとととねたうねたうねとう、、、さまざまさまざまさまざまにににおぼしおぼしおぼし惱なや惱なやなやめめめりりり。。。情なさけ情なさけなさけなうなうのうおしおしおし立た立たたたたたむむんももも、、、ことことことのののさまさまさまににに違たが違たがたがへへえりりり、、、心こころ心こころこころくらべくらべくらべににに負ま負ままけけけむむんこそこそこそ人ひと人ひとひとわるけれわるけれわるけれなどなどなど亂みだ亂みだみだれれれ怨うら怨うらうらみみみ給たま給たまたまふふうさまさまさま、、、げにげにげに物もの物ものもの思おも思おもおもひひい知し知ししらららむむん人ひと人ひとひとにににこそこそこそ見み見みみせせせまほしけれまほしけれまほしけれ。。。
  15. 15近ちか近ちかちかききき几帳きちやう几帳きちやうきちょうのののひもひもひもににに箏さう箏さうそうののの琴こと琴ことことのののひきひきひき鳴なら鳴ならならささされれれたるたるたるもももけはひけはひけわいしどけなくしどけなくしどけなくうちとけうちとけうちとけながらながらながら、、、搔か搔かかきききまさぐりまさぐりまさぐりけるけるける程ほど程ほどほど見み見みみえええてててをかしけれをかしけれおかしければばば「「「このこのこの聞き聞きききききならしならしならしたるたるたることことことをををさへさへさへややや」」」などなどなどよろづよろづよろずにににののの給たま給たまたまふふう。。。
  16. 16「「「むつごとむつごとむつごとをををかたりかたりかたりあはせあはせあわせむむん人ひと人ひとひともももがががなななうきうきうき世よ世よよののの夢ゆめ夢ゆめゆめもももなかばなかばなかばさむさむさむやややととと」」」。。。「「「明あ明ああけけけぬぬぬ夜よ夜よよにににやがてやがてやがてまどへまどへまどえるるる心こころ心こころこころにににはははいづれいづれいずれををを夢ゆめ夢ゆめゆめとととわきわきわきてててかたらかたらかたらむむん」」」。。。ほのかほのかほのかなるなるなるけはひけはひけわい伊勢いせ伊勢いせいせののの御息所みやすんどころ御息所みやすんどころみやすんどころにににいといといとようようよう覺おぼ覺おぼおぼえええたりたりたり。。。
  17. 17何なに何なになに心ごころ心ごころごころもももなくなくなくうちとけうちとけうちとけててて居ゐ居ゐいたりたりたりけるけるけるをををかうかうこう物もの物ものもの覺おぼ覺おぼおぼえええぬぬぬにににいといといとわりなくわりなくわりなくててて近ちか近ちかちかかゝりかゝりかかりけるけるけるざうしざうしぞうしののの內うち內うちうちににに入い入いいりりりててて、、、いかでいかでいかで堅かた堅かたかためめめけるけるけるにににかかかいといといとつよきつよきつよきををを、、、强し强ししひひいてててもももおしおしおし立た立たたちちち給たま給たまたまははわぬぬぬさまさまさまなりなりなり。。。
  18. 18されどされどされどさささのみのみのみもももいかでいかでいかでかかかはははあらあらあらむむん、、、人ひと人ひとひとざまざまざまいといといとあてあてあてにににそびえそびえそびえててて心こころ心こころこころ耻はづか耻はづかはずかしきしきしきけはひけはひけわいぞぞぞしししたるたるたる。。。かうかうこうあながちあながちあながちなりなりなりけるけるける契ちぎり契ちぎりちぎりををを思おぼ思おぼおぼすすすにににももも淺あさ淺あさあさからからからずずず哀あはれ哀あはれあわれなりなりなり。。。御おん御おんおん志こころざし志こころざしこころざしのののちかまさりちかまさりちかまさりするするするなるなるなるべしべしべし。。。
  19. 19常つね常つねつねはははいとはしきいとはしきいとわしき夜よ夜よよののの長なが長ながながさささももも疾と疾ととくくく明あ明ああけけけぬるぬるぬる心地ここち心地ここちここちすれすれすればばば人ひと人ひとひとににに知し知ししららられれれじじじとととおぼすおぼすおぼすももも心こころ心こころこころあわたゞしうあわたゞしうあわただしゅうてててこまかこまかこまかににに語かた語かたかたらひらひらい置お置おおきききててて出い出いいででで給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

明石では、例年の秋は浜風が格別なので、独り寝も本当にわびしくて、源氏は入道にも折々お話しになる。「何とかうまく取りつくろって、娘をこちらへ参らせなさい」とおっしゃって、ご自分から出向かれるのは、とんでもないこととお思いになっているが、娘本人はまた、まったく思い立ちそうにもない。

たいそう身分の低い田舎の人ならば、仮に下ってきた人の気まぐれな言葉に乗って、そのように軽々しく契りを結ぶこともするだろうが、人並みにもお思いにならないだろうに、私はたいそうな物思いを加えることになるだろう。このように及びもつかない望みを抱いている親たちも、娘を世間に出さずに過ごしている年月こそ、あてにならない期待で、将来を楽しみに思っているだろうが、かえって心を尽くすことになるだろうと思って、

ただ、源氏がこの浦にいらっしゃる間、このようなお手紙だけでも交わすのは並々のことではない。長年、噂にばかり聞いて、いつそのような方のお姿をほのかにでも拝見できるだろうかなどと、はるかにお思い申し上げていたのに、このように思いがけないお住まいで、まともにではないがほのかにも拝見し、世にまたとないものと聞き伝えていたお琴の音も風に乗せて聞き、

明け暮れのご様子も気がかりでなく、このように、この世に生きている者として尋ね求めてくださるなどということこそ、このような海人の中で朽ちていく身には余ることだなどと思うにつけても、いよいよ恥ずかしくて、少しも親しく近づこうなどとは思いもよらない。

親たちは、長年の祈りがかなうことを思いながらも、軽率にお見せ申し上げて、人数にも入れていただけなかった時には、どんなに嘆くことになるだろうと思いやると縁起でもなく、すばらしい方と申し上げても、つらく悲しいこともあるだろうに、目に見えない仏や神をお頼み申し上げて、あの方のお心も、娘の宿縁も知らないでなどと、繰り返し思い乱れていた。

源氏は、このごろの波の音につけて、「あの琴の音を聞きたいものだ。そうでなければかいがない」などと、いつもおっしゃる。入道は、ひそかに吉日を占わせて、母君があれこれと思い悩むのも聞き入れず、弟子たちなどにさえ知らせず、自分一人の心で、まばゆいばかりに部屋を飾りつけて、

十三日の月が華やかにさし出たところで、ただ「あたら夜の」と申し上げた。源氏は、色好みなことよとお思いになるが、御直衣をお召しになって身なりを整え、夜が更けてからお出かけになる。お車は、またとないほど立派に作ってあるが、仰々しいと言って、お馬でお出かけになる。惟光などだけをお供になさる。

少し遠く入り込んだ所であった。道中も、四方の浦々を見渡しなさって、思い合う者どうしで見たいような入江の月の光にも、まず恋しい人(紫の上)のことを思い出し申し上げなさると、そのまま馬を引き過ぎて、都へ向かってしまいたいとお思いになる。「秋の夜の月毛の駒よ、私が恋い慕う都の空へ駆けていけ。ほんのわずかの間でも、あの人に会いたい」と、思わず独り言をおっしゃる。

造ってある様子は、木立が深く、すばらしい所がまさって、見どころのある住まいである。浜の館は堂々として趣深く、こちらは心細く住みなしている様子で、ここに住んだら、思い残すことはないだろうと思いやられるので、しみじみとしている。三昧堂が近くて、鐘の声が松風に響き合ってもの悲しく、岩に生えた松の根ざしも趣のある様子である。

前栽には虫が声の限りに鳴いている。あちこちの様子などをご覧になる。娘を住ませている所は、格別に磨き立てて、月の光をさし入れた槇の戸口が、わずかに押し開けてある。

源氏はためらいながら何かとおっしゃるにつけても、娘はこれほどまでにはお目にかかるまいと深く思っているので、何となく嘆かわしくて、打ち解けない心のありようを、源氏は、ずいぶん身分ありげにふるまうものだ、これほどでもない身分の人でさえ、これほど言い寄れば、それほど強情ではなかったものなのに、

このようにやつれた私を侮っているのだろうかと、いまいましく、さまざまにお思い悩みになる。情けなく無理に押し入るのも、事の成り行きに反する。意地の張り合いに負けるのこそ体裁が悪いなどと、思い乱れて恨みごとをおっしゃる様子は、本当に情趣を解する人にこそ見せたいものだ。

近くの几帳の紐に、箏の琴が触れて鳴ったのも、くつろいで、打ち解けたまま、手すさびに弾いていた様子が見えて趣深いので、「このいつも聞いていらっしゃる琴までも(聞かせてくださらないのか)」などと、いろいろにおっしゃる。

「睦言を語り合う人がほしいものです。つらいこの世の夢も、半ばは覚めるかと思って」。娘は「明けることのない闇の夜に、そのまま迷っている私の心には、どれを夢と区別してお話しできましょう」。ほのかな気配は、伊勢の御息所にたいそうよく似ていた。

何の心構えもなく、くつろいでいたところに、このように思いがけないことになったので、たいそう困って、近くにあった部屋の中に入って、どうやって閉めたのか、たいそう堅く閉ざしたのを、源氏はしいて押し入ろうともなさらない様子である。けれども、いつまでもそうしてばかりいられようか。娘の人柄はたいそう上品で、すらりとして、こちらが気後れするような気配がしている。

このように無理に結ばれた宿縁をお思いになるにつけても、浅からずしみじみと思われる。お心は、近くで会ってかえってまさったのだろう。いつもはいやな秋の夜の長さも、早く明けてしまう気持ちがするので、人に知られまいとお思いになるのも気ぜわしくて、細やかに約束を言い置いてお帰りになった。

意訳

秋、源氏は入道に娘をこちらへと促すが、娘は身分の差を思って応じない。娘は、文を交わすだけでも身に余ると思い、親たちも、娘が源氏に顧みられなかった時のことを案じる。

入道はひそかに吉日を選び、八月十三日の月夜、源氏を岡辺の家に招く。源氏は馬で月下の浦を行き、紫の上を恋しく思う。娘は源氏を避けて部屋に閉じこもるが、源氏は契りを結ぶ。娘の気品ある気配は、六条御息所に似ていた。

語釈・文法注

あたら夜の
「あたら夜の月と花とを同じくは心知れらむ人に見せばや」(後撰集)による。惜しい今夜の月を、情趣を解する人に見せたい、という意で、源氏を招く誘いの言葉。

文法

反語の「いかでかは…む」(さのみもいかでかはあらむ)
「いつまでもそうしてばかりいられようか、いや、いられない」。
推量の「らむ」(人めいたるかな…思ふらめ)
「(親たちは)楽しみに思っているだろう」。

和歌

秋の夜のつきげの駒よわがこふる雲居にかけれ時のまも見む

詠者
光源氏
状況
岡辺の家へ向かう道中、月を見て紫の上を思って詠んだ歌。秋の夜の月毛の駒よ、私が恋い慕う都の空へ駆けていけ。ほんのわずかの間でも、あの人に会いたい。

修辞

掛詞
「つきげ」に馬の毛色の「月毛」と、空の「月」をかける。

むつごとをかたりあはせむ人もがなうき世の夢もなかばさむやと

詠者
光源氏
状況
岡辺の家で、明石の君に詠みかけた歌。睦言を語り合う人がほしいものです。つらいこの世の夢も、半ばは覚めるかと思って。

明けぬ夜にやがてまどへる心にはいづれを夢とわきてかたらむ

詠者
明石の君
状況
源氏への返歌。明けることのない闇の夜に、そのまま迷っている私の心には、どれを夢と区別してお話しできましょう。

解説

明石の君と源氏の契りは、入道の周到な準備によって実現する。しかし明石の君自身は、最後まで源氏を拒もうとする。身分の差を知りながら、誇りを失わない明石の君の姿が印象深い。

道中、源氏が紫の上を思って詠む歌は、明石の君のもとへ向かいながらも心は都にあることを示している。また、明石の君の気配が六条御息所に似ているという描写は、明石の君の気品の高さを表すとともに、物語の人物どうしの響き合いを感じさせる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、270–275頁(コマ138–140)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日